2012年11月21日水曜日
20121121 Up to date Epicondylitis(tennis and golf elbow)
上腕骨上顆炎=テニス肘、ゴルフ肘の治療のマトメです。
Summary and recommendations
・発症の危険因子としては、加齢、一日2時間以上の反復する運動。20kgを超える荷重がかかるような運動があげられる。
・ラケットの扱い方が悪かったり、不適切なラケットを用いているテニスプレイヤーに発症しやすい。
・上腕骨上顆炎の患者では内側もしくは外側の肘関節外の痛みを訴える。内側であれば屈筋腱の収縮、外側であれば伸筋腱の収縮もしくは他動にて疼痛が誘発される。
・鑑別には別に掲げる表のようなものがある。
・上腕骨上顆炎に対する治療のエビデンスはいずれも乏しい。
筆者らはリンク先のアルゴリズムにしたがって治療を提供している。(訳を別につけたものを提示します。)具体的にはテニスエルボーバンド、日常生活動作指導、禁忌がなければNSAIDsの処方を行う。
テニスエルボーバンドは筋腱付着部の負担を軽減し、疼痛、動きの改善が見込める。また上手な理学療法士によってプログラムされた積極的なストレッチングは効果的である。
・ステロイドの腱鞘内注射は短期的な予後を改善しうる。しかしながら再発を防ぎうるものではなく、また長期成績を保証するものでもない。
・この初期治療に反応しない場合には他の治療を提供する。腱の修復に関わる様々な治療が行われているが効果はいずれも限定的である。
・6ヶ月間の保存療法に抵抗し、また強い疼痛、著しい機能障害がある症例は専門医へ紹介を考慮する。
アルゴリズム1 6週間以内の急性期の上腕骨上顆炎に対する治療
アルゴリズム2 慢性期の上腕骨上顆炎に対する治療
<論評>
上腕骨上顆炎の治療のエビデンスの少なさに驚きました。
これだけ多種多様な治療法が提示されているということはいかにこの疾患が治りにくいかということを示していると思います。
腱、腱付着部の病態の解明がすすむと良いですね。
2012年11月19日月曜日
20121108 JBJS(Am) THA vs open reduction and internal fixation of distal fractures RCT and long term follow-up
抄録
転位型の大腿骨頚部骨折については、短期のフォローでは、高齢者で内術が固定よりもTHAのほうが成績が良く、再手術が少ないということはよく知られた事実である。
本研究の目的は長期にわたってフォローをしてみても、本当にTHAのほうが臨床成績がよいのか、ということを検証することである。
方法
100例の大腿骨頚部骨折の患者。単施設、無作為割り付け試験。受傷前は健康であった例を対象とした。女性79例、男性21例。平均年齢は78歳。43例にTHA、57例に内固定が行われた。最終評価ポイントは股関節機能とし、Harris Hip Score(HHS).を用いた。十zくする評価因子としては死亡率、再手術率、歩行スピード、ADLとした。
結果
HHSはTHAのほうが高得点であった。平均の得点差は14.7点であった。2群間に死亡率の違いを認め中田。THAの9%、内固定群の39%で再手術が行われた。最終的な再手術率はTHA群が23%、内固定群が53%であった。この結果は術後1年の段階でのADL、歩行スピードにも影響していた。
結論
17年という長期フォローを行った結果、健康な高齢者に発生した転位型大腿骨頚部骨折はTHAで治療したほうが臨床成績がよいことが分かった。
考察
近年健康な高齢者が増加している。健康な高齢者が大腿骨頚部骨折を受傷した場合の長期成績においても、THAのほうが内固定群よりも優秀であった。
THAはcementedにて行われている。使われているステムはチタン合金であった。近年チタン合金よりもコバルト合金のほうが臨床成績が良いことが知られてからは当施設では17年前に使っていたこのタイプのステムを使用していない。
本研究の価値はRCTである上に長期間のフォローを行ったことである。大腿骨頚部骨折の報告は雲の数ほどあるものの、長期成績について述べたものはほとんどない。今後長寿化が予想されるので、長期成績について知っておくことは重要である。
本研究の限界はいくつかある。一つは20年前に行われた無作為割り付けであるのでその確からしさが怪しい。
また完全に健康であった高齢者のみを対象にしていることは注意が必要である。
