Background:
足根管症候群の臨床診断は客観性と普遍性に欠けている。われわれは内果の後方、屈筋支帯の真下を走る脛骨神経を圧迫する診察手技を考案した。このテストでは、足関節を受動的に最大回外・背屈にし、MTP関節を全て最大背屈した状態を5-10秒保持する。
Methods:
我々はこのテストを50名100足の健常ボランティアと1987年から1997年の間に足根管症候群の手術治療を受けた37名54足に対して行った。手術前後でこの操作を行い、徴候や症状の変化を記録した。術中、この操作により足根管内での解剖学的状態がどうなっているか観察した。平均フォローアップ期間は3年11ヶ月であった。
Results:
術前、この手技により足根管症候群の徴候や症状が強くなったり、引き起こされたのは、感覚異常の20足中15足、痛みのみの訴えの17足中15足、感覚異常と痛みがともにあった7足中6足であった。局所の圧痛は43例中42例で増強し、症状のなかった1足で出現した。Tinel signは51足でよりはっきりし、症状のなかった3足で誘発された。術中、足関節を背屈、踵を回外、つま先を背屈すると靭帯の真下で脛骨神経がstretchされ、圧迫された。術前の徴候や症状は術後平均2.9ヶ月で消失し、3名を除いて同様の手技を行っても誘発されなかった。3名はいずれも踵骨骨折後の足根管症候群の患者であった。健常ボランティアではこの手技で一人も徴候や症状を呈さなかった。
Conclusions:
この新しい手技は足根管症候群の診断を容易にする。
Fig. 1
足関節は最大回外・背屈、MTPは全て最大背屈
Fig. 2
術中にこの手技を行ったところ。*は脛骨神経、矢印が長母趾屈筋腱
Fig. 2-A
靭帯の切除前、足関節背屈、足部回外、つま先背屈で長母趾屈筋腱がさらにtunnel内に侵入し、脛骨神経がstretchされ、靭帯による圧迫を受けている。
Fig. 2-B
靭帯のrelease後、脛骨神経は同様の操作を行ってももう圧迫されない。
Discussion
足根管症候群の診断は最初は病歴と身体所見でつける。信頼性の高い誘発試験は診断の正確性を向上する。
ターニケットテストが報告されているが、その正確さと特異度は知られていない。この症候群では脛骨神経に圧迫を加えるか緊張を加えて症状を誘発させることで所見をとる。Linscheidらは内果の遠位に60秒圧迫を加えるテストを考案したところ、34例27例で症状が増強された。ほかにも特定の肢位をとらせるテストが行われ、SLRを行いながら足部を背屈、踵を外反したり、足部を回内で保持したりするものがあった。しかし、これらのテストは、Lamの回内テストを除くと、信頼性についての詳細は詳しく報告されていない。Lamのテストも10名中2名が症状を再現したのみであった。
今回の手技では54足中8足で症状は変わらなかった。Linscheidらの報告とこれは同等である。しかしLinscheidらのそれより手技の時間はかからない。
健常ボランティアで徴候や症状が一人も出なかったのは注目すべきである。この手技はほかの方法より特異度が高い。
われわれの死体を用いた研究では、脛骨神経の緊張は回外、背屈、その組み合わせで有意に増加した。
この手技は患者にとっても苦痛なく、施行者にとっても容易である。特に臨床医が迷ったとき、足根管症候群の診断の感度を上げるのに有用である。
2010年2月27日土曜日
2010年2月25日木曜日
2010.2.25 第25回東海小児整形外科懇話会
教育研修講演
小児整形外科外来診療で知っておきたい小児脊椎疾患とその対応
国立病院機構 神戸医療センター 整形外科 部長 宇野耕吉先生
<斜頚について>
・骨性斜頚に注意
筋性だと放置していて訴訟になったケースも・・。「7歳で筋性斜頚」などはありえない。後頭・C1・C2の異常によるものが多い。構築性+機能性。
・骨関節性斜頚
<AARF>
Cock robin position
最近慶応よりCTのフォローで外傷が契機となっている可能性があると報告されたが(以前よりも言われているが)、実際に外傷が契機となったケースは少ない。
開口位は痛がって実際に撮るのは難しい。まずは3D-CTを撮影するとともにGlisson牽引を2週間。だめならHalo。ただしHaloを付けるために全身麻酔をかけるとその時点で整復されていることが多い。ほとんどがⅠ型・Ⅱ型。Ⅲ型はまれ、Ⅳ型を見ることはまずない。
非典型的な例では精査のためMRIが必要となることも。実際にAARFが疑われ、自然整復後のようなCT画像を示した症例で、臨床所見にて前後屈で痛みが生じ、回旋が可能な症例があった。MRIで髄内腫瘍(Glioma)を認めた。
<環軸椎不安定症>
・リウマチ・外傷・骨系統疾患・ダウン症・続発症・その他
見落としが非常に多い!!
ADI・SAC(PADI)、機能写を必ずチェック!
ADI5mm以上あれば小児脊椎外科医へ
成熟に達するまでは年2,3回のフォローが必要。
小児脊椎をライフワークとする覚悟がなければ、見ない方がよい
外傷をきっかけに四肢麻痺・呼吸停止に至りやすい!!安易にダウン症の子の親に「マット運動はしない方が良い」「転ばないように注意して」と指導するのはいけない。ダウン症の子が守れるかといえば難しい上、万が一麻痺や呼吸停止に陥ったときの親の心理的負担は計り知れない。
骨系統疾患、ダウン症の子は必ず頚椎レントゲンを!!
<脊柱変形>
・美容上だけの問題である。
・50度以上が手術適応であり、40度までは手術不要であり待機
・骨格の成長が止まれば進行しない
・車椅子の患者は適応とならない
・腰椎レベルの曲がりは放置で良い
・・・・・・は誤りである。
長期成績において、先天性側弯の高度側弯例では40歳以上で有意に死亡率が上昇する。ただし思春期特発性側弯の場合はこの限りではない。
先天性側弯の場合、呼吸停止に至る場合もある。特に神経・筋疾患によるものは(筋ジストロフィーなど)、注意が必要であり、手術でADL、QOL、生命予後の改善が図れる。実際の症例では、高度側弯のあった先天性ミエリン低形成性ニューロパチー(?)の患者では16歳で呼吸困難。一旦改善するが、半年後に呼吸困難、四肢脱力を発症し、呼吸停止に・・・。矯正にて呼吸症状は改善。同様の呼吸苦を主訴として来院する症例は比較的多い。
軽度側弯の場合は正確なX線が撮れていないことが多い。
・全脊柱撮影、半切フィルム
・両上下肢下垂位、AP、立位
・両肩の位置、骨盤傾斜に注意
・撮れた写真で正中仙骨線を確認
・・・・・・以上を必ず確認。
側弯だと思ってよく正中仙骨線をみるとレントゲンがおかしい・・。実は筋性斜頸の遺残であったことも。
Risser sign 0or5で判りづらいことが多い。0は腸骨稜がつるんとしているが、5はカクカクしている。10歳以下で5はありえない。
Cobb角20°以上は脊椎外科医へ。
手術法は後方が現在は殆ど。
先天性は早く手術。まだ40°だから・・・と待っていては取り返しの付かないことに。10歳未満の脊柱変形は対応を誤ると致命的なことになりうる。
成人でも40代なら矯正可能。呼吸器症状などADLの改善を図れる。50歳以上は骨粗鬆症のため矯正が難しい。
新しい治療法では、10歳以下の症例に対し、Growing Rodの使用。VEPTER:側弯だけ治しても胸郭を開いてあげなくてはいけない。名城病院川上医師が日本へ導入するため尽力。ただし、これらは半年に1回伸ばすためのの手術が必要。それにかわるShilla operationも報告されている。
脊髄空洞症とArnold-Chiariの合併はいつ手術?
演題より
・ボストンブレース
採型不要、採寸のみで可。採寸部位は胸部、ウエスト、hip、ASIS間距離。半完成型。Th10以下は胸腰椎ブレース、Th6以下は胸椎ブレース。胸椎カーブ、腰椎カーブ、double
小児整形外科外来診療で知っておきたい小児脊椎疾患とその対応
国立病院機構 神戸医療センター 整形外科 部長 宇野耕吉先生
<斜頚について>
・骨性斜頚に注意
筋性だと放置していて訴訟になったケースも・・。「7歳で筋性斜頚」などはありえない。後頭・C1・C2の異常によるものが多い。構築性+機能性。
・骨関節性斜頚
<AARF>
Cock robin position
最近慶応よりCTのフォローで外傷が契機となっている可能性があると報告されたが(以前よりも言われているが)、実際に外傷が契機となったケースは少ない。
開口位は痛がって実際に撮るのは難しい。まずは3D-CTを撮影するとともにGlisson牽引を2週間。だめならHalo。ただしHaloを付けるために全身麻酔をかけるとその時点で整復されていることが多い。ほとんどがⅠ型・Ⅱ型。Ⅲ型はまれ、Ⅳ型を見ることはまずない。
非典型的な例では精査のためMRIが必要となることも。実際にAARFが疑われ、自然整復後のようなCT画像を示した症例で、臨床所見にて前後屈で痛みが生じ、回旋が可能な症例があった。MRIで髄内腫瘍(Glioma)を認めた。
<環軸椎不安定症>
・リウマチ・外傷・骨系統疾患・ダウン症・続発症・その他
見落としが非常に多い!!
ADI・SAC(PADI)、機能写を必ずチェック!
ADI5mm以上あれば小児脊椎外科医へ
成熟に達するまでは年2,3回のフォローが必要。
小児脊椎をライフワークとする覚悟がなければ、見ない方がよい
外傷をきっかけに四肢麻痺・呼吸停止に至りやすい!!安易にダウン症の子の親に「マット運動はしない方が良い」「転ばないように注意して」と指導するのはいけない。ダウン症の子が守れるかといえば難しい上、万が一麻痺や呼吸停止に陥ったときの親の心理的負担は計り知れない。
骨系統疾患、ダウン症の子は必ず頚椎レントゲンを!!
<脊柱変形>
・美容上だけの問題である。
・50度以上が手術適応であり、40度までは手術不要であり待機
・骨格の成長が止まれば進行しない
・車椅子の患者は適応とならない
・腰椎レベルの曲がりは放置で良い
・・・・・・は誤りである。
長期成績において、先天性側弯の高度側弯例では40歳以上で有意に死亡率が上昇する。ただし思春期特発性側弯の場合はこの限りではない。
先天性側弯の場合、呼吸停止に至る場合もある。特に神経・筋疾患によるものは(筋ジストロフィーなど)、注意が必要であり、手術でADL、QOL、生命予後の改善が図れる。実際の症例では、高度側弯のあった先天性ミエリン低形成性ニューロパチー(?)の患者では16歳で呼吸困難。一旦改善するが、半年後に呼吸困難、四肢脱力を発症し、呼吸停止に・・・。矯正にて呼吸症状は改善。同様の呼吸苦を主訴として来院する症例は比較的多い。
軽度側弯の場合は正確なX線が撮れていないことが多い。
・全脊柱撮影、半切フィルム
・両上下肢下垂位、AP、立位
・両肩の位置、骨盤傾斜に注意
・撮れた写真で正中仙骨線を確認
・・・・・・以上を必ず確認。
側弯だと思ってよく正中仙骨線をみるとレントゲンがおかしい・・。実は筋性斜頸の遺残であったことも。
Risser sign 0or5で判りづらいことが多い。0は腸骨稜がつるんとしているが、5はカクカクしている。10歳以下で5はありえない。
Cobb角20°以上は脊椎外科医へ。
手術法は後方が現在は殆ど。
先天性は早く手術。まだ40°だから・・・と待っていては取り返しの付かないことに。10歳未満の脊柱変形は対応を誤ると致命的なことになりうる。
成人でも40代なら矯正可能。呼吸器症状などADLの改善を図れる。50歳以上は骨粗鬆症のため矯正が難しい。
新しい治療法では、10歳以下の症例に対し、Growing Rodの使用。VEPTER:側弯だけ治しても胸郭を開いてあげなくてはいけない。名城病院川上医師が日本へ導入するため尽力。ただし、これらは半年に1回伸ばすためのの手術が必要。それにかわるShilla operationも報告されている。
脊髄空洞症とArnold-Chiariの合併はいつ手術?
