尿量の測定は腎機能の測定や、どの程度蘇生に反応しているかということを知る重要な情報源の一つである。尿道損傷は女性ではほとんど見られない。なので女性の骨盤骨折の患者では尿道カテーテル留置をおこなってもまず差し支えない。男性の骨盤骨折には尿道損傷を合併することがしばしば見られ、特に前後圧迫タイプの骨折によって引き起こされることが多い。
骨盤骨折があるときに、尿道カテーテル留置を行うかどうかというのは非常に議論のあるところである。尿道カテーテル留置によって尿道の部分損傷であったのを完全損傷にしてしまう恐れもある。経験上骨折の血腫内にカテーテルが挿入されることがある。この場合血腫と共に外に漏れ出した尿が排出されることがある。そして尿が排泄されるので術者が膀胱内に尿道カテーテルを留置できたと勘違いすることがある。このような勘違いはしばしば致命的な判断ミスを引き起こしたり、また血腫内への感染のリスクを伴う。
尿道損傷を診断するための身体所見はない。筆者の考えとして、一度は愛護的に尿道カテーテルの挿入を行ったほうが良い。この場合には慣れた術者が慎重に行うことが必要である。カテーテルから血尿が認められた場合には逆行性の尿道造影を行う必要がある。もし、尿道カテーテル挿入前から尿道損傷が疑われるような場合であれば最初から逆行性の尿道造影を試みたほうがよい。
逆行性の尿道造影が陽性。または尿道カテーテルの挿入が不可能だった場合には経験のある泌尿器科医をコールする。このあとどうするかという判断は非常に難しい。セルジンガー法を用いて恥骨上から尿道カテーテルを留置したり、場合によっては恥骨上から膀胱切開術を検討する必要がある。膀胱切開術を行う際には、骨盤骨折の最終内固定をいかに行うかという判断ができる整形外科医が泌尿器科医と相談をして皮切の位置を決める必要がある。
骨盤骨折と低血圧
重症骨盤骨折と低血圧を許容することはともに難しい問題である。整形外科の上級医と外科医との間で詳細な検討が行われなければならない。これらの患者ではたいてい凝固異常を灯っなっている。また大量輸血プロトコールが実施されている。このような場合の最大の問題は骨盤からの出血か、または腹腔内出血かを判断することである。
このような重症骨盤骨折の場合には通常行われるような腹部の診察は役をなさない。たとえ腹部所見が陰性であっても腹腔内大量出血の可能性は全く否定出来ない。
FAST(focused abdominal sonography for trauma)は偽陰性になりやすいので注意が必要である。すなわち、FASTが陽性であれば出血があるといえるが、FASTが陰性であっても出血がないとは全く言えない。
腹部CTは大量の情報が得られる検査方法である。ただし低血圧が続いてしまっているような患者でCTに行くことは困難である。どのタイミングでCTに行くかは経験のあるリーダーの判断による。CTがどれくらい初療室から離れているかということが判断をまた難しくする。
血圧が70以下であれば蘇生を優先する。
骨盤ベルトが大転子の位置に正しく装着されていればそのままの状態で開腹術を行う。骨盤骨折からの出血を先に止めるべきか、腹腔内出血を先に止めるべきかというのは一般外科医と協力のもと診療方針を決定しなければならない。骨盤骨折による出血は腹腔内からコントロールすることは難しく、腹腔外からのアプローチ、血管造影や塞栓術が考慮される。これは実際に診療にあたっているスタッフの判断による。もし、骨盤からの出血が続いており、血圧がそれなりに保たれているのであれば血管造影のうえ塞栓術を行うか、手術室へ行くかはその時その時の判断である。麻酔科医、放射線科医、整形外科医の間で相談してどうするかを決定する。血管造影室はたいてい手術室から離れた場所に設置されていることが多いので、患者をそこへ運ぶ、と決めた場合にはバイタルの変化に注意を払わなければならない。