2010年12月19日日曜日

20101219 JBJS Clinical impression vs. standard questionnaire : the spinal surgeon's ability to assess psychological distress

抄録
精神疾患は脊椎手術の術後成績に影響を及ぼす。一般的な脊椎外科医は精神疾患の一般的な評価方法を使用せずに自分の感覚にたよるところがある。今まで脊椎外科医が精神疾患をもった患者を適切に評価できるかどうかと言うことについて調べた報告はない。今回脊椎外科医は正しく精神疾患を評価できないのではないか、という仮説を検証してみた。
方法
8人の脊椎外科医、うち4人は手術を普段行なっている医師で、4人は脊椎を専門としているが手術をしない医師に対して400人の患者の診察を行ってもらって評価をしてみた。すべての患者にDRAM(Distress and risk management)を行い、これを対照とした。8人の脊椎外科医にはこの結果を知らせずにいつもと同じように診察を行ってもらい、患者の精神疾患のレベルについて評価してもらった。その上でDRAMとその脊椎外科医の評価を比較してみた。
結果
400人の患者のうち、64%が精神疾患を抱えていることがわかった。全体の24%ではその精神疾患はより重度なものであった。重度な精神疾患に対する脊椎外科医の診断の感度は28.7%で、陽性的中率は47.2%であった。手術をしない脊椎外科医の診断の感度は41.7%で、普段手術をしている脊椎外科医の診断感度が19.6%であることの間には有意な差が認められた。
経験の長い医師と短い医師との間には優位な差は認められなかった。
結論
脊椎疾患を訴えて専門医を受診する患者の64%が精神疾患を抱えていることがわかった。質問紙法と比べてみると脊椎外科医の感じている精神疾患の頻度は低いことがわかった。精神疾患を適切に判断するためには質問紙法を用いたほうが良い。

考察
ヒトのこころと体はつながっていて、体調や精神状態は病気の状態や社会的な背景に左右されると言うことはよく知られている。患者の精神状態は同様に治療の結果に影響を及ぼし、治療の結果も病態生理にかかわらず患者の生活に影響を及ぼす。これらは治療成績に精神的な要素が影響すると言う事を指し示す。精神疾患があると脊椎の術後成績に影響を及ぼすと言うことも今までいくつか報告されている。その影響についてはDRAM法によって調査することができるが、多くの脊椎外科医はその潜在的なリスクに対しての認識が少ない。
今回の研究では脊椎外科医の”感覚”がどれくらい患者の抱えている精神疾患を判定することが可能か、ということを明らかにするものである。その結果は、DRAMで評価されたものよりも脊椎外科医の感覚は正確ではない、と言う事である。とくに高度の精神疾患を抱えている患者に対しての正確性が低くなった。精神疾患を抱えていない群での正確性は高かった。結局脊椎外科医の感覚では高度の精神疾患を抱えているヒトを少なく見積もり、精神疾患を抱えてないとするヒトを多く見積もる傾向があることがわかった。
今回高度な精神疾患を抱えているヒトの割合が22%という事であったが、他の報告でも23%ー29%であり、決して高い数字ではなかった。
手術を普段しているか、していないかで評価した場合、手術を普段していない医師の方がより正確に精神疾患を診断できた。これは手術をしない医師のほうが精神疾患の有り様について深く考察するからではないだろうか。手術をする脊椎外科医はうつ領域と、身体領域の二つに分類しがちであることもわかった。ただ、陽性的中率は手術をする、していないでは差が出なかった。
医師の経験の差では差は出てこなかった。どちらかというと個々の医師に依存している傾向があった。
DRAM法はあくまでも精神疾患のスクリーニング法で病気のすべてを理解する方法ではない。また脊椎の状態と精神疾患をつなぐものでもない。ただ精神疾患と脊椎疾患のいずれにもアプローチすることは必要である。治療方針の決定には何らかの方法でのスクリーニングを行ったほうがよい。

<論評>
脊椎疾患に精神疾患が合併しやすいのは事実である。と言うことが一つ。精神疾患の状態を正しく見極めて
適切な治療が提供できるようにする。時には手術よりも投薬の方が良いかもしれない場合を念頭におくと言うことでしょう
ただ良心的な医者ほど自分の手術でなんとか出来れば、と考えてしまうために重症の精神疾患があっても低く見積もるのではないかとも思います。
一人当たりにかける時間が日本の数倍のアメリカの外来でもやれるかどうかわからない、と書いてあるので、多分忙しすぎる日本の外来で実施することは非常に困難ではないかとも思います。

2010年12月18日土曜日

20101218 Journal of pediatric orthopedics : Incidence of skinconditions and associated charge in children treated with hip spica cast for femur fx.

抄録
spicaギプスは6カ月から6歳までの小児の大腿骨骨折の治療法として知られている。ギプス障害による皮膚障害とそれに伴う追加費用について述べられた報告は今までない。この報告では大腿骨骨折をspicaギプスで治療した場合の皮膚障害の発生率を調べること。その予測因子、皮膚合併症と関連した追加費用について計算した。
対象と方法
2003年から2009年までの間にこども専門病院で治療した大腿骨頸部骨折の患者について調査を行った。皮膚合併症の有無で二群にわけ多変量解析を行った。また皮膚障害の治療に要した費用にはギプスに割を入れたり、ギプスの巻きなおしに要した費用、裏張りを当てたりする作業費もふくんだ。
結果
297児、300例について調査を行った。77例(28%)に皮膚障害を認めた。77例のうち24例(31%)において手術室でギプスの巻きなおしが行われた。19例でギプスの調整が必要となった。皮膚障害がおこりやすい要素としては、虐待時、より低年齢である事、性別、体重、骨折部位があげられた。病院に通院した回数は危険因子とはなりえなかった。皮膚障害の為に要した費用の中央値は12719ドルで、ギプスの調整の為に必要としたのは420ドルであった。
結論
Spica castは高頻度に皮膚障害を起こしうる、またそれに伴って余分な費用を必要とする。小児虐待の被害者は社会的入院をした方がよい。将来的にはギプス固定にかかわる患者教育が必要となる。

<論評>
アメリカと日本の医療環境の違いがあるためはっきりとは言えませんが、どうやら向こうではギプスをまいたら後は自宅で、という事のようですね。(私自身は入院管理をしておりました。)
結構な割合で皮膚障害がおこるという事は頭に入れておいた方がいいのかな。と思いました。
小児の大腿骨骨折についてのまとまったレビューは、米国での医療事情にかんがみたものはありますが日本でこうしたらというものはありません。
整形外科の骨折治療はどうしても先輩の”これでいいんだよ”という言葉にひっぱられているところが少なからずありますが、文献に積極的にあたって、自分なりの考え方を形作るべきと考えます。

2010年12月15日水曜日

20101215 Rheumatology International : Evaluation of metabolic syndrome in patients with chronic low back pain

慢性の腰痛患者でのメタボリックシンドロームの評価

Abstract
この研究の目的は慢性腰痛を有する患者でどれくらいメタボリックシンドロームがあるかということと、またメタボリックシンドロームの有無で慢性の腰痛患者の臨床的、機能的なパラメーターにどれくらいの違いが出るかということについて調べることである。
最低2か月の腰痛を訴える患者をこの研究では対象とした。機能的評価としてRoland-MorrisのDisability score、イスタンブール腰痛評価、Oswestryの障害尺度を用いた。抑うつ状態の評価のためにはBeckのうつ尺度を用いた。メタボリックシンドロームの定義としてはNCEPが2001年に提唱したものを採用した。(上前腸骨棘での腹囲、血圧、随時血糖、中性脂肪、HDLコレステロール)。60人の患者、うち51人が女性がこの研究に参加した。
慢性腰痛の患者で、メタボリックシンドロームの有無について調べたところ、BMI、年齢、腹囲、罹病期間で有意な差が得られた。ほかのパラメーターでは有意な差が得られなかった。腹囲が大きい肥満の患者で腰痛の訴えが多かった。
この研究から言えることは慢性の腰痛の患者、高齢の患者、BMIが高い患者ではメタボリックシンドロームの危険性が高いと言える。このような患者ではメタボリックシンドロームに対するスクリーニングをしっかりと行い、予防策を講じることが必要である。

考察
メタボリックシンドロームは脂質代謝、炭水化物の代謝の異常により、低いレベルでの炎症状態が惹起されているものと考えられている。メタボリックシンドロームとほかの疾患についての関連については様々な論文があるが、腰痛に関してのものはなかった。
今回の研究では慢性腰痛の25%の患者でメタボリックシンドロームを発症していることが分かった。欧米社会では全人口の20%にメタボリックシンドロームを発症しているといわれており、その数は急速に増大している。今回の研究では15人の患者でメタボリックシンドロームを発症しており、うち14人が女性であった。メタボリックシンドローム自体女性に発症しやすることは知られている。今回も53.3%の患者で腰椎椎間板ヘルニアが指摘された。
TNFαが肥満、インスリン抵抗性と関連があることが知られている。またTNFαが腰椎椎間板由来の腰痛で重要な役割をはたしているとする論文も散見される。最近ではTNFαブロッカーによる腰椎神経根痛の治療もおこなわれている。この研究からは同様の機序でTNFαが関連し、メタボリック症候群と腰痛とに影響していると考えられた。これにはさらなる研究が必要である。
BMI30未満で腰痛の発症リスクが減少し、40以上でリスクが上がった。メタボリックシンドロームの患者ではBMIが高かった。
この研究ではメタボリックシンドロームかどうかで腹囲に差が認められた。これはメタボリックシンドロームの診断基準として腹囲を入れているからである。他の研究ではウエストが太い女性では腰痛の発症頻度が高いということが報告されている。
メタボリックシンドロームの患者で、腰痛を持っている患者の平均年齢は高い傾向にあった。慢性腰痛の危険因子はメタボリック症候群とよく似ており、高齢であること、喫煙歴があること、日常生活の活動性が低いこと、太っていることが挙げられている。
メタボリックシンドロームで腰痛をもった患者では血糖値が有意に高かった。
またメタボリックシンドロームで腰痛を持った患者の罹病期間は有意に長かった。これは慢性の腰痛のために活動性が下がり、メタボリックシンドロームの危険性を上げたものと考えらえた。


<論評>
メタボリックシンドロームと腰痛を結びつけた、という着眼点が面白いとは思います。
この論文に難癖はいくらでもつけられそうですが。。(サンプルサイズ、考察の論理性など)

まあ、なんにしてもデブはいかん。ということですね。

2010年12月12日日曜日

20101211 JBJS Pirogoff Amputation for Foot Trauma

1854年にロシアのPirogoffによって考案された少し変わった下肢切断方法。かかとを残すことによって下肢の短縮を5センチ以内にすることが可能である。かかとが足部の荷重部となるためそのまま義足を作成してもしなくても歩行することが可能となる。
優れた方法であるがPirogoffがロシア語で元論文を書いたために広まることがなかった。
Pirogoff法はどの症例にも用いることが可能、というわけではない。これは創治癒に問題をきたすことが多い方法であるからである。後脛骨動脈の存在は必須である。そこで交通外傷の患者などに有用ではないかと筆者は考えている。
顆部の存在により、断端は円錐状となる。このおかげで普通の下腿切断よりも義足の装着が容易となる。

考察
Medlineで一生懸命調べたところPirogoff法を行われた患者が65例いた。85%が男性で、フォローアップは最長15年であった。5例がその切断基準が不明であったため、60例についての評価を行った。
13例、22%が外傷によるものであった。Pirogoff法が選択されたのはより良い機能予後を期待されてということであった。また同時に義足を不要とする場合がある、下肢の短縮が最もすくなく、まあ下肢長差が少なくなることが多かった。また足部の潰瘍の発症を減らすと考えて行われた。
8例、13%の患者で感染による再切断が行われた。治癒不全による皮膚移植が3例、5%に。疼痛のために使えなかったものが11例、18%。下肢長差が3センチを越えたものが1例、2%であった。すべての合併症は述語1.5年以内に発症していた。
Taniguchi rating scaleによる下肢切断後のADL調査は22例に行われ、11例が60点以上の成績良好群に入っていた。成績不良であったすべての症例が血管病変にともなう壊死性病変によるものであり、再切断を行うこととなった。
小集団であるためにはっきりとしたことは言えないが、このPirogoff法は交通外傷の患者で有用となる可能性がある。Syme法や、下腿切断よりも合併症を減らせる可能性がある。創外固定を用いることによってアライメントが正しく獲得できたり、感染のリスクを減らせるのかもしれない。
交通外傷の前足部の受傷により切断を考慮すべき患者ではPirogoff法は有用なオプションとなりうる。

<論評>
踵骨を半切し、90度回転し足関節天蓋部と骨接合する方法。アキレス腱の処理、どれくらい踵骨を切ればいいかというtipsは書いていないため不明。
確かに、重症な前足部の損傷なら一度試みてもいいのかもしれないですね。



Pirogoff amputation

2010年12月8日水曜日

20101208 危険な頸部痛の診断 

Twitterで”危険な頸部痛の診断は?”とご質問をいただいたのでまとめてみました。

ほとんどの頸部痛は頸椎由来である。しかしながらその原因を同定できるのは15%に過ぎない。
痛みの原因としては筋肉、頸椎椎間板症などがcommonな原因としては考えられる。

頸部痛をきたし、頻度としてはまれであるが、見逃すと死に至るような疾患について以下に示す
<脊椎疾患以外>
・頸動脈または椎骨動脈解離
・心筋梗塞
・髄膜炎
・消化管疾患
・肺炎

<脊椎疾患>
・化膿性椎間板炎、硬膜外膿瘍、骨髄炎
・骨腫瘍(原発、転移性腫瘍ともに可能性としてある)

これらの鑑別には詳細な病歴聴取が必要で、これは頭痛の評価と相通ずるところがあると考える。
すなわち、
・尋常でない痛み
・”何時から発症した””テレビを見ているときに突然に”といったように明らかに発症の時間が特定できるような痛み
・50歳以上
・発熱など感染を疑わせる所見がある
・精神状態に変調をきたしている
・ぐっと力を入れた時の疼痛

身体所見上は
・神経学的な異常
・意識レベルの低下
・項部硬直

といった場合にはred flag!

なので、質問でもいただいたような”椎骨動脈解離をどう見逃さないようにするか”
という質問に対しては、
まず、詳細にその発症様式、疼痛の程度について問診をとる。
小脳症状の有無について身体所見をとる

この時点で除外できなければ、死に至る可能性のある病気なので高次医療機関で緊急MRIをとらざるを得ないと考えます。

20101207 Up to date :Evaluation of the adult with headache in the emergency department

救急外来での危険な頭痛の徴候

・頭痛の患者さんでは注意深く病歴を聴取し、身体所見をとることが最も重要である。
・表1に危険な兆候についてまとめてある。
・神経学的な異常なしょけんが頭蓋内病変の唯一の所見であることがある。精神状態の変調、見た目の変化、片頭痛の患者の兆候など。
・急性の頭痛の患者で一つでも危険な兆候にあてはまるものがあれば、腰椎穿刺、画像の評価のいずれかまたは両方を行うべきである。図1参照
・頭痛の原因にかかわらず、症状が軽減することは重要なことである。別に治療について述べる。





Evaluation of the adult with headache in the emergency department

20101208 Up to date: Evaluation of the patient with neck pain and cervical spine disorders

Summary and recommendation

・頸部痛、または放散する上腕痛(神経学的所見の有無を問わず)の原因として頸椎がかかわっている場合にはC4から7、とくにC5,6,7の神経根がかかわっていることが多い。
・頸部の捻挫、は睡眠中の姿勢や、習慣などと関連があるとされ、慢性化することはほとんどない。
・頸椎椎間板症による疼痛が頸部痛の最も多い原因とされている。神経学的には正常であるが、頸部の多動による不快感を訴える。
・頸椎症、という用語は頸椎の骨棘や椎間関節の変形を指示しているだけである。レントゲン写真上では頸椎の年齢による変化を指摘することができるが、別にその変形自体が臨床症状とのかかわりはない。
・頸椎椎間関節症候群(むちうち)は頸椎の屈曲進展外傷によって引き起こされる。筋肉、神経、靭帯などがかかわっている、と考えられているが病理学的には明らかになっていない。またそれを評価するための検査もない。
・頸椎症性脊髄症は頸椎の脊柱管の狭窄によって脊髄神経が圧迫を受けている状態である。筋力低下、巧緻運動障害、歩行障害、膀胱直腸障害、勃起障害などが症状として現れる。手術治療(除圧術)が必要である。
・頸椎症性神経根症は別に述べさせてもらう。
・身体所見では動作、頸椎の可動域、圧痛、神経学的所見、誘発テストを行う。
・頸椎のレントゲン写真が必要なのは、外傷、50歳以上の初発の頸部痛、持続する頸部痛の場合である。
・CT、MRIが必要なのは、神経学的な欠損が認められる場合、動作時が極端に制限されるようなひどい頸部痛がある場合、保存療法を6週間にわたって行っても効果がない場合である。
・電気生理学的検査は頸椎病変よりも末梢神経障害を見つけるのに役立つ。頸部痛に対する血液検査はルーチンに行う必要はない
・救急の現場では、頸椎を安静に保つ、神経学的評価を行い、脊椎の圧痛のうむを確認する、そしてレントゲンを撮影する。神経学的な異常が認められた場合には脊椎外科医にコンサルトを行う。レントゲンを撮ったほうがよいかどうかはCanadian spine ruleもしくはNEXUSルールに従うこと。

2010年12月2日木曜日

20101202 European spine journal : Surgical treatment of coccygodynia: an analytic review of the literature

尾骨部痛は脊椎末端の疼痛、不快感として定義される.その病因、程度は様々である.外科的手術が治療に有効であろうとは言われている.
尾骨部痛についてのsystematic reviewを行った.
”尾骨部痛ー尾骨切除術”とPubmedで検索し、1980年から2010年までの報告を渉猟した。671例の尾骨部痛にたいして尾骨切除を行った報告があった。
男女比は1:4.4と女性に多かった。直接の外傷に伴うものが270例であった。504例の患者においてその手術成績は優または良、であった。
9例の深部感染症、47例の表層感染症を認めた.他には2例の血腫形成、6例の創治癒不全、9例の創離開をみとめ全体の11%に何かしらの合併症を生じていた.
特発性、何かしらの訴訟を抱えているような症例ではその治療成績は外傷によるもの、出産後からの疼痛にくらべその治療成績は不良であったが、全体の85%で症状の軽減がえられていた.合併症としては手術創に関するトラブルが頻発していた.

<論評>
読んでいただいたとおりです.
手術を行う前にキシロカインテストなどで疼痛が取れることを確認してから行うべきでしょう.

20101202 International orthopedics :Clavicle fractures: a comparison of five classification systems

鎖骨骨折の5つの分類法を比較して、どの分類方法が最も臨床的に経過が「予測できるのかを調べてみた。487例の鎖骨骨折を分類した。X線写真と臨床症状で経過を観察した。その中で遷延治癒、偽関節となるかどうかを調査した。
79.3%が中1/3で骨折していた。外側1/3が19.3%で、内側1/3が1.4%であった。全体の7.3%が遷延治癒、もしくは偽関節となり、3.2%が手術を必要とし、4.1%で症状のない偽関節となった。
外側1/3での骨折では9.6%が偽関節となったが、0.4%としか手術を必要としなかった。Craigの分類が外側1/3の分類では最も予後を正確に反映していた。
中1/3の分類ではRobinsonの分類が最も正確に予後を予測することが可能であった。
鎖骨骨折はよくみられる外傷であるが、偽関節はそう起こらない。偽関節は外側1/3の骨折でよくおこるが、おこったとしても無症状で終わることが多いことが分かった。中1/3の骨折では手術治療を必要とすることが多かった。中1/3での骨折はRobinsonの分類に従い、外1/3はCraigの分類に従って評価するとよいものと考えられた。内側1/3は数が少なく判定できなかった。

考察
鎖骨骨折は10万人に対して80人におこるよくみられる骨折である。左右関係なく男性の場合には年齢に関係なく、女性の場合には年齢が減るにしたがって罹患率が低下した。これはスポーツレベルなどの日常生活の活動性と大きく関連していると思われる。子供の場合には夏休みの受傷が多く、65歳以上では年間を通じて一定して罹患していた。それ以外の年齢では長期休暇で受傷率が上がる様子が認められた。これは今までの報告と同様である。
5つの分類法(Allman,Neer,Craig,Nordqvist,Peterson)に今回分類した。
Allmanの分類 Group1:中1/3の骨折、Group2:烏口鎖骨靭帯に骨折が及ぶもの、Group3が内側1/3に骨折が及ぶもの
Neerの分類 Allmanの分類で外側1/3をさらに3つに分類
Craigの分類 Neerの分類を、小児、関節内、それぞれの靭帯損傷などふくめてさらに細かく分けた.(小児の場合には鎖骨骨折の偽関節はめったに見られず、また若木骨折でもその予後は非常に良い)
NordqvistとPetersonの分類 Allmanの分類に戻った。ただし、Allmanの分類に骨折の転位、形状を追加したものとなった。
Robinsonの分類 内側、外側、中央部と5つに分類した。分け方は特殊であるが、今までの分類と同様に靭帯付着部、筋付着部に応じた分類となっている。

Nordiqvistは中央1/3での骨折で転位が大きい場合に偽関節になりやすいと報告している。今回の研究では転位のない中央1/3部の骨折でも偽関節となった。また転位のある中央部1/3の骨折でも5%が偽関節となり、4.5%が手術治療が必要となった。Nowakは多骨片に分かれた鎖骨骨折は治療成績が不良となる一つの因子であるとしている。今回の研究でも単純骨折では2%としか偽関節化しなかったのに対し、粉砕骨折では9.3%に手術治療が必要となった。
Robinsonの分類では転位のない骨折では1.9%が偽関節に、転位のある骨折の9.3%が偽関節となった。Robinsonの分類では中央1/3での斜骨折は転位が無いものとして扱っているが、実際には軟部組織の問題から手術治療がおこなわれる事が多い。転位のない骨折で偽関節化したものはすべて斜骨折であった。

<論評>
どの分類が治療成績に直結しているか?と言う論文.
世の中にこんなに沢山鎖骨の分類があることにビックリしました.笑
僕が研修医の時に習ったのは、第三骨片があればよく治る!ということですけど、どうも逆みたいですねえ.笑
小児:治癒しやすいので保存的に行ける
成人:外側1/3の骨折は偽関節になりやすい.ただなっても症状は出にくい.中央1/3の骨折は偽関節になると有症状なので、転位が大きい場合には手術をした方がよい。
ということですね。
分類の大事さを知る.と

2010年11月22日月曜日

20101122 Osteoporosis international.  Oral bisphosphonates are associated with reduced mortality after hip fracture

静注のビスフォスフォネートが大腿骨頚部骨折後の死亡率を下げることはよく知られている.今回は209人の患者を対象に、経口のビスフォスフォネートを投与して死亡率が下がるかどうかを検討した.相対リスクで8%の死亡率の低下を認め、一年間においては60%の死亡率の減少を認めた.

