2009年8月24日月曜日

Compressive neuropathies carpal tunnel syndrome. Current orthop. 560-562

正中神経障害手根管症候群A解剖手根管部での正中神経の圧迫は上肢の圧迫性神経障害の中でもっともよく見られる病態である。舟状骨結節と大菱形骨で橈側を形成し、有鈎骨と豆状骨で尺側を形成し有頭骨で背側を、横手根靭帯が掌側を形成する。B臨床所見手根管症候群はたいてい特発性である。妊娠、アミロイドーシス、屈筋腱の腱鞘炎、使いすぎ、急性もしくは慢性の炎症状態、手関節の外傷による障害、糖尿病、甲状腺機能低下症などの内分泌疾患、腫瘍性病変が考えられる。鑑別診断としては頚椎からの神経根もしくは正中神経の別の場所での圧迫が考えられる。糖尿病性神経障害は手根管症候群に似た症状を起こす。ときには糖尿病の患者ではCTSを同時発症している場合が多い。1、症状と所見手全体の感覚の低下を訴え、多くの患者が母指、示指、中指の痺れを訴える。痛みが眠りに落ちることを妨げることはほとんどないが、眠りについてから数時間後の起きるほどの痛みは特徴的である。しばらく指を動かしていると再び眠りにつくことが出来る。多くの患者は朝起きたときのこわばりを訴える。不快感またはしびれ感、またはその両方が手関節を掌屈していることによって引き起こされる。(ハンドルを握る。受話器を持つ。本、新聞を読むなど)。不快感と痛みが肩、首に手を持ち上げることによって生じる。瓶のふたを開けるときにぎこちなさを感じたり、コップをしっかりと持つことが難しくなる。正中神経支配領域での筋萎縮は長期間にわたる重症例である。しかし早期例では一般的でない。2、誘発テストPhalenテストとTinelサインが有用a,Tinel signTinelサインは手根管の近位をコウ打することによって誘発される。陽性であれば母指、示指、中指にぞわぞわとした感じや電撃痛を訴える。b、PhalenテストPhalenテストのほうがTinelサインよりも特異度が高いと考えられている。このテストでは肘は伸展位にして手関節を掌屈して行う。症状が発現するまでの時間を計り、この時間が60秒以内であればCTSを疑う。発現までの時間と症状が発現した部位の両方を記録しておく必要がある。c、手関節圧迫テスト正中神経を30秒間手関節上で圧迫。症状が発現するかを見る。ほかのテストとの組み合わせで使う。3、2点識別試験2点識別能はCTSの患者ではしばしば低下している。手掌の橈側は正常であるがこれは正中神経の皮枝が手根管を通過していないためである。4、画像所見手根管撮影が必要である。5、電気生理学的試験NCVと筋電図は手関節のどこで圧迫されているかを知ったりするときに有用である。NCVとEMGは手術をするかどうかを決定するときに有用である。運動そくのlatencyが3.5-4.0msより延長していればCTSと診断するC治療1、保存療法手関節を屈曲または伸展の状態においておくと手根管内圧が上昇するのでまずは夜間の中間位装具の装着を薦める。これによって臨床症状の改善が得られるようであればそれはCTSであるという診断をより強固に進めることができる。キーボードの高さの調整や反復動作を制限することも有効。ステロイドの手根管への注射は屈筋腱周囲の炎症を減らすことや症状を軽減させることに役立つ。PLのすぐ尺側から手掌皮線で25Gの針を用いて注射する。PLがはっきりしない場合には環指のトウ側の延長線上に注射する。注射をする前に患者に”びりっとするよ”と伝えておく。びりっとすると答えた場合には針が正中神経に刺さっているので注射液を入れてはいけない。その場合には針を引き抜いて数ミリ尺側に移動させる。針を刺したときにまず皮膚を貫いて次に横手根靭帯を貫く感じがある。麻酔薬とステロイドを混ぜたものを注射する。注射の後に症状が改善するひとは手術をしてもよくなる可能性が高い。2、手術療法保存療法に反応しない場合には外科的に横手根靭帯の切除をする。直視法と内視鏡によるものとがある。手掌で横手根靭帯を直視下に切除する。皮切はPLのすぐ尺側に置くかまたは環指のトウ側の延長線上に置く。正中神経の皮枝の障害に気をつける。手掌腱膜をよけると横手根靭帯が現れる。内視鏡的切除であれば手掌を切ることによって生じる痛みを回避できることがある。内視鏡的切除では早期社会復帰が可能となるが医原性の神経障害や腱損傷。遅発性の再発率の高さが指摘されている。直視法、内視鏡法とも有用な方法である。どちらにするかは術者の技量で決めればよい。再発例には内視鏡法は用いてはいけない。術翌日からの指の自動運動を指導し、術後1週間からの手関節運動を開始。4-8週間は手を使うような職業への復帰をしないようにすることで創部痛を回避する。術後3-4週たっても機能回復がいまひとつであれば過敏性を減じたりするリハビリをしたり、ROMやストレッチングをするように命じる。