演題より
・ボストンブレース
採型不要、採寸のみで可。採寸部位は胸部、ウエスト、hip、ASIS間距離。半完成型。Th10以下は胸腰椎ブレース、Th6以下は胸椎ブレース。胸椎カーブ、腰椎カーブ、double
2010年2月19日金曜日
2010.2.18 AOtrauma Advanced course2日目まとめ
AO trauma advanced course 2nd day
・LCP concept
ラグススクリューのデザインには関係なし。
引きぬき強度はスクリューの外径に依存。bendingについては新しいスクリューデザインの方が強い。
山の大きさは引きぬき強度,bendingの強度に依存せず。
monocortical locking headはbicortical で固定したstandard screwの60-70%の強度。
プレートの長さは長いほど強度がある。
elstic fixationとrigid fixationを混同してはいけない。
ロッキングスクリューで固定した後にconventional screwを使ってはいけない。
・骨盤輪骨折
他の骨折よりも神経損傷、膀胱・尿道損傷のチェックなどの別の見方でのチェックが必要。
分類はAO-OTA分類もしくはYoungーBurgess分類を用いる。
骨盤輪は強固な靭帯でその強度を保っている。骨盤輪骨折ではその靭帯の損傷まで考え、不安定性の評価を行う。
安定型は保存的治療、部分不安定型は創外固定,完全不安定型はORIF.頭側への転位を防ぐ。
・脊椎損傷
Xpで感度、特異度は80-90%。どうしても10-20%の脊椎損傷は見逃してしまう。
XpにCTを同時に施行すると感度は100%となる。
discoligermental instability は動態撮影をおこなうことで92%の感度、特異度。
神経学的欠損は緊急性があるのか?
→早期除圧固定にてもあきらかな神経学的な改善なし。その他肺炎などの長期臥床にともなう合併症を予防すると言う目的でなら24時間以内の緊急手術は有用。
他に早期手術の適応はbifacet dislocationなど
軸椎骨折 Anderson分類。Anderson1:前方スクリュー固定。Anderson2:Margel法
Hangman fracture Effendi分類。3.5ミリ以上のずれ、C2/3での11度以上の局所前弯は手術適応
圧迫骨折は疼痛が取れるまで安静。立位1-2週間後にレントゲン撮影。安定性が保たれていなければ手術適応。
胸椎損傷で重症な肺外傷を伴った場合にも早期手術固定が有用か。
脊椎外科医でなくても診断、受傷時以上のさらなる損傷を妨げること、保存療法はできるようにしておく。
NASCISはおすすめできない。
・多発外傷
clinical treatment phase
phase1 救命段階
phase2 早期固定 GCS>8,AIS<4の胸部外傷なら早期髄内釘も許容。
Phase3 全身状態に応じて必要な手術を行う。乳酸値などを参照に
Phase4 顔面骨折,上肢の骨折,関節の再建を行う。
免疫状態の異常亢進が受傷後2-4日。windouw oppotunity が5-10日。phase3は受傷後7-10日目位が目安となるか。
・大腿骨骨折
soft tissue coverageができていれば閉鎖骨折として扱ってよい。
nailの最小径9ミリ。10ミリまでのリーミングを必要とする。髄空がこれより狭い場合にはMIPOによるプレート固定を考慮。
このとき整復位の確保が困難なことがあるが、6ミリのハンドリーマーなどを用いる。
・脛骨骨折
近位骨折,遠位骨折にも適応が広がっているがその際には様々な注意が必要。
例えば園医であれば遠位の最近位のスクリューホールが22ミリの高さにあるのでそこに骨折先があると固定不能。
脛腓骨骨折の際には腓骨の固定も同時に行った方が成績が良い。
遠位骨折でプレートとネイルの比較。ネイルは創の問題が少ないが変形しやすい。プレートは変形が少ないが疼痛が多い。
遠位は手術失敗すると再建が難しいのでよく考えること。
ネイルは最低関節の中央に入れることを心がける。ブロッキングピン,スクリューの使用で成績がよくなる。
近位骨折では前方凸変形が残りやすい。ブロッキングピンの使用,プレートの併用によって問題が解決できる。
腓骨の骨折を伴わない場合には20%で癒合遅延がおこる。必ずネイルでコンプレッションをかけて置く必要がある。
・上腕骨骨折
全体の3%、開放骨折は10%
プレート設置した際にはプレートのどこにとう骨神経があるか記載しておくこと
上腕骨の創外固定は仮固定にしかならないのでdefinitive treatmentを常に考える必要あり。
・前腕骨骨折
6つの関節で成り立っていると考える。
撓骨の近位の骨折では回外筋にて転位が進行する。
撓骨、尺骨骨折では整復が用意である方から手術し、長さを保つようにする。
3本以上のスクリュー固定、より長いプレートが好ましい。
1/3円プレート、reconstructionプレートは強度が足りないので使用してはならない。
LCP-DCPによる固定を行うこと。
尺骨、撓骨とも生理的な湾曲に注意を払う。
コンパートメント症候群が起こった場合には手根管の開放も同時に行っておく。三角筋の展開も同時に行っておく。
・PHILOSによる固定
coracoid processの一横指外側から上腕二頭筋外側に皮切を置く。やや外側の方が手術は行い易い
整復のポイントは外後方にある小結節のある骨片を以下に整復するか。単鈍こうで引っ張ってくるのも一つであるが骨粗鬆症が強い場合には腱板にかけた糸で整復操作を行う。
プレートの当たる位置を意識して固定。
inferomedelial screwが内反防止に有用であるためそこの固定はできるだけ行う。
三角筋は近位で外すと再建困難となる。視野を広げたいときには遠位付着部で骨膜から剥がす。
・上腕骨遠位端骨折
外側プレートは最遠位から3ミリは近位に置く。
やはり少し使いにくい印象。
・LCP concept
ラグススクリューのデザインには関係なし。
引きぬき強度はスクリューの外径に依存。bendingについては新しいスクリューデザインの方が強い。
山の大きさは引きぬき強度,bendingの強度に依存せず。
monocortical locking headはbicortical で固定したstandard screwの60-70%の強度。
プレートの長さは長いほど強度がある。
elstic fixationとrigid fixationを混同してはいけない。
ロッキングスクリューで固定した後にconventional screwを使ってはいけない。
・骨盤輪骨折
他の骨折よりも神経損傷、膀胱・尿道損傷のチェックなどの別の見方でのチェックが必要。
分類はAO-OTA分類もしくはYoungーBurgess分類を用いる。
骨盤輪は強固な靭帯でその強度を保っている。骨盤輪骨折ではその靭帯の損傷まで考え、不安定性の評価を行う。
安定型は保存的治療、部分不安定型は創外固定,完全不安定型はORIF.頭側への転位を防ぐ。
・脊椎損傷
Xpで感度、特異度は80-90%。どうしても10-20%の脊椎損傷は見逃してしまう。
XpにCTを同時に施行すると感度は100%となる。
discoligermental instability は動態撮影をおこなうことで92%の感度、特異度。
神経学的欠損は緊急性があるのか?
→早期除圧固定にてもあきらかな神経学的な改善なし。その他肺炎などの長期臥床にともなう合併症を予防すると言う目的でなら24時間以内の緊急手術は有用。
他に早期手術の適応はbifacet dislocationなど
軸椎骨折 Anderson分類。Anderson1:前方スクリュー固定。Anderson2:Margel法
Hangman fracture Effendi分類。3.5ミリ以上のずれ、C2/3での11度以上の局所前弯は手術適応
圧迫骨折は疼痛が取れるまで安静。立位1-2週間後にレントゲン撮影。安定性が保たれていなければ手術適応。
胸椎損傷で重症な肺外傷を伴った場合にも早期手術固定が有用か。
脊椎外科医でなくても診断、受傷時以上のさらなる損傷を妨げること、保存療法はできるようにしておく。
NASCISはおすすめできない。
・多発外傷
clinical treatment phase
phase1 救命段階
phase2 早期固定 GCS>8,AIS<4の胸部外傷なら早期髄内釘も許容。
Phase3 全身状態に応じて必要な手術を行う。乳酸値などを参照に
Phase4 顔面骨折,上肢の骨折,関節の再建を行う。
免疫状態の異常亢進が受傷後2-4日。windouw oppotunity が5-10日。phase3は受傷後7-10日目位が目安となるか。
・大腿骨骨折
soft tissue coverageができていれば閉鎖骨折として扱ってよい。
nailの最小径9ミリ。10ミリまでのリーミングを必要とする。髄空がこれより狭い場合にはMIPOによるプレート固定を考慮。
このとき整復位の確保が困難なことがあるが、6ミリのハンドリーマーなどを用いる。
・脛骨骨折
近位骨折,遠位骨折にも適応が広がっているがその際には様々な注意が必要。
例えば園医であれば遠位の最近位のスクリューホールが22ミリの高さにあるのでそこに骨折先があると固定不能。
脛腓骨骨折の際には腓骨の固定も同時に行った方が成績が良い。
遠位骨折でプレートとネイルの比較。ネイルは創の問題が少ないが変形しやすい。プレートは変形が少ないが疼痛が多い。
遠位は手術失敗すると再建が難しいのでよく考えること。
ネイルは最低関節の中央に入れることを心がける。ブロッキングピン,スクリューの使用で成績がよくなる。
近位骨折では前方凸変形が残りやすい。ブロッキングピンの使用,プレートの併用によって問題が解決できる。
腓骨の骨折を伴わない場合には20%で癒合遅延がおこる。必ずネイルでコンプレッションをかけて置く必要がある。
・上腕骨骨折
全体の3%、開放骨折は10%
プレート設置した際にはプレートのどこにとう骨神経があるか記載しておくこと
上腕骨の創外固定は仮固定にしかならないのでdefinitive treatmentを常に考える必要あり。
・前腕骨骨折
6つの関節で成り立っていると考える。
撓骨の近位の骨折では回外筋にて転位が進行する。
撓骨、尺骨骨折では整復が用意である方から手術し、長さを保つようにする。
3本以上のスクリュー固定、より長いプレートが好ましい。
1/3円プレート、reconstructionプレートは強度が足りないので使用してはならない。
LCP-DCPによる固定を行うこと。
尺骨、撓骨とも生理的な湾曲に注意を払う。
コンパートメント症候群が起こった場合には手根管の開放も同時に行っておく。三角筋の展開も同時に行っておく。
・PHILOSによる固定
coracoid processの一横指外側から上腕二頭筋外側に皮切を置く。やや外側の方が手術は行い易い
整復のポイントは外後方にある小結節のある骨片を以下に整復するか。単鈍こうで引っ張ってくるのも一つであるが骨粗鬆症が強い場合には腱板にかけた糸で整復操作を行う。
プレートの当たる位置を意識して固定。
inferomedelial screwが内反防止に有用であるためそこの固定はできるだけ行う。
三角筋は近位で外すと再建困難となる。視野を広げたいときには遠位付着部で骨膜から剥がす。
・上腕骨遠位端骨折
外側プレートは最遠位から3ミリは近位に置く。
やはり少し使いにくい印象。
2010.2.18 AOtrauma Advanced course1日目まとめ
骨折の治療は、もともとギプス固定。
神中先生は生物学的固定biological fixationを1930年代に提唱していた。
relative fixation と absolute fixation.