はじめに
静注用のビスフォスフォネートが大腿骨頚部骨折後にその死亡率を下げることは知られている.今回は経口のビスフォスフォネートで死亡率の減少や新規骨折の予防が可能かどうかを検証した.
方法
220人の患者を無作為に2群に分けた.110人に対して骨量を測定し、ビスフォスフォネートの内服を始めた.3年間にわたって経過観察を行った.
そして死亡率、新規骨折の発症率についての調査を行った.
結果
最終的にフォロー可能であったのは209人であった。65%が女性。50%が75歳以上。43%が何らかの認知症を有し、18%がやせ型であった。
36%の患者で骨脆弱性骨折の既往があり、81%の患者が骨粗鬆症であった.
101名の患者(46%)が骨粗鬆症の治療を開始し、そのうちの64%が最終評価時まで内服を継続した.
最終的に11%の患者が死亡し、9%の患者が再骨折を来した.
無治療群と治療群を比べると、16%と7%で有意に死亡率が下がった.
結論
経口のビスフォスフォネートも死亡率を下げたり、再骨折の予防に働く。

考察
HORIZONstudyで静注のビスフォスフォネートが頚部骨折のあとに死亡率を下げたり、再骨折を減らすのに有用であることが示された.そこで今回は経口のビスフォスフォネートで検証したところ、月8%の相対危険率の減少と60%の全体の死亡率の相対危険率の減少を認めた.(HR=0.92)
特にこの死亡率の減少は高齢の男性、やせがたの群で顕著に認められた.一般にこのような研究では、ビスフォスフォネートを飲めるのは健康なひとだけであったり、不必要なヒトに飲ませたりといったことがあるが、今回はそういうことはなかった。
この研究は患者背景をほぼ同一にし、ビスフォスフォネートが内服できるような健康な患者さんをえらんだことに意義がある.今までは無作為抽出ではない研究が数本あるだけであった.
この研究の限界は幾つかあり、一つは健康な比較的若い老人ばかりを対象としたこと、もう一つがほんとうにビスフォスフォネートのおかげで死亡率が下がったとは言い切れないことである。3爪にはどれくらいビスフォスフォネートを飲めていたかのデータがないこと、また骨量に関するデータもないことが問題であろう.
ビスフォスフォネートが死亡率を下げる、というのはいくつかの機序が提唱されている.一つはスタチンのような機序で動脈硬化に影響する、貪食細胞などの免疫系に作用する、あとはホルモン剤に似た働きをするのではないかと推定されている.
いずれにしてもこの研究でハッキリと死亡率が下がるということを示したことに意義がある.

<論評>
考察で筆者が述べているとおりだと思います.
高脂血症の治療では、その患者のリスクを考えて薬を処方すべし、となっております。骨粗鬆症の治療もまた然りではないでしょうか.
骨折をして、再骨折のリスクが高いこのような群で差が出ているので、このような対象にある患者に骨粗鬆症の治療は与えられるべきではないでしょうか.

2010年11月13日土曜日

20101113 JBSJ(Am) Surgical Versus Functional Treatment for Acute Ruptures of the Lateral Ligament Complex of the Ankle in Young Men

活動性の高い若者の3度の足関節外側靭帯複合体の損傷に対しては手術治療を勧める意見もある。今回の研究の目的は足関節外側靭帯複合体の手術治療の長期予後について調査することである。
対象と方法
足関節外側靭帯複合体の3度の損傷をきたした活動性の高い平均年齢20.4歳の男性で調査を行った。無作為に手術治療群25例と保存治療群26例とに分けた。ストレス撮影にて診断を確定した。手術は受傷後1週間以内に靭帯再建を行った。6週間のB/Kギプスで荷重制限なしとした。保存治療は3週間の装具装着とした。最終評価では足関節スコア、X線写真上の変化、MRI所見について比較を行った。
結果
フォローアップ率は手術群が60%、保存治療群が69%であった。両群とも受傷前の活動レベルに復帰し、走ったり歩いたりが可能となっていた。再受傷の割合は手術群が1/15、保存治療群が7/18であった。足関節スコアは両群に有意な差はなかった。ストレス撮影でも両者に差はなかった。二次性の関節症変化は手術群で4/15、保存治療群で認められなかった。
結論
受傷前の競技レベルに復帰する、ということでは手術治療でも保存治療でも変わりはなかった。しかし、手術治療を行った方が再発率は低く、それに伴うかは不明であるが、二次性の関節症変化をきたす事が分かった。


考察
14年にわたる長期フォローの結果としてこの論文は意味がある。
手術をしても、装具で治療をしてもどちらでも受傷前の運動レベルに復帰という目標は達成されていたが、再発率は明らかに手術治療群が低かった。しかし、長期的に関節症変化をきたす例が多かった。
この研究は患者背景がよく似ており、14年もフォローしたことが研究自体の強みである。また、軍人をフォローしたので、もっとも高レベルのアスリートというわけではないが一般男性よりも激しい運動をする群での研究であり、また、無作為割り付け試験を盲検で行う事が出来た。
サンプルサイズが小さい事と、脱落者が多い事がこの研究の問題である。また受傷後の処置に差がある事、足関節スコアが15点満点で差が出にくい事が考えられる。

今までの研究では足関節の外側靭帯複合体に対する治療は、一般的には手術治療と保存治療に差がないものの、高レベルでのアスリートにおいては手術治療の方が好ましいとする報告があった。この報告ではある程度レベルが高い群でもどちらを選んでも差が無い事が分かった。

再発率は手術治療群の方が低かったが、保存治療群で再発率が高いにも関わらずその復帰レベルが手術群と変わらない事は注目に値する。ひょっとしたら足関節ねんざの再発はアスリートにとっては大した問題ではないのかもしれない。主観的評価と客観的評価の違いも興味深い結果となっていた。保存治療群では客観的には大した事が無いにも関わらず、主観的評価としてgiving-wayをなんども繰り返したとする患者が多かった。これは”reinforcement bias”としてとらえられる。これは保存治療群が最高の治療が受けられなかったと後悔しているとのべていることからもわかる

関節症変化が手術群に多くみられたが、これについてはさらなる研究が必要である。

<論評>
面白い論文だったと思います。結局手術治療と保存治療には大きな差がない。というのが結論です。
しかし、高いパフォーマンスを要求されるようなアスリートにおいては不安感だとかそういったメンタルの問題がプレーの質に影響しうるので手術すべき、というのが僕の意見です。

EBMとは目の前の患者さんにいかにこの論文を適応するかである。という事をはっきりとさせてくれたという意味でもよいと思います。

2010年11月10日水曜日

20111110 Up to date Management of diabetes mellitus in hospitalized patients

まとめ

糖尿病患者の入院はよくあることである。また入院した糖尿病患者の血糖コントロールは病状、環境の変化などにより不安定になりがちである。

目標血糖値
・入院中の患者では高血糖の是正と予防が必要となる。しかし、その目標値についてはまだ議論の余地がある。non-criticalであるようなたいていの場合において入院中の糖尿病患者の血糖値は食前140㎎/dl以下、随時血糖180mg/dl以下になるよう推奨している。(Grade 2C)
non-criticalな病態で入院しているような糖尿病をもった入院患者での満足できるようなエビデンスはない。血糖を低く保ったほうが臨床的にpoor outcomeを減らすかもしれない。しかし、どうじに低血糖となる可能性が高くなる。低血糖を起こさないようにするためには空腹時血糖を90-100mg/dlに保ったほうがよい。

入院前から適切にコントロールが行えていた群ではより厳しく血糖コントロールを行うべきであろうし、高齢者や、重症の併存症をもった患者では目標値は高めに設定し、低血糖となるリスクを回避すべきである。

2型糖尿病
・食事療法中の患者では、特に介入の必要はない。頻回の血糖測定を行ってもそれが高血糖を防ぐことになるかどうかは不明である。
・経口の糖尿病治療薬を内服中の患者については、食事がとれていて、内服が可能であり、血糖コントロールがついているのであればその内服を継続させる。しかし、血糖コントロールが不良な例や経口が不可能な場合についてはインスリン治療に切り替える。(アルゴリズム1を参照)
・インスリン治療は落ち着くまで継続する

1型糖尿病
・1型糖尿病の患者では食事の摂取の有無にかかわらずインスリンの投与が必要となる。皮下注、または静脈内注射でおこなう。皮下注の場合にはスライディングスケールを用いてはならない。超長時間作用型を基礎代謝として速効型インスリンの投与などで調整を行う。
・静脈内投与を行う場合には必ず入院で行い、1から2時間ごとの頻回の血糖測定を必要とする。

http://www.nishiizu.gr.jp/intro/conference/h19/conference-19_03.pdf

糖尿病の管理について自分で行わなければいけないので、Up to dateを読んでみました。
じつはこの元ネタは西伊豆病院の仲田先生が元ネタをよんでいらっしゃいました。
なので添付させていただきます。

2010年11月1日月曜日

お世話になっておりますので、ご紹介。

岡山大学 脊椎外科の 杉本先生の ブログです、

整形外科医のための英語ペラペラ道場
整形外科医が海外で活躍したり、論文を書いたりすることを支援するブログです。

http://seikei-eigo.blogspot.com/

これだけ高いモチベーションを持って働いている先生がいる!といつも刺激を受けています.
現在ミラノに留学中とのこと。
食べ物トークに花が咲いておりますが、太らずに帰ってこられることを祈念しております.笑

20101101 JBJS(Am) What' new orthopaedic trauma open fracture wound management and infection

デブリードマンを開始する時間が遅くなればなるほど開放骨折の感染率が上がる、というのはいまだに議論されている。LEAPの調査結果によると受傷から手術開始までの時間は感染成立の予測因子とはなりえないことが分かっている。しかしながら受傷から外傷センターに搬送されるまでの時間は感染成立の重要な因子となっている。しかしこのことは開放骨折のときに緊急にデブリードマンをしなくてもよいということを言いたいわけではない。本研究の中で対象となった患者達はその全身状態に応じて可能な限り与えられるべきだけの治療がなされた上で評価がなされている。なのでコントロール群として人手や施設を理由とした”遅れた”デブリードマンが行われた症例はない。同じ理由で早くデブリードマンをすると感染率が下がるということを本研究で言うこともできない。

VAC療法(Vacuum assisted closure)は、特に有用であるという報告がなされないまま、開放骨折に対して一般的に用いられるようになってきた。Stannardらは、重度の開放骨折に対して最終的な創部閉鎖を行うまでの期間をランダムに、陰圧療法と生食ガーゼ群に分け比較してみた。その感染率は陰圧療法群が5.4%で、生食ガーゼ群が28%であった。またSF36でもこの2群には有意な差が認められた。VAC療法は今後有用な治療となりうる可能性がある。

糖尿病は骨折手術のリスクファクターとして認識されている。Karunakar and Staples は110人の外傷患者でストレスによって惹起された高血糖の影響について検討している。この研究では肺炎を含め、25%の患者で感染の成立が認められた。 hyperglycemic index が3以上の患者の64%で感染が成立した。( hyperglycemic index が3以下の患者では21%であった。)。ストレスによって惹起される高血糖は感染のリスクファクターとなる可能性が示唆された。今後はこの高血糖を是正することで感染率が低下するかどうかを検討する必要がある。

偽関節を見た場合には感染の可能性を考えなければならない。偽関節の患者で血液検査、コロイドスキャン、術中の凍結検体のフォローを行った研究がある。偽関節の患者の31.6%が感染によるものであった。コロイドスキャンの感度は19%に過ぎなかった。白血球数、血沈、CRPの上昇はそれぞれ感染成立の陽性尤度比の上昇に帰しており、3つの項目すべてで上昇がみられた時の陽性尤度比は100%であった。これらから考えると、感染の危険が高い患者に対しては血液検査と術中凍結標本の提出が必要であることがわかる。

2010年10月30日土曜日

20101031 JBJS(Am) Driving wtih an arm immobilized in a splint: randomized higher order crossover trial

背景
ギプスをつけるとどれくらい運転しにくくなるかを調べてみた
方法
36人の健康な被験者に、左右それぞれのlong arm 、short armギプスをつけてもらい、cross-order crossover design の研究を行った。プラスチックコーンで設定されたコースを運転してもらい、その時間を計測した。コーンに接触したら5秒のペナルティとして換算した。
結果
全員コースを完走することができた。特に運転の能力が低下したのは左手のthumb spicaのlong arm castであった。ギプス装着時は常に運転能力が低下した。左手のlong arm castが運転のしづらさを感じ、同時に安心感を得ることができない事が分かった。
結論
左手のlong arm castが最も運転しづらくなる事がわかった。今後さらなる研究が必要である。

-考察の抜粋-
ギプスをつけていても多くの患者さんが車の運転をしているというデータがある。オーストラリアでは上肢の骨折に限って言えば50%の人が週に1回程度、22%の人が毎日運転をしていた。アイルランドの研究では61%の患者がギプスを巻いた状態で運転し、足関節骨折の15%が運転したという事が明らかになっている。しかし現在まで上肢のギプスを巻いた患者に運転を許可してよいかという研究はない。
今回の研究では左手の肘上ギプスで最も運転技術の低下がみられた。これは左ハンドルということが大きく影響しているのであろう。狭くて動かすスペースがないので、ハンドル操作に影響がでると考えた。
対象が若く元気な人を対象としているので実際の運転者に適応してよいかは不明である。4ドアのATのセダンを使ったので他の車種では分からない。
この研究ではギプスによって運転が制限される事だけがわかったので、今後はギプスを付けた場合のガイドラインを作成する必要がある。

<論評>
アメリカでの話なので、日本だと右手のlong arm castが最も運転しづらくなる、ということになりますか
ね。対象を高齢者にしたり、車種をミニバンに変えれば新しい研究としてJBJSに採用されるかも 笑

2010年10月21日木曜日

20101020 JBJS(Am) What's new orthoapedic trauma

Polytrauma

damage control orthopaedics(DCO) とは、ということが長らく議論されている.
大腿骨骨折をともなった多発外傷患者での研究で、”乳酸値の正常化”が適切な救命の時期として考えられていて、また一時的に髄内釘を挿入して良いと考えるひとつの基準となるのではないかというモノがある.結局のところ、88%の患者が入院後14時間以内で大腿骨骨折にたいしてreamedの髄内釘を挿入されていた.残りの12%は創外固定とされていた.このような患者群でARDSは1.5%に発症した.この割合は今まで同様の患者群で測定した時よりも明らかに低いものであった。肺挫傷や、他の重症外傷を合併している群でも低かった.
以上のことから乳酸値を測定し、これが正常であれば大腿骨骨折に対して髄内釘を挿入できる。と言うことがひとつの基準として言うことができるのかもしれない。
別の研究としてDCOとして創外固定のみで対応したと言う研究がある.この研究では牽引と創外固定とを比較し、ARDS,肺炎、多臓器不全の発生率について比較した.この二群でその発生率に有意な差はみられなかった。この筆者は全身麻酔下にあるような患者では牽引で治療しても創外固定で治療してもその優位性は明らかにならないと結論づけた.

<論評>
整形外科医が救命にかかわれるかもしれない、という唯一のところが大腿骨骨幹部骨折を早く治療できるかということではないでしょうか。しかも可能な限り髄内釘を使用しないといけない、と言うところが厳しいですねえ.受傷後14時間以内、と言うことであればきたその時に手術しないとダメよということですからね.

20101020 JBJS()

2010年10月14日木曜日

土田先生のブログからの抜粋.
土田先生みたいな方法論が良いかどうかは分かりませんが、外傷センターがあったほうが良いというのは間違いない事実だと思います.

http://www.geocities.jp/ytutida2002/bunsho/senden/sassyo1.pdf

20101014 JBJS(Am) What's new orthopaedics trauma その1

Outcomes
この数年アウトカムについての論文が何本か発表されている.その中でとくに患者と医師との間でのアウトカムについての認識の違いについて述べたものが2本ある。
ひとつは大きな骨折をした患者において、患者の満足度より術者の満足度の方が高いとする論文がある.術者の満足度はその骨折の治癒過程とだけと相関していることがわかった.受傷や治療の客観的な指標は患者満足度とは全く相関しなかった.受傷の責任を他者に押し付けていることは患者満足度と相関していた.弁護士が介入していること、女性であることがその治療の満足度と相関していた.
LEAP(下肢機能評価プロジェクト)では求肢が危ぶまれるような症例では、術者と患者との機能面、美容面で受け止め方の間に大きな違いがあることがわかった.術者、患者ともそれぞれ満足しうる点が違っていた.治療全般を通じての不満足さが術者と患者との間での不一致が生じる原因の一つであろう.
時間外治療についての論文.時間外に治療を行うと小さなトラブルが頻発することがわかった.可能な限り時間内に手術を終わらせるようにすることが重要であろう.

<論評>
患者さんと医者の基準が違っていると言うことは最近整形の分野でよく言われること。腰痛治療評価、頚椎治療評価も患者さんの自覚症状にそったものに変わっていこうとしている.
外傷治療もこの流れに沿ったものになっていくのかな.と。
けど、こんなに満足してないと言われると心が折れそう.笑

2010年9月17日金曜日

20100917 Up to date prevention of fall

SUMMARY AND RECOMMENDATIONS


*Multiple strategies for fall prevention have been evaluated in
different settings. For patients with a history of falling, we suggest
instituting a multidisciplinary risk factor screening/intervention
program, home hazard assessment, and an exercise program combining
several categories of exercise for muscle strengthening and balance
(Grade 2B). (algorithm 1). (See 'Preventing falls' above.)
*Medications should be reviewed for all patients, and unnecessary
drugs discontinued, with recognition that fall risk increases with the
total number of drugs taken. Psychotropic medications pose a
particular risk. (See 'Preventing falls' above and "Falls in older
persons: Risk factors and patient evaluation".)
*We suggest that older patients receive supplementation with vitamin
D3 (cholecalciferol) (Grade 2A). The intake of vitamin D in older
adults should be the equivalent of at least 800 IU daily, provided in
the diet or as a supplement dosed daily, weekly, or monthly. (See
'Vitamin D supplementation' above.)
*We suggest not using bedrails or physical restraints for fall
protection in longterm care facilities (Grade 2B). (See 'Nursing homes
and hospitals' above.)
*We suggest that most elderly patients not use hip protectors (Grade
2B). We suggest the use of hip protectors in elderly patients who are
at very high risk of falls and who are willing to comply with their
use (Grade 2C). (See 'Preventing the complications of falls' above)


・転倒を予防するためにはさまざまな角度からの戦略が必要となる。転倒の既往のある患者ではリスクファクターの分析を多面的に行い、自宅の危険場所を明らかにし、筋力強化とバランス強化を組み込んだ運動療法を行うよう介入する(Grade2B)
・内服薬の確認を行う必要がある。服薬している種類が多いほど転倒しやすいことがわかっているので、不必要な薬は減量する必要がある。精神科のお薬はそれ自体で転倒のリスクとなりうる。
・高齢の患者ではビタミンDを一日あたり800mg(D3なら1μg?)内服するよう勧める。(Grade2A)
・長期間高齢者を預かるような施設では、柵や身体抑制をおこなわないようにするほうが良い。
・多くの患者に対してhip protectorは不要である。転倒のリスクが高く、またそのような装具を喜んで付ける群のみを対象とすると良い(Grade2C)

2010年9月12日日曜日

20100911 12th JOTS(日本整形外傷セミナー) その4

--脊椎・脊髄損傷--
Misseed injuryが3-25%。けっこう見逃しあり.読影出来ていないのが主な原因.

Spinal shockとNeurological shockの違いをしっかり理解。

シーソ^呼吸.
四肢や体幹の刺激反応がなく、鎖骨より上位の刺激で反応  脊髄損傷を示唆

正常な近くが残っている最も尾側のレベルが損傷高位となる
横位診断. sacral sparingが歩かどうかで完全麻痺かどうか.Anal tone.

Frankel分類=>ASIA

頚椎の診断にはCTが最も有用(レントゲンと組み合わせれば感度100%)

呼吸合併症を減らすための早期座位獲得が目標となる.

NASCISはガイドラインではClass3(主治医の判断で慎重に行う)になっている

頚椎脱臼
”超早期に脱臼整復することが神経学的予後を改善する可能性”これが一番アツかった(笑)

意識がある状態で非観血的整復.場合によっては鎮静剤の使用も可。
20kgまで
30分以上粘らない
3時間以内の整復を目標
MRIは整復したあと、または手術決定後に行う.

強直性脊椎炎とchanse骨折 大血管損傷の可能性あり.極めて危険。

胸髄損傷による完全麻痺はまずもどることがない.
神経学的予後の改善のためには24時間以内
生命予後改善のためにははやく座位を取る.(72時間以内)

頚椎損傷の20-50%、脱臼にいたっては75%にVAの損傷が合併.
脳幹梗塞のリスクあり.
頚椎損傷があった場合には脳梗塞の危険性について早めにお話しておく必要がある。

20100911 12th JOTS(日本整形外傷セミナー) その3

--大腿骨頭骨折--
骨頭骨折の15.9%で整復困難。特に後方というよりも上方に外れている場合には無理をしない.

Pipkin1型 
骨片摘出術が最も長期成績がよい?
取りに行くのであれば前方アプローチもしくはtrochanteric flipして関節包の前方を切開.

Pipkin2型
骨接合。前方アプローチで.
後方から行くと骨頭壊死のリスクが高くなることを話して置く必要がある.

--寛骨臼骨折と骨盤輪骨折の合併--
5-15%とされているがその定義、分類はない。
創外固定では骨盤輪の安定性がえられないことが注意.また長期に創外固定を留置するとinfected rateが上がる。
股関節脱臼を伴っている場合には脱臼の整復前に創外固定をかけましょう

その受傷機転から寛骨臼骨折は横骨折、T型骨折が多い.

数ミリの仙腸関節の転位が前方に来ると1から2センチの転位となることを念頭におく.
仙腸関節から順にインタクトのところを固定していくのがセオリーか?ただし、仙腸関節の転位を残した状態であるならばまず寛骨臼を整復しておいても良いのかもしれない。
またまだ議論の付きないところ.

