抄録
感染性人工股関節に対する再置換術144例において、Trabecular metal (TM)寛骨臼コンポーネントの使用が術後の再感染による再々置換を減少させたとする単施設からの報告がある。この研究からTM寛骨臼コンポーネントの使用が再々置換において有用な可能性が示唆された。イングランドの報告では初回THAにおけるTM寛骨臼コンポーネントの使用が感染による再置換を低下させたとする一方、スウェーデンとオーストラリアのレジストリーではすべての再々置換では差を認めなかったとする報告をしている。以上からTM寛骨臼コンポーネントは感染性人工関節の再置換では有用かもしれないと考えられた。
そこで、今回の研究の目的はTM寛骨臼コンポーネントはTMでない寛骨臼コンポーネントと比較して感染性人工股関節のあらゆる原因での再置換率を低下させるか、また再置換術後の感染率を低下させるかどうかの検討を行った。
方法:後ろ向き観察研究。イングランドの国家レジストリーを用いて行われた研究。11,988例の再置換術のうち、感染性人工股関節に行われた再置換術のうち、同一メーカーのTM寛骨臼コンポーネントと非TM寛骨臼コンポーネントで手術が行われた794例についての検討を行った。TM寛骨臼コンポーネントが541例。非TM寛骨臼コンポーネントが253例であった。患者背景を比較。再々置換をエンドポイントとした。プロペンシティマッチングを行い生存率を比較。
結果:TM寛骨臼コンポーネントと非寛骨臼コンポーネントの間での5年間でのインプラント生存率は96.3%と94.4%と差を認めなかった。また感染率においても差を認めなかっった。
結論:本研究からはTM寛骨臼コンポーネントが感染性人工関節での再々置換率、感染率の低下に有用であるとの結論は得られなかった。TM寛骨臼コンポーネントが感染防止に有用であるとは言えない。
背景
人工関節感染は再置換の主な原因の一つである。人工関節感染の管理はまだ挑戦的な領域であり、その発生率は上昇傾向にある。TM寛骨臼コンポーネントは昨今再置換術において広く使われるようになってきている。ある単施設からの報告では感染性人工関節144例の治療においてTM寛骨臼コンポーネントを用いた群ではそうでない群と比較して感染率が低かったとする報告がある。これはTM寛骨臼コンポーネントが感染に対して抵抗的に働く可能性を示唆している。3つの国家レジストリーでそれぞれTM寛骨臼コンポーネントの感染防御について検討した結果、TMコンポーネントは18200例の初回人工股関節において感染による再置換率が低かった。ただしこの結果には疑問が残るところもあった。再々置換について調査したところ、TM寛骨臼コンポーネントと非TM寛骨臼コンポーネントの間には差を認めなかった。スウェーデンとオーストラリアでも同様の結果であった。TM寛骨臼コンポーネントは、全再々置換では差をみとめないが、感染による再々置換では感染を減らすこうかがあるのかもしれない。しかしこれを検討するにはサンプルサイズが小さく、感染による再々置換が247例しかなかった。今回より大きなコホートを用い、傾向スコアマッチングを行い検討を行った。
本研究の仮説は、TM寛骨臼コンポーネントは再置換術時にもちいられると非TM寛骨臼コンポーネントよりもすべての理由での再々置換率を減少させる。というものと再置換術後の感染率の低下を認める。というものである。
対象と方法
イングランドの国家レジストリーを用いた後ろ向き研究。200万を超えるデータベースである。11988例の再置換術のうち、感染を理由に再置換を受けたものは7%、794股関節出会った。541例がTM寛骨臼コンポーネントが用いられ、253例が非TM寛骨臼コンポーネントであった。平均フォロー期間は5.3年である。
仮説のようなエンドポイントを設定。患者背景には違いを認めたため、カプランマイヤーによる比較の際には傾向スコアマッチングを行った。
結果
TM寛骨臼コンポーネントと非寛骨臼コンポーネントの間で再々置換率は差がなかった。また感染率も差を認めなかった。
考察
TM寛骨臼コンポーネントが再々置換率を下げたり、感染率を下げたりすることはなかった。本研究の限界はTM寛骨臼コンポーネント、非寛骨臼コンポーネントの使用についてさが大きいことである。傾向スコアマッチングを行ったものの、レジストリーで登録されていない事項については検討が不可能である。また再置換術時の組織学的、細菌学的検査がなされていない。本当のPJIでないものも組み要られている可能性がある。また感染率が低いことも要因かもしれない。またこの研究の結果が他のポーラス型の寛骨臼コンポーネントでいえるかどうかは不明である。
今回の研究でTM寛骨臼コンポーネントは非TM寛骨臼コンポーネントと比較して優れた成績を残すことはできなかった。本研究は人工関節感染にかぎって行われた緩急であるが他の研究と同様にTM寛骨臼コンポーネントが勝っているとするエビデンスを出すことができなかった。骨形成がよいとか白血球を誘導しやすいなどのさまざまな理由が考えられてきたが、レジストリーの結果からはTM寛骨臼コンポーネントが勝っているとする証拠はなかった。
