2012年7月27日金曜日

20120727 JBJS(Am) Reliability of predictors for screw cutout in intertrochanteric hip fractures

背景
大腿骨転子部骨折において、Tip apex distance(TAD)、骨折型、大腿骨頭内でのスクリューの位置、整復状態がスクリューのカットアウトの条件と言われているが、これらの信頼性については知られていない。本研究ではTAD、スクリューの骨頭での位置(Clwvwland femoral dividing system)、Baumgaertnerの骨折の整復分類、AO分類を用いてスクリューのカットアウトをするかどうかを評価した。

方法
2007年から2010年までの間でオランダの代償センターで治療を行った大腿骨転子部骨折の患者について検討を行った

結果
TADは信頼性のある測定値であり、またTADが大きい患者ではカットアウトとすることが多かった。スクリューの設置位置、骨折型の分類については検者間での信頼性は中程度あった。TADとスクリュー設置位置を調整するとAO:A3型の骨折型がよりカットアウトのリスクが高かった。整復が不十分であることは単変量懐石では有意な危険因子とされたが、多変量解析では独立した危険因子とは成り得なかった。TADとスクリュー設置位置を調整したとこと中央下方、前方下方にスクリューが位置すると有意にカットアウトしにくいことがわかった。

結論
カットアウトの危険性を減らすために、できるだけTADを小さくするように十分に長いラグスクリューを入れ、中央下方、もしくは前方下方にスクリューを位置させるようにすることが重要である。

考察
今までの種々の報告によれは大腿骨転子部骨折術後にカットアウトをきたすのは整復位、TAD、スクリューの設置位置などが関連していると言われてきた。これらの項目についてどの程度検者間で信頼性が置けるのか、ということとどの因子がどの程度関連しているのかということを検討するために本研究は行われた。
本研究で測定について十分信頼性が於けたのはTADの測定値だけであった。TADの値は検者の経験に関係なく安定した測定値で合った。多変量解析でもTADは独立した危険因子出会った。1mmTADが大きくなると、カットアウトのリスクが1.1倍に鳴ることがわかった。他の研究ではTADが25mm以上でカットアウトの率が高くなると報告しているが、本研究でのしきい値は19.9mmであった。25mmよりも19.9mmの方が妥当性の高い値であることがわかった。
25mmというのは以前の研究でカットアウトが有意に増えるとされる値である。安全を重視するのであればその値は19.9mmにした方がよりリスクは低くなるものと考えられた。
骨折型がAO:A3であればカットアウトのリスクは13倍に大きくなることがわかったが、これは不安定で、整復が難しいということと関係している。それらのようそまで考え合わせると骨折型だけで骨折型だけでカットアウトの危険性の寄与度は小さいと言える。
整復位については検者間の相違について中程度の信頼性がえられた。これは分類法が大まかであることと関連しているものと考えられる。
骨折の分類とTADとの間に相関関係は認められなかった。AO:A3でTADが大きくなるのかもしれない、ということは整復位の獲得が困難であることと関連していた。
骨頭内のどこにスクリューが挿入されているかということは大きなもんだんである。中心-中心、前下方、中心下方のいずれかにスクリューが設置されているとカットアウトが少なくなることが知られていて、本研究もその結果を追認するものであった。後下方にスクリューが設置された場合にはカットアウトが多いとも、カットアウトを積極的に防ぐことができるともいずれもいうことができなかった。クリーブランド分類は検者間信頼性が担保できる良い方法であった。性別はスクリューのカットアウトとは関連がなかった。
手術時間、入院期間、術前待機期間はカットアウト群で長い傾向にあったが、有意な差は認められなかった。ASA3で骨折型がAOA3である患者でカットアウトが多かったがコレも有意ではなかった。これらの因子を検討するためには更に観察集団のn数を多くする必要がある。
対象集団の総死亡率は14%にものぼった。すなわち、最初の手術を成功させることが非常に重要である。術者はこれらの結果を踏まえて慎重に手術を行う必要がある。
後ろ向き研究であることが本研究の限界である。