--寛骨臼骨折の合併症--
・血管損傷 後柱骨折の時.その骨片の形、CT上の血腫の量などに注意をしておく.
が入り釣行っ動脈の血栓形成.
Stoppaアプローチの時のCorona mortisの処理に注意。
 ・経験のある外科医と一緒に手術をする
 ・輸血の準備
 ・放射線科医にも一声かけておく
 ・高額の医療保険にも入っておく。

・大腿骨頭壊死
5%におこる
大腿内側回旋動脈に注意が必要(外旋筋群を大腿骨から1.5センチはなして切る)

・神経損傷
坐骨神経障害 股関節伸展、膝関節屈曲とする。
前方アプローチでも坐骨神経障害がありうることに注意が必要

・VTE
骨盤骨折の患者では発生しやすくなる
フットポンプなどの理学療法は有用.

・異所性骨化
頭部外傷合併例では注意が必要
インドメタシンは無効。早期からのradiationが有用.

20100911 12th JOTS(日本整形外傷セミナー) その2

--骨盤骨折の手術アプローチの決定--

原則は損傷されている側から進入.
悩んだ時には前方=>後方、単独皮切=>前後方組み合わせ=>陳旧例など難易度が高いときに限って拡大進入.

単純横骨折は骨折の回旋に依存.T型骨折は骨折型によって進入路を決定.
後壁骨折は側臥位でK-L法。後柱骨折は腹臥位でK-L法。

T型骨折が一番難しい.ilioinguinalからK-Lに変更.側臥位で手術.

--寛骨臼骨折の整復--
2週間以内に行うほうがよい。
Ball spike pusherが手術には必須.
・後壁骨折 伸展、外旋で容易に整復
・後柱骨折+後壁 後柱から止めるべき。横骨折に対してはプレートを少しoverbendingにする。
・前柱骨折 pusherとシャンつピンによる整復.Colinear reduction clumpが有用。

Stoppaアプローチを用いると前方からquadolateral surfaceがみえる.

・T型骨折 前方から手術したほうがやさしいか?

--Kocher-Langenbeckアプローチ--
サザンアプローチによく似ている.
坐骨切痕の上に行くと上澱動脈の枝があるので注意が必要。
梨状筋、上双子筋、下双子筋を切離.内閉鎖筋と大腿方形筋は原則切離することはない.
Short rotatorsは内側回旋動脈保護のために大腿骨から1.5センチは残して切る.

--ilioinguinal approach--
中枢速の皮切では恥骨結合の2横指上.あまり低いと浅鼠径輪がイキナリ出てくる。
lateral window 上前腸骨棘から外側へ。腸骨稜2/3。腸骨筋を切離して腸骨との付着部を鈍的に剥離.出血したら骨蝋とガーゼパッキング。
外腹斜筋筋膜を切離。コッヘルをかけて尾側に引っ張るようにして展開.
大腿動静脈、大腿神経を同定。腸恥筋膜を切離。
外側大腿皮神経鼠径靭帯の直下。上前腸骨棘から3センチ以内にある.50%くらいで見つからない.術前に神経障害の可能性についてよくお話しておく必要がある.

--Stoppaアプローチ--
覆布で覆うときにはへそを出しておく.(正中が分かるようにするため、ilioinguinalでも一緒.)
ヘッドライトは準備しておくと良い.
白線は分かりにくい。筋の走行方向をみて決定.
腹膜前脂肪層までしっかり開ける.
Corona mortisに注意.閉鎖動脈と外腸骨動脈のバイパス.見つけたらサージカルクリップ、血管クリップでしっかり止めておく。

このアプローチの注意
あくまでもilioinguinalのMIS。ilioinguinalができるようになってからする方が良い.(そうしないとトラブルに対応できない.)
大腿静脈に注意。万が一損傷した場合には結紮。(ただしものすごくむくむ.)
弓状線より下を切開。


前柱、前壁の骨折には使いにくい。

20100911 12th JOTS(日本整形外傷セミナー) その1

救急に従事する整形外科医に求められるもの
・多発外傷のマネジメントが行える
・基本的な集中治療が行える
・災害医療の基本的な対応が行える

寛骨臼骨折の分類
寛骨臼骨折は寛骨臼にかかる軸圧によって生じる。
解剖学的な寛骨臼ではなく、外科的寛骨臼と言う概念で見る。
基本はJedet-Letournel分類、その修正版としてのAO-OTA分類
1)前柱、後柱に骨折はあるか?(iliopectineal lineとilioishial line)
2)閉鎖孔に骨折は及んでいるか
3)腸骨に骨折は及んでいるか
4)Obuturator oblique view にてSpur signの有無をチェック

画像診断の進め方
術中は単純写真で評価せざるをえないので、単純xpの読み方に精通しておく必要がある.
AP、iliac oblique view、obuturator oblique view

Landmark
- iliopectineal line
- ilioischial line
- tear drop (寛骨臼の落ち込み)
- anterior lip
- posterior lip

Obuturator oblique viewにてSpur signの有無.両柱骨折、Foating acetabularであることを示唆。
Gull sign Roofの不整。高齢者であれば予後不良

8つのチェックポイント
1)閉鎖孔に骨折が及んでいるか
2)ilioischial lineの破綻はないか
3)iliopectineal lineの破綻はないか
4)腸骨翼の骨折はないか
5)posterior lipの破綻はないか
6)臼蓋そのものに骨折ラインはないか、またそのラインの向きは上下方向、前後方向ともどうなっているか
7)仙腸関節と臼蓋の連続性はたもたれているか、またはSpur signの存在は指摘できるか
8)CTにて骨折自体をチェック

治療方針の決定
下手な手術をするくらいであるならば保存療法のほうがまし。手術をするのであればExpertに指導を仰ぎながら治療を進めてゆく.
・関節面の適合性
・5mm以上の転位
・横骨折、T字骨折の場合
・両柱骨折のある場合
・中心性脱臼
・骨頭骨折の合併
・股関節の安定性が不良な場合

関節面の適合性
両柱骨折を除いて、Roof arc angleが有用.これが45度以内であれば保存療法で良い成績がえられる.

股関節の不安定性を評価
両柱骨折の場合 step offがなく、wideningのみであれば保存療法でいけることがある。
後壁骨折の場合20%以下なら安定。50%以上なら不安定.
20-50%のときどうするか?股関節屈曲40度まで曲げて関節裂隙の拡大を見てみる.

2010年9月1日水曜日

成長期のスポーツ障害

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2010年7月9日金曜日

2010.7.9 JBJS(Br) The prevalence and radiological findings in 1347 elderly patients with scoliosis

Abstract
高齢者における側弯症の有病率とその症状との関連を調べるために1347人の患者に対して調査を行った.615人の男性と732人の女性.平均年齢73.3歳。平均cobb角7.55度。
cobb角10度以上を側弯症と定義したときにその有病率は35.5%であった。
年齢と性別それぞれで有病率に有意に差が出た.
高齢になればなるほど側弯の程度は悪化した.それは女性でより顕著であった。
女性では年齢との相関がより強かった.また健常群にくらべ症状が強く出ていた.
側方辷り、椎体の回旋、前弯の消失、感情面でのバランスの消失がある時に側弯症と症状との関連が見られた.
その部位はL4/5であった。

<論評>
まあ、そうなんですよね.と普段自分がレントゲンをみて感じていることをまとめていただいた感じです.

2010年6月7日月曜日

2010.6.7 JBJS(Am) internal fixation of type-c distal femoral fracture in osteoporotic bone

要旨
骨粗しょう症を伴った大腿骨遠位部骨折はいまだにその治療に難渋する。この研究はさまざまな内固定材のその生体力学的な特徴を検証することである
方法
AOC2の骨折型を作った骨モデルを用いて、3つの髄内釘型の内固定材、1つのプレート型の内固定材で固定し、軸圧と回旋力に対するその抵抗力を測定した。
結果
プレート型の内固定材はほかの内固定材に比べてその回旋抵抗力が有意に高かった。4つのロッキングスクリューでとめるタイプがそれに続いた。軸圧に対してはプレートタイプがもっとも弱く、4つのロッキングスクリューでとめるタイプがもっとも大きな抵抗を示した。繰り返しの回転力をかけ続けるテストでは4つのロッキングスクリューでとめるタイプがもっともその破砕までの回転数が多く、プレート、ブレードでとめるタイプ、二つのロッキングスクリューでとめるタイプの順となった。
結論
生体力学的には4つのロッキングスクリューでとめる内固定方法が、軸圧にも強く、プレートについで回旋力にも強いのでこのような内固定材が薦められる。

図1 四つの内固定材 A:ストライカーT2大腿骨用髄内釘 B:ストライカーのsupracondyl nail C:Synthesのブレード付ネイル D:大腿骨遠位端用のLCP
図2 作成した骨折モデル
図3 力を実際に加える機械
図4 回旋力を加えた場合:Dが最強。Cが最弱
図5 ROMについての中立的な場所。Cがもっともスクリューを打つ範囲に自由度があり、Dがもっとも小さかった。
図6 実際の骨と骨モデルとの間での違い。有意な差が出るほど大きな差がある。
図7 繰り返しの力を加えてどこで破綻するか。Bがもっとも優秀であった。

ストライカーから研究委託を受けて行われた研究。Sy社のブレードなどよりもストライカーのsupracondyle nailがいいよ、という結論が出た。
優秀な機械であることは否定しないですけど。

2010年5月30日日曜日

2010.5.28-30 日本整形外科学会復命

5/28-5/30 東京国際フォーラムで行われた日本整形外科学会に参加してまいりました。

骨粗鬆症の治療とその効果。
WHOからFRAXが発表されている。骨密度を測定しなくても将来的な骨折の危険性について評価してくれるシステム。
日本人の場合には15%以上の危険性がある場合には治療介入した方がよい。
ただしいくつかの欠点として75歳以上では使えないこと、脊椎骨折の危険性を測定するものではないのでそこの評価が不能であることが欠点。
実際の治療
第一選択はBisphosphonate。欠点として顎骨壊死の危険性。頻度はまれ。日本歯科医師会からポジションペーパーあり。抜歯する際などは休薬するなど。”drug
holiday”
5年以上継続して内服している例は危険。一旦休薬もあり。
SERM、VitDの使用方法。
糖尿病合併例。骨密度はあっても骨強度が不足していると考えられる例にはSERMが適当。高齢者で低骨密度、低骨強度が危惧されるような例ではVitDとビスフォスフォネートの併用が効果的と。ViTDはバランスの改善にも期待。
薬物療法にあわせて運動療法の処方を。特に背筋の筋力トレーニングとストレッチ。両手を壁に当てて背中を伸ばす。うつ伏せで背筋を鍛えるなど。outcomeはサロゲイトされているがやってみる価値はあるかも

撓骨遠位端骨折
DRUJをふくめた新しい分類。DRUJが破綻しているかどうかというのは本邦ではあまり臨床成績には影響しないと考えるが。。
骨粗鬆症が疑われる場合にはピンニングではなくさいしょからプレート設置を。
ギプスを含めた保存療法の価値が下がりつつあることが今後の課題

脳血管障害のリハビリテーション
疾患でそのリハビリの処方が変わるわけではない。
どんな状態であれ関節可動域訓練はできるだけ早期から始める。筋力強化訓練を行うと痙性がアップするという誤解があるがそういうことはないので筋力強化訓練は行って全く差し支え無い。座位、立位はできるだけ早くからとらせる。血圧180未満、JCS一桁、全身状態安定であれば早速体を起こしていきましょう。
PNFをふくめた様々なテクニックがあるがやって悪いことは何もないがやらなければならないというものでもない。

私の発表。目の付けどころがよいとお褒めいただいた。如何わしいという日本語の表現が悪いと突っ込まれた。内容については特に指摘されなかったので、早速論文にして提出したいと思います。
運動器検診の話もチェック。資料を贈っていただくよう交渉した。

人工膝関節
アライメント、軟部組織バランス、インプラントの形状が重要。
アライメントはどこを基準とするか自分の基準を作る。内旋、内反位で設置されるとその人工関節の寿命は短い。
インプラントの形状はどこも似たり寄ったり。mobile bearingについてはまだその有用性を証明出来ていない。
人工関節の性質上どうしても評価が10年後、20年後となってしまう。
これを回避するためにコンピュータによるシミュレーションを行っているが精度はまだまだ。
人工関節はやはり確立された方法をとっていくべきなのかもしれない。

義肢装具の処方。
自由度を制限するための装具処方という考え方が斬新でした。シューホーン装具は回旋不安定性が強いのでDAタイプの装具のほうが好ましい。
介助と補助の違い。介助では患者はあるけるようにはならない。如何に補助していくかがポイント。
最初は長下肢装具、平行棒からというようにして徐々に難易度を上げていかなければならない。
最初から高い難易度では成功しないし、簡単なままでも目標に達しない。
歩いている姿を常にチェックしてやっていかなければならない。
次号の総合リハに今回の話がでるとのこと。早速チェック。

慢性腰痛と肩こり
椎間板の変性に全ての原因を求めるのは無理。なで肩で肩こりになるというのもウソ。
心理社会的な問題を抱えていることが多い。
腰痛も肩こりも何かしらの同様の発症機序、病態を抱えている可能性あり。
プラセボ効果をばかにしてはいけない。手術も70%がプラセボ効果。
ナロキソンで拮抗するとプラセボ効果が消える。
医師患者関係が構築されていると治療効果は最大に。
運動療法をふくめ処方する医師も強い信念をもって運動療法を処方することが大事。
今後オピオイドの貼付薬が発売される。(レペタンのシップ)
どのように使うか、その副作用をふくめ検討していくことが求められる。

2010年5月13日木曜日

2010.5.13 JBJS(Am) Immobilization in an External or Internal Rotation Brace Did Not Differ in Preventing Recurrent Shoulder Dislocation

背景
肩関節前方脱臼に対して外旋位で固定を行うと内旋位固定よりも再脱臼の危険性を減少させるのかどうかを検証した。
方法
無作為割付試験。4年間のフォロー。イスラエルの救急外来を受診した患者。17歳から27歳までの51人の患者(全員男性、78%が軍人)。交通事故、大結節骨折を合併したものは除外。27名外旋位固定、24名を内旋位固定。4週間固定したのち通常のリハビリテーションプログラムに沿ってリハビリを開始。再脱臼の有無をprimary
endpointとした。
結果
2群の間に有意な差は認められなかった。再脱臼までの期間はおおよそ12ヶ月であった。
結論
肩関節前方脱臼後に内旋位固定をしても外旋位固定を行っても再脱臼についての有意な差はない。

<論評>
外旋位固定を行うことで肩甲下筋によって前方の関節包が圧迫されるので、外旋位固定の方が前方脱臼後の固定には有用であろうという報告が数年前にされておりましたが、無作為割付試験の結果としては変わらなかったようです。Bankert lesionはやはり外科的に整復されないと脱臼の高リスク群では再脱臼を防ぐことは難しいのかも知れません。

2010年5月5日水曜日

2010.5.1 JBJS(Am) The Risk of Revision After Primary Total Hip Arthroplasty Among Statin Users

要旨
スタチンは骨代謝とその炎症の抑制に効果があると言うことが知られているが、THAを行った患者に対してその効果がどのようなものであったかと言うことを調べた報告は今までない。
方法
1996年から2005年までにデンマーク股関節登録センターに登録されたプライマリーTHAが行われた2349例についての検討。propensity score matchingという手法を用いて、同様の背景をもつ2349例をコントロール群として多変量解析を用いてスタチンを使っていることが有意に再置換のリスクを減らすかどうかを検討した。
結果
57581例のTHA患者のうち、8.9%が10年積算で再置換を要した。術後にスタチンを用いた群での再置換に対する相対危険度は0.34であった。この他、感染、ゆるみ、脱臼、人工関節近傍骨折の危険性も低かった。
結論
スタチンはプライマリーでTHAが行われた症例に対してその再置換を減らす効果がある。しかしながらそのメカニズムが明らかになるまでは健康な成人に対して人工関節の延命を目的としてスタチンを投与することが適当であると言う事は言えない。

<論評>
propensity scores matchingという方法を用いた解析によってスタチンがTHAの長期生存に有効に働くのではないかと言う事を示唆した文献。
この解析方法が面白いと思いましたし、また同様に日本でもregitration systemを作って同じような発表ができればと願います。

2010年4月29日木曜日

2010.4.29 JBJS(Am) A Comparison of the Long Gamma Nail with the Sliding Hip Screw for the Treatment of AO/OTA 31-A2 Fractures of the

要旨
AOの31-A2タイプの大腿骨転子部骨折に対しての治療は、髄外型のインプラントを用いるべきか髄内型のインプラントを持ち言えるべきかという議論がある。CHSとγネイルを前向きに無作為割付してその結果について調査を行った。
方法
210人の大腿骨転子部骨折の患者を無作為にCHSとγネイルの2群に割付した。primary outcomeは再手術とし、secondary
outcomeは死亡率、入院期間、輸血の必要性の有無、活動性と住居の変化、Euroqolを用いたQOL評価を行った。
結果
2群の間に有意な差は認められなかった。(再手術:γネイル3例、CHS2例)。Tip-Apexの距離がカットアウトと関連しているようであった。死亡率、QOLを含めいずれのsecondary
outcomeでも有意な差は認められなかった。
結論
CHSはγネイルと比較して、そのインプラント費用が低価格であることからAO31-A2タイプの大腿骨転子部骨折に対してゴールドスタンダードに用いられる機種であるといえる。

図1:割付のアルゴリズム。最終フォローはそれぞれ65%、85%
表1:患者の活動性のスコアリングについて
表2:患者背景
表3:結果:γネイルで30日以内の死亡例が20%!輸血は全体の半分に行われている

考察
AO-31A2:大腿骨小転子まで含むような転子部骨折に対しての治療はいまだに議論の残るところである。
この数年大腿骨転子部骨折に対して髄内釘がよく用いられるようになってきているがこれは科学的な根拠のあるものではなく、メーカーの思惑だとか、術者の好みの変遷だとか、患者側の要因とは関連の無いところで決めているような風潮がある。髄内釘の使用は1999年に3%であったものが2006年には69%にまでなっている。
髄内釘がたのインプラント特有の術中合併症や、あとはインプラントの価格の問題がある。CHSは髄内釘よりも1500ドルは安いのである。
2008年のCochrane libraryではCHS型のほうが髄内釘型の機種よりもそのインプラントに伴う合併症は少ないというとことを明らかにしている。
ロングネイルを使うことで短いネイルを使っていたときのような術中骨折を防ぐことはより容易になったのではないかと考える。
いくつかの統計学上の問題は存在するものの、結論として機能評価上の問題が無ければより安いデバイスを用いるべきであろう。

<論評>
僕自身は安定型骨折にはCHS,小転子が含まれているような不安定な骨折と診断したときにはγネイルを用いています。
この研究はRCT、レベル1となっていますが、フォロー率が65%という異常な低さが気になります。また本文中でもありましたが術後早期死亡例が20%と高く、どんな手術をなさっていたのか気になります。(苦笑) なのでこの論文を読んだからといって僕自身の手術方針の決定が変わることはないと思います。
この筆者はコストを述べていらっしゃいますが、コストを述べるのであれば単一機種でなく、複数の機種をおくことでの病院の在庫調整にかかるコストなども計算に入れるべきでしょうね。
まあ、あなたの選んだインプラントは患者さんのことを考えて選んでいますか?という、ひとつの警鐘として受け止めるべき論文でしょう。

2010年4月28日水曜日

2010.4.28 Up to date Overview of the benefits and risks of exercise

はじめに
昔から健康に対する運動療法の有用性はいわれている。運動しないと不健康になるとはいわれていたものの、1996年の報告で運動と健康について述べられた。
この報告では運動することが健康や長寿に有用であることを示した。しかしながらリスクを抱えていたり、運動できなかったりする人も居るので、個々にたいして適切な運動療法を提供することが重要である。

定義
身体活動性と運動とは違う概念であることをはっきりとさせておく。
身体活動性とは基礎体力以上に身体を動かすことである。この身体活動性という言葉の中には仕事上身体を動かすこと、家事、余暇、移動などが含まれる。
運動とはしっかりと計画、構成されたものと定義される。また、運動とは身体のフィットネスを向上させるためのその内容そのものをさす場合もある。

身体活動性はMETS(metabolic equivalent)で測定される。1METsとは3.5 mL
O2/kg/minの酸素を消費するような運動量である。少しきついな、と感じる程度の運動で3-6METsに相当する。(アルゴリズム1参照)

フィットネスとは物事を継続して行えるからだの能力をさす。心血管系の持久力、筋肉の持久力、筋力、パワー、敏捷性などがフィットネスと直接かかわってくる。

公衆衛生上の問題としての運動
座ってばかりの生活のためにアメリカではこの生活習慣の関連した死亡が20万人に達すると考えられている。(糖尿病、心筋梗塞、大腸がん)
これに対して、日ごろから身体を動かしていたり、心血管のフィットネスが高い人では全体の死亡率が低かった。

アメリカの大多数の国民はほとんど運動しない生活を送っている。2004年の調査では全体の55%が座った生活をしていることがわかった。女性、老人、糖尿病持ち、収入が低い群が運動をしない傾向にあった。2008年になってその傾向は改善傾向にあり、64.5%の人がガイドラインがすすめる週に150分以上の中程度の運動または75分以上の運動を行っている。

運動量が低いことは脳血管障害のリスクと大きく関連している。

アメリカ健康計画2010では運動の習慣を持つ人を50%以上に、身体を動かすことのない人を20%まで減少させることを目標としている。
加えて週に2回以上筋力トレーニングをする割合を30%まで上昇させることも目標としている。

アメリカでは徐々に運動習慣を持つ人が増えていることが調査からも明らかになってきている。

長期間にわたって運動を続けることは身体のさまざまな器官に影響を与えることがわかっている。

筋骨格系への影響
中程度のトレーニングを積むことで筋線維が増え、筋への血流増加を認め有効にエネルギーを使うことが出来るようになる。抵抗運動を行うと筋線維が太く、強くなり一度に大きな力を発揮することが出来るようになる。

代謝系への影響
・ミトコンドリアの数とサイズが増え、筋肉量が増加する。
・耐久径のトレーニングを行うと筋肉内のグリコーゲン貯留量が増加する
・脂肪を効率よくエネルギーとして使うことが出来るようになる。
・脂肪滴から遊離脂肪酸を作り、脂肪を脂肪酸とすることが出来るようになる