4年を超えたころから2群間でHHSの点数に差が出なくなってくる。これは多くの患者がTHAにコンバージョンしてしまっていることと、高齢化が進行し、機能低下が避けられないためであると考えられる。
死亡率については両群で差がなく高かった。しかしながら歩行能力はTHA群のほうが高かった。重要なことはTHA群のほうが疼痛なく生活できていたという事実であろう
THA群のもっとも多い合併症はやはり脱臼であった。大径骨頭の使用、後方要素の再建を行うことで脱臼率は低下傾向にあることは追記しておく。
ゆるみについては他の股関節疾患の患者とそれほど変わりは見られなかった。
<論評>
RCTにも関わらず、17年という長期フォロー。恐れ入りました。
確かに大腿骨頚部骨折の患者の長期フォローってなかなか難しいところがあります。
外来の予約日にお見えにならなくて電話をするとご家族が代わりに出られて、他界されたというお話を聞かされることは同様の研究を行ったものであれば一度は経験したことがあるかと。
HHSで20点違うというのはものすごい違いです。疼痛が常時あるか、歩行が必ず杖もしくは松葉つえとなっているか独歩疼痛なしかくらいの差がありますので、患者さんに負担をかけてまで内固定を選択する理由はないものと考えます。
2012年11月12日月曜日
20121109 JBJS(Am) Does sleep deprivation impair orthopaedic surgeons' cognitive and psychomotor perfomance
睡眠不足は、反応を遅らせ、判断を鈍らせ、思考能力を低下させる。本研究の目的は睡眠時間によって外傷整形外科医の認知機能や、精神状態が変化するのではないかということを調査した。
方法
都会にある教育研修施設であるような外傷センターに勤める31人の外傷整形外科医を対象とした。(レジデントから指導医まで)。ハンドヘルドのコンピューターを用いて認知機能と精神状態のテストを行った。結果は多変量解析を用いてテストの点数とその他睡眠量などに関連する因子に関して検討を行った。
結果
4時間をしきい値として、4時間以下の睡眠では有意にミスをする可能性が高くなった。(Odd比 1.43)。記憶力、集中力、注意力などでも有意に低くなった。
結論
4時間以下の睡眠しかとっていない整形外科外傷外科医は認知面での機能低下を認めた。このテストが実際にどの程度手術のパフォーマンスと関連しているかは不明である。
考察
本研究は当直/夜勤明けでも働いている整形外科外傷外科医の認知機能面での活動を評価したものである。睡眠が4時間以下となった場合には1つ以上のミスを犯す危険率が43%増加することがわかった。特に連続して記憶する能力の低下が認められた。記憶に関してはミスを犯す危険性が83%増加した。
本研究の対象となった外科医は短期の睡眠障害状態にあるというように本研究では定義されているが、実際にはこの外科医たちは慢性的な睡眠障害に陥っている。NIHの定義によると健康的な睡眠とは7から8時間程度の睡眠を指す。睡眠時間の減少は集中力の欠如、反応時間の遅延、気分障害を引き起こす。この研究に参加した外科医たちの睡眠時間は7時間を下回っていた。平均的な睡眠時間は研修医で5.4時間。指導医で6時間であった。以前に行われた研究では慢性的に6時間以下の睡眠しか取れていないと機能低下することが示唆されている。
もし、一晩寝られないだけで認知機能の低下が認められるようであれば、夜勤の連続は慢性の睡眠障害を引き起こし、より有害である。という結論になるのかもしれない。Saxenaらの研究で自宅までコールがあるレジデントと、自宅へのコールがないレジデントを比較して自宅までコールがあるレジデントのほうが反応が鈍くなってくるということを示している。これらの研究の結果は睡眠障害は認知機能、精神状態に大きく影響するということを示している。
いままで整形外科医に対する同様の研究はなかった。外科医以外での研究はいくつか行われており、それらはすべて睡眠障害が臨床能力に悪影響をおよぼすということを示唆している。ある研究ではコールが連続した状態の能力はアルコール摂取した精神状態とほぼ同じであるとする報告もある。
外科医の能力が睡眠障害によってどう変化するか、について。腹部外科では当直明けの医者が腹腔鏡シュミレーターを行うと手術時間が14%伸び、20%ミスが増加することを示している。この結果はシュミレーターを用いたものであり、実際の手術ではどうなるかは定かではない。
胸部外科の分野では、日中、夜勤帯での手術成績を比較して合併症、死亡率に差が無いことを示している。しかしその前にどの程度働いていたかなどのデータは無いため睡眠障害とどの程度関連しているかは不明である。