それぞれの特徴について知っていることが必要。
absolute fixation. 仮骨形成なし。関節面の絶対的整復に敵する。
reative fixation 仮骨ができる。骨幹部などの固定。軟部の愛護的処理が必要
tension band & wiring :20-80%で何かしらの合併症が生じる。注意が必要。
骨折治療の4原則
・stability
・reduction
・soft tissue handling
・surgical technique
・stability
Absolute fixation
多骨片骨折の時は禁忌
relative fixation
Gap strain theory 5%以上30%以下のひずみが必要。(ここは質問で聞いておくところ)
・reduction
側方転位,軸転位、回旋転位 長さ、軸、回旋の整復が必要。
徒手整復は骨折の逆のプロセスで。
間接的整復と直接的整復
間接的整復は原則的に骨幹部に。直接的整復は関節面に用いる。
Hohmanこうはてこの原理で用いると非常に強力な整復ツール。ただし皮切が大きくなりすぎるのでそれを嫌う場合にはスタイマンピンを用いる。
push pull technique,cable techniqueという方法もある。
おすすめ本として
・Planning and Reduction Technique in Fracture Surgery
・The Rationale of Operative Fracture Care
がある。ともに3万円程度で少し考えてしまう。笑。
上腕骨近位端骨折
上腕骨近位端骨折は固定が難しい。
cut out、内反転位などの合併症が高い確率で起こる。
それを解決するひとつの方法としてのPHILOSなどのロッキングプレートである。
プレートのideal position.側面位で小結節がみえるようにしてgrooveの後方にプレートが当たっているようなイメージ。
大結節頂部より5ミリ下にプレートをおけばインピンジメントしない。
鎖骨骨折
今までまず保存療法と言われていたが、手術療法をおススメする。
特に健側と比較して10ミリ程度の短縮がある場合には様々な愁訴の原因となるためこのような場合には手術が好ましいと。
保存療法の適応は全くずれのない骨折だけというのはすこし言い過ぎな気もする。笑。
上腕骨遠位端骨折
ヒンジ付きの創外固定は有用。
異所性骨化は屈側にできることが多い。リハビリは伸展を無理に他動的に行わないように注意。
関節面の骨欠損に対しては腸骨からの骨移植にて対応。
上腕骨小頭骨折は原則関節軟骨のない後方からのスクリュー固定。
ハーバートスクリューなどなら前方からの固定も可。
肘の脱臼
安定性のチェックが必須。
手術が遅くなると拘縮のリスクが高くなる。
鉤状突起が安定性に寄与。鉤状突起の固定にはいろいろなアプローチがあるが上腕骨内上顆のosteotomyがひとつの方法として考えられる。
<参照>
Standard Surgical Protocol to Treat Elbow Dislocations with Radial
Head and Coronoid Fractures
J. Bone Joint Surg. Am., Jun 2004; 86: 1122 - 1130.
撓骨遠位端骨折
掌側ロッキングプレート全盛。
解剖学的整復とギプス固定期間の長短は臨床成績に影響しない。
高齢者の場合には-25度、5ミリの短縮は許容されることが多い。
C2までは掌側ロッキングプレートでいけるが、C3は別の考え方が必要。
C3の時にはfragment spcific theoryにしたがって固定すると言う考え方もある。
脛骨高原骨折
受傷時が高エネルギー外傷か、低エネルギー外傷かで全く治療方針、気をつけなければいけないところが変わってくることを頭に
斜位像が診断では有用。
手術適応2ミリの転位。早期の整復が大事なので高エネルギー外傷でも関節面だけでも戻しておきたい。
皮切は2皮切。(前外側,後内側)内側は後方が落ちていることが多い。
TypeCの両顆骨折は内側から整復した方がやりやすい。骨折も単純なので。
足関節天蓋骨折
アプローチ方法をよく考える
fracture windowの考え方。
前内側は皮膚トラブルが起こりやすい
伸筋支帯はまっすぐきらずにゼットに切って再建できるようにしておく。
関節面は距骨を基準にして整復すると良い。
大腿骨転子部骨折
粗鬆骨が問題。粗鬆骨の2パート骨折の合併症発生率は健常骨の4パート骨折に匹敵。
内後方の安定性が整復の際、重要。
ParkerのCochran reviewを参考に
http://minds.jcqhc.or.jp/stc/0016/1/0016_G0000042_0082.html
TAD25mm,CCDは130度以下が好ましい。
大腿骨遠位端骨折
38%にcoronal plane fractureを合併しているので慎重なCTの読影が必要。
膝への多種類のアプローチに精通しておく必要がある。
The Association Between Supracondylar-Intercondylar Distal Femoral
Fractures and Coronal Plane Fractures
J. Bone Joint Surg. Am., Mar 2005; 87: 564 - 569.
http://www.aofoundation.org/wps/portal/!ut/p/c1/04_SB8K8xLLM9MSSzPy8xBz9CP0os3hng7BARydDRwML1yBXAyMvYz8zEwNPQwN3A6B8JJK8gUWAm4GRk6m_oUlwgBFIHr9uP4_83FT9gtyIcgCExWfz/dl2/d1/L2dJQSEvUUt3QS9ZQnB3LzZfQzBWUUFCMUEwOEVSRTAySjNONjQwSTEwRzA!/?redfix_url=&implantstype=&segment=Distal&bone=Femur&classification=&approach=&showPage=approach&treatment=&method=
神中先生は生物学的固定biological fixationを1930年代に提唱していた。
relative fixation と absolute fixation.
それぞれの特徴について知っていることが必要。
absolute fixation. 仮骨形成なし。関節面の絶対的整復に敵する。
reative fixation 仮骨ができる。骨幹部などの固定。軟部の愛護的処理が必要
tension band & wiring :20-80%で何かしらの合併症が生じる。注意が必要。
骨折治療の4原則
・stability
・reduction
・soft tissue handling
・surgical technique
・stability
Absolute fixation
多骨片骨折の時は禁忌
relative fixation
Gap strain theory 5%以上30%以下のひずみが必要。(ここは質問で聞いておくところ)
・reduction
側方転位,軸転位、回旋転位 長さ、軸、回旋の整復が必要。
徒手整復は骨折の逆のプロセスで。
間接的整復と直接的整復
間接的整復は原則的に骨幹部に。直接的整復は関節面に用いる。
Hohmanこうはてこの原理で用いると非常に強力な整復ツール。ただし皮切が大きくなりすぎるのでそれを嫌う場合にはスタイマンピンを用いる。
push pull technique,cable techniqueという方法もある。
おすすめ本として
・Planning and Reduction Technique in Fracture Surgery
・The Rationale of Operative Fracture Care
がある。ともに3万円程度で少し考えてしまう。笑。
上腕骨近位端骨折
上腕骨近位端骨折は固定が難しい。
cut out、内反転位などの合併症が高い確率で起こる。
それを解決するひとつの方法としてのPHILOSなどのロッキングプレートである。
プレートのideal position.側面位で小結節がみえるようにしてgrooveの後方にプレートが当たっているようなイメージ。
大結節頂部より5ミリ下にプレートをおけばインピンジメントしない。
鎖骨骨折
今までまず保存療法と言われていたが、手術療法をおススメする。
特に健側と比較して10ミリ程度の短縮がある場合には様々な愁訴の原因となるためこのような場合には手術が好ましいと。
保存療法の適応は全くずれのない骨折だけというのはすこし言い過ぎな気もする。笑。
上腕骨遠位端骨折
ヒンジ付きの創外固定は有用。
異所性骨化は屈側にできることが多い。リハビリは伸展を無理に他動的に行わないように注意。
関節面の骨欠損に対しては腸骨からの骨移植にて対応。
上腕骨小頭骨折は原則関節軟骨のない後方からのスクリュー固定。
ハーバートスクリューなどなら前方からの固定も可。
肘の脱臼
安定性のチェックが必須。
手術が遅くなると拘縮のリスクが高くなる。
鉤状突起が安定性に寄与。鉤状突起の固定にはいろいろなアプローチがあるが上腕骨内上顆のosteotomyがひとつの方法として考えられる。
<参照>
Standard Surgical Protocol to Treat Elbow Dislocations with Radial
Head and Coronoid Fractures
J. Bone Joint Surg. Am., Jun 2004; 86: 1122 - 1130.
撓骨遠位端骨折
掌側ロッキングプレート全盛。
解剖学的整復とギプス固定期間の長短は臨床成績に影響しない。
高齢者の場合には-25度、5ミリの短縮は許容されることが多い。
C2までは掌側ロッキングプレートでいけるが、C3は別の考え方が必要。
C3の時にはfragment spcific theoryにしたがって固定すると言う考え方もある。
脛骨高原骨折
受傷時が高エネルギー外傷か、低エネルギー外傷かで全く治療方針、気をつけなければいけないところが変わってくることを頭に
斜位像が診断では有用。
手術適応2ミリの転位。早期の整復が大事なので高エネルギー外傷でも関節面だけでも戻しておきたい。
皮切は2皮切。(前外側,後内側)内側は後方が落ちていることが多い。
TypeCの両顆骨折は内側から整復した方がやりやすい。骨折も単純なので。
足関節天蓋骨折
アプローチ方法をよく考える
fracture windowの考え方。
前内側は皮膚トラブルが起こりやすい
伸筋支帯はまっすぐきらずにゼットに切って再建できるようにしておく。
関節面は距骨を基準にして整復すると良い。
大腿骨転子部骨折
粗鬆骨が問題。粗鬆骨の2パート骨折の合併症発生率は健常骨の4パート骨折に匹敵。
内後方の安定性が整復の際、重要。
ParkerのCochran reviewを参考に
http://minds.jcqhc.or.jp/stc/0016/1/0016_G0000042_0082.html
TAD25mm,CCDは130度以下が好ましい。
大腿骨遠位端骨折
38%にcoronal plane fractureを合併しているので慎重なCTの読影が必要。
膝への多種類のアプローチに精通しておく必要がある。
The Association Between Supracondylar-Intercondylar Distal Femoral
Fractures and Coronal Plane Fractures
J. Bone Joint Surg. Am., Mar 2005; 87: 564 - 569.
http://www.aofoundation.org/wps/portal/!ut/p/c1/04_SB8K8xLLM9MSSzPy8xBz9CP0os3hng7BARydDRwML1yBXAyMvYz8zEwNPQwN3A6B8JJK8gUWAm4GRk6m_oUlwgBFIHr9uP4_83FT9gtyIcgCExWfz/dl2/d1/L2dJQSEvUUt3QS9ZQnB3LzZfQzBWUUFCMUEwOEVSRTAySjNONjQwSTEwRzA!/?redfix_url=&implantstype=&segment=Distal&bone=Femur&classification=&approach=&showPage=approach&treatment=&method=
2010年2月15日月曜日
2010.2.15 JBJS(Am) Spinal Anesthesia Mediates Improved Early Function and Pain Relief Following Surgical Repair of Ankle Fractures
要旨
背景
足関節手術の患者で,手術の麻酔を全身麻酔にしたほうがよいか脊椎麻酔にしたほうがよいかということについて調べた報告は今までない.今回の研究は麻酔の種類で術後の機能に差が出るかどうかを調査することである.
方法
2000年から2006年までに足関節の骨折に対して手術を受けた501人を前向きに調査.全身麻酔群と脊椎麻酔群との2群に分けて調査した.術後3ヶ月,6ヶ月,12ヶ月で信頼性,再現性が高くまた下肢疾患に特異的な検査方法を用いて評価。標準的また多変量解析を行った.