運動することで酸素の摂取量が多くなる。

心血管系への影響
耐久系のトレーニングを行うことで心血管系には大きな変化が現れる。
・心拍出量の増加と心拍数の減少
・血漿成分の増加と拡張期のでも十分な血液量の確保
・心筋の肥大
・組織周囲の血流増加と酸素摂取、栄養摂取能力の向上
・血圧の低下
・運動によって冠動脈の平滑筋と血管抵抗のいずれでも改善が認められる。
・運動によってサイトカインを活性化
・心疾患を持った患者の心機能の改善

呼吸系への影響
・肺活量が増加し、肺血流量も増加する

その他の効果
免疫系を不活化させ、感染症やある種の癌にかかりにくくする効果があるとされている。

運動することのメリット
・死亡率:健康な群で心血管イベントを減らすということがわかっている。
図1:強度の高い運動をしている人たちはしていない人よりも23%死亡率が低い
図2:運動することによって死亡率が減少する

・心血管イベント
運動と心血管イベントとの間には関連が認められている。
図3:定期的に運動している群がもっとも死亡率が低い

・その他のメリット
血糖値のコントロールについても運動は有用である。
運動することによって乳がん、すい癌の発生率が下がる
肥満防止
禁煙
胆石の発生予防
機能、認知症予防効果
心理的にも有効で不安やうつが軽減する
医療経済上も有用(330ドルの違いがある。)

運動によるデメリット
・筋骨格系の負傷
1週間に64km走るランナーでは負傷する可能性のオッズ比は2.9!。
過ぎたるは及ばざるが如し
・不整脈
習慣的に運動している人の40%に何かしらの不整脈を認めたとの報告がある。運動することによって心筋の酸素摂取能力が上がることから不整脈は起こりにくくなるはずである。今後の議論が必要である。
・心臓突然死
ジョギングで40万時間分の1、フィットネスクラブで89万時間分の1で起こる。男女差なし
運動によって心臓突然死の可能性はわずかにあるものの運動によるメリットには変えられない。
・心筋梗塞
強度の高い運動をすることによって一時的に心筋梗塞のリスクが高まることが知られている。週に4回以上している軍よりも運動回数が少ない群で発症率が高かった。
・左心肥大
・横紋筋融解症
横紋筋融解が起こりやすい条件
・普段運動していない
・ひどく蒸し暑い日
・防具などを付けていて上手に熱の放散が出来ない
低カリウム血漿

喘息
運動鶴ことで7-8割の患者が喘息発作を起こす。なので吸入薬と、あまり強度の高い練習はしないようにしなければならない


その他
脱水など

運動前の医学的評価
臨床的に問題が無くても運動によって2.6倍の患者で心血管イベントが起こる。個々の医学的評価が必要である。と結論されている
・年齢
・全身状態
・運動歴
・整形外科疾患歴
・薬剤の治療歴
・肺病変
・運動への参加率
・身体障害の程度

程度の軽い運動を週6回か強度の高い運動を週3回か行うようにAHAは推奨している。
息切れ、発汗、疲労を元に運動を終了するかどうかをきめるとよい。心拍数は当てにならない。


準備運動には怪我を防止するといった明確なエビデンスはない

クールダウンを行うことによって筋肉内の乳酸量が減少する。

カウンセリングの効果
多くの研究でカウンセリングを行っても行動変容には至らないとする結果となっている。より積極的にかかわったり、個別のメニューを作成するなどすると効果が出てくる。
結果は出にくいもののプライマリケアの現場では常に運動療法の重要性について述べ続けなければならない

2010年4月21日水曜日

2010.4.20 JBJS(Am) Ninety-Day Mortality After Intertrochanteric Hip Fracture: Does Provider Volume Matter?

要旨
背景
患者を選ぶ人工関節置換術において整形外科資源(整形外科医の人数、手術件数など)がその臨床成績と関連するということはいわれている。しかし患者を選ぶことの出来ない大腿骨頚部/転子部骨折の患者において整形外科資源とその臨床成績について述べられた報告はない。患者を選ばないので整形外科資源の豊富な病院のほうが臨床成績がよい可能性がある。そこでMedicareをもちいた大腿骨転子部骨折の患者について90日後の生命予後について調査を行った。
方法
2000年から2002年までにMedicareに登録された65歳以上の大腿骨転子部骨折の患者。整形外科的資源としてはその病院の常勤の整形外科医の数と医療を提供する人間と定義した。統計学的に調整を加えて条件を平等にしたうえで、(年齢、性別、Charlsonの合併症スコア、転子下骨折の数、入院前住居、使用するインプラントなどを調整。)90日後の死亡率について調べた。
後は調整せずに30日後、60日後、90日後の死亡率について検討を行った。
結果
192,365人について調査を行った。調整前の死亡率について検討すると入院時で2.91%
30日後で7.92%。60日後で12.34%。90日後15.19%であった。統計学的に調整した後で調べてみると、医療資源の少ない病院では医療資源が豊富な病院に比べ10-20%ほど死亡率が高く出た。60日後の死亡率はもっとも小さな規模の病院で最も高かった。1年に2,3度しか手術をしない医者に手術をされると死亡率が高くなることがわかった。
考察
整形外科的資源が豊富な病院で手術をされた患者が90日後の死亡率が低くなることがわかった。しかしこの結果は大規模外傷センターで大腿骨転子部骨折の患者がルーチンに手術を受ければよいということを指し示すわけではなく、また、小規模病院で死亡率が高くなっている原因について更なる調査を要するものである。


表1 患者背景
表2 調整前の死亡率
表3 調整後の相対危険率 小さな病院でリスクが高くなり、また手術数が少ない病院では危険率が高くなる

考察
この研究の前に行われた人工関節置換術についての調査では整形外科的資源が豊富な病院のほうが臨床成績が少しだけよいということがわかっていた。今回は高齢で合併症の多い大腿骨転子部骨折の患者について調査を行ってみた。
‐病院が及ぼす効果
入院中の死亡は大規模施設のほうが多かった。術後30日を越えるともっとも小規模な施設での死亡率が高くなってきた。さまざまな健康上の問題は数が多くなれば緩衝されるので、個々の患者の問題は小さくなる。人工関節置換術では病院の規模による差は小さなものに過ぎなかった。
なせ小規模病院で死亡率が高くなるかということについてはわからなかった。整形外科医が常に見ているわけではないとか、手術室のスタッフの問題とか、さまざまな問題が考えられる。手術そのものよりもその周辺の問題のほうが大きいのかもしれない。
‐術者が及ぼす影響
整形外科医の数と死亡率については逆U字型の傾向となることがわかった。ちょっとしか手術をしないのならその医師は丁寧に見ているかもしれないし、中規模施設の医師はより難しい症例にあたっているのかもしれない。したがって医師数を多くすると死亡率が減少するといった直線的な逆相関は得られなかった。病院の規模の違いほどの違いを医師数では見出せなかった。
‐患者側の要因
男性、術前に施設に入っていること、高齢、合併症が多いということは死亡率が高くなる要素である。
今回の研究の問題点
痛み、機能評価が行えていないこと、メディケアで保険されている患者の調査であり、高リスク群が追えていない可能性があることなどがある。
今回の研究で言えることは、大規模病院で治療されたほうが死亡率は低くなる。また、小規模病院で死亡率が高くなる原因については更なる調査が必要となる。ということである。

<論評>
あくまでもアメリカでの研究結果であり、日本でもこれがそのまま適用できるか?といわれればできないというように考えます。しかし日本でも診療報酬上でのさまざまな加点により大規模病院で手術をしたほうが病院の収益が高くなるように現在設定されています。(手術点数は同じですが、麻酔科医師の数による加点、地域医療支援病院加算などで大規模施設と小規模病院では差が出ます)。日本でもDPCでさまざまなデータを提供しておりますがついぞこんなデータをお上から公表していただいた記憶がありません。日本発のこのような研究結果を期待します。

2010年4月15日木曜日

2010.4.15 JBJS(Am) Maintenance of Hardware After Early Postoperative Infection Following Fracture Internal Fixation

要旨
背景
観血的骨接合術術後の感染成立は臨床上のジレンマを引き起こす。その解決方法について手助けになるような文献には乏しい。術後6週以内の急性の術後感染に対して内固定材をのこしたまま骨癒合を得られるようにするためにはどうしたらよいかと言う事について研究した。
方法
レベル1外傷センターの患者121例。術後6週以内に術後感染を起こした患者(123感染例)。内固定材を抜去せずに骨癒合を得た例を調査し、骨癒合が得られるようなパラメーターについて調査した。
結果
87例(71%)でデブリードマン、内固定材の再固定、抗生剤の投与で骨癒合が得られた。骨癒合が失敗した要素としては開放骨折であることと、髄内釘を使用したことであった。喫煙歴、緑膿菌感染、骨折部位は有意差がなかった。
考察
骨癒合が得られるまで、デブリードマン、内固定材の再固定、抗生剤使用で治療することが可能である。個々の患者に対してインプラントなどを考慮しながら治療を行うことが必要である。

考察
観血的骨接合術後の術後感染で再固定すべきか抜去するかと言うことについて述べられた文献は殆どない。この話題について述べられた文献はいくつかあるものの、術後6週以内の急性感染について述べられたものはない。内固定材をそのままにして置くか、抜去するかが最も重要である。以前の研究では69例についてちょうさされ、喫煙が最も重要な因子であった。この結果は我々も似たようなものであった。違いは6週以内の症例を対象にしているため内固定材を留置したままにするかそれとも抜去するかを決定することを重要視した。また、より骨癒合を厳格に判断した。内固定材を抜去の後に全例で骨癒合が得られたためこれは内固定材が原因となっている感染であると判断した。
今回の仮説は急性期感染であれば内固定材の抜去を行わなくてもデブリードマン、抗生剤投与で感染の沈静化が可能であるというものであったが、けっかとして71%で骨癒合が得られた。第二の検証項目は抜去するかどうかの判断の材料とする要素について検討した。この検討では開放骨折であることと髄内釘が用いられていることが抜去を考慮する方がよいと言うように有意差が得られた。喫煙しているかどうか、骨折の部位などは有意差が得られなかった。他の文献では喫煙歴、感染した金が緑膿菌であることは危険因子である、ということがいわれている。
また髄内釘ではどうしても還流などでも十分洗浄しきれない部分が出るため感染しやすい。
この研究の限界はひとつは後ろ向き研究であること、もうひとつが抜去の基準がしっかりと決まっておらず術者の判断によって内固定材の抜去が行われたことである。
DMの患者は症例数が少なくてはっきりしなかったが、骨癒合不全、感染の危険因子として一般によく知られている。
結論として観血的骨接合術の患者の早期術後感染では内固定材の抜去をすることなく骨癒合が得られる場合がおおい。今までに上げたような危険因子を有するような場合には抜去をした方が無難である。

<論評>
骨接合術後の感染ではインプラントの緩みがなければプレートはそのまま留置可能であろう、とする論文。なかなか感染部に異物を留置するのは度胸がいりますね。

2010年4月12日月曜日

2010.4.12 JBJS(Am) Ergometer Cycling After Hip or Knee Replacement Surgery

要旨
背景
THA、TKAの術後で適当な方法は明らかになっていない。THA,TKAの術後にエルゴメーターによるリハビリテーションを行いQOLと患者満足度を調査した。
方法
62人の患者を無作為にエルゴメーター群と非エルゴメーター群に割りつけた。エルゴメーター群は術後2週間エルゴメーターを行った。患者主体型QOL評価とWOMACによる評価を術後6ヶ月、12ヶ月、24ヶ月の時点で行った。結果は最小限の臨床上の重要な改善について公表されたしきい値で比較された。
結果
二群の背景はほぼ一致していた。THAの術後ではフォロー中のすべてのチェック時においてエルゴメーター群が上回っていた。3ヶ月と24ヶ月の時点で有意な差を認めた。エルゴメーター群の方がとても満足とする割合が多かった。主要アウトカムではその要素が2.0となった。TKAでは二群の間に違いは認められなかった。
考察
エルゴメーターはTHA施行後の患者でQOL、患者満足度の点で有効であると言うことがわかった。しかしTKAでは明らかにならなかった。

考察
エルゴメーターは関節機能、患者満足度、などにおいて基本的な治療方法として用いられてもよいと言うことがわかった。
この研究はTHAの患者においてエルゴメーターがQOLに寄与するという強いエビデンスと成っている。二つのことを強調しておきたい。まず一つ目は2.2の要素で臨床上の最小限の重要な改善が現れたということ。もうひとつが術後2年間続けて臨床上の差が現れていたということである。
患者数が少ないと言うことを言うかもしれないが、患者満足度を見て欲しい。とても満足しているという群が92%もあるのだ。
初めての置換か、再置換なのか、合併症を有しているかなどによって術後のQOLは差が出る。これらは術者にとってどうしようもできない因子である。また、いろいろなインプラントで治療を行うことは患者のQOLを大きく損なう可能性がある。入院でのリハビリと自宅でのリハビリの間に違いはないとする報告もある。最近手術数と患者中心の評価方法との間に関連があるといわれている。この研究の最初の目的は手術数と患者満足度との間に関連があるか調べることであった。
3ヶ月後と6ヶ月後の評価はQOLの評価として適当かと考え行った。12ヶ月後と24ヶ月後は一般的に人工関節置換術後のフォローとして一般に行われている。
この研究は多施設研究なので、単独施設研究よりも様々な患者をフォロー出来ていると考える.
エルゴメーターでよく動かすことが関節などに効果的であるのはよくわかるのだが、TKAで差がでないのはどうしてであろうか。膝の場合は動かすことで膝周囲の軟部組織が腫れたりすることで疼痛が出たためではないかと考える.
この研究の問題点はフォロー率が悪いことである。最終フォロー時は77%まで低下してしまった。また、この研究は片方の脚に行った初回の関節置換についての研究であるので、再置換例、や両側例では不明である。
エルゴメータはTHAで有用であるので使ってみる価値はある。

<論評>
まあ、やってみても悪くはないのでは無いでしょうか。どんな施設でもエルゴメーターはやっているような気もしますが。

2010年4月9日金曜日

2010.4.8 JBJS(Am) AAOS guideline:The Treatment of Osteoarthritis (OA) of the Knee

AAOSの変形性膝関節症に対するガイドライン

1、患者教育

1、変形性関節症の症状があるような患者は、関節症協会から提供される自己管理プログラムに積極的に参加したり、ランニングをウオーキングに変えて生活の中に運動を組み込むように教育することは効果がある。(エビデンスレベルⅡ、推奨レベルB)
2、自己管理のために定期的に診察を行うことも有効である。(エビデンスレベルⅣ、推奨レベルC)
3、BMIが25以上の変形性膝関節症の患者にたいして食事療法、運動療法を適切に処方し、最低5%以上の減量を行うことは効果的である。(エビデンスレベルⅠ、推奨レベルA)

2、リハビリテーション
4、変形性膝関節症の患者に対して衝撃の少ないエアロビクス運動を勧めることは効果的である。(エビデンスレベルⅠ、推奨レベルA)
5、変形性膝関節症の患者に対して関節可動域訓練を行うことはひとつの方法である。(エビデンスレベルⅤ、推奨レベルC)
6、変形性膝関節症の患者には大腿四頭筋訓練を勧めることは効果的である。(エビデンスレベルⅡ、推奨レベルB)

3、機械的介入
7、症状のある変形性膝関節症の患者に対して膝蓋骨のテーピングは短期間であるが痛みの除去と機能改善に有効である(エビデンスレベルⅡ、推奨レベルB)
8、内側型の変形性膝関節症の患者に対して外側楔状型の足底板を処方しないことを推奨する(エビデンスレベルⅡ、推奨レベルB)
9、内側単独型の変形性膝関節症の患者に対して外反装具を処方することは推奨することができない(エビデンスレベルⅡ、推奨レベル結論なし)
10、外側単独型の変形性膝関節症の患者に対して内反装具を処方することは推奨することができない(エビデンスレベルⅤ、推奨レベル結論なし)

4、代替医療
11、変形性膝関節症の患者に対して鍼灸を用いて治療することは推奨されない。(エビデンスレベルⅠ、推奨レベル結論なし)
12、グルコサミン、コンドロイチンの処方を行わないように推奨する(エビデンスレベルⅠ、推奨レベルA)

5、疼痛除去
13、特に禁忌がない場合には以下のような処方を行うことが推奨される
・アセトアミノフェンの投与(一日4gを超えない)
・NSAIDsの処方
(エビデンスレベルⅡ、推奨レベルB)
14、60歳以上である、他の疾患の治療中である、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の既往がある、胃潰瘍からの出血の既往がある、ステロイドと抗血小板剤の併用を行っているなどの様々な条件を有する場合には以下のような処方が推奨される
・アセトアミノフェン(1日4グラムを超えない)
・NSAIDs外用(湿布など)
・胃粘膜保護剤とNSAIDsの併用
・COX-2阻害剤
(エビデンスレベルⅡ、推奨レベルB)

6、関節内注射
15、ステロイドの関節注射は短期間の疼痛除去に有用である。(エビデンスレベルⅡ、推奨レベルB)
16、軽度~中程度程度の変形性膝関節症に対してはヒアルロン酸の関節内注射は推奨されない(エビデンスレベルⅠ or Ⅱ、推奨レベル結論なし)

7、穿刺による洗浄
17、穿刺による洗浄は行われるべきではない(エビデンスレベルⅠ,Ⅱ、推奨レベルB)

8手術治療
18、症状のある変形性膝関節症に対して初期の診断目的に関節鏡下にデブリードマンを行うことは有用である(エビデンスレベルⅠ,Ⅱ、推奨レベルA)
19、半月板の症状や関節内遊離体による症状がある変形性膝関節症の患者に対して関節鏡下半月板部分切除や遊離体摘出を行う場合もある。(エビデンスレベルⅤ、推奨レベルC)
20、大腿膝蓋関節のOAがある患者に対して脛骨結節移動術は勧められない(エビデンスレベルⅤ、推奨レベル結論なし)
21、アライメント異常のある活動的な変形性膝関節症の患者に対して骨切り術はひとつの方法である。(エビデンスレベルⅣ,Ⅴ、推奨レベルC)
22、片方の果部のOAに対してfree-floating interpositional
deviceを用いることは有用である。(エビデンスレベルⅣ、推奨レベルB)

<論評>
代替医療に対して厳しい評価が下ったものと思われます。まずは患者教育。その上で治療を行っていくこと。注射のみの外来を行わずやっていけるようになると理想ですよね。

2010年3月25日木曜日

2010.3.25 JBJS(Am) Thrombosis Prevention After Total Hip Arthroplasty A Prospective, Randomized Trial Comparing a Mobile Compression Device with Low-

Thrombosis Prevention After Total Hip Arthroplasty

A Prospective, Randomized Trial Comparing a Mobile Compression Device with Low-Molecular-Weight Heparin

Background:

血栓塞栓症はTHAの合併症としてよく知られている。この研究の目的は新しいmobile compression deviceと低分子ヘパリンとを安全性・静脈血栓塞栓症に対する効果について比較することである。

Methods:

THAを施行された患者を10日間mobile compression deviceの群と低分子ヘパリン群にランダムに割りつけた。Deviceは術中より開始し、この群の患者ではアスピリン81mg/日も術後投与できるようにした。低分子ヘパリンは術後12-24時間後に開始。10-12日後全ての患者で両下肢のエコーを行い腓腹部、大腿部に深部静脈血栓がないかスクリーニングした。いかなる肺塞栓の症状でも肺のスパイラルCTで評価した。出血やコンプライアンスなどの使用上の問題は両群とも見られなかった。臨床的な深部静脈血栓や肺塞栓の検索的評価は術後12週で行われた。

Results:

410患者414股が割付けされ、392名395股が介入的治療の安全性を評価され、386名389股がその効果について評価された。背景は両群で差がなかった。大きな出血のイベントはcompression群で0%、低分子ヘパリン群で6%であった。遠位および近位の深部静脈血栓の発生率はそれぞれcompression群で3%と2%、低分子ヘパリン群で3%と1%であった。肺塞栓はcompression群、低分子ヘパリン群ともに1%であったが、fatalなものはなかった。12週のフォローアップ期間内で、深部静脈血栓1件、肺塞栓1件の2件がcompression群の1人の患者で起きたが、術後12日目のエコーではnegativeであった。両群間で静脈血栓塞栓症の発生率に差はなかった。

Conclusions:

低分子ヘパリンと比較して、mobile compression deviceをTHA後の静脈血栓塞栓症の予防に用いることは、大きな出血のイベントを有意に減らすことができる。
Fig. 1

研究への登録のシェーマ

Table Ⅰ

患者背景。両群間に差はなし。

Table Ⅱ

大きな出血イベント、輸血単位数、Bleeding index(全輸血単位数+(術後最初のHb-退院時のHb))、ヘモグロビンの変化

Table Ⅲ

両群の各々の麻酔法における静脈血栓症と出血イベントの数
Discussion

 我々の携帯型のcompression deviceはTHA後の出血に対して低分子ヘパリンより安全であるという仮説を証明した。ヘパリン群の出血イベント6%という結果は5つの研究の結果の5.3%と同等であった。今回、効果の評価よりも安全性の評価を強調したのには2つの理由がある。1つ目は、整形外科医は予防的投与の薬による出血の問題を深く考えているためである。2つ目は、低分子ヘパリンは静脈血栓のイベントを減らすことが様々な報告からも知られているが、それと効果が同等であると証明するには各群1480名は必要であったためである。

 我々の静脈血栓に対する結果も以前の報告に相違がない。GelferらのTHAとTKA患者で旧型のcompression deviceを血栓予防にエノキサパリン40mgと同様に用いた報告では、THA後の患者の深部静脈血栓を有意に減らし、エノキサパリン群で40名中13名が合併症を認めたのに比べ、compression群では33名中合併症は0であった。


 この研究の問題点は2群間の効果の違いを説明するには患者数が適切でないことである。Compression deviceを用いているため、盲検が困難であったことも問題であった。大きなランダム化前向き試験で、エンドポイントを静脈造影所見としていたため、我々のエコーによる方法は問題があったかもしれないが、エコーはアメリカで診断のスタンダードとなっており、リアルタイムの評価がより可能である。

 結論としては、THA患者においてcompression deviceは低分子ヘパリン予防的投与と同等の静脈血栓イベントの発生率でありながら、大きな出血イベントを有意に減少した。

<論評>
術後の出血量については差があるということがわかった。間欠的圧迫法でも十分有用であると言うことが言える?のかしら?有意差のでない研究というのは本当に難しい。
しかし海外はわずか3日間でTHA後に退院させられるのね。