本研究の限界はテスト自体が10分間で終わるものであったために、実際の睡眠障害の程度を測る上で適切なテストであったかどうか不明なことである。またテストのまえに普段からのどのような生活をおくっているのかについても聴取できていない。本来1時間程度の精神状態を測定するほどのテストを行わないと行けないのであろうが、日中普通の業務をしている外傷外科医の時間をとるわけにはいかなかったため短時間のテストしか行えなかった。
睡眠障害では連続して記憶していく能力の低下が著しかった。これが注意力の低下、集中力の低下につながっていた。困難な事例に夜間遭遇した際に特に問題になるものと考えられた。
パイロットなどの職業では睡眠障害による害を認め、国家レベルで就業時間の制限を設けているのにもかかわらず、医療関係ではそういった配慮をしないことは不思議なことである。
実際の手術にどの程度影響があるかは本研究ではわからない。今後は睡眠障害と手術の影響についての評価が必要である。
<論評>
アメリカの夜勤帯はハゲしいと聞きますので、一概に日本の当直体制と比べて良いかはわかりません。笑
日本では当直明けそのまま勤務が普通ですので、36時間程度病院にいることは珍しくありません。
『当直』という言葉の定義は『夜間病院で何かがあった時に対応できるようにその病院にいること』ですので、救急などの対応を行うのは『夜勤』であるべきと考えています。
こんなブログを仕上げているひまがあれば早く寝なさいというのが本日の結論です。笑
2012年11月1日木曜日
20121101 JBJS(Am) The influence of obesity on the complication rate and outcome of total kenn arthroplasty : A meta-analysis and Systematic review
抄録
アメリカでは、病的な肥満患者数が増加している。BMI30以上を肥満とすると、肥満患者では明らかに関節症の危険性が高まる。更に肥満患者に対する人工関節置換術はこの10年で増加傾向にある。本研究の目的は肥満が人工膝関節置換術に与える影響についてsystematic review, meta-analysisを用いて評価することである。
方法
文献検索を行い、Cochraneのガイドラインに沿ってその論文に重み付けを行った。
結果
20の文献が評価するに値する文献であった。14の文献、15276例の報告で感染について述べられていた。感染について、肥満であることは肥満でない患者に対してodds比1.90で感染し安かった。再手術、デブリードマンを必要とするような患者については9つの文献で述べられており、肥満であることのodds比は2.38であった。再置換術についてはodds比1.30であった。
結論
肥満であることは人工関節置換術に悪影響をおよぼす
考察
今回のシステマティックレビューの目的は肥満が人工膝関節置換術に悪影響を与えるかどうかを明らかにすることであった。
BMI>30を超えるような肥満であると、感染率、再置換率がより高くなることがわかった。なので、肥満を有するような患者に対しては体重が増えることの危険性について十分に情報提供を行い、また体重コントロールをするように手助けをする必要がある。
感染についてのメタアナライシスを行ったものの、感染率が極めて低いためにバイアスがかかっている可能性が否定出来ない。
肥満患者は肥満でない患者と比べて併存症の率が高い。肥満で併存症のない患者と肥満で併存症のある患者のリスクは同等ではない。今回はBMI30以上を肥満と設定したことでより問題のある肥満患者を抽出したものと思われる。
肥満についてはRCTは困難である。盲検化するのが精一杯である。今回論文のスコア化の方法を用いて幾つかの論文をピックアップでき、妥当性を確保することができた。
とにかく肥満は人工膝関節に悪い。
<論評>
肥満とTKAについてのシスティマチックレビューです。
一般にメタアナライシス、システマティックレビューは無作為割付試験のようなレベル1と呼ばれる高いエビデンスレベルをもった論文をピックアップするのが普通ですので、本研究のように前向き研究、後ろ向き研究からだけでつくられたというのはやや珍しい印象を受けました。
まあ、いわれている内容は別に大したことありませんが、この方法論をしっておくとRCTが困難な外傷なんかも解析が可能になるのかもしれません。
登録:
投稿 (Atom)