結果
466人(93%)の患者が術後の基準を満たしていた.患者背景を比較すると脊椎麻酔群のほうが患者の年齢が高く,ASAも悪く,また糖尿病罹患率も高かった.男女比に差は無かった.術後3ヶ月の時点で脊椎麻酔群のほうが痛みが少なく,またAAOSの足部疾患スコア(AOFAS)も有意に高かった.6ヶ月の時点では痛みは脊椎麻酔群のほうが少なかったがAOFASの点数は差が無かった.術後1年の時点では両群に差は無かった.術後合併症の頻度も差が無かった.
結論
足関節骨折は脊椎麻酔で手術をしたほうが疼痛も少なく,術後早期の機能回復の程度は早い.特に差支えが無ければ足関節骨折の手術には脊椎麻酔を用いたほうがよい。
表1 患者背景 平均年齢,ASA3,4の高リスク患者,糖尿病患者は脊椎麻酔群に多い.
表2 手術についての比較 全身麻酔群では開放骨折が多く,またターニケットの使用時間が長い傾向にある.骨折型には両群に差はない。
表3 術後経過 術後3ヶ月では疼痛、機能とも脊椎麻酔群のほうが良好な成績。術後6ヶ月では脊椎麻酔群でより疼痛が少ない。術後1年の時点では機能,疼痛とも両群に差がない。
表4 年齢,ASA, 糖尿病罹患率を補正して両群を比較した.また開放骨折とターニケットの使用についてもロジスティック回帰分析を行ったが有意な差は得られなかった。
考察
われわれの研究から言えることは術後早期については脊椎麻酔のほうが少ない疼痛でより機能の回復が得られるということである。それは数字の面からも明らかである。これらは重要な発見ではあるがどれくらい臨床に寄与するかははっきりしない。AOFASが100点満点のスコアリングシステムである.3点の違いがスコアリングシステムの中のどこかのグループであればその違いは機能の向上に何かしらの役に立ち、患者さんの役に立っているのかもしれない。
また脊椎麻酔群のほうが痛みも少なかった。痛みの徴候、解釈は大変主観的で患者によって大きく違う。そのため今回の痛みの数値が統計的に有意であるとすることが出来るかどうかは難しいところである.しかしながら痛みのコントロールというのは患者に対して重要であるということはよく言われている。
脊椎麻酔群のほうが高齢でASAが高い患者が多かった。そのため脊椎麻酔群のほうが低い機能でも日常生活で求められる動作レベルが少ないためにより満足しているのではないかと考えられるかもしれない。しかし,われわれは今回AOFASだけでなく同時にSF-36,SMFAも実施している。この両者で両群に差が無かったので患者のもともとの日常生活レベルは同等であると推測される.
脊椎麻酔のほうが全身麻酔よりも有用である.とする報告は股関節骨折や,人工関節置換術の分野での報告がある。Urwinは大腿骨頚部骨折で調査したところによると術後1ヶ月の死亡率と深部静脈血栓症の発症について脊椎麻酔のほうが有利であることがわかった。それどころかMIの発症,せん妄の発症,術後の低酸素血症についても全身麻酔のほうが起こりやすいことがわかった。足関節骨折はなかなか死亡するような症例がでず、これがそのまま当てはまるわけではないので死亡率については比較を行っていない。
脊椎麻酔が術後の疼痛管理に有用であるとする報告がある。Chuらの報告で60例のTKA患者について調査したところ脊椎麻酔の患者のほうが術後の疼痛は少なく,また歩行能力,退院までの日数が短縮したとある。われわれの報告はこれの報告に瓜二つであった。足関節骨折術後なので免荷歩行となっているためその歩行能力を調べることは出来ない。しかし痛みが少ないために早期の機能回復訓練が可能となり早期復帰が可能となっている可能性はある。
いくつかの研究で術後1年での足関節の機能回復の程度が示されている。232人の患者を調べた研究では88%が全く術前の状態に戻ったとする報告がある.この報告では若い男性,糖尿病が無く,ASAが低いということがより良好な結果となるための予測因子であるとしている.このような研究があるにもかかわらず私達の研究ではよりよい成績であったのは高齢でASAが高くそれに加えて糖尿病に罹患している人が多い群であった。別の研究では足関節の術後早期関節可動域訓練とギプス固定群とを比較し、術1年後では両者に差が無かったとする報告をしている人が居る。われわれの研究では術後早期の痛みが取れることで早期からリハビリなどに参加できるようになるということを強調したい。
いくつかの研究上の制限がある。一つ目はこの研究の開始が患者が受傷した後から参加を要請していることである。受傷後に受傷前の状態を尋ねるとrecall
biasがかかることがある。しかしどの患者が足関節骨折を起こすかなんていうことを受傷前に知っておくことは出来ない。脊椎麻酔と全身麻酔を無作為に割り付けていないことも問題となる。そのため全身麻酔の患者が脊椎麻酔の2倍にもなった。この中で糖尿病の患者が脊椎麻酔群に多く居たため、糖尿病性神経障害で疼痛を感じないため疼痛のスコアがよくなった可能性はある。しかしASA、年齢、糖尿病罹患率で補正し、検定したが今回の研究の結果に変わりは出なかったためその影響は無視してよいものと考えられる。ターニケットによる影響もあるがターニケットを多く用いた脊椎麻酔群のほうが術後成績は良好であった。重症患者が全身麻酔に多い可能性もあるが骨折型は両群で差が無く、ロジスティック解析でも有意な差は無かった。以上のような経緯で術後3ヶ月の時点でその疼痛と術後成績に影響を及ぼす因子は無いものと考えられる。
ではどうして脊椎麻酔の患者は全身麻酔の患者よりも疼痛が少ない時期が長く続くのであろうか。われわれの仮定によれば外傷によってCRPSの急性期のような病態がおこるのであるが、脊椎麻酔でその疼痛のサイクルをブロックしてあげることで痛みの程度が減るのではないだろうか。
結論として足関節骨折の手術の麻酔は脊椎麻酔で行ったほうがよい。今後はこれに追加で選択的神経ブロックを追加してその疼痛の程度、機能回復の程度について評価できると興味深いものとなろう。
<論評>
足関節骨折の昨日に影響する原因は様々と言われていて、麻酔がそのひとつではないかと調べた研究。麻酔についての考察は殆どなく学会発表で突っ込まれたところや査読で突っ込まれたところを補強してと行った感じで建て増したビルのような印象を受ける論文。
不要な全身麻酔を行わないように、位のことしか言えないでしょう。
背景
足関節手術の患者で,手術の麻酔を全身麻酔にしたほうがよいか脊椎麻酔にしたほうがよいかということについて調べた報告は今までない.今回の研究は麻酔の種類で術後の機能に差が出るかどうかを調査することである.
方法
2000年から2006年までに足関節の骨折に対して手術を受けた501人を前向きに調査.全身麻酔群と脊椎麻酔群との2群に分けて調査した.術後3ヶ月,6ヶ月,12ヶ月で信頼性,再現性が高くまた下肢疾患に特異的な検査方法を用いて評価。標準的また多変量解析を行った.
結果
466人(93%)の患者が術後の基準を満たしていた.患者背景を比較すると脊椎麻酔群のほうが患者の年齢が高く,ASAも悪く,また糖尿病罹患率も高かった.男女比に差は無かった.術後3ヶ月の時点で脊椎麻酔群のほうが痛みが少なく,またAAOSの足部疾患スコア(AOFAS)も有意に高かった.6ヶ月の時点では痛みは脊椎麻酔群のほうが少なかったがAOFASの点数は差が無かった.術後1年の時点では両群に差は無かった.術後合併症の頻度も差が無かった.
結論
足関節骨折は脊椎麻酔で手術をしたほうが疼痛も少なく,術後早期の機能回復の程度は早い.特に差支えが無ければ足関節骨折の手術には脊椎麻酔を用いたほうがよい。
表1 患者背景 平均年齢,ASA3,4の高リスク患者,糖尿病患者は脊椎麻酔群に多い.
表2 手術についての比較 全身麻酔群では開放骨折が多く,またターニケットの使用時間が長い傾向にある.骨折型には両群に差はない。
表3 術後経過 術後3ヶ月では疼痛、機能とも脊椎麻酔群のほうが良好な成績。術後6ヶ月では脊椎麻酔群でより疼痛が少ない。術後1年の時点では機能,疼痛とも両群に差がない。
表4 年齢,ASA, 糖尿病罹患率を補正して両群を比較した.また開放骨折とターニケットの使用についてもロジスティック回帰分析を行ったが有意な差は得られなかった。
考察
われわれの研究から言えることは術後早期については脊椎麻酔のほうが少ない疼痛でより機能の回復が得られるということである。それは数字の面からも明らかである。これらは重要な発見ではあるがどれくらい臨床に寄与するかははっきりしない。AOFASが100点満点のスコアリングシステムである.3点の違いがスコアリングシステムの中のどこかのグループであればその違いは機能の向上に何かしらの役に立ち、患者さんの役に立っているのかもしれない。
また脊椎麻酔群のほうが痛みも少なかった。痛みの徴候、解釈は大変主観的で患者によって大きく違う。そのため今回の痛みの数値が統計的に有意であるとすることが出来るかどうかは難しいところである.しかしながら痛みのコントロールというのは患者に対して重要であるということはよく言われている。
脊椎麻酔群のほうが高齢でASAが高い患者が多かった。そのため脊椎麻酔群のほうが低い機能でも日常生活で求められる動作レベルが少ないためにより満足しているのではないかと考えられるかもしれない。しかし,われわれは今回AOFASだけでなく同時にSF-36,SMFAも実施している。この両者で両群に差が無かったので患者のもともとの日常生活レベルは同等であると推測される.
