2010年2月1日月曜日

2010.2.1 JBJS(Am) The Relationship Between Time to Surgical Débridement and Incidence of Infection After Open High-Energy Lower Extremity Trauma

要旨
背景
開放骨折に対して緊急でデブリードマンを行うことは感染を予防するもっとも重要な方法のうちのひとつであると考えられている。今回の目的は手術までの時間が本当に感染の成立に寄与しているかどうかを調べることである。
方法
8つのレベル1外傷センターに搬送された重篤な下腿開放骨折の患者315人。徹底的なデブリードマンを行い、抗生剤の投与、骨折部の固定、適切な時期に軟部組織による被覆を行った。受傷から入院まで、受傷から手術までの時間、などについて集計した。また術後3ヶ月以内に発症した感染を術後感染と定義している。これで多変量解析を行い感染成立にもっともかかわっている因子を明らかにした。
結果
全体の27%の患者で感染を発症した。感染を発症した群とそうでない群で受傷から手術までの時間には有意差がなかった。入院から手術までの時間、入院から軟部組織で覆うまでの時間で両群には差が見られなかった。受傷から医療機関に搬送されるまでの時間で両群で有意差を認めた。
考察
受傷から手術までの時間は感染成立にかかわる独立した予測因子とはなりえない。早期に医療機関に搬送することが感染防止に役立つ唯一の手段である。

図1 直接レベル1外傷センターに運ばれた患者でかかった時間と途中で別の医療機関を経由して外傷センターに運ばれてきた患者でかかった時間のグラフ。直接搬送された場合には平均1.4時間。途中で経由すると平均7.9時間。
表1 今回の調査結果。感染群と非感染群との間で有意な差があったのは受傷から入院までの時間のみ。入院から手術、受傷から手術、デブリードマンしてから軟部組織で覆うまでの時間の3つの調査項目では有意差がなかった。
図2 入院から手術までの時間。直接搬送された群と別の医療機関を経由してきた場合には平均7時間で手術開始できており両群に差は認められなかった。
表2 受傷からデブリードマンまでの時間を5時間以内,5-10時間、10時間以上で分けて感染率を比較。どの群間でも有意差は認められなかった。
図3 デブリードマンしてから軟部組織で覆うまでの時間の比較。直接搬送群、間接搬送群とも120時間程度で有意差なし。
表3 受傷から入院までの時間。直接外傷センターに搬送されている群は2時間以内に搬送されているか2時間以上かかっているかで感染率に差がある。また途中で別の医療機関を経由してからきた場合には11時間以上かかると感染率が有意に高くなる。
表4 多変量解析の結果 受傷から入院までの時間がかかっていると感染率が高くなる

考察
今回の研究では受傷からデブリードマンにいたるまでの時間は感染の予測因子として重要ではないことがわかった。しかしこのことは開放骨折のときに緊急にデブリードマンをしなくてもよいということを言いたいわけではない。本研究の中で対象となった患者達はその全身状態に応じて可能な限り与えられるべきだけの治療がなされた上で評価がなされている。なのでコントロール群として人手や施設を理由とした”遅れた”デブリードマンが行われた症例はない。同じ理由で早くデブリードマンをすると感染率が下がるということを本研究で言うこともできない。多くの著者が開放骨折は整形外科的緊急手術であるといっているがこれを支持するデータも臨床研究も実はほとんどないのである。本研究ではとにかく早く外傷センターに患者を搬送することが有用であるということしかいえない。
今回下肢の外傷ということで下腿と足も含まれている。足だけの場合には搬送する側がこの患者を外傷センターに運ぶべきかまたは近隣の医療機関に搬送すべきかを悩むようなことがある。感染予防の観点だけで言えば、このような場合には2時間以内に直接外傷センターに運ぶか、近隣の医療機関に運んでも11時間以内に外傷センターへ再度転送することが望ましいということがいえる。
直接外傷センターに運ばれてきた患者で二時間以内か否かということで大きく感染率に差が出ている。これは病院の外に居る時間が長ければ長いほど感染率が高くなるということを示している。どうして長い時間現場に居なくてはいけなかったのかということについての更なる調査が必要であり、長い時間現場に居たということはその事故の大きさを示してもいる。車に長い間挟まっているほうが早く救出された患者よりも感染率を下げるのかもしれない。病院の外で救急車で待っているということが実は感染率を上げているのかも知れない。とにかく早く病院に来たほうが抗生剤の投与などの治療が受けられるので感染率を下げるのであろう。

2時間以内に外傷センターに運び込まれた患者よりも4時間から10時間たってから最初の医療機関から転送されてきた患者のほうが感染率が低い。解析の結果では治療のさ、患者の重症度の差、患者背景の差ではないとなっている。これからいえることは救肢手術が必要な場合には出来るだけ搬送すべきであるいうことである。その前の病院に運び込まれるまでにどれくらい時間がかかっているのかというデータが無いのでなんともいえないが出来るだけ早くdefinitiveな固定が行えるような施設に転送することが求められる。

この研究で全体の感染率は27%と他の報告よりも高かった。ひとつはより広義に感染と考えたこと、もうひとつは今まで発表された研究よりも重症度が高いことが影響しているのであろう。

今回の研究では受傷から治療までの時間でいかに合併症が発生するかについて分析した。その結果、とにかく正確な受傷時間の記載が重要である。

一般に骨折の重症度は感染率の増加と関連するといわれているが本研究では関連が無かった。これは重症度が搬送までの時間として置き換えられてしまっているせいなのかもしれない。

重症患者は早期に外傷センターへ搬送し早期に治療が開始されることが求められる。

《論評》
一般的に言われていたゴールデンアワーという概念はホント?と言う事を目的とした研究。非常に示唆に飛んでいてオモシロイと思います。二点言えることがあって,一点はオペ室をそんなに急かさなくても良いというひとつの根拠になるということ。もうひとつは日本でも徹底的に治療が行える外傷センターの整備が急務であるということだと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