やはり診断の基本は問診。検査はあくまでも補助的手段であるということがわかる。とくに夜間の疼痛をこれだけ詳細に聞くことには意味があるだろう。

2009年8月20日木曜日

Current orthop. 215-217: Elbow injury

EPICONDYLITIS(TENNIS ELBOW)
 テニス肘は肘周辺の痛みをおこす多くの場合につけられる名前である。通常解剖学的位置が突き止められ、特定の診断名が与えられる。

Lateral Epicondylitis
 外側のテニス肘では手関節・手の伸筋腱が侵される。テニスでのバックハンドストロークなどの抵抗下での繰り返しの伸展運動がリスクとなる。通常慢性的な痛みとなり、何もできないというより煩わしい痛みとなる。圧痛部位は上腕骨外側上果上にあり、抵抗下に手関節背屈することにより疼痛が出現する。ECRB(短橈側手根伸筋腱)がもっともこの部位で同定される。他の肘の外側部に痛みを生じる原因を考える必要があり、腕橈関節関節症や後骨間神経の圧迫などがある。レントゲンではまれに上腕骨上果外側に軟部組織の石灰化を示すのみであり、MRIは診断に役立つかは疑問が残る。
 治療は特定の活動を制限することや、テニス用のエルボーバンドを使用し筋肉にかかる緊張を広範囲に分布させ、単位面積にかかる力を減少させる。より軽いラケット、グリップの小さいラケットの使用や、バックハンドのテクニックを直すことは有用である。治療計画には手関節背屈筋力の強化訓練も含まれるべきである。このアプローチがうまくかなければ、局所麻酔剤とコルチゾンをもっとも圧痛の強い部位に注射するのはしばしば奏功する。難治例では外科的治療が必要。さまざまな手法があるが、共通するのは伸筋の共同起始部のリリースである。障害された腱の組織学的研究では血管線維芽細胞の増殖を伴う変性を認めた。腱板損傷と機序が似ていると考えられており、血流の低下、(腱の)栄養状態の変化、そして脆弱な腱の損傷を起こす。

Medial Epicondylitis
 内上果は屈筋と回内筋の共同起始部である。外側のテニス肘のマネージメントと治療は同様である。肘での尺骨神経の圧迫は内側のテニス肘に合併することがある。約60%で外科的治療が行われ、尺骨神経の圧迫が存在する。屈筋腱の共同起始部は肘の内側部の安定化に重要で、外科的治療がおこなわれる場合、デブリドマンを行った腱は内上果からリリースしておくより再接合しておくべきである。