脊椎麻酔のほうが全身麻酔よりも有用である.とする報告は股関節骨折や,人工関節置換術の分野での報告がある。Urwinは大腿骨頚部骨折で調査したところによると術後1ヶ月の死亡率と深部静脈血栓症の発症について脊椎麻酔のほうが有利であることがわかった。それどころかMIの発症,せん妄の発症,術後の低酸素血症についても全身麻酔のほうが起こりやすいことがわかった。足関節骨折はなかなか死亡するような症例がでず、これがそのまま当てはまるわけではないので死亡率については比較を行っていない。
脊椎麻酔が術後の疼痛管理に有用であるとする報告がある。Chuらの報告で60例のTKA患者について調査したところ脊椎麻酔の患者のほうが術後の疼痛は少なく,また歩行能力,退院までの日数が短縮したとある。われわれの報告はこれの報告に瓜二つであった。足関節骨折術後なので免荷歩行となっているためその歩行能力を調べることは出来ない。しかし痛みが少ないために早期の機能回復訓練が可能となり早期復帰が可能となっている可能性はある。
いくつかの研究で術後1年での足関節の機能回復の程度が示されている。232人の患者を調べた研究では88%が全く術前の状態に戻ったとする報告がある.この報告では若い男性,糖尿病が無く,ASAが低いということがより良好な結果となるための予測因子であるとしている.このような研究があるにもかかわらず私達の研究ではよりよい成績であったのは高齢でASAが高くそれに加えて糖尿病に罹患している人が多い群であった。別の研究では足関節の術後早期関節可動域訓練とギプス固定群とを比較し、術1年後では両者に差が無かったとする報告をしている人が居る。われわれの研究では術後早期の痛みが取れることで早期からリハビリなどに参加できるようになるということを強調したい。
いくつかの研究上の制限がある。一つ目はこの研究の開始が患者が受傷した後から参加を要請していることである。受傷後に受傷前の状態を尋ねるとrecall
biasがかかることがある。しかしどの患者が足関節骨折を起こすかなんていうことを受傷前に知っておくことは出来ない。脊椎麻酔と全身麻酔を無作為に割り付けていないことも問題となる。そのため全身麻酔の患者が脊椎麻酔の2倍にもなった。この中で糖尿病の患者が脊椎麻酔群に多く居たため、糖尿病性神経障害で疼痛を感じないため疼痛のスコアがよくなった可能性はある。しかしASA、年齢、糖尿病罹患率で補正し、検定したが今回の研究の結果に変わりは出なかったためその影響は無視してよいものと考えられる。ターニケットによる影響もあるがターニケットを多く用いた脊椎麻酔群のほうが術後成績は良好であった。重症患者が全身麻酔に多い可能性もあるが骨折型は両群で差が無く、ロジスティック解析でも有意な差は無かった。以上のような経緯で術後3ヶ月の時点でその疼痛と術後成績に影響を及ぼす因子は無いものと考えられる。
ではどうして脊椎麻酔の患者は全身麻酔の患者よりも疼痛が少ない時期が長く続くのであろうか。われわれの仮定によれば外傷によってCRPSの急性期のような病態がおこるのであるが、脊椎麻酔でその疼痛のサイクルをブロックしてあげることで痛みの程度が減るのではないだろうか。
結論として足関節骨折の手術の麻酔は脊椎麻酔で行ったほうがよい。今後はこれに追加で選択的神経ブロックを追加してその疼痛の程度、機能回復の程度について評価できると興味深いものとなろう。
<論評>
足関節骨折の昨日に影響する原因は様々と言われていて、麻酔がそのひとつではないかと調べた研究。麻酔についての考察は殆どなく学会発表で突っ込まれたところや査読で突っ込まれたところを補強してと行った感じで建て増したビルのような印象を受ける論文。
不要な全身麻酔を行わないように、位のことしか言えないでしょう。
2010年2月8日月曜日
2010.2.8 JBJS(Am) Iron Supplementation for Anemia After Hip Fracture Surgery: A Randomized Trial of 300 Patients
要旨
背景
術後の貧血は鉄剤を用いて治療されることが多い。しかしそのエビデンスにはっきりとしたものはない。鉄剤投与が有用かどうか判定するために前向きの無作為割付試験を行ってみた。
方法
300人の大腿骨頚部骨折術後の患者でHbが11g/dl以下の患者に対して無作為に鉄剤を投与するかしないかを決めて行ってみた。6週間後にHb値をチェックし,在院期間,死亡率について検討してみた。
結果
鉄剤投与群は2.1g/dl、非投与群は1.8g/dlそれぞれHb値が上昇した。入院期間と死亡率については有意差を認めなかった。鉄剤投与群の17%で何かしらの有害事象が報告された。
結論
鉄剤投与は頚部骨折術後の貧血に対して有用な方法とはいえない。
表1 適用基準と除外基準。最初から11g/dlの人は除いてある。
表2 患者背景
図1 フローチャート
表3 結果 鉄剤投与のほうがHbは上昇する傾向にある。合併症は鉄剤投与群にのみ起きた。
考察
この研究の前に行われた研究ではHbが5g/dl違わなければ臨床的な意味がないとされていた。今回の研究では鉄剤投与群と非投与群との差はあっても3g/dlであり、また副作用が17%に生じたことから鉄剤の投与に臨床的な意味は無いものと考えた。
鉄剤の投与についてガイドラインでも教科書でもその必要性には言及していない。輸血については最新の知見では8g/dlでの投与によって貧血を補正するようにとなっている。これについてのほかの研究は1篇のみで、その研究でも有意な差はないとされている。THA,
TKAで同様に鉄剤投与したとする報告でもいずれも差がないというようにされている。母集団が大きいことが本研究の強みである。
この研究ではプラセボを使わなかったと指摘される。しかしプラセボを使っても便が黒くなっていることで自分がどちらかになっているかはわかることであるので盲検化することは不可能である。パラメーターもHb値、入院期間、死亡率といった数字なのでとくに盲検化しなくても左右されることはない。
このほかには鉄剤を使っていることで病院への受診を頻繁に希望する人が現れた。
鉄剤で何かしらの副作用が現れる割合は普通20%といわれているが、今回17%であったのは鉄剤の前向きな効能を述べていたせいであろう。
鉄剤治療に要したのは14ユーロであった。これから考えても鉄剤による治療を行う必要がない。
結論として鉄剤による治療はあまり有効とはいえなかった。
《論評》
わかりやすくてイイです。むかし一緒に働いていた先生でひたすらフェロミアで治療していた先生がいたことを思い出しました。こういうちょっとしたところのエビデンスを作っていくと実際の臨床で助かるのに、と思いました。
背景
術後の貧血は鉄剤を用いて治療されることが多い。しかしそのエビデンスにはっきりとしたものはない。鉄剤投与が有用かどうか判定するために前向きの無作為割付試験を行ってみた。
方法
300人の大腿骨頚部骨折術後の患者でHbが11g/dl以下の患者に対して無作為に鉄剤を投与するかしないかを決めて行ってみた。6週間後にHb値をチェックし,在院期間,死亡率について検討してみた。
結果
鉄剤投与群は2.1g/dl、非投与群は1.8g/dlそれぞれHb値が上昇した。入院期間と死亡率については有意差を認めなかった。鉄剤投与群の17%で何かしらの有害事象が報告された。
結論
鉄剤投与は頚部骨折術後の貧血に対して有用な方法とはいえない。
表1 適用基準と除外基準。最初から11g/dlの人は除いてある。
表2 患者背景
図1 フローチャート
表3 結果 鉄剤投与のほうがHbは上昇する傾向にある。合併症は鉄剤投与群にのみ起きた。
考察
この研究の前に行われた研究ではHbが5g/dl違わなければ臨床的な意味がないとされていた。今回の研究では鉄剤投与群と非投与群との差はあっても3g/dlであり、また副作用が17%に生じたことから鉄剤の投与に臨床的な意味は無いものと考えた。
鉄剤の投与についてガイドラインでも教科書でもその必要性には言及していない。輸血については最新の知見では8g/dlでの投与によって貧血を補正するようにとなっている。これについてのほかの研究は1篇のみで、その研究でも有意な差はないとされている。THA,
TKAで同様に鉄剤投与したとする報告でもいずれも差がないというようにされている。母集団が大きいことが本研究の強みである。
この研究ではプラセボを使わなかったと指摘される。しかしプラセボを使っても便が黒くなっていることで自分がどちらかになっているかはわかることであるので盲検化することは不可能である。パラメーターもHb値、入院期間、死亡率といった数字なのでとくに盲検化しなくても左右されることはない。
このほかには鉄剤を使っていることで病院への受診を頻繁に希望する人が現れた。
鉄剤で何かしらの副作用が現れる割合は普通20%といわれているが、今回17%であったのは鉄剤の前向きな効能を述べていたせいであろう。
鉄剤治療に要したのは14ユーロであった。これから考えても鉄剤による治療を行う必要がない。
結論として鉄剤による治療はあまり有効とはいえなかった。
《論評》
わかりやすくてイイです。むかし一緒に働いていた先生でひたすらフェロミアで治療していた先生がいたことを思い出しました。こういうちょっとしたところのエビデンスを作っていくと実際の臨床で助かるのに、と思いました。
2010年2月5日金曜日
2010.2.5 JBJS(Am) Biomechanics of knee ligament
1993年の時点での膝の靭帯についての研究のまとめ
膝には4つの靭帯がある。ACL,PCL,MCL,LCL。
形態学的に分けられており,また関節の中にあるかどうかでも分けられる。
LCLを除いたそれぞれの靭帯は細かくその成分が分けることが出来る。ACLは前方内側成分と後方外側成分に。PCLは前外側成分と後方内側成分とに分けられる。このように成分に分けることには意味があって、たとえば前十字靭帯,後十字靭帯共に伸展時に後方が緊張し、屈曲時には前方が緊張する。(図1)
内側側副靭帯は表面成分と深部成分に分けられ、それぞれが前方成分と後方成分とに分けられる。表面成分の前方部分は屈曲70-105度でもっとも緊張するようになっている。
ACLの平均の長さは31-38mm,幅11mm.PCLは38mm,幅13mmが平均である。ACLとPCLが交差するポイントはACLが遠位でPCLが近位であることがわかっているが臨床上これがどうしてなのかは不明である。(図2)
コラーゲン線維の太さも靭帯によって異なっており、MCLはACLの三倍太いため自然治癒能力が高い。
バイオメカニクス
ACLは前方への脛骨の移動を抑制し、PCLは後方への移動を抑制している。
MCLの表層成分は外反を防止し、LCLは内反防止に働いている。MCLとLCLは膝を包み込むような形状になっているのでこれによって内旋,外旋を制御している。
靭帯の強度
ACLとMCLの引っ張り力‐変形曲線を示す。これが上にあればあるほど変形やかかった力に耐えられるということである。MCLはACLの約2倍その耐える力が大きい。
靭帯は粘弾性を有する。図4のように力が加わってもそれを少しずつ変形し受けていくような形に靭帯は変化してゆく。
運動学
運動学は膝の形と機能を理解する上で重要である。膝靭帯の再建の目的は膝の柔軟性と運動力学と安定性を回復させることである。なのでどの靭帯が正常ではどのように働いているかを理解し,また同時に損傷している場合にはどうなるかを知る必要がある。
膝の運動は6つの方向で表現される。
移動が3つ:前方ー後方,内側ー外側,頭側ー尾側.