2010年3月24日水曜日

臨床研修指導医講習会 3日目

研修終了までのプロセス
研修が成り立たない場合、中断、休止、未修了の3つがある。
中断しした場合には他所の病院で研修を。休止、未修了の場合には同じ病院で研修を繰り返す。
研修プログラムの責任者は指導医講習会養成講習会修了の医師
研修プログラムごとに1名配置。受け持つ研修医20名以内
形成的評価・総括的評価を行う。

研修プログラム改革のための行動計画
改革の必要性を認識する。
異なった観点を孤立させる。
関心を有する人で戦略を練る。
力野分析 マイナスの要因を省くように動くと改革は成功しやすい

メディカルサポートコーチング
コアスキル 聴くこと、質問すること、伝えること

人はその人の中に答えを持っているのでその人の中に眠っている答えを導き出して自発的行動を促して行くコミュニケーション法

聴くこと
ゼロポジション
ペーシング
頷きとあいづち
オウム返し

質問すること
open ended question

伝える
Iメッセージによる承認

マイゴールの設定。
アクションプランの設定。
ゴールまでの行動をサポート。

2010年3月20日土曜日

臨床研修指導医講習会 2日目

指導医のあり方
”魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えなさい”
指導医は研修医のロールモデルとなることが必要。
必要なときに必要な知識を短時間で入手、活用するテクニックを伝えることの方が重要。

EBMとquality indicator
ジャーナルクラブの手順
研修医自らが抱いた疑問について検索の手順と検索結果を明記し、選んだ文献を批判的に吟味(特にmethod)について。
文献を実際の患者に適応出来るか考える.

quality indicator
EBMをもちいた診療プロセス改善の動機づけ。ベンチマーキング→自分の立ち位置を知る。

臨床研修のための6つの小技
1、主体的な意見を尋ねる ”先生はどう考えるの”
2、考えの根拠を探る ”なぜそう考えたのかな”
3、広く応用可能な原則を教える。 ”ここで大事なことは”
4、正しくできたことを強化する ”特に~は良かったね”
5、間違いを修正する ”今度は~しようね。”
6、次の学習段階を明らかにする ”もっと勉強するとしたら~”

経験学習のサイクル
経験ー省察的ー概念化ー試行

reflective practice
学習の中に意識的に省察をとりいれる学習方法。
SEAなど

研修方略
learning strategy
研修医が各SBOsに到達するために必要な研修方法の種類と順序を具体的に示し必要な資源を選択して準備する。

2010年3月19日金曜日

2010.3.19 臨床研修指導医講習会 1日目

卒然教育の新しい流れ
この10年間で医学部の教育は大きく変わっている。
・コアカリキュラム、問題基盤型学習(PBLチュートリアル)、基本的技能実習(スキルラボ)、共用試験(CBT、OSCE)、クリニカルクラークシップ

医学教育・歯学教育のりかたに関する調査研究者会議報告(2001)
1患者中心の医療を実践できる医療人
2コミュニケーション能力の優れた医療人
3倫理的問題を真摯に受け止め適切に対処出来る人材
4幅広く質の高い臨床能力を身につけた医療人
5問題発見・解決型の人材
6生涯にわたって学ぶ習慣を身につけ根拠に立脚した医療を実践できる医療人

医学知識の量が膨大となってきた。

・学習目標の厳選→コアカリキュラム
・知識を与えるよりも学び方を教える→PBLチュートリアル
・経験を通して問題解決能力・技能・態度を習得→クリニカルクラークシップ

以上から
今後研修医としてくる人の特徴は
1、想起レベルの知識はかなりあるはず。応用力は不十分
2、コミュニケーションに関する基礎教育、医療面接法の基礎教育は受講済み。
3、身体診察技法の基礎は身につけている
4、プレゼンテーションもできるはず。
5、学習姿勢、態度についてのトレーニングは受けていない

研修プログラム
研修目標、研修方略、研修評価の3つ

研修医が目指すより良い状態が研修目標
目標を立てることの意義
モチベーションの維持
指導医、研修医間の情報交換が用意となる
限られた時間の有効利用
評価が容易
多施設との共同評価にも転用可能

一般目標と行動目標
一般目標は研修医を主語としてどういう医療者になって欲しいかと言うことを知識、態度、技能をもちい述べる
行動目標具体的な目標。行動目標がすべて達成できればその総和として一般目標に到達できると言う関係になる。

2010年3月15日月曜日

2010.3.10 JBJS(Am) Long-Term Results of Radial Head Resection Following Isolated Radial Head Fractures in Patients Younger Than Forty Years Old

要旨
背景
過去には骨接合ができないような撓骨頭骨折に対して撓骨頭切除術が行われることが多かったが,最近では人工撓骨頭が用いられるようになってきた。この研究は肘の靭帯損傷を伴わない撓骨頭切除についてその長期成績を明らかにすることである。
方法
40歳以下で撓骨頭骨折に対して撓骨頭切除を行われた患者。最低15年のフォローアップ(平均25年)。Mayo elbow
performance scoreとDASH scoreで評価を行った。
結果
81%の患者で肘の痛みを訴えなかった。3人が僅かな痛みを。二人が中程度の痛みを訴えた。平均可動域は9度から139度であった。ひとりの患者を除いて機能的には保たれていた。回内は84度、回外は85度。19肘で健側と比較して十分は強度がえられていた。Mayo
elbow performance
scoreは95点。92%の患者で十分な成績を獲得出来ていた。DASHスコアは6点であった。3人の患者が手関節の痛みを訴え、二人が僅かな痛みを、ひとりが中程度の痛みを訴えた.4人の患者で身体所見上で肘の不安定性を認めた.carrying
angleは健側に比べ増大していた.OA変化は17関節にわずかにみとめられ9関節に中程度認められた.レントゲン写真上の変化が機能上の問題にはつながっていなようであった.
結論
若年者での撓骨頭切除術は90%以上の患者で良好な成績であった.OA変化は認められるものの、その変化が機能障害につながっていると言うことはなかった.

図1a 術後21年後のレントゲン写真。腕尺関節にわずかに関節裂隙の狭小化をみとめるのみ。
図1b レントゲン写真側面像。手関節部において9mmのulna varianceを認める。この患者では中程度の手関節痛を認めた。
図2a,b 術後29年後のレントゲン写真。異所性骨化と変形性関節症を認めるが肘関節の機能障害はない。
図2c,d 手関節部にもトウ骨の短縮によるOA変化を認めるが手関節の疼痛、機能障害はない

考察
トウ骨頭骨折は肘の脱臼に伴ってしばしば起こり、内側,外側の側副靭帯損傷を伴うこともあり、また前腕の不安定性が生じることもある。過去にはトウ骨頭はほおっておくことが出来るものだと考えられていたが、現在では肘、前腕の安定性に大きく寄与していることがわかっている。前骨間膜靭帯に及ぶような肘の脱臼、トウ骨頭の骨折の時には腕トウ関節を完全に整復するためにトウ骨頭のない固定も必要となってくる。幾人かの研究者は関節の適合性をますということで健常な若い患者ではトウ骨頭切除よりも内固定,人工トウ骨頭挿入術のほうが好ましいと考えている。この研究者達がトウ骨頭切除術が好ましくない理由としては肘の不安定感の出現。近位でのトウ骨の移動。短縮、肘の外反変形を挙げている。また、肘のバイオメカの研究ではトウ骨頭の切除によって、肘の靭帯が正常であっても肘の生体力学に変化が出るため、長期間の経過観察が必要であると結論付けている。
トウ骨頭切除後の治療成績についてはさまざまな報告がなされており、ほとんど機能障害を残さなかったとする報告から、そのように治療した大多数で不良な成績であったとする報告まである。しかしこれらの報告はあらゆる年齢から肘、前腕の不安定性を伴ったものまですべて含まれており、その解析は非常に困難である。今回の結果はトウ骨頭単独骨折で、40歳以下に症例を絞っていることがわかりやすい点で、将来的にトウ骨頭置換術を行った患者との比較が行われるとよいであろう。
われわれの研究では25年間にわたって92%の患者が痛みも機能障害も無くすごすことが出来た。肘関節の可動域は特に伸展でわずかに減少したがとくに機能障害につながることは無かった。他家の報告でもほぼ同様に良好な成績が言われている。
2人の患者で後外側への不安定性が認められた。これは受傷時にはっきりとしなかった靭帯損傷が関与しているとする報告がある。この2人の患者の両者とも伸展、回外時に肘の不快感を訴えた。ほかにもふたり肘の外反の進行を認めたが機能障害は起こさない患者がいる。これはいつの間にか側副靭帯損傷があったのかも知れない。しかしカルテをチェックしても全く愁訴がないので自然に靭帯が伸びてきたりしているのかもしれない。
以前から言われているようにトウ骨頭切除後では関節症性変化が高い割合で起こる。健側では見られないような関節症性変化が腕トウ関節の適合が失われているために起こっていた。しかしながらこれも以前から言われているように肘の関節症性変化と機能障害の程度とは相関しなかった。
この研究では平均3.1mmのトウ骨の短縮を手関節部で認めた。5mm以上の短縮を認めた3例では変形性手関節症となっており、また手関節の疼痛があった。わずかなトウ骨の短縮は臨床的に影響を与えないが、日常生活動作によって前骨間膜の伸張をきたす。5mm以上の短縮をきたした群ではEssex-Lopresti
injuryのように何かしらの損傷が前腕にあった可能性がある。トウ骨を伸展させてみたり、透視下で確認したりといった何かしらの確認が必要であろう。
この研究は長期間追跡したと行くことで価値があるがひょっとしたら途中で脱落した成績不良例がある可能性は否定できない。またすべて一般整形外科医が治療しており、肘の専門家が観たわけでないので肘の軟骨損傷や、靭帯損傷を見逃しているのかもしれない。

<論評>
実は僕の治療した患者さんで同様の患者さんがいます。確かに肘の愁訴も少なく通院を自己中断されました。
手術で内固定がうまくいかなかった時の最悪のオプションとして撓骨頭切除もあるよと言うことは知ってお居てよいのでは無いかと思いました。

2010年3月8日月曜日

2010.3.8 JBJS(Am) The Influence of Femoral Cementing on Perioperative Blood Loss in Total Knee Arthroplasty

要旨
背景
TKAでは出血が問題となることが多い。大腿骨側をセメンティングすることでの出血量の評価を行った。また同時にセメントレスでは出血量が増えるのではないかと言う仮説を立てて研究に臨ん
だ。
方法
130人の患者にPSタイプのコンポーネントを用いて手術を行った。無作為に130人をセメント群とセメントレス群とに分けた。内側アプローチで進入。セメント群は55歳から85歳までの42人の女性と12人の男性。セメントレス群は37人の女性と16人の男性。(55歳から85歳)。術前、術後5日目にHb,とHct値を測定。術後ドレナージからの排液量と輸血の有無について調査した。
結果
2群でHb値とHct値、排液量、輸血の割合に有意な差なし。出血量は1758ml対1759mlであった。
結論
大腿骨側をセメンティングすることは術後の出血量、輸血についてははっきりとした影響はない。

<論評>
セメンティングした方が出血量が少ない気がしていたのですがこれは気のせいだったのでしょうか。
股関節とかでも同じことが言えるのでしょうか。また読み込んでみます。

2010.3.5 JBJS(Am )Mortality in Elderly Patients After Cervical Spine Fractures

要旨
背景
高齢者の頚椎骨折のリスクは増えているにも関わらずその骨折について死亡率の調査がなされたり、適切な治療が何かと言うことが検討されたことは今まで殆どない。この研究は頚椎骨折を受傷した65歳以上の患者の受傷後3ヶ月、12ヶ月の時点での死亡率について検討しその潜在的な要因について調べた。
方法
1991年から2006年までに二つの施設で治療された65歳以上の頚椎骨折の患者。性別、人種、治療方法、神経学的所見、受傷形態、合併症、死亡について後ろ向きに調査した。死亡率について検討し、層別にも解析した。Cox-Hazardにてここの現象について検討した。
結果
640人の患者。平均80歳。294人が男性、116人が白人ではなかった。3ヶ月後の死亡率は19%、1年後の死亡率は28%であった。受傷後3ヶ月の時点では治療による死亡率の差が出たが受傷後1年では差がでなかった。65歳から74歳の群では手術をしたほうが死亡率が低かった。男性であること、麻痺があることが死亡率に関わっていた。
結論
65歳以上75歳未満の頚椎骨折の患者では受傷後3ヶ月の時点での生命予後を改善する。受傷後1年の時点では差がでない。

図1 患者の研究の群分け。
表1 患者背景 歯突起骨折を含めた上位頚椎損傷が30%近くある。手術は15%しかしていない。神経障害があったのは7%
表2 全体の死亡率は19%。高齢の患者ほど死亡率が高い。65歳から74歳の患者層は3ヶ月後の死亡率は19%であったが85歳以上では30%にのぼる。
図2 手術群と非手術群の3ヶ月ごと1年後の死亡率のグラフ。若い年齢層では手術をしたほうが死亡率は低いが85歳以上では手術をしたほうが死亡率が高い。
表3 CoxーHazardモデルによる多変量解析の結果。65歳以上74歳以下の群で手術を行った方がよいという以外の有意な差はない。合併症が多いこと、男性であることが死亡率を高くすることに関わっていた。

考察
高齢者の頚椎骨折の原因には転倒のような低エネルギー外傷と交通事故のような高エネルギー外傷の二つがある。低エネルギー外傷について発生率、罹患率、生命予後について今まで検討されてきたことはなかった。高齢者の低エネルギー外傷による脊椎損傷は若年者の高エネルギー外傷の予後とほぼ同様であるといういくつかの報告がある。気道閉塞、尿路感染、心血管イベント、などで高齢者の機能保持が困難であることによる。type2の歯突起骨折の様なものではっきりと示されている。
高齢者の頚椎骨折の治療方法の違いでの予後を述べた研究もあるが若年者と高齢者を同じように扱っていると言う問題がある。不適切な前提に基づいているにも関わらずこれらの研究では手術治療が適当でないと考えられる患者でも手術治療を行っている。ところが表3に示したように治療方法と死亡率との間に強い関連があるわけでは無い。図2-aの様に年齢で変わっていくところもあるので患者の状態で判断することが望ましいと考えられる。
高齢者では自然死の可能性もあり、予後を測定する際には年齢による調整も必要となる。しかしアメリカの国勢調査の結果と比較したところ39%という死亡率は高いことがわかった。これが骨折のせいなのか合併症のせいかははっきりとわからなかった。
一般的に高齢者の頚椎骨折は合併症予防のため早く手術しなさいといわれていたが、今回の研究でははっきりと示すことはできなかった。多変量解析で30%ほど死亡率を減らしたが、単純に手術をしなさいという推奨には至らなかった。
今回の研究ではっきりと伝えておきたいことは、頚椎骨折は死亡率が高く、また合併症を有する高齢者ではより死亡率が高くなると言うことである。合併症があると3ヶ月後、1年後で死亡率が上昇した。これは骨折以外のイベントで説明される。このことは今までの合併症の数と死亡率が関係ないとした以前の研究に反論するものである。
いくつかの研究の限界がある。骨折型と治療がどのような関係に成っているかが分からないと言うこと。これを調査することで骨折型と治療方法、死亡率との関係について述べることができたであろう。また手術の合併症についての調査が無い。また保存治療がうまくいかなくて手術を行ったという患者についても調査出来ていない。
また無作為に割り付けておらずその死亡の原因についてもはっきりはしていない。
結論として、高齢者における頚椎骨折は高い死亡率を示し、また年齢と合併症に依存する。手術治療が明らかに有用であるとするデータはなかった。

<論評>
思ったほど手術が有用ではなかったと言う結論に。年齢、合併症を鑑みて手術適応を決めましょう。

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2010年3月5日金曜日

2010.3.5 Mortality in Elderly Patients After Cervical Spine Fractures

要旨
背景
高齢者の頚椎骨折のリスクは増えているにも関わらずその骨折について死亡率の調査がなされたり、適切な治療が何かと言うことが検討されたことは今まで殆どない。この研究は頚椎骨折を受傷した65歳以上の患者の受傷後3ヶ月、12ヶ月の時点での死亡率について検討しその潜在的な要因について調べた。
方法
1991年から2006年までに二つの施設で治療された65歳以上の頚椎骨折の患者。性別、人種、治療方法、神経学的所見、受傷形態、合併症、死亡について後ろ向きに調査した。死亡率について検討し、層別にも解析した。Cox-Hazardにてここの現象について検討した。
結果
640人の患者。平均80歳。294人が男性、116人が白人ではなかった。3ヶ月後の死亡率は19%、1年後の死亡率は28%であった。受傷後3ヶ月の時点では治療による死亡率の差が出たが受傷後1年では差がでなかった。65歳から74歳の群では手術をしたほうが死亡率が低かった。男性であること、麻痺があることが死亡率に関わっていた。
結論
65歳以上75歳未満の頚椎骨折の患者では受傷後3ヶ月の時点での生命予後を改善する。受傷後1年の時点では差がでない。

<論評>
もう少し論文の中を読んでから検討してみます。まずは抄録だけ。

2010年3月3日水曜日

2010.3.3 JBJS(Br) C5 palsy after cervical laminoplasty

要旨
1858人の頚椎椎弓形成術の患者の2.3%に二頭筋は含んだり含まなかったりするが他の筋力は正常で、三角筋がMMT0-2レベルのC5麻痺を認めた.
この43例をP群.麻痺のない100例をC群として臨床的特徴、画像上の特徴について比較した.
P群では椎間孔が狭く、また上関節突起が大きいと言うことがわかった.MRIではC4/5部位での脊髄の後方への移動が多いことがわかった.
この論文はC5麻痺とC5神経根との関係性を明らかにした最初の論文である.椎間孔の除圧を前もってやっておくこと、椎弓形成を行うことで過剰な脊髄の後方移動に遠なうtetheringを避けることがC5麻痺を予防するであろう。

<論評>
なんとなくこういう病態でないかな、と言われていたC5麻痺について大きな母集団を用いて検討した文献.
このような内容が日本から発信されていることに誇りに思います.

2010年3月2日火曜日

2010.3.1 Manual Therapy 2007. Advice for the management of low back pain: A systematic review of randmised controlled trials

要旨
腰痛患者に対するアドバイスの効果、その内容と頻度の妥当性、急性期、亜急性期、慢性期におけるアドバイスの方法の比較についてのエビデンスについてまとめてみた。これはアドバイスについてのRCTのsystematic
reviewである。QUOROMガイドラインとCochrane collaboration back review group
guidelineを完全に網羅した。”high”
,"middle"に当てはまるような高いエビデンスレベルのものを抽出し、そのinclusion criteria
が少なくとも50%を超えるようなものを選んだ。効果判定には基礎となる5つのものを選んだ。痛み、就業困難、腰痛特有の機能、健康状態とそのケアにたいする満足度である。56編のRCTが方法論的な質を満たし、うち39編,7347人の患者がその適応基準に一致した。
慢性腰痛について、運動の補助的なアドバイスがもっとも痛みを改善し、腰痛特有の機能を改善し、就業をより容易にした。しかし急性の腰痛では活動性を保ちなさいというアドバイスと変わらない結果であった。亜急性期の腰痛に対しては腰痛学級のような方法でのアプローチがもっとも効果的であった。
急性腰痛に対するトライアルの15%がpositiveな結果であり、亜急性期または慢性期の腰痛は86%、74%であった。
さまざまな結果の測定方法が用いられており、治療同士の比較をすることは困難であった。腰痛に対するアドバイスはその罹患期間ごとでさまざまなものであった。今回のレビューではっきりしたことはこの領域で更なる研究が必要であるということである。
活動性を保つように指導することは急性腰痛に対して重要であるが今回のRCTではそれをはっきりと推奨する根拠にはかけていた。亜急性期の腰痛に対してどのようなアドバイスをどの頻度でかければよいのかということについても結論が出なかった。腰痛学級の一部としてアドバイスが用いられているという前提があったからである。
亜急性期の症状に対して治療が有効であったのは慢性化への伸展に直接影響したからであろう。これらの結果は腰痛の原因に対する教育や考え方の変化がこれらの患者の軍において有効に作用すると言うことが分かる。慢性期の腰痛に対しては活動性を保ちながら適切な運動をするようにすることが必要であると言う強いエビデンスが示された。自己管理が重要である。また腰痛に対するアドバイスの効果についてもさらなる研究が必要である。

考察
この研究は腰痛に対するアドバイスの有効性についてまとめた初めてのsystematic
reviewである。アドバイスの内容、頻度についても言及している。急性腰痛、亜急性期、慢性期の腰痛の3つのグループに分けて考えている。エビデンスレベルが中から高の39編の論文に基づいて検討した。22/39(56%)でアドバイス自体が有効であるとされ、21/22でその有効性がフォロー中も有効であると示された。一方、介入は一定しておらず、とくにその頻度と内容については全く一定していなかった。そこで急性期、亜急性期、慢性期に分けてそのアドバイスの違いについて調べてみた。このレビューはUKの腰痛ガイドラインとほぼエビデンスレベルが同じ程度である。
・アドバイスのタイプ
急性腰痛と慢性の腰痛は全く違うものと認識されているにも関わらずこのレビューで採用したRCTでは運動の補助としてアドバイスが用いられていた。現在のガイドラインでは急性腰痛に対する特別な運動は勧められていない。なんとかやれる範囲の活動を保つようにアドバイスすることが勧められている。このレビューの結果はガイドラインで言われていることを補完するものである。筆者は活動性を保つようにすることが特別な運動に加えてアドバイスを加えることの方が優れていると事を主張するのではない。急性腰痛の管理に関連した参考文献の上にこれらの患者では活動性を保っておけばそれで十分であると言う事をこのレビューでは述べたいのである。なので”The
back book”に記載されているように急性腰痛の患者はいかにして自分の活動性を保ち、またどのような方法でその活動性を保てばよいのか、どうしてそれが重要なのかと言う事を急性腰痛の患者に伝え、むやみに恐れることなくまた慢性化しないにはどうすべきかを知って置く必要がある。
これと比べると亜急性期の腰痛患者に対する腰痛学級の試み(運動とアドバイスを与える方法)はより好ましいものである。すべての研究で前向きな成果が得られた。機能保持と行動学的アプローチも亜急性期、慢性期の腰痛に用いた。全体の86%で有用で、フォローアップ率は100%であった。これらから言えることは亜急性期の腰痛患者に対しては機能保持のアプローチや腰痛学級といった方法が有用であると言うことである。しかしどれくらいの頻度でそのアドバイスを与えればよいかと言うことについては明らかにならなかった。もっと質の高い研究が必要であろう。
動ける範囲で動きなさいという単純なアプローチは慢性期の腰痛患者ではほとんど用いられることはない。運動に関すること、機能保持に関連したことなどなど動ける範囲で動きなさいというアドバイスに付け加えて何かしらのコメントが必要となる。これは長期間にわたって罹患しているために様々な見方が反映していることが考えられる。しかしなぜ慢性の腰痛患者には腰痛学級があまり用いられないのかは明らかでない。これは今回のレビューで腰痛学級の数が少なく除外されていることが考えられる。それゆえに質の高い腰痛学級は機能保持や運動のようなその他の介入と比較しても必要とされている。なのでそのような腰痛学級の標準化されたプログラムが必要とされる。
・腰痛のアドバイスの頻度
亜急性期の腰痛患者においてはフォローアップのおバイスはそれほど効果のあるものでっはなかった。これに対して慢性の腰痛患者ではフォローアップでリフレッシュするようなプログラムを組むと好ましい結果が得られることがわかった。しかしこの結果はひとつのRCTから得られたものであった。もし慢性の腰痛患者で長期にわたるアドバイスが良い結果につながっているとしたらそれを補完する研究が必要である。
・アウトカムの測定
活動性がどの程度保たれているか、社会活動への参加状況はどうかと言ったことがアウトカムとして測定されている。この場合腰痛患者の状態が少し改善してもそのimpairmentの程度には反映しない。身体の代替性は健康状態を反映しているとは言い難い。実情にあったアウトカム測定方法が望まれる
・このレビューの限界
公表されているバイアスが掛かっている。公表されているものは好ましい結果を得たものが多いのでそのために前向きな結果が出ているあ農政がある。またその研究のサイズをあまり検証しないようなカウント方法を用いたと言う問題もある。家庭医によって普段から腰痛についてのアドバイスを受けている群は普通に内科の診察だけを受けている群よりも上手に腰痛に対応ができる。これは家庭医によるアドバイスがより臨床的に重要な役割を果たしていると言うことを示しているのかもしれない。

