2019年3月26日火曜日

20190326 Spinopelvic Hypermobility Is Associated With an Inferior Outcome After THA Examining the Effect of Spinal Arthrodesis

<論評>
最近話題の脊椎固定術後THAについて。脊椎の動態について臥位、座位、立位で測定しそれが大きな患者では合併症が多くまた患者立脚型評価が低かったことを示しています。
しかしながら、固定術後で骨盤動態が大きくなることは理解できますがそれに対する解決策を示しているわけではなく、固定術そのものが設置の難易度を上げる以上のことは示していないように感じました。


背景
多くの患者が脊椎固定術とTHAの両方を受けている。これらの手術を受けた患者では一方だけの治療を受けた人とその成績が同様かということについてはわかっていない。脊椎固定術がTHAがどのように影響するかはいまだ不明である。
本研究の目的は脊椎固定術の有無で患者立脚型評価が異なるかの比較を行った。また脊椎固定術の有無で脊椎の動態撮影を行いこれらの矢状面での変化についての検討を行った。また動態撮影での動きの良と患者立脚型評価、合併症、THA術後の脱臼についての検討を行った。
方法
症例対照研究である。THAと脊椎固定を行った42例の患者。最低12ヶ月のフォロー。平均フォロー期間は6±5年。年齢、性別、BMIを一致させた42例60関節を脊椎固定を行っていないTHA患者から抽出。すべての患者に対して患者立脚型評価、臥位・立位・座位での脊椎レントゲン写真。カップの設置の脊椎のアライメントパラメーターを測定。立位と座位の骨盤傾斜を脊椎骨盤動態として10度以下をStiff、10−30度をNormal、30度以上をHypermobileとして検討を行った。
結果
脊椎固定とTHAの両方を行った群では、患者立脚型評価が低く、また合併症の発生率が高かった。合併症としては特に脱臼が多かった。臥位と座位では骨盤傾斜の違いは認められなかったものの立位において固定術群が骨盤傾斜が大きかった。また股関節がより進展していた。脊椎固定とTHAの両方を行った群では脊椎骨盤動態がHypermobileである症例が多かった。このような骨盤動態が大きい群では患者立脚型評価が低く、また脱臼率が高かった。
結論
脊椎固定とTHAを両方行った患者においては、骨盤動態が大きいことが患者立脚型評価での低評価と関連していた。骨盤動態変化が大きな患者ではその理想とされるカップ設置角度が狭いので、ルーチンで骨盤動態変化の評価を行うべきである。

2019年3月18日月曜日

20190318 CORR Higher Volume Surgeons Have Lower Medicare Payments, Readmissions, and Mortality After THA

背景
外科医や病院は今まで以上に臨床成績や費用に対して責任を有するようになる”価値に基づいた医療”の時代の到来により、外科医ごと、病院ごとの臨床成績に注目が集まるようになった。しかしながら、質が高く、よりコストの低い医師を同定するための方法論については未だ議論がある。
目的
本研究では以下の点についての検討を行った。(1)THAを多く執刀する医師とメディケア、メディケイドの支払い、再入院率や死亡率に関連はあるのか。(2)アメリカで執刀数が少ない医師と多い医師がTHAを施行する割合はどの程度か 
方法
メディケア、メディケイドのデータからの後ろ向き解析。メリーランド州を除くアメリカ全土での初回THAについてメディケアを用いて実施された2013年から2016年までのデータを解析。409844例のTHAが実施され、77億ドル以上の直接費用が計上されていた。外科医を手術数に応じて5つのグループに分けて単変量解析、ロジスティック解析をおこない、費用、再入院率、死亡率について検討を行った。年齢、性別、人種、地理的要因、合併症をElixhauserの合併症指数を交絡因子として検討に加えた。
結果
最も執刀数が多いグループとその他の群とを比較すると、交絡因子を調整したあとでも低い群で支払い金額、再入院率、死亡率の上昇が認められた。最も執刀数が少ないグループでは一症例あたりの支払い金額が27.2%増加し、死亡率のオッズ比が4.7となった。いくつかの執刀数の少ないグループでは支払い金額が少なく、再入院率が低く、また死亡率が低いという群が認められた。中規模以上(年間11例以上)の病院でTHAの78%が行われ、それは全体の26%の術者で行われていたのに対して、小規模、最小規模(年間10例以下)の病院ではアメリカ全体の22%のTHAしか行われておらず、74%のそれぞれの術者で手術が行われていた。
結論
術者の執刀数と支払い金額の低下、再入院率の低下、死亡率の低下との間には強い双眼があることがわかった。年間10例以上のTHAを行う術者がアメリカでは大半であった。以前の結果と比較して、今回の結果はより症例数の多い術者に強い傾向を認めた。これらの結果は執刀数の多い術者に力を入れたほうが支払い金額を減らし、再入院を減らし、死亡率を低下させることを示唆している。しかしながらこれは全体の傾向にすぎず、重要なのは個々の術者について執刀数と実際の臨床成績を評価する必要がある。