回旋が3つ:内反ー外反、屈曲ー伸展、内旋ー外旋
それぞれの運動は組み合わさって起こっており、前後方の回旋には内側への回旋が加わり、屈曲伸展の回旋には概則への回旋が加わる。
靭帯はほかの組織ともあいまって静的な安定性にも寄与している。
十字靭帯がクロスするようにあることでACLは回旋運動の中心となっていることがわかる。
図6では回旋運動とすべり運動の組み合わせについて述べている。回旋運動だけでは大腿骨が膝関節から脱臼してしまうが、すべりを伴うことで屈曲時の大腿骨の脱臼を抑えている。
前方への移動
前十字靭帯が脛骨の前方移動を制御している。完全伸展時には70%,30度屈曲、90度屈曲時には85%の力が前十字靭帯にかかる。つまり前十字靭帯の後方成分は完全伸展した時以外には力はかからない。
100Nの力を加えてみると完全伸展位の時には2-5mmしか前方移動しないが、30度屈曲位の時には5-8mmほど移動する。ここからは屈曲を強めれば強めるほど前方への移動量は減少する。ACLが部分ごとによって働く場所が違うので深屈曲していくことができる。
20-30度屈曲位で100Nの力で前方へ引き出すと7-9mm動く。ACL損傷にともなったMCLの完全断裂の際には前方への移動が起こるがMCLの部分的な問題では前方への移動は起こらない。同様に腸脛靭帯,LCL,後外側構造体,関節包などの損傷もACL損傷と合併すると前方への不安定性をます。PCL損傷は前方への移動量には関係がない。
気をつけなければいけないのは正常な膝の動きでは膝が屈曲するときには外反,内旋を伴いながら脛骨も前方に移動してゆく。ACLの損傷に伴ない30%前後方への移動が制限されると回旋も大きく減少する。つまりACLは前方への脛骨の動きを制限するだけでなく前後方の動きに伴う内旋,外旋の最初のきっかけである。
後方への移動
後十字靭帯が85%-100%の脛骨が後方へ移動するのを制限している。LCLと後外側構造体がこれを補助している。MCLはほとんど後方への支えにはなっていない。普通だと100Nで4-5mmの脛骨の移動が後十字靭帯が損傷すると15-20mmの移動が起こるようになる。(90度屈曲位の場合)。また同様に外旋が減少する。LCL、後外側構造体が切断するとむしろ外旋は増加する。これは30度で外旋が最大となり屈曲に伴って減少していくことに関わっている。ACLは後方への不安定性には関係がない。
脛骨の回旋は二次性に関節包などが固くなることで前後方への移動を減少させ得る。内旋することで前後方の不安定性が減少する。腸脛靭帯と外側の組織,内外側側副靭帯が固くなることでこの丈夫さを生み出している。外旋の時は内外側側副靭帯が固くなる。
内反
外側側副靭帯は内反を抑えている。完全伸展位で掛かる力の55%を負っている。また外側側副靭帯は内旋を制限するようにも働いている。そうすることで後外側構造体にかかる力を少なくして屈曲しやすくする効果がある。完全伸展にて前十字靭帯、後十字靭帯は25%の力が分散している。90度まで曲げるとACLは緩んでACLに掛かる力は小さくなるがPCLにかかる力が大きくなる。後方の関節包は前方、側方の関節包の約3倍安定性に寄与している。
前後方の動きとともに内旋が生じ内反が起こる。後外側構造体が破綻している時には内反で外旋が起こってしまう。
LCLの損傷は内反の増大をもたらす。しかし、後外側構造体が破綻していない限りはこの不安定性はほとんど出ることがない。外旋の増大は後外側構造体の完全な破綻を示す。PCLの切断は内反を増大させる。後外側構造体のみ、後十字靭帯の切断ではそれほどでもないがLCL、ACL、PCLの合併損傷では内側の関節が開大する。
外反
外反を抑えているのは内側側副靭帯の表層成分である。完全伸展時に全体の50%の力を受けている。前方と後方の関節包が25%の力を受けている。残りの25%はACLとPCLで受けている。MCLは屈曲でより働くようになっている。外反と回旋が進む時にはMCLの役割は小さくなる。その時には関節包の後外側部分の役割が大きくなる。
MCL以外の靭帯を切っても外反不安定性は増大しないがMCLの完全切断では外反不安定性は急激に増す。MCLとPCLを同時に切るとその不安定性が最も増すということが知られている。
これから分かることは外反を最も抑えているのはMCLであるがその次はPCLであるということである。外反の動きの時にはACLはほとんど影響しない。
内旋
膝の屈曲で内旋の柔らかさは増大していく。20-40度の屈曲のところで25度の内旋が認められる。MCLとACLだけが内旋の動きを支える方に働いている。これらのどちらか一方を切断しても明らかな内旋不安定性が生じる。MCLの方がより重要な働きをしている。ACLにLCLや外後側方構造体の切離を加えると内旋が35度増す。PCLの単独損傷では内旋不安定性は生じない。
前方と内側の移動が内旋と共同して起こる。ACL損傷があると前方への移動が多くなる。PCL、後外側構造体、LCLはこの運動に関わらない。
外旋
膝の屈曲で外旋の柔らかさが増してゆく。30-40度屈曲位で最大20度くらいの外旋がでる。外旋は前十字靭帯、後十字靭帯で直接制限されない。唯一PCLと後外側構造体が破綻している時には外旋不安定性が生じる。PCLは90度でもっとも緊張する。LCLと後外側構造体が切れると最も不安定になる。
外旋には後方移動と外側移動をともに伴う。
<論評>
なんとなくわかったような気分に。
膝には4つの靭帯がある。ACL,PCL,MCL,LCL。
形態学的に分けられており,また関節の中にあるかどうかでも分けられる。
LCLを除いたそれぞれの靭帯は細かくその成分が分けることが出来る。ACLは前方内側成分と後方外側成分に。PCLは前外側成分と後方内側成分とに分けられる。このように成分に分けることには意味があって、たとえば前十字靭帯,後十字靭帯共に伸展時に後方が緊張し、屈曲時には前方が緊張する。(図1)
内側側副靭帯は表面成分と深部成分に分けられ、それぞれが前方成分と後方成分とに分けられる。表面成分の前方部分は屈曲70-105度でもっとも緊張するようになっている。
ACLの平均の長さは31-38mm,幅11mm.PCLは38mm,幅13mmが平均である。ACLとPCLが交差するポイントはACLが遠位でPCLが近位であることがわかっているが臨床上これがどうしてなのかは不明である。(図2)
コラーゲン線維の太さも靭帯によって異なっており、MCLはACLの三倍太いため自然治癒能力が高い。
バイオメカニクス
ACLは前方への脛骨の移動を抑制し、PCLは後方への移動を抑制している。
MCLの表層成分は外反を防止し、LCLは内反防止に働いている。MCLとLCLは膝を包み込むような形状になっているのでこれによって内旋,外旋を制御している。
靭帯の強度
ACLとMCLの引っ張り力‐変形曲線を示す。これが上にあればあるほど変形やかかった力に耐えられるということである。MCLはACLの約2倍その耐える力が大きい。
靭帯は粘弾性を有する。図4のように力が加わってもそれを少しずつ変形し受けていくような形に靭帯は変化してゆく。
運動学
運動学は膝の形と機能を理解する上で重要である。膝靭帯の再建の目的は膝の柔軟性と運動力学と安定性を回復させることである。なのでどの靭帯が正常ではどのように働いているかを理解し,また同時に損傷している場合にはどうなるかを知る必要がある。
膝の運動は6つの方向で表現される。
移動が3つ:前方ー後方,内側ー外側,頭側ー尾側.
回旋が3つ:内反ー外反、屈曲ー伸展、内旋ー外旋
それぞれの運動は組み合わさって起こっており、前後方の回旋には内側への回旋が加わり、屈曲伸展の回旋には概則への回旋が加わる。
靭帯はほかの組織ともあいまって静的な安定性にも寄与している。
十字靭帯がクロスするようにあることでACLは回旋運動の中心となっていることがわかる。
図6では回旋運動とすべり運動の組み合わせについて述べている。回旋運動だけでは大腿骨が膝関節から脱臼してしまうが、すべりを伴うことで屈曲時の大腿骨の脱臼を抑えている。
前方への移動
前十字靭帯が脛骨の前方移動を制御している。完全伸展時には70%,30度屈曲、90度屈曲時には85%の力が前十字靭帯にかかる。つまり前十字靭帯の後方成分は完全伸展した時以外には力はかからない。
100Nの力を加えてみると完全伸展位の時には2-5mmしか前方移動しないが、30度屈曲位の時には5-8mmほど移動する。ここからは屈曲を強めれば強めるほど前方への移動量は減少する。ACLが部分ごとによって働く場所が違うので深屈曲していくことができる。
20-30度屈曲位で100Nの力で前方へ引き出すと7-9mm動く。ACL損傷にともなったMCLの完全断裂の際には前方への移動が起こるがMCLの部分的な問題では前方への移動は起こらない。同様に腸脛靭帯,LCL,後外側構造体,関節包などの損傷もACL損傷と合併すると前方への不安定性をます。PCL損傷は前方への移動量には関係がない。
気をつけなければいけないのは正常な膝の動きでは膝が屈曲するときには外反,内旋を伴いながら脛骨も前方に移動してゆく。ACLの損傷に伴ない30%前後方への移動が制限されると回旋も大きく減少する。つまりACLは前方への脛骨の動きを制限するだけでなく前後方の動きに伴う内旋,外旋の最初のきっかけである。
後方への移動
後十字靭帯が85%-100%の脛骨が後方へ移動するのを制限している。LCLと後外側構造体がこれを補助している。MCLはほとんど後方への支えにはなっていない。普通だと100Nで4-5mmの脛骨の移動が後十字靭帯が損傷すると15-20mmの移動が起こるようになる。(90度屈曲位の場合)。また同様に外旋が減少する。LCL、後外側構造体が切断するとむしろ外旋は増加する。これは30度で外旋が最大となり屈曲に伴って減少していくことに関わっている。ACLは後方への不安定性には関係がない。
脛骨の回旋は二次性に関節包などが固くなることで前後方への移動を減少させ得る。内旋することで前後方の不安定性が減少する。腸脛靭帯と外側の組織,内外側側副靭帯が固くなることでこの丈夫さを生み出している。外旋の時は内外側側副靭帯が固くなる。
内反
外側側副靭帯は内反を抑えている。完全伸展位で掛かる力の55%を負っている。また外側側副靭帯は内旋を制限するようにも働いている。そうすることで後外側構造体にかかる力を少なくして屈曲しやすくする効果がある。完全伸展にて前十字靭帯、後十字靭帯は25%の力が分散している。90度まで曲げるとACLは緩んでACLに掛かる力は小さくなるがPCLにかかる力が大きくなる。後方の関節包は前方、側方の関節包の約3倍安定性に寄与している。
前後方の動きとともに内旋が生じ内反が起こる。後外側構造体が破綻している時には内反で外旋が起こってしまう。
LCLの損傷は内反の増大をもたらす。しかし、後外側構造体が破綻していない限りはこの不安定性はほとんど出ることがない。外旋の増大は後外側構造体の完全な破綻を示す。PCLの切断は内反を増大させる。後外側構造体のみ、後十字靭帯の切断ではそれほどでもないがLCL、ACL、PCLの合併損傷では内側の関節が開大する。
外反
外反を抑えているのは内側側副靭帯の表層成分である。完全伸展時に全体の50%の力を受けている。前方と後方の関節包が25%の力を受けている。残りの25%はACLとPCLで受けている。MCLは屈曲でより働くようになっている。外反と回旋が進む時にはMCLの役割は小さくなる。その時には関節包の後外側部分の役割が大きくなる。
MCL以外の靭帯を切っても外反不安定性は増大しないがMCLの完全切断では外反不安定性は急激に増す。MCLとPCLを同時に切るとその不安定性が最も増すということが知られている。
これから分かることは外反を最も抑えているのはMCLであるがその次はPCLであるということである。外反の動きの時にはACLはほとんど影響しない。
内旋
膝の屈曲で内旋の柔らかさは増大していく。20-40度の屈曲のところで25度の内旋が認められる。MCLとACLだけが内旋の動きを支える方に働いている。これらのどちらか一方を切断しても明らかな内旋不安定性が生じる。MCLの方がより重要な働きをしている。ACLにLCLや外後側方構造体の切離を加えると内旋が35度増す。PCLの単独損傷では内旋不安定性は生じない。
前方と内側の移動が内旋と共同して起こる。ACL損傷があると前方への移動が多くなる。PCL、後外側構造体、LCLはこの運動に関わらない。
外旋
膝の屈曲で外旋の柔らかさが増してゆく。30-40度屈曲位で最大20度くらいの外旋がでる。外旋は前十字靭帯、後十字靭帯で直接制限されない。唯一PCLと後外側構造体が破綻している時には外旋不安定性が生じる。PCLは90度でもっとも緊張する。LCLと後外側構造体が切れると最も不安定になる。
外旋には後方移動と外側移動をともに伴う。
<論評>
なんとなくわかったような気分に。
2010年2月4日木曜日
2010.2.4 JHS 2009 Mallet finger
THE PATIENT
37歳整形外科医が会議に参加していた。午後のスキーのsessionで転倒し、利き手ではない左手の中指と環指を受傷した。夕方の講義形式のsessionにも戻った時に、透視で中指・環指の骨性マレットを確認した。中指は末節骨関節面の約33%の骨片と僅かな亜脱臼を呈しており、環指は亜脱臼なく関節面の25%を含んでいた。Splintingを行ったが、どの治療がbestか活発な議論が行われた。