ELBOW INSTABILITY
 肘の側副靭帯の損傷は肘の脱臼により最もよく起こる。過度の外反力により起こり、まず尺側の側副靭帯が損傷される。過度の後外側への回旋力によっても外側の尺側側副靭帯が損傷される。いずれにしろ、肘は脱臼することとなり、典型的には後方へ脱臼する。整復と短期的な固定ののち、active ROM訓練により治療を行う。不安定性の再発はまれで、伸展障害は軽度で、通常10度以下である。

Valgus instability
 外反不安定性はoverheadでのthrowingを行う野球、football、やり投げなどでのoveruseの結果起こる。急性の内側側副靭帯の損傷では、投球動作中にpop音を感じることがある。圧通点は肘の内側にあり、ちょうど内上果の遠位にあたる。不安定性は肘に外反力を加えた際に観察される。これは必ず屈曲20度で行わなければならず、完全な伸展位では肘頭がfossaにlockされ、安定したように感じられてしまうためである。健側と比べるのもよい。尺側側副靭帯が損傷されても切れずに残っている場合は、外反ストレステストで痛みは生じるが、不安定性は生じない。いわゆるmilking maneuver(figure 4-37)でも肘の内側に沿った痛みが誘発される。Milking maneuverを行いつつ、外反ストレスを加えて、肘を屈曲伸展させて痛みを誘発する方法は、内側側副靭帯損傷の診断に最も有効なテストである。
 ストレス撮影も診断に有効。外反ストレスを加えつつAP像を撮影。重力を使って外反力を加える方法もある。これは、肩を90度外旋し、肘を約20度屈曲させた状態でAP像を撮影する。不安定性があると、対側と比べ、内側で大きく開くことになる。MRIも有用で、特に関節造影を一緒に行うと、造影剤が尺側側副靭帯を通ってleakすることにより断裂の診断がつけられる。
 外科的再建は急性の尺側側副靭帯断裂を起こしたoverhead throwingを行うアスリートで競技復帰を希望する場合適応となる。サッカー、バスケットボールなどoverheadでないthrowingを行うアスリートでは完全復帰を目指した早期active ROM訓練プログラムにより治療を行う。Overuseによる慢性的な尺側側副靭帯損傷はリハビリ、NSAIDs、3か月のthrowing禁止による治療が最も良い。このプログラムを行った後に痛みや不安定性が残存した場合のみ、尺側側副靭帯の前方部のみ再建を行う。この方法はDr.Frank Jobeにより紹介され、PLを結って内上果と肘頭にあけたdrill holeを通す方法である。術後は70%近くが高いレベルでの競技スポーツに復帰できる。

Posterior Rotatory Instability
 後外側の回旋不安定性は、伸ばした上肢に対する落下方向に力が加わった場合、肘の外側の手術、長期松葉杖使用者における慢性的な内反ストレスなどで起こる。不安定性は軽度亜脱臼から繰り返す脱臼まで様々な程度で起こる。軽度の場合、前腕回外時に肘の外側に痛みや弾撥減少、catchingといった症状が間欠的に起こる。より重度の場合、lockingや肘の不安定といった症状が出現する。後外側回旋不安定性テストを行うには、仰臥位で上肢を頭上に持ってきた状態で、回外させた肘に外反ストレスを加えて行う(figure 4-38)。伸展位で橈骨頭の亜脱臼が起こり、屈曲位で整復される。この手技では患者の症状も再現される。側方ストレス撮影は肘伸展位で後外側回旋不安定性テストと同様に行うことにより、不安定性が示される(figure 4-38)。急性の場合、治療は6週間装具により回内位を保持しつつ伸展を制限することにより行う。慢性の場合は外側尺側側副靭帯の再建が最良の方法である。術後は急性の場合と同様の装具を6-12週行う。