2019年8月26日月曜日
2019年8月25日日曜日
20190825 CORR What Factors Are Associated With Neck Fracture in One Commonly Used Bimodular THA Design? A Multicenter, Nationwide Study in Slovenia
抄録
いわゆるモジュラーネック型のステムは患者の大腿骨の前捻に一致させることができる。しかしながら様々なレジストリーにおいてこのようなモジュラーネック型のステムはモノブロックのステムに比較してヘッドネックジャンクションのトラニオンの摩耗腐食によって高い再置換率が報告されている。しかしこれらのステムは未だに市場で発売されている。
本研究の目的はモジュラーネック型THAの無菌性ゆるみの危険率について調査し、ステムネックジャンクションの破綻率の調査、またその破綻に関わる因子の検討である。
方法:スロベニアの国家レベルのレジストリーの後ろ向き研究。2767例のPrfemurZステムの平均8年の経過観察。2002年から2015年までで26132例のTHAが登録されていたので、11%の症例で使用されていた。79%の患者がOAであった。チタン年句が90%の患者で、10%がコバルトクロムの症例であった。
結果:55例、2%の患者において無菌性の緩みが認められた。12年でのステム生存率は97%と算出された。ネック部での破綻を認めた患者は23例(0.83%)であった。23例中20例が男性で19例が長いネックを用いていた。男性、長いネック、若年、コバルトクロムネック、長いネック、手術からの期間が危険因子として抽出された。
結論:ProfemurZのゆるみ、破綻率は他の報告よりも低いものであった。しかしながら若年、コバルトクロムのネックではそのリスクが高くなった。多くの患者ではリスクが有益性を上回っており、もし別のステムが用いられていればこのようなリスクが生じなかったことを肝に命じておくべきである。
Introduction
モジュラーネックは大腿骨の前捻を調整することで脱臼防止に効果があるのではないかということで開発された。一つはヘッドとネックの部分の腐食によりMoMのARMD。もう一つがステムのネック部分での破綻である。2010年にProfemurZのチタン製のネックが骨折することが報告された。この報告では1.4%の症例においてネックの破綻が起こると報告している。ProfemurZは、2002年に開発され、692例の報告では12年間での再置換率が0.3%と報告された。2010年にチタンネックでの破綻が報告されたあとには2015年にはコバルトクロムネックはより高い破綻率によりリコールされている。
Patient and Methods
スロベニアの国家レジストリー。2457例、2767股に対して初回THAのステムとしてProfemurZが用いられていた。全体の登録数が26132例であったので、使用割合は11%である。78%の患者が一次性のOAであった。再置換をエンドポイントとした。平均フォロー期間は8年。48%が男性に用いられていた。
男性の平均年齢は60歳。女性の平均年齢は63歳であった。平均BMIは29であった。ProfemurZは22種類のネックを選ぶことができる。3例ではMoMTHAが行われておりこれは除外した。
Result
12年でのステム生存率は97%である。再置換までの平均期間は4年。再置換の主な原因はネックの破綻であった。ネックの破綻は23例(0.83%)で認められた。コバルトとチタンのネックで破綻までの期間に差はなく4年であった。男性、長いネック、若年、コバルトクロムネック、長いネック、手術からの期間が危険因子として抽出された。
考察
モジュラーネックTHAはいくつか使用されていたが徐々にその合併症が多数報告されるとともに使用頻度が下がってきた。新しいデザインのモジュラーネックはその成績は明らかとはなっていない。本研究はその新しいデザインのモジュラーネック型ステムの成績を国家レベルのレジストリーで明らかとした。本研究の限界は、患者の活動性について明らかとしていないこと。また大規模病院を中心としたレジストリーであるので中小病院での成績が不明なこと。ネックの詳細までは不明であったためどのようにネックが挿入されていたかが不明なことである。ステムの生存率は97%。またネックの合併症率は0.83%と以前なされた報告よりも良好なものであった。
ルーチンでのモジュラーネックステムの使用は行うべきではないと考える。今後テクノロジーが進歩したとしても特に前捻が強い患者のみを対象とするなど適切に患者選択が行われたほうが良い。
論評
スロベニアからの報告。
日本でも発売されているPrfemurZのネックでの破綻について。中期成績は他のステムと同様のものであったとのこと。
ただし、論文執筆者が述べているように、前捻を大きく変更しないと脱臼してしまうとかそういったこともないのにむやみにモジュラーネックを使うのは患者に不必要なリスクを負わせていることになるので現に慎むべきと考えます。