THE QUESTION
非開放性の骨性または腱性マレットの最も良い治療法は何か。
CURRENT OPINION
ほとんどの手の外科医は亜脱臼や大きな関節内骨折がなければ、非観血的治療が最も良いと考えている。Splintの好みはかなり意見が分かれる。観血的治療はピンからの感染、不完全な整復、皮膚の欠損、固定力不足などから、あまり好まれない。
THE EVIDENCE
Studies comparing splints
KinninmouthとHolburnは54名のランダム化前向き試験で貫通型のsplintとStack splint(既成のmoldされたポリエチレンのsplint)を比較。貫通型のほうがコンプライアンスに優れていたが、治療者が作らなくはいけない。
MaitraとDoraniはアルミニウム合金の形を変えられるsplintとStack splintを比較。Stack splintで皮膚障害が多かったが、outcomeとしては同等であった。
WarrenらはAbouna splint(ゴムでコーティングされたワイヤsplint)とStack splintを比較。Abouna splintで皮膚の問題があり、患者満足度が低かったが、outcomeは同等であった。
Splint versus surgery
Niechalevは10年間の、非ランダム化前向きコホート研究を150名のマレット指に行った。82名は腱性、68名が骨性であった。平均3年観察。腱性または小骨片(非関節面の剥離骨折)92名はsplintで治療。関節面の骨折43名中、26名で観血的治療を行い、12名はsplint、5名は固定しなかった。非観血的治療はアルミニウムsplintを背側か掌側につけて行い、観血的治療はpinningとpull-out法で行った。結論としては末節骨の亜脱臼があるか関節面1/3以上または3mm以上の骨片があれば観血的治療を考慮するとしていた。
SternとKastrupは123のマレット指をretrospectiveにreviewした。関節内骨折が45、剥離骨折が37、腱性が39であった。Splintを行ったのが78指、観血的手術が39指、両方行ったのが6指であった。手術の合併症発生率は53%(そのうち長期に及ぶのが76%)であり、内訳は感染20%、爪の変形18%、関節面のずれ18%、固定不良13%、骨隆起11%であった。結論としてはほぼすべてのマレット指でsplintingによる治療のほうがよいとしていた。
WehbeとSchneiderはマレット指患者160名をretrospectiveにreviewした。骨性は44名(28%)であった。骨性患者のうち21名は最低6カ月、平均3年以上フォローしていた。手術した9名中2名で合併症があり、1名は整復位が失われ、もう1名はpull-outのボタンが取られてしまった。変性について観血的治療と非観血的治療を比較、筆者らは骨性であれ腱性であれsplintingが安全で信頼性の置ける治療法だと結論付けた。
Lubahnは観血的手術またはsplintingで治療したマレット指30指について前向きコホート研究を報告した。関節の亜脱臼または関節面1/3以上の骨折のある患者11名に外科的治療を行い、残る11名はsplintで治療した。かなり短いコホート研究ではあるが、観血的整復と細いK-wireの使用で、症例によっては整容的にも機能的にも優れた結果を得られることを論じている。
Auchinclossはpinningまたはsplintで加療した50名のマレット指を前向きランダム化試験で調べた。3名のsplintによる皮膚刺激と2名のピンからの感染があった。観血的治療と非観血的治療で結果は同等であったが、受傷後2週目なら観血的治療がよいと勧めている。
Geymanらは1966-1998年に出された研究をメタ解析したが、ランダム化試験は1つだけであった。Poolした論文のreviewから、関節面1/3までの骨折を含めほとんどのマレット指はsplintで治療できると結論付けた。伸筋腱の30%までのlagならほとんどの患者で許容範囲であり、観血的治療は複雑な損傷か再発の場合に選択すべきである。
HandollとVoghelaによる最近のメタ解析では、4つの論文を調べ、うち3つはsplinting、1つはsplintingとK-wire固定の組み合わせであった。著者らはどのsplintが最も良いかを決めるにはevidenceが不足しているが、splintは毎日の使用に耐えうる強度がなくてはいけないと結論付けた。また、厳格なプロトコールの順守が重要である。観血的治療に関しては、適応を決めるにはevidenceが不足していた。
O’Farrellらの論文ではレクリエーション中に非開放性のマレット指を受傷した3名の外科医について報告している。一人も観血的治療を望まなかったが、執刀は継続したいと考えていた。そのため滅菌された術中に使えるsplintを用いて管理し、執刀のスケジュールは崩さなかった。筆者らは20年以上この方法で外科医・歯科医を治療し、良好な成績であると述べている。
SHORTCOMINGS OF THE EVIDENCE AND DIRECTIONS FOR FUTURE RESERCH
マレット指に関するたくさんの原著論文が出ているが、ほとんどがuncontrolled studyである。マレット指はcommon diseaseなので、その管理の面でのさまざまな前向きランダム化比較試験を行っていくべきである。
MY CURRENT CONCEPTS
最近の論文のreviewによると、大多数のマレット指に対するsplint治療を支持する質の高いevidenceがある。Splintの種類よりコンプライアンスが重要である。観血的治療は関節の亜脱臼があるか、大きな関節面の骨片の転位(1/3以上)がある場合のみ考慮される。観血的治療を行ったら合併症を注意深くみていかなくてはいけない。治療法の選択によらず、患者は治療後わずかな伸筋腱のlagや背側の骨隆起の可能性があることを理解しなくはいけない。
たくさんの手の外科医の長い議論の末、大多数がsplintがよいと考えていることがわかった。しかし、痛みのため中指の亜脱臼は戻せず、また執刀予定を全うするにはpinningが最もよいと本人が考えていたので、K-wire 1.4mmで経皮的pinningして皮内に埋めることを選択した。Splintは日中つけておき、手術時外した。無理なく手術スケジュールは全うし、現在もROMの異常なく働いている。
《論評》
クリアカットで一定のコンセンサスが得られる内容であると思います。外科医が手術を受けたがらなかったというところがオチですかね。笑
37歳整形外科医が会議に参加していた。午後のスキーのsessionで転倒し、利き手ではない左手の中指と環指を受傷した。夕方の講義形式のsessionにも戻った時に、透視で中指・環指の骨性マレットを確認した。中指は末節骨関節面の約33%の骨片と僅かな亜脱臼を呈しており、環指は亜脱臼なく関節面の25%を含んでいた。Splintingを行ったが、どの治療がbestか活発な議論が行われた。
THE QUESTION
非開放性の骨性または腱性マレットの最も良い治療法は何か。
CURRENT OPINION
ほとんどの手の外科医は亜脱臼や大きな関節内骨折がなければ、非観血的治療が最も良いと考えている。Splintの好みはかなり意見が分かれる。観血的治療はピンからの感染、不完全な整復、皮膚の欠損、固定力不足などから、あまり好まれない。
THE EVIDENCE
Studies comparing splints
KinninmouthとHolburnは54名のランダム化前向き試験で貫通型のsplintとStack splint(既成のmoldされたポリエチレンのsplint)を比較。貫通型のほうがコンプライアンスに優れていたが、治療者が作らなくはいけない。
MaitraとDoraniはアルミニウム合金の形を変えられるsplintとStack splintを比較。Stack splintで皮膚障害が多かったが、outcomeとしては同等であった。
WarrenらはAbouna splint(ゴムでコーティングされたワイヤsplint)とStack splintを比較。Abouna splintで皮膚の問題があり、患者満足度が低かったが、outcomeは同等であった。
Splint versus surgery
Niechalevは10年間の、非ランダム化前向きコホート研究を150名のマレット指に行った。82名は腱性、68名が骨性であった。平均3年観察。腱性または小骨片(非関節面の剥離骨折)92名はsplintで治療。関節面の骨折43名中、26名で観血的治療を行い、12名はsplint、5名は固定しなかった。非観血的治療はアルミニウムsplintを背側か掌側につけて行い、観血的治療はpinningとpull-out法で行った。結論としては末節骨の亜脱臼があるか関節面1/3以上または3mm以上の骨片があれば観血的治療を考慮するとしていた。
SternとKastrupは123のマレット指をretrospectiveにreviewした。関節内骨折が45、剥離骨折が37、腱性が39であった。Splintを行ったのが78指、観血的手術が39指、両方行ったのが6指であった。手術の合併症発生率は53%(そのうち長期に及ぶのが76%)であり、内訳は感染20%、爪の変形18%、関節面のずれ18%、固定不良13%、骨隆起11%であった。結論としてはほぼすべてのマレット指でsplintingによる治療のほうがよいとしていた。
WehbeとSchneiderはマレット指患者160名をretrospectiveにreviewした。骨性は44名(28%)であった。骨性患者のうち21名は最低6カ月、平均3年以上フォローしていた。手術した9名中2名で合併症があり、1名は整復位が失われ、もう1名はpull-outのボタンが取られてしまった。変性について観血的治療と非観血的治療を比較、筆者らは骨性であれ腱性であれsplintingが安全で信頼性の置ける治療法だと結論付けた。
Lubahnは観血的手術またはsplintingで治療したマレット指30指について前向きコホート研究を報告した。関節の亜脱臼または関節面1/3以上の骨折のある患者11名に外科的治療を行い、残る11名はsplintで治療した。かなり短いコホート研究ではあるが、観血的整復と細いK-wireの使用で、症例によっては整容的にも機能的にも優れた結果を得られることを論じている。
Auchinclossはpinningまたはsplintで加療した50名のマレット指を前向きランダム化試験で調べた。3名のsplintによる皮膚刺激と2名のピンからの感染があった。観血的治療と非観血的治療で結果は同等であったが、受傷後2週目なら観血的治療がよいと勧めている。
Geymanらは1966-1998年に出された研究をメタ解析したが、ランダム化試験は1つだけであった。Poolした論文のreviewから、関節面1/3までの骨折を含めほとんどのマレット指はsplintで治療できると結論付けた。伸筋腱の30%までのlagならほとんどの患者で許容範囲であり、観血的治療は複雑な損傷か再発の場合に選択すべきである。
HandollとVoghelaによる最近のメタ解析では、4つの論文を調べ、うち3つはsplinting、1つはsplintingとK-wire固定の組み合わせであった。著者らはどのsplintが最も良いかを決めるにはevidenceが不足しているが、splintは毎日の使用に耐えうる強度がなくてはいけないと結論付けた。また、厳格なプロトコールの順守が重要である。観血的治療に関しては、適応を決めるにはevidenceが不足していた。
O’Farrellらの論文ではレクリエーション中に非開放性のマレット指を受傷した3名の外科医について報告している。一人も観血的治療を望まなかったが、執刀は継続したいと考えていた。そのため滅菌された術中に使えるsplintを用いて管理し、執刀のスケジュールは崩さなかった。筆者らは20年以上この方法で外科医・歯科医を治療し、良好な成績であると述べている。
SHORTCOMINGS OF THE EVIDENCE AND DIRECTIONS FOR FUTURE RESERCH
マレット指に関するたくさんの原著論文が出ているが、ほとんどがuncontrolled studyである。マレット指はcommon diseaseなので、その管理の面でのさまざまな前向きランダム化比較試験を行っていくべきである。
MY CURRENT CONCEPTS
最近の論文のreviewによると、大多数のマレット指に対するsplint治療を支持する質の高いevidenceがある。Splintの種類よりコンプライアンスが重要である。観血的治療は関節の亜脱臼があるか、大きな関節面の骨片の転位(1/3以上)がある場合のみ考慮される。観血的治療を行ったら合併症を注意深くみていかなくてはいけない。治療法の選択によらず、患者は治療後わずかな伸筋腱のlagや背側の骨隆起の可能性があることを理解しなくはいけない。