結論
慢性腰痛患者ではアドバイス有効であった。どのようなアドバイスがよいのか、どれくらいの頻度でアドバイスをかければよいかと言う事については特定することは難しかった。
急性腰痛の患者に対しては活動性を維持するように伝えるだけで十分であった。慢性の腰痛患者では運動にアドバイスをつけ加えると言う方法が有効であるという強いエビデンスが得られた。そのアドバイスは自己管理に関するアドバイスが有効であり、ただ単に活動性を保ちなさいと言うアドバイスだけでは不十分であることがわかった。亜急性期の腰痛患者についてはより質の高い研究が必要であり、腰痛学級の指導内容の標準化が必要であると考えられた。慢性腰痛患者でのそのアウトカムの質を評価するためのツールが必要であることもわかった。

《論評》
結論に述べられていることがすべてです。

2010年2月27日土曜日

2010.01.13 The Dorsiflexion-Eversion Test for Dianosis of Tarsal Tunnel Syndrome

Background:

足根管症候群の臨床診断は客観性と普遍性に欠けている。われわれは内果の後方、屈筋支帯の真下を走る脛骨神経を圧迫する診察手技を考案した。このテストでは、足関節を受動的に最大回外・背屈にし、MTP関節を全て最大背屈した状態を5-10秒保持する。

Methods:

我々はこのテストを50名100足の健常ボランティアと1987年から1997年の間に足根管症候群の手術治療を受けた37名54足に対して行った。手術前後でこの操作を行い、徴候や症状の変化を記録した。術中、この操作により足根管内での解剖学的状態がどうなっているか観察した。平均フォローアップ期間は3年11ヶ月であった。

Results:

術前、この手技により足根管症候群の徴候や症状が強くなったり、引き起こされたのは、感覚異常の20足中15足、痛みのみの訴えの17足中15足、感覚異常と痛みがともにあった7足中6足であった。局所の圧痛は43例中42例で増強し、症状のなかった1足で出現した。Tinel signは51足でよりはっきりし、症状のなかった3足で誘発された。術中、足関節を背屈、踵を回外、つま先を背屈すると靭帯の真下で脛骨神経がstretchされ、圧迫された。術前の徴候や症状は術後平均2.9ヶ月で消失し、3名を除いて同様の手技を行っても誘発されなかった。3名はいずれも踵骨骨折後の足根管症候群の患者であった。健常ボランティアではこの手技で一人も徴候や症状を呈さなかった。

Conclusions:

この新しい手技は足根管症候群の診断を容易にする。
Fig. 1

足関節は最大回外・背屈、MTPは全て最大背屈

Fig. 2

術中にこの手技を行ったところ。*は脛骨神経、矢印が長母趾屈筋腱

Fig. 2-A

靭帯の切除前、足関節背屈、足部回外、つま先背屈で長母趾屈筋腱がさらにtunnel内に侵入し、脛骨神経がstretchされ、靭帯による圧迫を受けている。

Fig. 2-B

靭帯のrelease後、脛骨神経は同様の操作を行ってももう圧迫されない。

Discussion

足根管症候群の診断は最初は病歴と身体所見でつける。信頼性の高い誘発試験は診断の正確性を向上する。

 ターニケットテストが報告されているが、その正確さと特異度は知られていない。この症候群では脛骨神経に圧迫を加えるか緊張を加えて症状を誘発させることで所見をとる。Linscheidらは内果の遠位に60秒圧迫を加えるテストを考案したところ、34例27例で症状が増強された。ほかにも特定の肢位をとらせるテストが行われ、SLRを行いながら足部を背屈、踵を外反したり、足部を回内で保持したりするものがあった。しかし、これらのテストは、Lamの回内テストを除くと、信頼性についての詳細は詳しく報告されていない。Lamのテストも10名中2名が症状を再現したのみであった。

 今回の手技では54足中8足で症状は変わらなかった。Linscheidらの報告とこれは同等である。しかしLinscheidらのそれより手技の時間はかからない。

 健常ボランティアで徴候や症状が一人も出なかったのは注目すべきである。この手技はほかの方法より特異度が高い。

 われわれの死体を用いた研究では、脛骨神経の緊張は回外、背屈、その組み合わせで有意に増加した。

 この手技は患者にとっても苦痛なく、施行者にとっても容易である。特に臨床医が迷ったとき、足根管症候群の診断の感度を上げるのに有用である。

2010年2月25日木曜日

2010.2.25 第25回東海小児整形外科懇話会

教育研修講演

小児整形外科外来診療で知っておきたい小児脊椎疾患とその対応

国立病院機構 神戸医療センター 整形外科 部長 宇野耕吉先生
<斜頚について>

・骨性斜頚に注意

 筋性だと放置していて訴訟になったケースも・・。「7歳で筋性斜頚」などはありえない。後頭・C1・C2の異常によるものが多い。構築性+機能性。

・骨関節性斜頚

<AARF>

 Cock robin position

 最近慶応よりCTのフォローで外傷が契機となっている可能性があると報告されたが(以前よりも言われているが)、実際に外傷が契機となったケースは少ない。

 開口位は痛がって実際に撮るのは難しい。まずは3D-CTを撮影するとともにGlisson牽引を2週間。だめならHalo。ただしHaloを付けるために全身麻酔をかけるとその時点で整復されていることが多い。ほとんどがⅠ型・Ⅱ型。Ⅲ型はまれ、Ⅳ型を見ることはまずない。

 非典型的な例では精査のためMRIが必要となることも。実際にAARFが疑われ、自然整復後のようなCT画像を示した症例で、臨床所見にて前後屈で痛みが生じ、回旋が可能な症例があった。MRIで髄内腫瘍(Glioma)を認めた。

<環軸椎不安定症>

・リウマチ・外傷・骨系統疾患・ダウン症・続発症・その他

 見落としが非常に多い!!

 ADI・SAC(PADI)、機能写を必ずチェック!

 ADI5mm以上あれば小児脊椎外科医へ

 成熟に達するまでは年2,3回のフォローが必要。

 小児脊椎をライフワークとする覚悟がなければ、見ない方がよい

 外傷をきっかけに四肢麻痺・呼吸停止に至りやすい!!安易にダウン症の子の親に「マット運動はしない方が良い」「転ばないように注意して」と指導するのはいけない。ダウン症の子が守れるかといえば難しい上、万が一麻痺や呼吸停止に陥ったときの親の心理的負担は計り知れない。

 骨系統疾患、ダウン症の子は必ず頚椎レントゲンを!!

<脊柱変形>

・美容上だけの問題である。

・50度以上が手術適応であり、40度までは手術不要であり待機

・骨格の成長が止まれば進行しない

・車椅子の患者は適応とならない

・腰椎レベルの曲がりは放置で良い

・・・・・・は誤りである。

 長期成績において、先天性側弯の高度側弯例では40歳以上で有意に死亡率が上昇する。ただし思春期特発性側弯の場合はこの限りではない。

 先天性側弯の場合、呼吸停止に至る場合もある。特に神経・筋疾患によるものは(筋ジストロフィーなど)、注意が必要であり、手術でADL、QOL、生命予後の改善が図れる。実際の症例では、高度側弯のあった先天性ミエリン低形成性ニューロパチー(?)の患者では16歳で呼吸困難。一旦改善するが、半年後に呼吸困難、四肢脱力を発症し、呼吸停止に・・・。矯正にて呼吸症状は改善。同様の呼吸苦を主訴として来院する症例は比較的多い。

 軽度側弯の場合は正確なX線が撮れていないことが多い。

・全脊柱撮影、半切フィルム

・両上下肢下垂位、AP、立位

・両肩の位置、骨盤傾斜に注意

・撮れた写真で正中仙骨線を確認

・・・・・・以上を必ず確認。

 側弯だと思ってよく正中仙骨線をみるとレントゲンがおかしい・・。実は筋性斜頸の遺残であったことも。

 Risser sign 0or5で判りづらいことが多い。0は腸骨稜がつるんとしているが、5はカクカクしている。10歳以下で5はありえない。

 Cobb角20°以上は脊椎外科医へ。

 手術法は後方が現在は殆ど。

 先天性は早く手術。まだ40°だから・・・と待っていては取り返しの付かないことに。10歳未満の脊柱変形は対応を誤ると致命的なことになりうる。

 成人でも40代なら矯正可能。呼吸器症状などADLの改善を図れる。50歳以上は骨粗鬆症のため矯正が難しい。

 新しい治療法では、10歳以下の症例に対し、Growing Rodの使用。VEPTER:側弯だけ治しても胸郭を開いてあげなくてはいけない。名城病院川上医師が日本へ導入するため尽力。ただし、これらは半年に1回伸ばすためのの手術が必要。それにかわるShilla operationも報告されている。

 脊髄空洞症とArnold-Chiariの合併はいつ手術?
演題より

・ボストンブレース

 採型不要、採寸のみで可。採寸部位は胸部、ウエスト、hip、ASIS間距離。半完成型。Th10以下は胸腰椎ブレース、Th6以下は胸椎ブレース。胸椎カーブ、腰椎カーブ、double

2010年2月19日金曜日

2010.2.18 AOtrauma Advanced course2日目まとめ

AO trauma advanced course 2nd day

・LCP concept
ラグススクリューのデザインには関係なし。
引きぬき強度はスクリューの外径に依存。bendingについては新しいスクリューデザインの方が強い。
山の大きさは引きぬき強度,bendingの強度に依存せず。
monocortical locking headはbicortical で固定したstandard screwの60-70%の強度。
プレートの長さは長いほど強度がある。
elstic fixationとrigid fixationを混同してはいけない。
ロッキングスクリューで固定した後にconventional screwを使ってはいけない。

・骨盤輪骨折
他の骨折よりも神経損傷、膀胱・尿道損傷のチェックなどの別の見方でのチェックが必要。
分類はAO-OTA分類もしくはYoungーBurgess分類を用いる。
骨盤輪は強固な靭帯でその強度を保っている。骨盤輪骨折ではその靭帯の損傷まで考え、不安定性の評価を行う。
安定型は保存的治療、部分不安定型は創外固定,完全不安定型はORIF.頭側への転位を防ぐ。

・脊椎損傷
Xpで感度、特異度は80-90%。どうしても10-20%の脊椎損傷は見逃してしまう。
XpにCTを同時に施行すると感度は100%となる。
discoligermental instability は動態撮影をおこなうことで92%の感度、特異度。
神経学的欠損は緊急性があるのか?
→早期除圧固定にてもあきらかな神経学的な改善なし。その他肺炎などの長期臥床にともなう合併症を予防すると言う目的でなら24時間以内の緊急手術は有用。
他に早期手術の適応はbifacet dislocationなど
軸椎骨折 Anderson分類。Anderson1:前方スクリュー固定。Anderson2:Margel法
Hangman fracture Effendi分類。3.5ミリ以上のずれ、C2/3での11度以上の局所前弯は手術適応
圧迫骨折は疼痛が取れるまで安静。立位1-2週間後にレントゲン撮影。安定性が保たれていなければ手術適応。
胸椎損傷で重症な肺外傷を伴った場合にも早期手術固定が有用か。
脊椎外科医でなくても診断、受傷時以上のさらなる損傷を妨げること、保存療法はできるようにしておく。
NASCISはおすすめできない。

・多発外傷
clinical treatment phase
phase1 救命段階
phase2 早期固定 GCS>8,AIS<4の胸部外傷なら早期髄内釘も許容。
Phase3 全身状態に応じて必要な手術を行う。乳酸値などを参照に
Phase4 顔面骨折,上肢の骨折,関節の再建を行う。
免疫状態の異常亢進が受傷後2-4日。windouw oppotunity が5-10日。phase3は受傷後7-10日目位が目安となるか。

・大腿骨骨折
soft tissue coverageができていれば閉鎖骨折として扱ってよい。
nailの最小径9ミリ。10ミリまでのリーミングを必要とする。髄空がこれより狭い場合にはMIPOによるプレート固定を考慮。
このとき整復位の確保が困難なことがあるが、6ミリのハンドリーマーなどを用いる。

・脛骨骨折
近位骨折,遠位骨折にも適応が広がっているがその際には様々な注意が必要。
例えば園医であれば遠位の最近位のスクリューホールが22ミリの高さにあるのでそこに骨折先があると固定不能。
脛腓骨骨折の際には腓骨の固定も同時に行った方が成績が良い。
遠位骨折でプレートとネイルの比較。ネイルは創の問題が少ないが変形しやすい。プレートは変形が少ないが疼痛が多い。
遠位は手術失敗すると再建が難しいのでよく考えること。
ネイルは最低関節の中央に入れることを心がける。ブロッキングピン,スクリューの使用で成績がよくなる。
近位骨折では前方凸変形が残りやすい。ブロッキングピンの使用,プレートの併用によって問題が解決できる。
腓骨の骨折を伴わない場合には20%で癒合遅延がおこる。必ずネイルでコンプレッションをかけて置く必要がある。

・上腕骨骨折
全体の3%、開放骨折は10%
プレート設置した際にはプレートのどこにとう骨神経があるか記載しておくこと
上腕骨の創外固定は仮固定にしかならないのでdefinitive treatmentを常に考える必要あり。

・前腕骨骨折
6つの関節で成り立っていると考える。
撓骨の近位の骨折では回外筋にて転位が進行する。
撓骨、尺骨骨折では整復が用意である方から手術し、長さを保つようにする。
3本以上のスクリュー固定、より長いプレートが好ましい。
1/3円プレート、reconstructionプレートは強度が足りないので使用してはならない。
LCP-DCPによる固定を行うこと。
尺骨、撓骨とも生理的な湾曲に注意を払う。
コンパートメント症候群が起こった場合には手根管の開放も同時に行っておく。三角筋の展開も同時に行っておく。

・PHILOSによる固定
coracoid processの一横指外側から上腕二頭筋外側に皮切を置く。やや外側の方が手術は行い易い
整復のポイントは外後方にある小結節のある骨片を以下に整復するか。単鈍こうで引っ張ってくるのも一つであるが骨粗鬆症が強い場合には腱板にかけた糸で整復操作を行う。
プレートの当たる位置を意識して固定。
inferomedelial screwが内反防止に有用であるためそこの固定はできるだけ行う。
三角筋は近位で外すと再建困難となる。視野を広げたいときには遠位付着部で骨膜から剥がす。

・上腕骨遠位端骨折
外側プレートは最遠位から3ミリは近位に置く。
やはり少し使いにくい印象。

2010.2.18 AOtrauma Advanced course1日目まとめ

骨折の治療は、もともとギプス固定。
神中先生は生物学的固定biological fixationを1930年代に提唱していた。
relative fixation と absolute fixation.
それぞれの特徴について知っていることが必要。
absolute fixation. 仮骨形成なし。関節面の絶対的整復に敵する。
reative fixation 仮骨ができる。骨幹部などの固定。軟部の愛護的処理が必要

tension band & wiring :20-80%で何かしらの合併症が生じる。注意が必要。

骨折治療の4原則
・stability
・reduction
・soft tissue handling
・surgical technique

・stability
Absolute fixation
多骨片骨折の時は禁忌
relative fixation
Gap strain theory 5%以上30%以下のひずみが必要。(ここは質問で聞いておくところ)

・reduction
側方転位,軸転位、回旋転位 長さ、軸、回旋の整復が必要。
徒手整復は骨折の逆のプロセスで。
間接的整復と直接的整復
間接的整復は原則的に骨幹部に。直接的整復は関節面に用いる。
Hohmanこうはてこの原理で用いると非常に強力な整復ツール。ただし皮切が大きくなりすぎるのでそれを嫌う場合にはスタイマンピンを用いる。
push pull technique,cable techniqueという方法もある。

おすすめ本として
・Planning and Reduction Technique in Fracture Surgery
・The Rationale of Operative Fracture Care
がある。ともに3万円程度で少し考えてしまう。笑。

上腕骨近位端骨折
上腕骨近位端骨折は固定が難しい。
cut out、内反転位などの合併症が高い確率で起こる。
それを解決するひとつの方法としてのPHILOSなどのロッキングプレートである。
プレートのideal position.側面位で小結節がみえるようにしてgrooveの後方にプレートが当たっているようなイメージ。
大結節頂部より5ミリ下にプレートをおけばインピンジメントしない。

鎖骨骨折
今までまず保存療法と言われていたが、手術療法をおススメする。
特に健側と比較して10ミリ程度の短縮がある場合には様々な愁訴の原因となるためこのような場合には手術が好ましいと。
保存療法の適応は全くずれのない骨折だけというのはすこし言い過ぎな気もする。笑。

上腕骨遠位端骨折
ヒンジ付きの創外固定は有用。
異所性骨化は屈側にできることが多い。リハビリは伸展を無理に他動的に行わないように注意。
関節面の骨欠損に対しては腸骨からの骨移植にて対応。
上腕骨小頭骨折は原則関節軟骨のない後方からのスクリュー固定。
ハーバートスクリューなどなら前方からの固定も可。

肘の脱臼
安定性のチェックが必須。
手術が遅くなると拘縮のリスクが高くなる。
鉤状突起が安定性に寄与。鉤状突起の固定にはいろいろなアプローチがあるが上腕骨内上顆のosteotomyがひとつの方法として考えられる。
<参照>
Standard Surgical Protocol to Treat Elbow Dislocations with Radial
Head and Coronoid Fractures
J. Bone Joint Surg. Am., Jun 2004; 86: 1122 - 1130.