<論評>
アメリカでは近年、費用対効果に目が向けられるようになってきています。執刀数の多い病院では周囲のスタッフも慣れていますので当然スムースに物事が運びますので余分な費用がかからない。ということなのでしょう。
メディケイドベースで年間10例以上というのが、実際他の保険も用いて何例くらいになるかはわかりませんが20例弱といったところでしょうか。
THAは良い手術です。ただ、医師の独りよがりではなく、しっかりとしたところでトレーニングを積んで周囲の教育も行った上で手術を行うとよい患者さんのためになるということかなと思って読みました。

2019年3月11日月曜日

20190310 Injury Periprostetic femoral fracture after total hip arthroplasty: an algorithm of treatment

<論評>
人工関節周囲骨折(PPF)についての論文です。単なるケースシリーズレポートですが、一つ一つの症例について丁寧に検討されているところが好感が持てます。
ケースシリーズならこうやって丁寧に検討してもらいたいものです。


背景
THAでの人工関節周囲骨折(PFF)に対する必要性が増大してきている。術者はまず大腿骨インプラントのゆるみ、骨欠損、骨折の分類についての評価が必要である。本研究の目的はVancouver分類に基づいた治療方針の決定が妥当かどうかを検討することである。
対象と方法
2010年から2014年まで、38例の大腿骨インプラント周囲の骨折を認めた。すべての骨折をVancouver分類に基づいて分類した。TypeB1が14例、TypeB2が8例、TypeB3が10例、TypeCが6例であった。年齢、性別、受傷機転、ASAスコア、手術の方法、合併症について検討を行った。レントゲン評価は1,3,6,12ヶ月で行った。臨床評価はMerle-d'Aubigne-Postel スコアにで行った。22例の骨接合、16例の再置換が行われた。また金属プレートの有無、同種骨プレートの有無についても検討を行った。
結果
平均フォロー期間は3.1年。平均年齢は71.2歳で最終フォロー時に6患者(15.7%)が死亡していた。術後16週で骨癒合が得られた。3例で再手術を必要とした。1例がステムの緩みで2例が再骨折であった。1例が高度の内反変形が残存した。術後のMerle-d'Aubigne-Postelスコアは13.2点であった。13例が優、14例が良、3例が可、2例が不可であった。20例の患者が術前の状態まで復帰した。12例の患者が歩行状態の低下を認め、補装具が必要となった。
結論
PFFは高い合併症率、死亡率を有する。しっかりとした治療アルゴリズムが必要である。