たくさんの手の外科医の長い議論の末、大多数がsplintがよいと考えていることがわかった。しかし、痛みのため中指の亜脱臼は戻せず、また執刀予定を全うするにはpinningが最もよいと本人が考えていたので、K-wire 1.4mmで経皮的pinningして皮内に埋めることを選択した。Splintは日中つけておき、手術時外した。無理なく手術スケジュールは全うし、現在もROMの異常なく働いている。
《論評》
クリアカットで一定のコンセンサスが得られる内容であると思います。外科医が手術を受けたがらなかったというところがオチですかね。笑
2010年2月1日月曜日
2010.2.1 JBJS(Am) The Relationship Between Time to Surgical Débridement and Incidence of Infection After Open High-Energy Lower Extremity Trauma
要旨
背景
開放骨折に対して緊急でデブリードマンを行うことは感染を予防するもっとも重要な方法のうちのひとつであると考えられている。今回の目的は手術までの時間が本当に感染の成立に寄与しているかどうかを調べることである。
方法
8つのレベル1外傷センターに搬送された重篤な下腿開放骨折の患者315人。徹底的なデブリードマンを行い、抗生剤の投与、骨折部の固定、適切な時期に軟部組織による被覆を行った。受傷から入院まで、受傷から手術までの時間、などについて集計した。また術後3ヶ月以内に発症した感染を術後感染と定義している。これで多変量解析を行い感染成立にもっともかかわっている因子を明らかにした。
結果
全体の27%の患者で感染を発症した。感染を発症した群とそうでない群で受傷から手術までの時間には有意差がなかった。入院から手術までの時間、入院から軟部組織で覆うまでの時間で両群には差が見られなかった。受傷から医療機関に搬送されるまでの時間で両群で有意差を認めた。
考察
受傷から手術までの時間は感染成立にかかわる独立した予測因子とはなりえない。早期に医療機関に搬送することが感染防止に役立つ唯一の手段である。
図1 直接レベル1外傷センターに運ばれた患者でかかった時間と途中で別の医療機関を経由して外傷センターに運ばれてきた患者でかかった時間のグラフ。直接搬送された場合には平均1.4時間。途中で経由すると平均7.9時間。
表1 今回の調査結果。感染群と非感染群との間で有意な差があったのは受傷から入院までの時間のみ。入院から手術、受傷から手術、デブリードマンしてから軟部組織で覆うまでの時間の3つの調査項目では有意差がなかった。
図2 入院から手術までの時間。直接搬送された群と別の医療機関を経由してきた場合には平均7時間で手術開始できており両群に差は認められなかった。
表2 受傷からデブリードマンまでの時間を5時間以内,5-10時間、10時間以上で分けて感染率を比較。どの群間でも有意差は認められなかった。
図3 デブリードマンしてから軟部組織で覆うまでの時間の比較。直接搬送群、間接搬送群とも120時間程度で有意差なし。
表3 受傷から入院までの時間。直接外傷センターに搬送されている群は2時間以内に搬送されているか2時間以上かかっているかで感染率に差がある。また途中で別の医療機関を経由してからきた場合には11時間以上かかると感染率が有意に高くなる。
表4 多変量解析の結果 受傷から入院までの時間がかかっていると感染率が高くなる
考察
今回の研究では受傷からデブリードマンにいたるまでの時間は感染の予測因子として重要ではないことがわかった。しかしこのことは開放骨折のときに緊急にデブリードマンをしなくてもよいということを言いたいわけではない。本研究の中で対象となった患者達はその全身状態に応じて可能な限り与えられるべきだけの治療がなされた上で評価がなされている。なのでコントロール群として人手や施設を理由とした”遅れた”デブリードマンが行われた症例はない。同じ理由で早くデブリードマンをすると感染率が下がるということを本研究で言うこともできない。多くの著者が開放骨折は整形外科的緊急手術であるといっているがこれを支持するデータも臨床研究も実はほとんどないのである。本研究ではとにかく早く外傷センターに患者を搬送することが有用であるということしかいえない。
今回下肢の外傷ということで下腿と足も含まれている。足だけの場合には搬送する側がこの患者を外傷センターに運ぶべきかまたは近隣の医療機関に搬送すべきかを悩むようなことがある。感染予防の観点だけで言えば、このような場合には2時間以内に直接外傷センターに運ぶか、近隣の医療機関に運んでも11時間以内に外傷センターへ再度転送することが望ましいということがいえる。
直接外傷センターに運ばれてきた患者で二時間以内か否かということで大きく感染率に差が出ている。これは病院の外に居る時間が長ければ長いほど感染率が高くなるということを示している。どうして長い時間現場に居なくてはいけなかったのかということについての更なる調査が必要であり、長い時間現場に居たということはその事故の大きさを示してもいる。車に長い間挟まっているほうが早く救出された患者よりも感染率を下げるのかもしれない。病院の外で救急車で待っているということが実は感染率を上げているのかも知れない。とにかく早く病院に来たほうが抗生剤の投与などの治療が受けられるので感染率を下げるのであろう。
2時間以内に外傷センターに運び込まれた患者よりも4時間から10時間たってから最初の医療機関から転送されてきた患者のほうが感染率が低い。解析の結果では治療のさ、患者の重症度の差、患者背景の差ではないとなっている。これからいえることは救肢手術が必要な場合には出来るだけ搬送すべきであるいうことである。その前の病院に運び込まれるまでにどれくらい時間がかかっているのかというデータが無いのでなんともいえないが出来るだけ早くdefinitiveな固定が行えるような施設に転送することが求められる。
この研究で全体の感染率は27%と他の報告よりも高かった。ひとつはより広義に感染と考えたこと、もうひとつは今まで発表された研究よりも重症度が高いことが影響しているのであろう。
今回の研究では受傷から治療までの時間でいかに合併症が発生するかについて分析した。その結果、とにかく正確な受傷時間の記載が重要である。
一般に骨折の重症度は感染率の増加と関連するといわれているが本研究では関連が無かった。これは重症度が搬送までの時間として置き換えられてしまっているせいなのかもしれない。
重症患者は早期に外傷センターへ搬送し早期に治療が開始されることが求められる。
《論評》
一般的に言われていたゴールデンアワーという概念はホント?と言う事を目的とした研究。非常に示唆に飛んでいてオモシロイと思います。二点言えることがあって,一点はオペ室をそんなに急かさなくても良いというひとつの根拠になるということ。もうひとつは日本でも徹底的に治療が行える外傷センターの整備が急務であるということだと思います。
背景
開放骨折に対して緊急でデブリードマンを行うことは感染を予防するもっとも重要な方法のうちのひとつであると考えられている。今回の目的は手術までの時間が本当に感染の成立に寄与しているかどうかを調べることである。
方法
8つのレベル1外傷センターに搬送された重篤な下腿開放骨折の患者315人。徹底的なデブリードマンを行い、抗生剤の投与、骨折部の固定、適切な時期に軟部組織による被覆を行った。受傷から入院まで、受傷から手術までの時間、などについて集計した。また術後3ヶ月以内に発症した感染を術後感染と定義している。これで多変量解析を行い感染成立にもっともかかわっている因子を明らかにした。
結果
全体の27%の患者で感染を発症した。感染を発症した群とそうでない群で受傷から手術までの時間には有意差がなかった。入院から手術までの時間、入院から軟部組織で覆うまでの時間で両群には差が見られなかった。受傷から医療機関に搬送されるまでの時間で両群で有意差を認めた。
考察
受傷から手術までの時間は感染成立にかかわる独立した予測因子とはなりえない。早期に医療機関に搬送することが感染防止に役立つ唯一の手段である。
図1 直接レベル1外傷センターに運ばれた患者でかかった時間と途中で別の医療機関を経由して外傷センターに運ばれてきた患者でかかった時間のグラフ。直接搬送された場合には平均1.4時間。途中で経由すると平均7.9時間。
表1 今回の調査結果。感染群と非感染群との間で有意な差があったのは受傷から入院までの時間のみ。入院から手術、受傷から手術、デブリードマンしてから軟部組織で覆うまでの時間の3つの調査項目では有意差がなかった。
図2 入院から手術までの時間。直接搬送された群と別の医療機関を経由してきた場合には平均7時間で手術開始できており両群に差は認められなかった。
表2 受傷からデブリードマンまでの時間を5時間以内,5-10時間、10時間以上で分けて感染率を比較。どの群間でも有意差は認められなかった。
図3 デブリードマンしてから軟部組織で覆うまでの時間の比較。直接搬送群、間接搬送群とも120時間程度で有意差なし。
表3 受傷から入院までの時間。直接外傷センターに搬送されている群は2時間以内に搬送されているか2時間以上かかっているかで感染率に差がある。また途中で別の医療機関を経由してからきた場合には11時間以上かかると感染率が有意に高くなる。
表4 多変量解析の結果 受傷から入院までの時間がかかっていると感染率が高くなる
考察
今回の研究では受傷からデブリードマンにいたるまでの時間は感染の予測因子として重要ではないことがわかった。しかしこのことは開放骨折のときに緊急にデブリードマンをしなくてもよいということを言いたいわけではない。本研究の中で対象となった患者達はその全身状態に応じて可能な限り与えられるべきだけの治療がなされた上で評価がなされている。なのでコントロール群として人手や施設を理由とした”遅れた”デブリードマンが行われた症例はない。同じ理由で早くデブリードマンをすると感染率が下がるということを本研究で言うこともできない。多くの著者が開放骨折は整形外科的緊急手術であるといっているがこれを支持するデータも臨床研究も実はほとんどないのである。本研究ではとにかく早く外傷センターに患者を搬送することが有用であるということしかいえない。
今回下肢の外傷ということで下腿と足も含まれている。足だけの場合には搬送する側がこの患者を外傷センターに運ぶべきかまたは近隣の医療機関に搬送すべきかを悩むようなことがある。感染予防の観点だけで言えば、このような場合には2時間以内に直接外傷センターに運ぶか、近隣の医療機関に運んでも11時間以内に外傷センターへ再度転送することが望ましいということがいえる。
直接外傷センターに運ばれてきた患者で二時間以内か否かということで大きく感染率に差が出ている。これは病院の外に居る時間が長ければ長いほど感染率が高くなるということを示している。どうして長い時間現場に居なくてはいけなかったのかということについての更なる調査が必要であり、長い時間現場に居たということはその事故の大きさを示してもいる。車に長い間挟まっているほうが早く救出された患者よりも感染率を下げるのかもしれない。病院の外で救急車で待っているということが実は感染率を上げているのかも知れない。とにかく早く病院に来たほうが抗生剤の投与などの治療が受けられるので感染率を下げるのであろう。
2時間以内に外傷センターに運び込まれた患者よりも4時間から10時間たってから最初の医療機関から転送されてきた患者のほうが感染率が低い。解析の結果では治療のさ、患者の重症度の差、患者背景の差ではないとなっている。これからいえることは救肢手術が必要な場合には出来るだけ搬送すべきであるいうことである。その前の病院に運び込まれるまでにどれくらい時間がかかっているのかというデータが無いのでなんともいえないが出来るだけ早くdefinitiveな固定が行えるような施設に転送することが求められる。
この研究で全体の感染率は27%と他の報告よりも高かった。ひとつはより広義に感染と考えたこと、もうひとつは今まで発表された研究よりも重症度が高いことが影響しているのであろう。
今回の研究では受傷から治療までの時間でいかに合併症が発生するかについて分析した。その結果、とにかく正確な受傷時間の記載が重要である。
一般に骨折の重症度は感染率の増加と関連するといわれているが本研究では関連が無かった。これは重症度が搬送までの時間として置き換えられてしまっているせいなのかもしれない。
重症患者は早期に外傷センターへ搬送し早期に治療が開始されることが求められる。
《論評》
一般的に言われていたゴールデンアワーという概念はホント?と言う事を目的とした研究。非常に示唆に飛んでいてオモシロイと思います。二点言えることがあって,一点はオペ室をそんなに急かさなくても良いというひとつの根拠になるということ。もうひとつは日本でも徹底的に治療が行える外傷センターの整備が急務であるということだと思います。
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