【論評】
大腿骨転子部骨折でその成績不良の要因は、となると判を押したようにTADと、整復不良みたいな話がよく学会でもきかれます。
本研究はそれらの言い訳に一定の妥当性を担保するものと考えました。笑
TADは25mm以内にするように手術をしていましたが、どうやらソレよりも小さな値の方が良いようですね。意識して長いラグスクリューを使ったほうが良いのかもしれません。
大腿骨転子部骨折はもともと虚弱高齢者が罹患しやすい疾患であり、全身状態も不良なことが珍しくありません。成績不良因子として患者側の要因が大きく関わっていることも間違いない事実だと思います。
ただ、本研究に示されたような術者側の要因を一つづつ対処することでよりよい医療が提供できたら。と考えます。

2012年7月20日金曜日

20120719 JBJS(Am) The benefits of implant removal from the foot and ankle

what are you doing to my leg?!!!!.jpg

抄録
整形外科の術後でインプラントの抜釘は勧められたり勧められなかったりする。インプラントのために疼痛を感じている患者はこの手術によって症状の改善が見込めるはずである。


方法
69例の前向き研究。足部と足関節の手術後の患者に対して手術を行い、疼痛のために抜釘を行った患者を対象におこなった。McGillの疼痛質問票をもちいて術前、術後6週の段階で評価。患者に満足度を尋ねた。


結果
抜釘することで疼痛が減った。VAS値が3.06から0.88まで低下した。術後6週で疼痛の訴えは減少した。術前の疼痛の程度と術後の疼痛の程度は相関していた。

結論
抜釘することで患者の疼痛の軽減と満足度につながることがある。

考察
足部、足関節の抜釘後に疼痛が改善した。多くの患者で術後6週で疼痛が改善した。術前の疼痛が術後6週の疼痛と関連していたことは当然であろうと考えた。筆者らは術前の痛みの程度が術後の痛みの程度と相関しているということを報告している。しかしながら術前の痛みが強いということと術後成績が不良であるということの相関はない。術前の疼痛が強くても術後疼痛は著明に改善するからである。術後の疼痛が強くても、抜釘は有効な方法になり得ると考えた。
術後2例の合併症を生じ得た。2例とも表装感染で合った。神経障害、再骨折は認めなかった。Sandersonらは118患者の抜釘後に3例の神経障害と1例の再骨折を生じたと報告している。これらはいずれも足関節ではなかった。経験のある術者が行えばこのような合併症は避けられるものと考える。
今回はインプラントに関連する疼痛を評価したが、OAによるものなどの評価は今後の研究が待たれる。
この研究の限界は1,対象の患者がインプラントのため術前から疼痛を訴えていた患者である。2,比較対象研究ではない。3疼痛のみを対象としている。4,疼痛に関わる他の因子について検討していない。
これらの限界はあるものの、抜釘が有効であるということを示せたので、今後はそのように推奨したい。

【論評】
なぜこの論文がJBJS(Am)に掲載されているのかよくわかりませんが、それはeditorに聞いてみたいものです。
足部、足関節はインプラントが当たると痛いので、抜釘をすることは珍しくありませんが、抜釘後6週間もフォローしたということに価値があるのでしょうかね。
あとはその程度を前向きに調べたということと。

ということで、骨癒合が得られたら、抜釘しましょう。(棒)

こういうのをみると、まずは英語の論文を書いて出してみることが重要ではないかと感じました。

2012年7月11日水曜日

20120711 JBJS(Br) Does early administration of bisphophonate affect fracture healing in pt. w/ intertrochanteric fractures?

Bone Healing


抄録
術後早期にBisphosphonate(以下BP剤)を投与することが骨折の治癒過程に影響するかどうか、また同時に合併症の発生に影響するかどうかを調べた。
2008年から2009年の一年間。大腿骨転子部骨折で手術治療を受けた90例。この90例を無作為に3群に分けた。
A群:術後1週間目から投与開始。B群:術後1ヶ月後から投与開始。C群:術後3ヶ月後から投与開始。
プライマリーエンドポイントはレントゲン写真上での骨癒合判定とした。合併症の発生、再手術などをセカンダリーエンドポイントとしている。
骨癒合までの期間はA群が10.7週、B群が12.9週、C群が12.3週であった。(有意差なし)
機能予後、合併症の発生についても有意な差を認めなかった。
これらの結果から大腿骨転子部骨折術後どのタイミングでBP剤を投与するのかは骨癒合には関連しないことがわかった。