背景
PFFは人工関節の増加とともに増加している。疫学的には1から4%程度の骨折を生じると言われている。リスクファクターとしては骨粗鬆症、骨融解、年齢、女性、インプラントサイズなどが言われている。Vancouver分類がPFFの骨折の分類では広く用いられている。骨折治療については、骨折の部位、骨折した骨の状態、骨折部とインプラントの状態の3つを考慮する必要がある。治療の目標は早期骨癒合、安定したインプラント固定、解剖学的整復と正しい脚長、早期関節運動、また術前と同レベルの機能獲得、骨量の回復である。Vancouver分類で緩みをともなうType B2,B3と緩みを伴わないType B1、 Cで治療方針が異なる。骨接合のみを行えばよいのか再置換を含めた検討をおこなうのかの検討が必要である。本研究は後ろ向き3.1年のフォローで38例の人工関節周囲関節の評価を行うことである。
対象と方法
表1,2の通りである。TypeB114例、B22例が骨接合のみ、TypeB2の1例がセメントレスロングステム(Wagner revision long)にて置換、4例がセメントレスロングステムとプレート、ワイヤーとスクリュー固定、1例がこれに同種骨を追加。TypeB3に対しては全例セメントレスロングステム、プレート、ワイヤー固定と同種骨移植が行われた。TypeCに対しては6例ともプレート固定のみが行われた。
結果
1例の患者、2例の患者で創部からの浸出液が持続したものの3週間程度で収まった。深部感染例はなかった。術後12例の患者で合併症が行った。3例が尿路感染、3例が肺炎、2例が不整脈、1例が腹痛、1例が心筋梗塞、1例が脳血管障害、1例が腎機能障害であった。3年フォロー中に5例の患者が死亡した。術中死亡はなかった。3例が術後6ヶ月以内に死亡した。全例がASA3以上の重症な患者であった。TypeB1の1例で9度の内反を認めたものの再手術を希望しなかった。大腿骨側の合併症としては、1例で緩みをきたし、TypeCの2例で再骨折をきたした。Vanvouver TypeCのゆるみをきたした患者は、当初ステムが緩んでいないとはんだんされ、最初プレートとスクリュー、ケーブルのみで固定が行われた。8週間後のレントゲンでロングステム、プレート、スクリュー固定に変更となった。TypeCのもう一例は、当初ステム先端6センチのところでの骨折で、プレート固定が行われたが近位の固定力が不足していたために4ヶ月後にステムの先端で再骨折した。この患者はストラットの同種骨を用いて再固定し、ケーブル固定を行ったところ10度の内反変形を伴い6ヶ月後に骨癒合した。78歳女性のTypeB3骨折に対してロングステムとケーブル固定にて再置換したところ4年後にステム先端で新規骨折をきたした。これに対しては6本のケーブルを追加して骨癒合が得られた。11例で同種骨を用いた。4例が経過中に死亡した。3例が一部骨癒合が得られ、4例で完全な架橋が得られた(Emersonの分類)部分骨癒合にもかかわらずステムは安定していた。3例の患者でワイヤーの緩みが認められたが、それが原因で再手術になった患者はいなかった。ロングステムは全例で最遠位で固定が認められた。
臨床評価では、Type B21例とTyoeB3の2例が可。TypeB3とTypeCの1例ずつで不可であった。6例(15.7%)が経過中に死亡した。すべての患者が外来で何かしらの痛みを訴えていた。TypeCの患者が最も術後のトラブルが多かった。TypeB1は他の骨折よりも有意に臨床成績が良かった。年齢が高いほうが臨床成績は悪かった。
考察
PPFは人工股関節置換術後の重大な合併症の一つである。PPFが難しいのは最も正しい治療方法を選択することである。そのためには術前の評価が必要である。
インプラントの固定性でTypeB1かB2で分かれる。本研究でもB1と判断した2症例が実はステムが緩んでいて再置換術を必要とした。またステムが安定しているのでTypeCと判断した1例で実はステムが緩んでいたために再置換を必要とした。ステムの緩みの評価がPPFの治療の成否の鍵となる。そのためには術前のレントゲン写真の取り寄せが必要となるし、また術中にステムの緩みについてはしっかりと評価をする必要がある。
ゆるんでいるステムでは骨接合術を選んでは行けない。本シリーズでは患者のASAが4とアクティビティが低かったために骨接合術を選んだ。骨接合にはZimmerのNCBプレートとCable readyプレートを用いた。ロッキングプレートの優位性については多数の報告で述べられている。術者の経験は必要であるが固定性を増すためには有用な方法である。Type B1に対してさまざまな方法で固定を行ったものの各治療間に差を認めなかった。緩みがある場合には再置換が必要で、これは術者の技量が問われる。本シリーズではZimmerのセメントレスロングステムとしてWagnerのリビジョンロングステムを用いた。このようなステムでは骨折部のバイパスが必要であり、一般的には少なくとも7センチ、または大腿骨髄腔の2倍の長さは必要であると考えられている。本シリーズではセメントレスステムとプレートスクリュー固定を行ったTypeB2は非常に早く荷重を開始することができた。ただし、TypeB3では合併症が多かった。臨床成績は悪くは無かったが骨量回復の手段を講じる必要がある。
一般的な軟鋼線よりもケーブルのほうが固定性に優れることはいくつかの報告がある。ただし軟部組織の損傷、骨膜の損傷などには注意が必要である。本研究ではすべてプレートと一体化するようにケーブルを用いた。
セメントレスステムは再置換でも有用である。ロングステムでも髄内ロッドを用いることで初期固定性を得ることができる。ただし、セメントが残存していると骨癒合の阻害因子となりうる。ポーラスが全周性にコーティングされたロングステムの優秀な成績が報告されるようになってきた。本シリーズではこれらのステムの再置換は生じなかった。
また同種骨もPPFでは有用な方法である。骨癒合を獲得し、また骨量を獲得する方法として最も有用な方法である。一般的にはEmersonの分類が同種骨の癒合には用いられている。
PPFの治療評価は困難である。これは術前の患者の状態が大抵不明であることによる。今回MDPを用いて評価を行ったところ歩行能力の低下が目立った。また死亡率が15.7%にのぼったことも重要である。合併症率はまた高い。
的確な治療を行うためにはまず適切な術前評価が必要だろう