撓骨遠位端骨折
掌側ロッキングプレート全盛。
解剖学的整復とギプス固定期間の長短は臨床成績に影響しない。
高齢者の場合には-25度、5ミリの短縮は許容されることが多い。
C2までは掌側ロッキングプレートでいけるが、C3は別の考え方が必要。
C3の時にはfragment spcific theoryにしたがって固定すると言う考え方もある。

脛骨高原骨折
受傷時が高エネルギー外傷か、低エネルギー外傷かで全く治療方針、気をつけなければいけないところが変わってくることを頭に
斜位像が診断では有用。
手術適応2ミリの転位。早期の整復が大事なので高エネルギー外傷でも関節面だけでも戻しておきたい。
皮切は2皮切。(前外側,後内側)内側は後方が落ちていることが多い。
TypeCの両顆骨折は内側から整復した方がやりやすい。骨折も単純なので。

足関節天蓋骨折
アプローチ方法をよく考える
fracture windowの考え方。
前内側は皮膚トラブルが起こりやすい
伸筋支帯はまっすぐきらずにゼットに切って再建できるようにしておく。
関節面は距骨を基準にして整復すると良い。

大腿骨転子部骨折
粗鬆骨が問題。粗鬆骨の2パート骨折の合併症発生率は健常骨の4パート骨折に匹敵。
内後方の安定性が整復の際、重要。
ParkerのCochran reviewを参考に

http://minds.jcqhc.or.jp/stc/0016/1/0016_G0000042_0082.html

TAD25mm,CCDは130度以下が好ましい。

大腿骨遠位端骨折
38%にcoronal plane fractureを合併しているので慎重なCTの読影が必要。
膝への多種類のアプローチに精通しておく必要がある。

The Association Between Supracondylar-Intercondylar Distal Femoral
Fractures and Coronal Plane Fractures
J. Bone Joint Surg. Am., Mar 2005; 87: 564 - 569.

http://www.aofoundation.org/wps/portal/!ut/p/c1/04_SB8K8xLLM9MSSzPy8xBz9CP0os3hng7BARydDRwML1yBXAyMvYz8zEwNPQwN3A6B8JJK8gUWAm4GRk6m_oUlwgBFIHr9uP4_83FT9gtyIcgCExWfz/dl2/d1/L2dJQSEvUUt3QS9ZQnB3LzZfQzBWUUFCMUEwOEVSRTAySjNONjQwSTEwRzA!/?redfix_url=&implantstype=&segment=Distal&bone=Femur&classification=&approach=&showPage=approach&treatment=&method=

2010年2月15日月曜日

2010.2.15 JBJS(Am) Spinal Anesthesia Mediates Improved Early Function and Pain Relief Following Surgical Repair of Ankle Fractures

要旨
背景
足関節手術の患者で,手術の麻酔を全身麻酔にしたほうがよいか脊椎麻酔にしたほうがよいかということについて調べた報告は今までない.今回の研究は麻酔の種類で術後の機能に差が出るかどうかを調査することである.
方法
2000年から2006年までに足関節の骨折に対して手術を受けた501人を前向きに調査.全身麻酔群と脊椎麻酔群との2群に分けて調査した.術後3ヶ月,6ヶ月,12ヶ月で信頼性,再現性が高くまた下肢疾患に特異的な検査方法を用いて評価。標準的また多変量解析を行った.
結果
466人(93%)の患者が術後の基準を満たしていた.患者背景を比較すると脊椎麻酔群のほうが患者の年齢が高く,ASAも悪く,また糖尿病罹患率も高かった.男女比に差は無かった.術後3ヶ月の時点で脊椎麻酔群のほうが痛みが少なく,またAAOSの足部疾患スコア(AOFAS)も有意に高かった.6ヶ月の時点では痛みは脊椎麻酔群のほうが少なかったがAOFASの点数は差が無かった.術後1年の時点では両群に差は無かった.術後合併症の頻度も差が無かった.
結論
足関節骨折は脊椎麻酔で手術をしたほうが疼痛も少なく,術後早期の機能回復の程度は早い.特に差支えが無ければ足関節骨折の手術には脊椎麻酔を用いたほうがよい。

表1 患者背景 平均年齢,ASA3,4の高リスク患者,糖尿病患者は脊椎麻酔群に多い.
表2 手術についての比較 全身麻酔群では開放骨折が多く,またターニケットの使用時間が長い傾向にある.骨折型には両群に差はない。
表3 術後経過 術後3ヶ月では疼痛、機能とも脊椎麻酔群のほうが良好な成績。術後6ヶ月では脊椎麻酔群でより疼痛が少ない。術後1年の時点では機能,疼痛とも両群に差がない。
表4 年齢,ASA, 糖尿病罹患率を補正して両群を比較した.また開放骨折とターニケットの使用についてもロジスティック回帰分析を行ったが有意な差は得られなかった。

考察
われわれの研究から言えることは術後早期については脊椎麻酔のほうが少ない疼痛でより機能の回復が得られるということである。それは数字の面からも明らかである。これらは重要な発見ではあるがどれくらい臨床に寄与するかははっきりしない。AOFASが100点満点のスコアリングシステムである.3点の違いがスコアリングシステムの中のどこかのグループであればその違いは機能の向上に何かしらの役に立ち、患者さんの役に立っているのかもしれない。
また脊椎麻酔群のほうが痛みも少なかった。痛みの徴候、解釈は大変主観的で患者によって大きく違う。そのため今回の痛みの数値が統計的に有意であるとすることが出来るかどうかは難しいところである.しかしながら痛みのコントロールというのは患者に対して重要であるということはよく言われている。
脊椎麻酔群のほうが高齢でASAが高い患者が多かった。そのため脊椎麻酔群のほうが低い機能でも日常生活で求められる動作レベルが少ないためにより満足しているのではないかと考えられるかもしれない。しかし,われわれは今回AOFASだけでなく同時にSF-36,SMFAも実施している。この両者で両群に差が無かったので患者のもともとの日常生活レベルは同等であると推測される.
脊椎麻酔のほうが全身麻酔よりも有用である.とする報告は股関節骨折や,人工関節置換術の分野での報告がある。Urwinは大腿骨頚部骨折で調査したところによると術後1ヶ月の死亡率と深部静脈血栓症の発症について脊椎麻酔のほうが有利であることがわかった。それどころかMIの発症,せん妄の発症,術後の低酸素血症についても全身麻酔のほうが起こりやすいことがわかった。足関節骨折はなかなか死亡するような症例がでず、これがそのまま当てはまるわけではないので死亡率については比較を行っていない。
脊椎麻酔が術後の疼痛管理に有用であるとする報告がある。Chuらの報告で60例のTKA患者について調査したところ脊椎麻酔の患者のほうが術後の疼痛は少なく,また歩行能力,退院までの日数が短縮したとある。われわれの報告はこれの報告に瓜二つであった。足関節骨折術後なので免荷歩行となっているためその歩行能力を調べることは出来ない。しかし痛みが少ないために早期の機能回復訓練が可能となり早期復帰が可能となっている可能性はある。
いくつかの研究で術後1年での足関節の機能回復の程度が示されている。232人の患者を調べた研究では88%が全く術前の状態に戻ったとする報告がある.この報告では若い男性,糖尿病が無く,ASAが低いということがより良好な結果となるための予測因子であるとしている.このような研究があるにもかかわらず私達の研究ではよりよい成績であったのは高齢でASAが高くそれに加えて糖尿病に罹患している人が多い群であった。別の研究では足関節の術後早期関節可動域訓練とギプス固定群とを比較し、術1年後では両者に差が無かったとする報告をしている人が居る。われわれの研究では術後早期の痛みが取れることで早期からリハビリなどに参加できるようになるということを強調したい。
いくつかの研究上の制限がある。一つ目はこの研究の開始が患者が受傷した後から参加を要請していることである。受傷後に受傷前の状態を尋ねるとrecall
biasがかかることがある。しかしどの患者が足関節骨折を起こすかなんていうことを受傷前に知っておくことは出来ない。脊椎麻酔と全身麻酔を無作為に割り付けていないことも問題となる。そのため全身麻酔の患者が脊椎麻酔の2倍にもなった。この中で糖尿病の患者が脊椎麻酔群に多く居たため、糖尿病性神経障害で疼痛を感じないため疼痛のスコアがよくなった可能性はある。しかしASA、年齢、糖尿病罹患率で補正し、検定したが今回の研究の結果に変わりは出なかったためその影響は無視してよいものと考えられる。ターニケットによる影響もあるがターニケットを多く用いた脊椎麻酔群のほうが術後成績は良好であった。重症患者が全身麻酔に多い可能性もあるが骨折型は両群で差が無く、ロジスティック解析でも有意な差は無かった。以上のような経緯で術後3ヶ月の時点でその疼痛と術後成績に影響を及ぼす因子は無いものと考えられる。
ではどうして脊椎麻酔の患者は全身麻酔の患者よりも疼痛が少ない時期が長く続くのであろうか。われわれの仮定によれば外傷によってCRPSの急性期のような病態がおこるのであるが、脊椎麻酔でその疼痛のサイクルをブロックしてあげることで痛みの程度が減るのではないだろうか。
結論として足関節骨折の手術の麻酔は脊椎麻酔で行ったほうがよい。今後はこれに追加で選択的神経ブロックを追加してその疼痛の程度、機能回復の程度について評価できると興味深いものとなろう。

<論評>
足関節骨折の昨日に影響する原因は様々と言われていて、麻酔がそのひとつではないかと調べた研究。麻酔についての考察は殆どなく学会発表で突っ込まれたところや査読で突っ込まれたところを補強してと行った感じで建て増したビルのような印象を受ける論文。
不要な全身麻酔を行わないように、位のことしか言えないでしょう。

2010年2月8日月曜日

2010.2.8 JBJS(Am) Iron Supplementation for Anemia After Hip Fracture Surgery: A Randomized Trial of 300 Patients

要旨
背景
術後の貧血は鉄剤を用いて治療されることが多い。しかしそのエビデンスにはっきりとしたものはない。鉄剤投与が有用かどうか判定するために前向きの無作為割付試験を行ってみた。
方法
300人の大腿骨頚部骨折術後の患者でHbが11g/dl以下の患者に対して無作為に鉄剤を投与するかしないかを決めて行ってみた。6週間後にHb値をチェックし,在院期間,死亡率について検討してみた。
結果
鉄剤投与群は2.1g/dl、非投与群は1.8g/dlそれぞれHb値が上昇した。入院期間と死亡率については有意差を認めなかった。鉄剤投与群の17%で何かしらの有害事象が報告された。
結論
鉄剤投与は頚部骨折術後の貧血に対して有用な方法とはいえない。

表1 適用基準と除外基準。最初から11g/dlの人は除いてある。
表2 患者背景
図1 フローチャート
表3 結果 鉄剤投与のほうがHbは上昇する傾向にある。合併症は鉄剤投与群にのみ起きた。

考察
この研究の前に行われた研究ではHbが5g/dl違わなければ臨床的な意味がないとされていた。今回の研究では鉄剤投与群と非投与群との差はあっても3g/dlであり、また副作用が17%に生じたことから鉄剤の投与に臨床的な意味は無いものと考えた。
鉄剤の投与についてガイドラインでも教科書でもその必要性には言及していない。輸血については最新の知見では8g/dlでの投与によって貧血を補正するようにとなっている。これについてのほかの研究は1篇のみで、その研究でも有意な差はないとされている。THA,
TKAで同様に鉄剤投与したとする報告でもいずれも差がないというようにされている。母集団が大きいことが本研究の強みである。
この研究ではプラセボを使わなかったと指摘される。しかしプラセボを使っても便が黒くなっていることで自分がどちらかになっているかはわかることであるので盲検化することは不可能である。パラメーターもHb値、入院期間、死亡率といった数字なのでとくに盲検化しなくても左右されることはない。
このほかには鉄剤を使っていることで病院への受診を頻繁に希望する人が現れた。
鉄剤で何かしらの副作用が現れる割合は普通20%といわれているが、今回17%であったのは鉄剤の前向きな効能を述べていたせいであろう。
鉄剤治療に要したのは14ユーロであった。これから考えても鉄剤による治療を行う必要がない。
結論として鉄剤による治療はあまり有効とはいえなかった。

《論評》
わかりやすくてイイです。むかし一緒に働いていた先生でひたすらフェロミアで治療していた先生がいたことを思い出しました。こういうちょっとしたところのエビデンスを作っていくと実際の臨床で助かるのに、と思いました。

2010年2月5日金曜日

2010.2.5 JBJS(Am) Biomechanics of knee ligament

1993年の時点での膝の靭帯についての研究のまとめ

膝には4つの靭帯がある。ACL,PCL,MCL,LCL。
形態学的に分けられており,また関節の中にあるかどうかでも分けられる。
LCLを除いたそれぞれの靭帯は細かくその成分が分けることが出来る。ACLは前方内側成分と後方外側成分に。PCLは前外側成分と後方内側成分とに分けられる。このように成分に分けることには意味があって、たとえば前十字靭帯,後十字靭帯共に伸展時に後方が緊張し、屈曲時には前方が緊張する。(図1)
内側側副靭帯は表面成分と深部成分に分けられ、それぞれが前方成分と後方成分とに分けられる。表面成分の前方部分は屈曲70-105度でもっとも緊張するようになっている。

ACLの平均の長さは31-38mm,幅11mm.PCLは38mm,幅13mmが平均である。ACLとPCLが交差するポイントはACLが遠位でPCLが近位であることがわかっているが臨床上これがどうしてなのかは不明である。(図2)

コラーゲン線維の太さも靭帯によって異なっており、MCLはACLの三倍太いため自然治癒能力が高い。

バイオメカニクス
ACLは前方への脛骨の移動を抑制し、PCLは後方への移動を抑制している。
MCLの表層成分は外反を防止し、LCLは内反防止に働いている。MCLとLCLは膝を包み込むような形状になっているのでこれによって内旋,外旋を制御している。

靭帯の強度
ACLとMCLの引っ張り力‐変形曲線を示す。これが上にあればあるほど変形やかかった力に耐えられるということである。MCLはACLの約2倍その耐える力が大きい。

靭帯は粘弾性を有する。図4のように力が加わってもそれを少しずつ変形し受けていくような形に靭帯は変化してゆく。

運動学
運動学は膝の形と機能を理解する上で重要である。膝靭帯の再建の目的は膝の柔軟性と運動力学と安定性を回復させることである。なのでどの靭帯が正常ではどのように働いているかを理解し,また同時に損傷している場合にはどうなるかを知る必要がある。
膝の運動は6つの方向で表現される。
移動が3つ:前方ー後方,内側ー外側,頭側ー尾側.
回旋が3つ:内反ー外反、屈曲ー伸展、内旋ー外旋
それぞれの運動は組み合わさって起こっており、前後方の回旋には内側への回旋が加わり、屈曲伸展の回旋には概則への回旋が加わる。
靭帯はほかの組織ともあいまって静的な安定性にも寄与している。
十字靭帯がクロスするようにあることでACLは回旋運動の中心となっていることがわかる。
図6では回旋運動とすべり運動の組み合わせについて述べている。回旋運動だけでは大腿骨が膝関節から脱臼してしまうが、すべりを伴うことで屈曲時の大腿骨の脱臼を抑えている。
前方への移動

前十字靭帯が脛骨の前方移動を制御している。完全伸展時には70%,30度屈曲、90度屈曲時には85%の力が前十字靭帯にかかる。つまり前十字靭帯の後方成分は完全伸展した時以外には力はかからない。
100Nの力を加えてみると完全伸展位の時には2-5mmしか前方移動しないが、30度屈曲位の時には5-8mmほど移動する。ここからは屈曲を強めれば強めるほど前方への移動量は減少する。ACLが部分ごとによって働く場所が違うので深屈曲していくことができる。
20-30度屈曲位で100Nの力で前方へ引き出すと7-9mm動く。ACL損傷にともなったMCLの完全断裂の際には前方への移動が起こるがMCLの部分的な問題では前方への移動は起こらない。同様に腸脛靭帯,LCL,後外側構造体,関節包などの損傷もACL損傷と合併すると前方への不安定性をます。PCL損傷は前方への移動量には関係がない。
気をつけなければいけないのは正常な膝の動きでは膝が屈曲するときには外反,内旋を伴いながら脛骨も前方に移動してゆく。ACLの損傷に伴ない30%前後方への移動が制限されると回旋も大きく減少する。つまりACLは前方への脛骨の動きを制限するだけでなく前後方の動きに伴う内旋,外旋の最初のきっかけである。

後方への移動
後十字靭帯が85%-100%の脛骨が後方へ移動するのを制限している。LCLと後外側構造体がこれを補助している。MCLはほとんど後方への支えにはなっていない。普通だと100Nで4-5mmの脛骨の移動が後十字靭帯が損傷すると15-20mmの移動が起こるようになる。(90度屈曲位の場合)。また同様に外旋が減少する。LCL、後外側構造体が切断するとむしろ外旋は増加する。これは30度で外旋が最大となり屈曲に伴って減少していくことに関わっている。ACLは後方への不安定性には関係がない。
脛骨の回旋は二次性に関節包などが固くなることで前後方への移動を減少させ得る。内旋することで前後方の不安定性が減少する。腸脛靭帯と外側の組織,内外側側副靭帯が固くなることでこの丈夫さを生み出している。外旋の時は内外側側副靭帯が固くなる。

内反
外側側副靭帯は内反を抑えている。完全伸展位で掛かる力の55%を負っている。また外側側副靭帯は内旋を制限するようにも働いている。そうすることで後外側構造体にかかる力を少なくして屈曲しやすくする効果がある。完全伸展にて前十字靭帯、後十字靭帯は25%の力が分散している。90度まで曲げるとACLは緩んでACLに掛かる力は小さくなるがPCLにかかる力が大きくなる。後方の関節包は前方、側方の関節包の約3倍安定性に寄与している。
前後方の動きとともに内旋が生じ内反が起こる。後外側構造体が破綻している時には内反で外旋が起こってしまう。
LCLの損傷は内反の増大をもたらす。しかし、後外側構造体が破綻していない限りはこの不安定性はほとんど出ることがない。外旋の増大は後外側構造体の完全な破綻を示す。PCLの切断は内反を増大させる。後外側構造体のみ、後十字靭帯の切断ではそれほどでもないがLCL、ACL、PCLの合併損傷では内側の関節が開大する。

外反
外反を抑えているのは内側側副靭帯の表層成分である。完全伸展時に全体の50%の力を受けている。前方と後方の関節包が25%の力を受けている。残りの25%はACLとPCLで受けている。MCLは屈曲でより働くようになっている。外反と回旋が進む時にはMCLの役割は小さくなる。その時には関節包の後外側部分の役割が大きくなる。
MCL以外の靭帯を切っても外反不安定性は増大しないがMCLの完全切断では外反不安定性は急激に増す。MCLとPCLを同時に切るとその不安定性が最も増すということが知られている。
これから分かることは外反を最も抑えているのはMCLであるがその次はPCLであるということである。外反の動きの時にはACLはほとんど影響しない。

内旋
膝の屈曲で内旋の柔らかさは増大していく。20-40度の屈曲のところで25度の内旋が認められる。MCLとACLだけが内旋の動きを支える方に働いている。これらのどちらか一方を切断しても明らかな内旋不安定性が生じる。MCLの方がより重要な働きをしている。ACLにLCLや外後側方構造体の切離を加えると内旋が35度増す。PCLの単独損傷では内旋不安定性は生じない。
前方と内側の移動が内旋と共同して起こる。ACL損傷があると前方への移動が多くなる。PCL、後外側構造体、LCLはこの運動に関わらない。

外旋
膝の屈曲で外旋の柔らかさが増してゆく。30-40度屈曲位で最大20度くらいの外旋がでる。外旋は前十字靭帯、後十字靭帯で直接制限されない。唯一PCLと後外側構造体が破綻している時には外旋不安定性が生じる。PCLは90度でもっとも緊張する。LCLと後外側構造体が切れると最も不安定になる。
外旋には後方移動と外側移動をともに伴う。

<論評>
なんとなくわかったような気分に。

2010年2月4日木曜日

2010.2.4 JHS 2009 Mallet finger

THE PATIENT

 37歳整形外科医が会議に参加していた。午後のスキーのsessionで転倒し、利き手ではない左手の中指と環指を受傷した。夕方の講義形式のsessionにも戻った時に、透視で中指・環指の骨性マレットを確認した。中指は末節骨関節面の約33%の骨片と僅かな亜脱臼を呈しており、環指は亜脱臼なく関節面の25%を含んでいた。Splintingを行ったが、どの治療がbestか活発な議論が行われた。

THE QUESTION

 非開放性の骨性または腱性マレットの最も良い治療法は何か。

CURRENT OPINION

 ほとんどの手の外科医は亜脱臼や大きな関節内骨折がなければ、非観血的治療が最も良いと考えている。Splintの好みはかなり意見が分かれる。観血的治療はピンからの感染、不完全な整復、皮膚の欠損、固定力不足などから、あまり好まれない。

THE EVIDENCE

Studies comparing splints

 KinninmouthとHolburnは54名のランダム化前向き試験で貫通型のsplintとStack splint(既成のmoldされたポリエチレンのsplint)を比較。貫通型のほうがコンプライアンスに優れていたが、治療者が作らなくはいけない。

 MaitraとDoraniはアルミニウム合金の形を変えられるsplintとStack splintを比較。Stack splintで皮膚障害が多かったが、outcomeとしては同等であった。

 WarrenらはAbouna splint(ゴムでコーティングされたワイヤsplint)とStack splintを比較。Abouna splintで皮膚の問題があり、患者満足度が低かったが、outcomeは同等であった。

Splint versus surgery

 Niechalevは10年間の、非ランダム化前向きコホート研究を150名のマレット指に行った。82名は腱性、68名が骨性であった。平均3年観察。腱性または小骨片(非関節面の剥離骨折)92名はsplintで治療。関節面の骨折43名中、26名で観血的治療を行い、12名はsplint、5名は固定しなかった。非観血的治療はアルミニウムsplintを背側か掌側につけて行い、観血的治療はpinningとpull-out法で行った。結論としては末節骨の亜脱臼があるか関節面1/3以上または3mm以上の骨片があれば観血的治療を考慮するとしていた。

SternとKastrupは123のマレット指をretrospectiveにreviewした。関節内骨折が45、剥離骨折が37、腱性が39であった。Splintを行ったのが78指、観血的手術が39指、両方行ったのが6指であった。手術の合併症発生率は53%(そのうち長期に及ぶのが76%)であり、内訳は感染20%、爪の変形18%、関節面のずれ18%、固定不良13%、骨隆起11%であった。結論としてはほぼすべてのマレット指でsplintingによる治療のほうがよいとしていた。

 WehbeとSchneiderはマレット指患者160名をretrospectiveにreviewした。骨性は44名(28%)であった。骨性患者のうち21名は最低6カ月、平均3年以上フォローしていた。手術した9名中2名で合併症があり、1名は整復位が失われ、もう1名はpull-outのボタンが取られてしまった。変性について観血的治療と非観血的治療を比較、筆者らは骨性であれ腱性であれsplintingが安全で信頼性の置ける治療法だと結論付けた。

 Lubahnは観血的手術またはsplintingで治療したマレット指30指について前向きコホート研究を報告した。関節の亜脱臼または関節面1/3以上の骨折のある患者11名に外科的治療を行い、残る11名はsplintで治療した。かなり短いコホート研究ではあるが、観血的整復と細いK-wireの使用で、症例によっては整容的にも機能的にも優れた結果を得られることを論じている。

 Auchinclossはpinningまたはsplintで加療した50名のマレット指を前向きランダム化試験で調べた。3名のsplintによる皮膚刺激と2名のピンからの感染があった。観血的治療と非観血的治療で結果は同等であったが、受傷後2週目なら観血的治療がよいと勧めている。

 Geymanらは1966-1998年に出された研究をメタ解析したが、ランダム化試験は1つだけであった。Poolした論文のreviewから、関節面1/3までの骨折を含めほとんどのマレット指はsplintで治療できると結論付けた。伸筋腱の30%までのlagならほとんどの患者で許容範囲であり、観血的治療は複雑な損傷か再発の場合に選択すべきである。

 HandollとVoghelaによる最近のメタ解析では、4つの論文を調べ、うち3つはsplinting、1つはsplintingとK-wire固定の組み合わせであった。著者らはどのsplintが最も良いかを決めるにはevidenceが不足しているが、splintは毎日の使用に耐えうる強度がなくてはいけないと結論付けた。また、厳格なプロトコールの順守が重要である。観血的治療に関しては、適応を決めるにはevidenceが不足していた。

 O’Farrellらの論文ではレクリエーション中に非開放性のマレット指を受傷した3名の外科医について報告している。一人も観血的治療を望まなかったが、執刀は継続したいと考えていた。そのため滅菌された術中に使えるsplintを用いて管理し、執刀のスケジュールは崩さなかった。筆者らは20年以上この方法で外科医・歯科医を治療し、良好な成績であると述べている。

SHORTCOMINGS OF THE EVIDENCE AND DIRECTIONS FOR FUTURE RESERCH

 マレット指に関するたくさんの原著論文が出ているが、ほとんどがuncontrolled studyである。マレット指はcommon diseaseなので、その管理の面でのさまざまな前向きランダム化比較試験を行っていくべきである。

MY CURRENT CONCEPTS

 最近の論文のreviewによると、大多数のマレット指に対するsplint治療を支持する質の高いevidenceがある。Splintの種類よりコンプライアンスが重要である。観血的治療は関節の亜脱臼があるか、大きな関節面の骨片の転位(1/3以上)がある場合のみ考慮される。観血的治療を行ったら合併症を注意深くみていかなくてはいけない。治療法の選択によらず、患者は治療後わずかな伸筋腱のlagや背側の骨隆起の可能性があることを理解しなくはいけない。

