Summary
歩行、姿勢の制御はたくさんの要素によって制御されている。どのレベルでの障害があっても歩行障害はおこりえる。
歩行障害は高齢者において機能障害、病的状態となる主要な原因である。60歳以上で15%に歩行障害がみられ、年齢の上昇とともにその割合は増えていく。
神経原性の歩行障害
上位神経ニューロン、下位神経ニューロン、神経筋接合部での問題が考えられる。
上位神経ニューロンが障害されている患者では、その歩容は股関節の屈曲が十分できないので、つま先が床から完全に離れないようにしか歩行できない。円運動をするように足を振り回し、股関節屈曲が十分できないことをカバーしている。
下位神経ニューロンの障害がある患者においては下垂足となるので、それをカバーするように股関節を大きく曲げて歩こうとする。
筋障害がある場合では骨盤を傾斜させながらよたよたと歩く。
痙性は上位神経ニューロン損傷の一形態で、しばしば脊髄損傷で認められる。痙性歩行は、狭義には歩行時に床からつま先が離れずに歩く状態をいう。
歩行障害のもっとも主要な原因が求心路遮断である。固有受容器の障害により、歩行が大きくなり、股を開いた状態で歩くこととなる。一歩ずつの進む幅は小さくなり、特に夜間、暗闇での歩行障害が著明となる。
アテトーゼ、舞踏病などでみられる過剰な運動、パーキソニズムにみられるような寡動は錐体外路症状として認められる。過剰運動は進行しない限り歩行障害の原因とはなりにくい。逆にパーキソニズムは歩行障害の主要な原因の一つである。パーキソニズムの歩行では足をそれほど開かずに一歩も小さい。歩行するときに床から足が離れることも少ない。猫背で手を振ることも少ない。最初の一歩が出にくい。
小脳失調もよくみられる。足幅は広く、その一歩は小さい。よろめき、歩行になめらかさを欠き、酔っぱらいのようにふらふらと歩く。これらの兆候はほかの失調を示す所見とともに現れる。
前庭障害は空間での位置感覚の障害として現れる。歩くときには障害されている耳の側に傾いて歩く。やや足幅を開いて歩幅は狭い。方向転換のときに躓きやすい。目を閉じさせたまま方向転換させてみたり、眼振があるかどうかが診断の助けとなる。
前頭葉の障害も歩行障害の原因となる。皮質下の脳血管障害、正常圧水頭症、神経変性疾患などでみられる。前頭葉での障害がある場合の歩行障害のパターンは様々で、現在のところはっきりとした分類はない。
・歩行はゆっくりで歩幅が小さいか、足幅を開いた状態で普通の歩幅で歩こうとする。いっぺんに方向転換しようとするため凍結したようなと表現されることがある。
・最初の数歩がなかなかうまく出せない。
・加齢による変性でも同様の歩行障害をきたしうる。加齢による場合には画像上の変化は認められない。
・前頭葉での失調だと歩行が破たんし、足がクロスするように歩行する。重心の動揺も著しく奇妙な感じを受ける。
姿勢によるミオクローヌスは立っている最中に突然おこる。患者は立っている最中の足の痙攣を訴える。歩行障害は様々で半分の患者で歩行時の失行や一歩目が出にくいといった症状がでる。
精神疾患による歩行障害は神経学的所見が一致しないことが特徴である。歩行障害の奇妙さも一般の場合とは異なる。歩行が妙に遅く、その体勢の保持も体を大きくゆすって保持しようとする。
譫妄、脳炎も歩行障害の原因となる。歩行時に下肢の羽ばたき振戦がみられ、歩行における失行も認められる。
神経障害以外の原因としては視野欠損、整形外科的問題、リウマチ関連疾患、薬剤の副作用、心血管、呼吸器の問題が考えられ、これが単体または神経学的問題と合わせておこっていることもある。