考察
BP剤が反対側の大腿骨頚部骨折を減少させ、また死亡率を減少させると言うことは非常によく知られた事実である。しかし、BP剤が骨癒合に与える影響については今まで調べられたことがなかった。

動物実験レベルでは、BP剤の使用によって仮骨形成、レモデリングが遅延する。ということは知られている。しかしながら骨癒合、骨折治癒そのものに影響するかどうかは不明であった。Adolphsonらは撓骨遠位端骨折を受傷した32例について調べ、2ヶ月後にBMDが上昇していたとしているがその差は時間とともに小さくなっていっているとしている。Rozentalらは撓骨遠位端骨折で本研究と同様にBP剤を投与し骨癒合までの時間が延長したと報告している。(55日と49日だけどもね。)
NEJMでのHORIZONstudyで、股関節骨折を受傷した患者に受傷後2週間の時点でZoledronic Acid(ゾメタ®)を投与すると死亡率、再骨折率が下がる、と報告している。

BP剤は骨癒合に影響するのではないか。とかんがえられるが、 本研究でどのタイミングで投与しても骨癒合に差がない。ということがわかったので、再骨折予防のタメには早期介入が望ましいのではないかと考える。
サンプルサイズが小さいのが問題でしょうか。

【論評】
良い研究だと思うんですよね。
これを一歩進めてもっと面白いことができないか。と考えてみたいです。

例えばいま大腿骨頚部骨折で地域医療連携を組んでいる急性期病院、リハビリ病院は多いのではないかと思います。
この骨粗鬆症治療を、地域連携のパスの中に組み入れればよいなー。とおもいます。
出来ればそれを大規模コホートとして追ったら面白いと思うのですけど。。。


2012年7月6日金曜日

20120706 JBJS(Am) system-based safety intervention: reducing falls w/ injury and total falls on an orthopaedic ward


TABLE I  Systems-Based Interventions
InterventionDescription
Timed toiletingAll patients are offered assistance to the restroom three times every eight-hour nursing shift.
Wake ’em, take ’emAll patients who are awakened by staff in the course of their duties (e.g., vital signs or administration of medications) are offered assistance to the restroom.
Assist in, assist outAll patients who require assistance to the commode or restroom are attended and then given assistance back to the chair or bed.
Shoulder safetyAll patients undergoing inpatient shoulder surgery are instructed by both surgical teams and nurses not to get out of bed unassisted for the first twenty-four hours after surgery.

学会の抄録を出さないといけないのですけど、まーーーーったくやる気になれないのでブログの更新をいたしまする。
決してサボっているわけではなく、明日の臨床につながる何かを探すタメにやっているのだ!と自分に言い訳をしております。

抄録
背景
院内での転倒転落事故は時に死亡を含めた重症な転機をたどることがある。しかも転倒転落事故と言うものは2008年のMedicare, Medicadサービスから”病院内で起こしてはいけない事象”として定義されてしまっている。
患者の危険因子から様々な介入策がとられているものの、現在までで急性期病棟でうまく行ったことはない。今回System-basedプログラムを高リスクの状況に対して用いることで転倒、転落事故の防止につながるのではないかと考えた。
方法
術後の転倒について医師、看護師、助手、リハビリスタッフからの実際の情報を収集した。病院の状況、患者の要因、環境について調査した。これを準備段階とした。準備段階の結果に基づいて4つのsystem-basedプログラムを作成した。これらについて前向きに調査。すべての転倒事象の記録をおこなった。準備段階とプログラム導入後の転倒率について調査を行った。
結果
準備段階では11802人日に対して調査した。1000人日に対し 総転倒率が4.24、転倒によるケガが1.17発生した。プログラム導入後では12267人日に対して調査を行い、1000人日に対して総転倒率が2.53、転倒によるケガが0.41と有意な差をもって減少した。
結論
system-basedプログラムを用いることで転倒を減少させることができた。ただ、様々な方法を用いても転倒はおこってしまう。すべての転倒を防ぐことができると言うのは絵空事であろう。