 たくさんの手の外科医の長い議論の末、大多数がsplintがよいと考えていることがわかった。しかし、痛みのため中指の亜脱臼は戻せず、また執刀予定を全うするにはpinningが最もよいと本人が考えていたので、K-wire 1.4mmで経皮的pinningして皮内に埋めることを選択した。Splintは日中つけておき、手術時外した。無理なく手術スケジュールは全うし、現在もROMの異常なく働いている。

《論評》
クリアカットで一定のコンセンサスが得られる内容であると思います。外科医が手術を受けたがらなかったというところがオチですかね。笑

2010年2月1日月曜日

2010.2.1 JBJS(Am) The Relationship Between Time to Surgical Débridement and Incidence of Infection After Open High-Energy Lower Extremity Trauma

要旨
背景
開放骨折に対して緊急でデブリードマンを行うことは感染を予防するもっとも重要な方法のうちのひとつであると考えられている。今回の目的は手術までの時間が本当に感染の成立に寄与しているかどうかを調べることである。
方法
8つのレベル1外傷センターに搬送された重篤な下腿開放骨折の患者315人。徹底的なデブリードマンを行い、抗生剤の投与、骨折部の固定、適切な時期に軟部組織による被覆を行った。受傷から入院まで、受傷から手術までの時間、などについて集計した。また術後3ヶ月以内に発症した感染を術後感染と定義している。これで多変量解析を行い感染成立にもっともかかわっている因子を明らかにした。
結果
全体の27%の患者で感染を発症した。感染を発症した群とそうでない群で受傷から手術までの時間には有意差がなかった。入院から手術までの時間、入院から軟部組織で覆うまでの時間で両群には差が見られなかった。受傷から医療機関に搬送されるまでの時間で両群で有意差を認めた。
考察
受傷から手術までの時間は感染成立にかかわる独立した予測因子とはなりえない。早期に医療機関に搬送することが感染防止に役立つ唯一の手段である。

図1 直接レベル1外傷センターに運ばれた患者でかかった時間と途中で別の医療機関を経由して外傷センターに運ばれてきた患者でかかった時間のグラフ。直接搬送された場合には平均1.4時間。途中で経由すると平均7.9時間。
表1 今回の調査結果。感染群と非感染群との間で有意な差があったのは受傷から入院までの時間のみ。入院から手術、受傷から手術、デブリードマンしてから軟部組織で覆うまでの時間の3つの調査項目では有意差がなかった。
図2 入院から手術までの時間。直接搬送された群と別の医療機関を経由してきた場合には平均7時間で手術開始できており両群に差は認められなかった。
表2 受傷からデブリードマンまでの時間を5時間以内,5-10時間、10時間以上で分けて感染率を比較。どの群間でも有意差は認められなかった。
図3 デブリードマンしてから軟部組織で覆うまでの時間の比較。直接搬送群、間接搬送群とも120時間程度で有意差なし。
表3 受傷から入院までの時間。直接外傷センターに搬送されている群は2時間以内に搬送されているか2時間以上かかっているかで感染率に差がある。また途中で別の医療機関を経由してからきた場合には11時間以上かかると感染率が有意に高くなる。
表4 多変量解析の結果 受傷から入院までの時間がかかっていると感染率が高くなる

考察
今回の研究では受傷からデブリードマンにいたるまでの時間は感染の予測因子として重要ではないことがわかった。しかしこのことは開放骨折のときに緊急にデブリードマンをしなくてもよいということを言いたいわけではない。本研究の中で対象となった患者達はその全身状態に応じて可能な限り与えられるべきだけの治療がなされた上で評価がなされている。なのでコントロール群として人手や施設を理由とした”遅れた”デブリードマンが行われた症例はない。同じ理由で早くデブリードマンをすると感染率が下がるということを本研究で言うこともできない。多くの著者が開放骨折は整形外科的緊急手術であるといっているがこれを支持するデータも臨床研究も実はほとんどないのである。本研究ではとにかく早く外傷センターに患者を搬送することが有用であるということしかいえない。
今回下肢の外傷ということで下腿と足も含まれている。足だけの場合には搬送する側がこの患者を外傷センターに運ぶべきかまたは近隣の医療機関に搬送すべきかを悩むようなことがある。感染予防の観点だけで言えば、このような場合には2時間以内に直接外傷センターに運ぶか、近隣の医療機関に運んでも11時間以内に外傷センターへ再度転送することが望ましいということがいえる。
直接外傷センターに運ばれてきた患者で二時間以内か否かということで大きく感染率に差が出ている。これは病院の外に居る時間が長ければ長いほど感染率が高くなるということを示している。どうして長い時間現場に居なくてはいけなかったのかということについての更なる調査が必要であり、長い時間現場に居たということはその事故の大きさを示してもいる。車に長い間挟まっているほうが早く救出された患者よりも感染率を下げるのかもしれない。病院の外で救急車で待っているということが実は感染率を上げているのかも知れない。とにかく早く病院に来たほうが抗生剤の投与などの治療が受けられるので感染率を下げるのであろう。

2時間以内に外傷センターに運び込まれた患者よりも4時間から10時間たってから最初の医療機関から転送されてきた患者のほうが感染率が低い。解析の結果では治療のさ、患者の重症度の差、患者背景の差ではないとなっている。これからいえることは救肢手術が必要な場合には出来るだけ搬送すべきであるいうことである。その前の病院に運び込まれるまでにどれくらい時間がかかっているのかというデータが無いのでなんともいえないが出来るだけ早くdefinitiveな固定が行えるような施設に転送することが求められる。

この研究で全体の感染率は27%と他の報告よりも高かった。ひとつはより広義に感染と考えたこと、もうひとつは今まで発表された研究よりも重症度が高いことが影響しているのであろう。

今回の研究では受傷から治療までの時間でいかに合併症が発生するかについて分析した。その結果、とにかく正確な受傷時間の記載が重要である。

一般に骨折の重症度は感染率の増加と関連するといわれているが本研究では関連が無かった。これは重症度が搬送までの時間として置き換えられてしまっているせいなのかもしれない。

重症患者は早期に外傷センターへ搬送し早期に治療が開始されることが求められる。

《論評》
一般的に言われていたゴールデンアワーという概念はホント?と言う事を目的とした研究。非常に示唆に飛んでいてオモシロイと思います。二点言えることがあって,一点はオペ室をそんなに急かさなくても良いというひとつの根拠になるということ。もうひとつは日本でも徹底的に治療が行える外傷センターの整備が急務であるということだと思います。

2010年1月28日木曜日

2010.1.27 JBJS(Am) 2005 Economic Evaluation of Ultrasonography in the Diagnosis and Management of DDH in the United Kingdom and Ireland

Background:

臨床的な新生児の股関節スクリーニングは股関節の不安定性や脱臼・亜脱臼のリスクを同定するために行われる。しかし、両親や公共医療サービスに対するスクリーニングの費用に関する情報は限られている。この研究の目的は新生児の股関節不安定性の診断および管理における超音波の使用に関する費用を評価するものである。

Methods:

 前向き経済的研究を股関節のRCTと共同で行った。UKおよびアイルランドの33施設629名を超音波検査群314名と臨床的評価群315名にランダムに割付けした。Outcomeの情報はカルテや股関節のtrialから得た。Resource情報はカルテや定期的な家族の横断的調査から得た。患者当たりの費用を得るために典型的な単価をresource情報に適応した。2群における平均費用を計算し、比較した。

Results:

 患者あたりの公共医療サービスの全費用の平均は超音波検査群で1298$±2168、臨床評価のみの群で1488$±2912であり、差は190$であった。両親にかかる費用では、超音波検査群でsplintingに関する費用が有意に少なく、臨床評価のみの118$と比べて92$と平均26$少なかった。両親にかかる外科的治療に関連した費用と全費用についても、有意ではないが超音波検査群で僅かに少なかった。

Conclusions:

 今回の結果より、臨床的に股関節に不安定性のある新生児の管理において超音波の使用は費用負担を増加させず、公共医療サービスと両親に対する費用の軽減をもたらすかもしれないことが示唆される。
Table Ⅰ

 Primary-careの費用とこの研究の対象となったメインの臨床事項(splintingと外科手術)との関係について調査した回帰分析結果。

Table Ⅱ

ランダム化割付けによる医療資源の平均使用と医療費

Table Ⅲ

 Splinting・外科手術と家族への費用負担の関係

Table Ⅳ

 2群におけるsplinting・外科手術に関連した家族の費用負担

Discussion

 医療計画の方針を立てる上での信頼の置ける経済的評価の重要性が今認識されてきており、ランダム化によりそのエビデンスのバイアスは最小となる。本研究は新生児の股関節不安定性の診断・管理における超音波に関する費用を調べた最初のtrialである。結果から新生児あたり43$以上超音波にかかるが、これはほかの医療費、特に入院費用などで相殺される。これらほかの医療費は超音波群でわずかではあるが少ない。経済的評価の標準的方法論と同様、先股脱に関連した過失へのclaimに関する費用は含めなかった。我々は2002年UKであったそのようなclaimを調べ、結果に影響を与えるほどではなかったと結論付けた。しかし、訴訟率の多い国では、その影響が出る可能性がある。

 我々の研究では先股脱が疑われ治療された場合に、家族により高い費用がかかることを示し、超音波群と比較し臨床評価のみの群でより高いsplintingの費用がかかったことも示している。

 システムの違いにより他国にそのまま結果を当てはめることはできない。しかし、今研究はこの国でエビデンスが欠けていたため行ったもので、他国でも超音波の役割による議論があれば興味がもたれるべきである。また、その国の発症率でも本研究との差が出るかもしれない。異なったスクリーニング方法での国の費用を評価したものはスウェーデンやドイツから以前に報告されている。しかし、我々の結果と一まとめにはできない。これらの結果は費用と利益のバランスを評価する費用対効果の分析の重要性が増していることを示している。

 股関節エコーは多くの国で臨床手技として加えられているが、施行者によりきちんと使われているかについては不確定である。家族の不安などの非経済的費用の重要性は、股関節のtrialで解析され、別の研究で報告される。

《論評》
小児の股関節エコーなんて意味ない!!と言い続けながらイヤイヤやっていましたがそんなことはないんですね。重症例を早期に見つけたりするためにも必要な手技なのでスクリーニングとして行うことは必要だということがわかりました。

2010年1月13日水曜日

2010.1.16 up to date. Intraarticular and soft tissue injections: What agent(s) to inject and how frequently?

歴史
20世紀初頭にはホルマリン、石油、油、乳酸などを関節内に注射したがほとんど効果が得られなかった。しかしながらHollanderがハイドロコルチゾンと三臭化ブチルの投与比較試験を行ったがハイドロコルチゾンのほうが効果が高かった。
いかにその後に行われた研究について述べる。
・デポメドロールとケナログはほかの長時間作用性ステロイドに比べ注射後の再燃が少ない
・アリストスパンは水溶性で無いため長時間効果がある。
・軟部組織の萎縮や腱の断裂といった現象は局所麻酔薬と混濁させることによって減らすことが出来る。
・ステロイドの懸濁液は静菌効果を期待して局所麻酔薬として使われていた。

大規模なrandomised trial はない。1993のアメリカでのリウマチ学会に参加したメンバーで有効率が62%であったという報告だけである。
この報告の後、アメリカの臨床家たちは以下のような疑問を抱いた
・どのステロイドをどれくらいの量投与すべきであるか。
・ステロイドに局所麻酔薬は混ぜたほうがよいのか
・注射の後に安静は必要であるのか。

ケナログは欧米で好んで用いられ、デポメドロールは東洋で好んで用いられる。また、アリストスパンは中東で用いられることが多い。その濃度はさまざまであったが実際に膝の注射で用いられた量は1mlばかりであった。

1970年代中ごろからリドカインとステロイドを混ぜることが多くなった。(40%くらいの濃度にする)1985年以降にリウマチ医としてトレーニングを受けた医師の75%がリドカインとステロイドの混合を行っているという調査がある。しかしそのうちの9%しか、混合することで生じる生体活性での問題を深刻に考えていなかった。

このように注射が地理的背景や年代別の背景を持っていることは関節内注射が既に
風習と化してしまっているということである。本文で言えることは関節内注射は一部で局所にしか効かず、その効果も限定的である。またさまざまな副作用についての報告もなされているが関節内注射が人気のある手技である理由を説明することは難しい。合併症が起こることはきわめて少ない。表1にその合併症について記載する。

推奨
40mgを膝、肩のような大関節に。手関節、肘関節のような関節には30mgを、手の指の関節には10mgの注射を行う。

ステロイドに局所麻酔薬を混ぜるべきか
局所麻酔薬でステロイドを希釈することで、麻酔による一時的な疼痛軽減効果と共に以下のような効果が考えられている。
・ステロイドによる筋萎縮を減らすことが出来る。
・注射後の再燃を減らすことが出来る
・いい場所に注射できれば疼痛が速やかに改善することが知られている

これらの理由が個々の患者さんにとっては重要な事柄である。肩の腱板が痛んでいる
患者さんでは注射をすることで疼痛は取れるが筋の萎縮によって断裂する可能性が高くなる。

注射後の再燃はケナログを使ったときよりも懸濁剤を用いたときにより起こる。注射後48時間以内に起こるのでそれによって医原性の感染と鑑別する必要がある。結晶による炎症よりも感染による炎症のほうがすこし反応が遅いような感じがするというのが臨床上での違いである。注射後の再燃はどこでも起こりうるが感染の場合には関節内注射以外ではまずまれである。

肩の疼痛部位をはっきりとさせて打つ注射は適当に関節内に打つ注射よりも有効であったとする臨床研究がある。その注射が効いたかどうか調べることは診断の助けにもなる。外来で局所麻酔薬の効果が出て疼痛が取れたが、家に帰ってまた痛みが出てきたということであればそれは注射のみで治療することが困難な病態である可能性がある。
しかしながら局所麻酔薬による好ましい効果を除けば病態にかかわらず感覚を低下させている効果しかない。

リドカインをステロイドに混ぜることは大きく二つの問題がある。ひとつはいくつかのバイアルから混合するということと、もうひとつはリドカインによるステロイドの凝集効果である。

・多数のバイアルから採取することで感染のリスクが増す。感染のリスクを増してまで行うような行為ではない。
・リドカインによるステロイドの凝集によってどれほどその効果が減弱するかということは明らかではない。手根管症候群の手術で固まりになったステロイドが認められたという報告もある。すなわち半永久的にステロイドがその場所に残るかもしれない。
・リドカインですぐに痛みをとる必要がない。肩の注射が正しい位置に打たれていればそれはステロイドの効果である。

推奨
このような場合にはリドカインとステロイドを混ぜましょう。
・肩の注射でいろんなところに麻酔効果を期待する場合
・手の小さな関節に打つときには腱への悪影響を考慮して等倍に薄めたものを使用する

注射の頻度
いくつかの権威からステロイドの関節内注射は制限のもとで行われるべきとされている。変形性関節症の場合には一生のうち、4回。ひどいRAの場合には毎月1回。繰り返し関節内にステロイドを投与することは関節の変性を進行させることとなる。

・関節内へのステロイド投与での感染率は6人/100000人であるので、まず短期では安全な方法であるといえる。
・RAの患者では年間10回の関節内投与を行ったが関節軟骨の変性が少なかった。
関節軟骨の変性の程度も緩やかであった。

コラーゲン分解酵素などの働きを抑えることが報告されている。滑膜細胞の表面にあるサーファクタントを活性化し、関節軟骨にかかる力を分散するということが知られている。
これからするとステロイドの関節内注射は関節軟骨によい方向に働く。どうして関節注射の回数は制限するべきであるとされているのだろうか。

それの基礎となる臨床研究ではステロイドの注射を行っていた群でよりOAが進行したとするものである。しかしながらこの研究はランダム化されておらず、またOAの進行事態もその疾患、患者によるものであった可能性がある。
別の研究でもRAの患者にステロイドの関節内注射を行ったが関節の厚さには変化がなく、ステロイドは関節の保護にも破壊にも関与していない可能性が示唆された。
筆者らの研究では関節ない注射を行うことでRAで痛んでいく軟骨のスピードを遅らせることが出来たのではないかと推測している。

以上のことからステロイドの関節内注射は関節の炎症性の病変ではむしろその進行を抑制するように働くのかもしれない。

効果の持続期間は初期の報告では数ヶ月という報告があるが、現在では6週間間を空けるレジメで注射している。年に1,2回ということもある
OAのばあいにはこれに比べると効き難い。6週間ということもある。

推奨
3ヶ月おきの注射が望ましい。OAの場合には効果がはっきりとあるときにのみ行う。6週間ごとでステロイドの注射を継続的に行っていると皮膚にステロイドの副作用が現れてくる。

ヒアルロン酸
メタ解析で痛みを有意にとるとされているが実際の臨床ではたいしたことがない。OAの進行を抑制するかどうかについては不明である。
ヒアルロン酸もメチルプレドニゾロンも同程度の抗炎症効果がある。
物理的な作用よりもどちらかというと薬理的、化学的効果を期待されている。その粘張性によって滑膜保護作用がある可能性がある。

患者の選択
筆者らはステロイドの関節内注射を行って効果が無かった場合ヒアルロン酸の関節内注射を行っている。これはヒアルロン酸ときくとそういう自然なものが好きな患者さんの受けがよいからである。

推奨
ステロイドの関節内注射が効かない患者さんに膝にヒアルロン酸を打ってください。

2010年1月7日木曜日

2010.1.7 BJSM videos(from Youtube) shoulder exam inspestion and palpation やり直し

2010.1.7 BJSM videos(from Youtube) shoulder exam inspestion and palpation

肩の診察方法の動画です。
全て英語なので,listening trainingをかねて…。笑

http://www.youtube.com/watch?v=Xf52jbNA7wg&feature=related

視診,触診の重要さを伝える動画です。
肩峰を後方から触るとSLAP損傷が分かると言えるのがオドロキ!!

2010年1月4日月曜日

2010.1.4 JBJS(Br) Cemented versus uncemented hemiarthroplasty for intracapsular hip fractures

要旨
400人の転位した大腿骨頚部骨折の患者に対して,Austin-Mooreのセメントレスタイプの人工骨頭とThompsonのセメントタイプの人工骨頭との比較をするための無作為割付試験を行った.盲検化した状態で2年後、5年後の臨床評価を看護師によって行った。患者の平均年齢は84歳(61歳から104歳).308人(77%)が女性.
術後3ヶ月での疼痛の残存はセメントタイプの人工骨頭のほうが有意に少なかった.術後6ヵ月後での歩行能力の獲得の程度はセメントタイプのほうが有意に優れていた.術後の合併症については両群に差を認めず,また死亡率にも差を認めなかった.
セメントを用いた人工骨頭置換術は合併症を増やすことなく,Austin-Moore式の人工骨頭よりも術後の痛みが少なく、また有意に移動能力の低下を起こさないようにすることが出来る.

表1 患者の選定基準と除外基準
表2 移動能力の判定基準 3点満点 自力歩行が出来れば3点
図1 今回の研究のフローチャート
表3 患者背景
表4 手術と入院期間の詳細について セメントタイプのほうが麻酔時間、手術時間とも有意に長い。術中骨折がセメントレスタイプで14例ある。
表5 周術期合併症 セメントレスタイプのほうが肺炎が多い以外には差が無い
表6 晩期合併症 両群に差は無い
図2 生命予後は両群で差は無い
表7 術後の疼痛の残存の程度.術後3ヶ月目の時点においてのみセメントタイプ人工骨頭のほうが優れる
図3 疼痛の変化のグラフ 優位な差は出ないものの術後早期からセメントタイプ人工骨頭のほうが痛みが少ない
表8 術後の移動能力の減少の程度 6ヶ月,1年の時点でセメントタイプ人工骨頭のほうが優れる

考察
この研究は盲検化された無作為割付研究としてはもっとも大規模な報告である。今まで小規模な研究で言われてきた術後の痛みが少ないとか、術後の復帰率がよいということをはっきりと示すことが出来た。また、セメントを用いることで手術時間が延びるということが患者の不利益につながらないということもわかった。この研究の強みはより多くの患者が参加できるようにinclusion
criteriaを広げてあること,フォローアップ中の脱落が少ないこと、一般的な治療を行っていること、盲検化した状態で評価を行っていることである。最重要の評価事項として死亡率、術後の疼痛、移動能力を測定した。最初の外来でChanleyのVASスケールを用いた。これは高齢の患者に対しては簡便であるということと電話でのフォローアップを可能とするからである。今までほかの研究ではChanleyの痛みのVASスケールを用いた研究は無いが、簡便で信頼性の置ける方法であると考える。
今回の研究では50項目にも及ぶさまざまな項目について調査を行った。結果としてαエラーがP<0.05とすると出現してしまうのでBonferroniの校正を用いた。これで補正を行っても術後の疼痛については有意な差が得られた。だからこの研究の最大の目的のひとつであるセメントを用いると術後の痛みが減少するということが統計学的な誤差であることはほとんどないものと考えられる。
再置換術についてはセメントレス群で多い傾向にあったものの統計学的に有意な差は得られなかった。再置換にいたらなかったのは被験者が高齢であることで、疼痛があってもそのまま見ていることが考えられる。オーストラリア国立人工関節登録センターのデータによればAustin-MooreタイプよりもThompsonタイプのほうが再置換率が低いと報告されている。(6%対4%)。われわれの研究では6%対3%であった。
以前1982年の報告ではセメントタイプでもセメントレスタイプでも死亡率に差は無く、歩行能力と疼痛の2点でセメントタイプが優れるという報告がある。以後の多数の研究でも同様な結果がえられることが多い。
この研究は英国で普段使われるAustin-MooreとThompsonタイプを比較したが、今後セメントレスタイプとして用いられているHydroxyapatite-coatedのセメントレスタイプとの比較は行ってもよいのかも知れない。
今後人工骨頭置換術はセメントで行うべきであると考える。

《論評》
ハイ、イギリスの先生ならこの論文のようにおっしゃると思います。(笑)。この結果は自分の経験と照らし合わせても妥当な結果であると思います。
セメントタイプの人工関節置換は正しい手技、洗練されたチームで行われれば安定した結果を得ることの出来る優れた方法であると考えます。
しかしながら筆者らが書いてあるように手術時間の延長の問題はあると思います。また慣れていないチームでセメント人工関節を行うことはストレスで危険を伴いますし。
日整会にきていたマサチューセッツの先生なんかセメントは遠からず駆逐されるだろうと言い切ってましたし。
セメント、セメントレスは術者の哲学で、何を手術に求めるかじゃ無いでしょうか。