日本でも人工関節レジストリーが深化していきますがこのような危険なステムの抽出が行われ患者さんが無用な不利益を被ることがなくなると良いと思います。
いわゆるモジュラーネック型のステムは患者の大腿骨の前捻に一致させることができる。しかしながら様々なレジストリーにおいてこのようなモジュラーネック型のステムはモノブロックのステムに比較してヘッドネックジャンクションのトラニオンの摩耗腐食によって高い再置換率が報告されている。しかしこれらのステムは未だに市場で発売されている。
本研究の目的はモジュラーネック型THAの無菌性ゆるみの危険率について調査し、ステムネックジャンクションの破綻率の調査、またその破綻に関わる因子の検討である。
方法:スロベニアの国家レベルのレジストリーの後ろ向き研究。2767例のPrfemurZステムの平均8年の経過観察。2002年から2015年までで26132例のTHAが登録されていたので、11%の症例で使用されていた。79%の患者がOAであった。チタン年句が90%の患者で、10%がコバルトクロムの症例であった。
結果:55例、2%の患者において無菌性の緩みが認められた。12年でのステム生存率は97%と算出された。ネック部での破綻を認めた患者は23例(0.83%)であった。23例中20例が男性で19例が長いネックを用いていた。男性、長いネック、若年、コバルトクロムネック、長いネック、手術からの期間が危険因子として抽出された。
結論:ProfemurZのゆるみ、破綻率は他の報告よりも低いものであった。しかしながら若年、コバルトクロムのネックではそのリスクが高くなった。多くの患者ではリスクが有益性を上回っており、もし別のステムが用いられていればこのようなリスクが生じなかったことを肝に命じておくべきである。
Introduction
モジュラーネックは大腿骨の前捻を調整することで脱臼防止に効果があるのではないかということで開発された。一つはヘッドとネックの部分の腐食によりMoMのARMD。もう一つがステムのネック部分での破綻である。2010年にProfemurZのチタン製のネックが骨折することが報告された。この報告では1.4%の症例においてネックの破綻が起こると報告している。ProfemurZは、2002年に開発され、692例の報告では12年間での再置換率が0.3%と報告された。2010年にチタンネックでの破綻が報告されたあとには2015年にはコバルトクロムネックはより高い破綻率によりリコールされている。
Patient and Methods
スロベニアの国家レジストリー。2457例、2767股に対して初回THAのステムとしてProfemurZが用いられていた。全体の登録数が26132例であったので、使用割合は11%である。78%の患者が一次性のOAであった。再置換をエンドポイントとした。平均フォロー期間は8年。48%が男性に用いられていた。
男性の平均年齢は60歳。女性の平均年齢は63歳であった。平均BMIは29であった。ProfemurZは22種類のネックを選ぶことができる。3例ではMoMTHAが行われておりこれは除外した。
Result
12年でのステム生存率は97%である。再置換までの平均期間は4年。再置換の主な原因はネックの破綻であった。ネックの破綻は23例(0.83%)で認められた。コバルトとチタンのネックで破綻までの期間に差はなく4年であった。男性、長いネック、若年、コバルトクロムネック、長いネック、手術からの期間が危険因子として抽出された。
考察
モジュラーネックTHAはいくつか使用されていたが徐々にその合併症が多数報告されるとともに使用頻度が下がってきた。新しいデザインのモジュラーネックはその成績は明らかとはなっていない。本研究はその新しいデザインのモジュラーネック型ステムの成績を国家レベルのレジストリーで明らかとした。本研究の限界は、患者の活動性について明らかとしていないこと。また大規模病院を中心としたレジストリーであるので中小病院での成績が不明なこと。ネックの詳細までは不明であったためどのようにネックが挿入されていたかが不明なことである。ステムの生存率は97%。またネックの合併症率は0.83%と以前なされた報告よりも良好なものであった。
ルーチンでのモジュラーネックステムの使用は行うべきではないと考える。今後テクノロジーが進歩したとしても特に前捻が強い患者のみを対象とするなど適切に患者選択が行われたほうが良い。
論評
スロベニアからの報告。
日本でも発売されているPrfemurZのネックでの破綻について。中期成績は他のステムと同様のものであったとのこと。
ただし、論文執筆者が述べているように、前捻を大きく変更しないと脱臼してしまうとかそういったこともないのにむやみにモジュラーネックを使うのは患者に不必要なリスクを負わせていることになるので現に慎むべきと考えます。
日本でも人工関節レジストリーが深化していきますがこのような危険なステムの抽出が行われ患者さんが無用な不利益を被ることがなくなると良いと思います。
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