4つのシステム型転倒防止法
・8時間の勤務時間中に3回はトイレへの援助を申し出る
・業務によって起こされた患者さんはトイレへの援助を医療者に申し出る。
・トイレに行くのに援助が必要な患者さんは自分のベッドに戻るまで援助を受けることとする。
・肩の手術を受けた患者では医療者の許可なしにベッドから離れては行けない

考察
本研究は継続型質的改善モデル(continuous quality improvement model)をもちいて転倒防止を行った。本研究はシステムに基づいた対策を行った最初研究である。このことによって転倒を40%減らし、転倒によるケガを65%減らすことができた。
ハイリスク患者に手をかける。と言う方法はほとんどうまくいっていない。また様々な観点から転倒防止を行う。というのは長期の入院を必要とするような病棟ではうまくいくが、急性期病棟ではほとんどうまく行かなかった。
本研究では転倒と、転倒による傷害のいずれも軽減することができた。これは転倒自体の減少にともなう傷害の減少と考えられる。
トイレでの動作が転倒の危険因子であるということは今までにも言われてきた。そこで今回設定したルールでは患者はトイレを原則として医療者の援助下で行うこととした。こうすることでトイレに関わる転倒の抑制ができた。
多くの研究でハイリスク患者に介入するというのは行われている。これらの患者に対してベッドを低くしたり、アラームをつけたり、ビタミンDの内服を始めたり、内服の見直し、患者教育、安全な靴の指導、運動療法などがある。
今回の研究ではこれらの研究での成果は殆ど無いと考えて研究を行った。何故ならば患者ごとにその要因は大きく異なるからである。また急性期ではせん妄、貧血、疼痛治療。また手術の安静などで大きくその様態が異なる。なのでこのような患者ごとにアプローチする方法は有益でないと考える。
当然患者の状態と患者の環境の両者に配慮することは必要である。今回の研究では肩関節術後の患者での転倒が多いことがわかったのでその患者にたいする対策を行なっている。
この研究には幾つかの限界がある。患者の割付が無作為割付になっていないこと。大学病院の整形外科病棟という限られた環境であることなどがあげられる。また報告されていない転倒事例もあることは否定出来ない。
2008年にMedicare,Mediaidの支払い機構から、転倒は防ぎうる事象なので、もし院内転倒、転落事故によって生じる費用はすべて病院が負担することと成っているとの通達があった。システムbased転倒予防を行うことで転倒転落事故の減少はできたものの、支払い機構が言うような”全く怒ってはならない事象”という取り扱いに転倒転落事故がなっていることに納得が行かない。どれだけ手を尽くしても転倒は無くならないのである。

【論評】
私自身、この論文を読む前にも病棟でサインして参りました。”転倒・転落に関わる同意書”。笑

看護師さんがせっせとリスク評価をしてくださって、”ほーら、このおばあちゃん、こんなに転びやすいのよ”と結論づいたところにサインをして、患者さんのご家族へお渡しする。と。

あまり大きな声では申しませんが、ホンマに意味有るんかなあ。と思っておりました。同意書はサインを貰えばよいと言うものではありませんし。

看護師さんは一生懸命評価してくれてるんやけど、ホントに転倒予防につながるんかな。。。。と。笑

この論文はその疑問に答えてくれる一つの回答だと思います。

非常にアメリカっぽいアプローチだなあというのが第一印象です。

ぼくがいうアメリカっぽいアプローチとは100点はとれなくても、誰がやっても同じように70点くらい取れるようなシステムの構築を行うことを指します。
(注:ブログ管理主はアメリカ留学経験、就労経験もないドメスティックな人間ですのでホントにアメリカっぽいかどうかは不明です。笑)

日本でもせっせと転倒の報告を挙げて頂いておりますので、同様の機能評価をおこない、転倒予防につなげたほうが良いのかもしれません。

日本の病棟では、どうしても仕事は”やっていること”という事実に夢中になりがちで、その仕事にどれだけの意味があって、どれだけ患者さんに資しているのか?ということを考えられなくなっております。やっていることに意味はありません。やったことで何か成果が得られて意味があるのです。

NST、ICT、褥瘡委員会。。。。。。。。。。病棟には山のように委員会、チームがありますが、仕事をしているだけではなく、もっと成果として発表し、その結果に基づいて改善していくというサイクルを組み立てる必要がある、と思いました。

大学の専門病棟を対象としているので、同じルールを導入してもすぐ自分のところでうまくいくわけではありません。もしやってみたい。と思われたら、まずは調査してみましょうか。ハイ。

しかし、アメリカの支払い機構はマジで厳しいですね。。。。
院内転倒は病院持ち出しなんですね。
そのうち日本もこんな風に世知辛くなったりして。。。。



2012年7月5日木曜日

20120705 JBJS(Am) Comparison of two preoperative skin antiseptic preparations and resultant surgical incise drape adhesion to skin in healthy volunteers

draped

”drape”とぐぐったらこの画像が出てきました。笑
本文と写真との間に何ら関連はございません。笑

抄録
背景
創縁にけるドレープのひっつき具合はとても重要である。皮膚とドレープはひっついている必要がある。創部のドレープが剥がれてしまった時の感染率は剥がれなかった時に比べて約6倍にもなるとの報告がある。本研究の目的は術前に行う処置がドレープのくっつき具合にどのように影響しているかを調べることである。
方法
3M社 Dura Prep なる 消毒用器械 または  ChloraPrep with Tint なる 器械 にて健常ボランティアの22名の消毒を行った。そこにドレープのサンプルを貼り付け、その後生食ガーゼで30分間カバーしておいた。(湿潤テストのため)。その後ドレープのサンプルを国際基準に法った引っ張り力測定器を用いて剥がした。その後皮膚トラブルがないかどうかを確認。
アウトカムは引っ張り力によって測定されるドレープの張り付き力とした。
結果
ChloraPrepで消毒された皮膚よりもDuraPrepの方が剥がれにくかった。はがれにくさがもっとも重要な要素であるが、皮膚トラブルがおこってはもとも子もない。いずれの皮膚消毒を用いてもドレープを貼った後には軽度の皮膚の紅斑が出現した。皮膚科を受診する必要はなかった。
結論
本研究で言えることは術前消毒の違いでドレープの張り付き方に違いがでる。ということである。ドレープを用いるのであれば、そのドレープが持ち上がらないようにするための消毒方法を考える必要がある。

考察
手術室ては様々な消毒方法が用いられている。Swensonらがおこなった後ろ向き研究でイソジン、イソプロリルアルコール、クロヘキシジングルコネートイソプロピルアルコールの3つを比較したところクロルヘキシジングルコネートイソプロピルアルコールが最も感染率が低かったと報告している。
多くの術者がドレープを用いいるようになってきている。
ドレープに対しては様々な見解があり、後ろ向き研究では効果がある。としており、前向き研究ではドレープあり群となし群で差がなかったとしている。Cochraneではドレープで感染率が下がるということはないだろうとしているが、エビデンスレベルが低い報告も含まれていることからさらなる研究が必要であると結論づけている。
ドレープは術中にはがれると細菌の混入率があがるのでしっかりとひっついていたほうが良い。今回DuraPrepのほうが有意によくひっついていた。今回は実際の手術体位ではなく、背中でしか評価しておらす、また実験室での結果にしかすぎないことがこの研究の問題点である。
このほかの問題としては皮膚トラブルの問題があるが、いずれの消毒でも大きな問題にはならなかった。
術前に使う消毒薬でドレープのひっつき具合が変わることがわかった。


【論評】
目の付け所が良いですね。笑。

私自身、綿球 with イソジンによる消毒を未だにつかっておりますが、アメリカではこんな消毒用マシーンが出ているのですね。(外用剤のアン◯ルツヨコヨコみたいな感じなんでしょうか)

僕自身はイソジン消毒に余り良い印象を持っておりません。

時々イソジン消毒のあと、ガーゼで拭きとってドレープを貼る先生がいらっしゃいますが、イソジン自体は乾くことによってその消毒能力を発揮するのであまりお勧めできない方法だよなー。だけどひっつかないと困るものな-と思いながら見ておりました。
そういう意味でこの研究は良い。とおもいます。実はイソジンそのものがドレープの張り付き具合を悪くしているのかもしれません。
できればイソジン消毒から変えて欲しいところですが、なかなか変わらないですよね。。。


ちなみにこの論文の執筆者はアメリカの3M社の研究者です。そりゃ自社製品が優っているという報告をするに決まっております。笑。 ChloraPrep を作っているScrub teal社の反撃を待ちたいところです。笑


2012年7月4日水曜日

20120704 JBJS(Am) The time up and go test is an early predictor of functional outcome after hemiarthroplasty for femoral neck fracture

Timed Up and Go Timed Up and Go

抄録
背景
大腿骨頚部骨折を受傷した患者の長期の身体的な機能予後を予想することは術者、リハビリ担当者のみならず患者本人、患者の家族にとっても必要なことである。本研究では大腿骨頚部骨折後の患者で術後早期の機能評価が長期的な機能予後とどの程度相関しているか調べることである。
方法
大腿骨頚部骨折を受傷し、人工骨頭置換術をうけた患者62人。最低2年間の経過観察を行った。機能評価の方法としてlower extremity measureとtime up and go test(TUG)を行った。
結果
受傷後機能レベルは有意に低下し、lower extremity measureは87.7点から62,4点に下がった。また補装具を要する割合も36%から54%に増加した。TUGを術後4日目、3週間目に施行した。ROC曲線を作成すると、術後4日目で58秒以上かかる、または術後3週目の時点で26秒以上かかる患者では術後2年目の段階で杖歩行となっていた。術後3週の時点でTUGが26秒かかる患者では術後2年で杖歩行となっている割合はそうでない患者の90倍であった。
結論
TUGは人工骨頭術後の患者の機能予後を予想する因子として有用であることがわかった。予後予測に基づいたリハビリなどの介入が今後は可能となるだろう。

考察
大腿骨頚部骨折後の予後を予測することは医療関係者のみならず、患者、患者の加須億にとっても重要である。リハビリは機能回復のための重要な因子であることのみならずリハビリ後の患者の状態が生命予後にも関わるのである。
この研究を通じて、TUGの値に対してその基準値を設けることができた。TUGは普段動的安定性をしらべるテストであるが、今回の研究を通じて2年後の歩行の能力の予測因子としても用いることができた。
一般に、退院時に杖が必要なければその後の予後も良好であるというのは言われていたが、大腿骨頚部骨折術後では退院時に杖なしであること自体が珍しい。TUGはシンプルなツールとして用いることが可能である。
術後4日目の時点でTUGが58秒以内であれば杖なし歩行が可能となる。3週目にTUGが26秒以上かかるような例ではそうでない例に比べて杖を必要とする割合が90倍となりうる。そのような例では早期に福祉、介護を導入しておく必要がある。
4日目での歩行能力も将来の歩行能力に影響することが今回わかった。4日目に大きな問題となるのは疼痛管理の問題である。術後の急性期疼痛管理はリハビリを進める意味でも重要である。
この研究の限界は、もともと歩ける人を対象としていることと、そのためにサンプルサイズが小さくなっていることである。大腿骨転子部骨折の患者や、手術方法が違う患者についても考慮はしていない。一つの目安として本研究は有用である。

【論評】
昔骨折治療学会で、術後2週間で平行棒歩行ができていれば元の歩行能力を回復するよ。という発表を聞いた記憶があります。僕自身が患者さんに説明するときもこの基準を使っていました。
本研究の優れたところはそれをTUGという連続変数で表したこと。連続変数を用いたことで、統計学的処理が可能となり、ROCで表すことができた、ことではないかと思いました。
筆者も述べているとおり、対象をしっかり絞り込んでおります。それを補って余りあるほどのしっかりとした前向き研究です。最初の研究デザインが良かったのだと思います。

同様の研究を行うとすれば、筆者らが述べたように骨折型、手術方法それぞれについて検討することや、アウトカムを生存率に変えてみるとかでしょうか。

術後4日目で予後予測が可能というわけですね。。。疼痛コントロールの重要性もまた調べて診る価値がありそうです。