OTHER ELBOW OVERUSE INJURIES
Posterior elbow impingement
 インピンジメントは肘の後方で骨と軟部組織の機械的な構造により起こり、尺側側副靭帯の損傷は伴う場合と伴わない場合がある。体操選手やfootballのラインマン、ウェイトリフティング選手などで過伸展による損傷がおこり、このとき尺側側副靭帯はintactである。部位としては通常肘の後側の真ん中であり、肘の伸展強制で痛みが再現される。尺側側副靭帯の機能が不十分の場合、overheadのスポーツ選手で肘後方のインピンジメントはしばしばあり、病変は後内側となる。このような場合、インピンジメントは内側の肘頭面と肘頭fossa内壁の外側部との間で起こる(figure 4-39)。外反不安定性の項で述べた方法で外反ストレスを加えると痛みが再現されるが、痛みの部位は後内側と内側である。レントゲンでは肘頭とfossaの骨棘を呈する。
 繰り返しの外傷により多くの損傷が起こるため、治療はまず予防からである。投球イニング数は重要なfactorである。症状が続けば、骨棘の切除は有効で、尺側側副靭帯の損傷を生じなくなる。外反不安定性の治療も必要である。

Osteochondritis Dissecans of the capitellum
 上腕骨小頭のOCDは通常10歳以上のピッチャーで起こる(figure 4-40)。レントゲンの読影は、今後の持続的な機能障害の可能性を考えると、非常に気をもむ。骨軟骨片が生じた場合は、遊離体切除が必要。


上腕骨外側上顆炎の治療は保存的に行われるとばかり思っていた。
手術としてリリースと書いてあるがリリースすることによる不安定性の出現は考えにくいのであろうか。
bundleを選択的に切除すればよいのであろうか?

2009年8月17日月曜日

JBJS(Br) August The use of alendronate in the treatment of avascular necrosis of femoral head

要旨大腿骨頭壊死に対するビスフォスホネートを用いた治療は小さな規模の研究がおこなわれていたが今回395例の大腿骨頭壊死の患者に用い、その8年間のフォローアップ成績を示す。今回の研究では臨床成績のみならず大腿骨頭壊死にてcollapsし、THAに至る例も減少していた。壊死でpre-collaps群にたいしてとくに有用であった。Stage3と進行した群でも骨頭の圧潰によるTHAになるまでの期間の延長が得られた。
大腿骨頭壊死の患者の75%が3年以内に骨頭が壊死し、80%が4年以内に骨頭壊死による股関節痛を訴え、診断されてから3年以内に50%の患者がTHAに至るというのはよく知られている。またビスフォスホネートが大腿骨頭壊死に対する治療として用いることができるのかもしれないということも同時に言われている。そこで今回フォローしてみた。
表1 治療開始前の患者の状態。さまざまな状態の壊死の状態の患者がいることがわかる表2 フォローした患者の実際 8年フォローした患者は32名。表3 何かしらの理由でフォローから脱落した群。
平均フォロー期間は4年。92.3%をフォローアップ。
図1 骨頭の各stageごとの骨頭生存率。Stage3に比べStage1,2では有意に生存率が高い。
図2、表4 アレンドロネートを内服した時の臨床症状の変化について表とグラフにしてある。Stage3よりもほかの群では長期に臨床成績が保たれる
表5、図3 骨頭壊死のX線評価を表したものStage1,2全体の28.8%が圧潰した。
考察ビスフォスホネートによる大腿骨頭壊死の治療は骨粱を回復させる効果により発揮されるとしていた。しかしどれも短期フォローのみであった。自然経過として大腿骨頭壊死は77%から98%の患者で症状の増悪をきたす。レントゲン写真上でも68%から77%の患者で進行を認める。治療をうけずに満足のいく結果が得られていたのはわずか22%であった。外科治療の適応なしとしてアレンドロネートだけを投与した筆者らの研究によれば45%でレントゲン上の進行があった。歴史的に75-80%と言われている骨頭の圧潰率も4年間で29%であった。50-64%がTHAになるということが言われていたが今回の研究ではStage1,2,3のそれぞれで2%、8%、33%であった。MRIで診断された場合には4年で20-60%が圧潰するとなっているが今回は90%以上で正常を保った。1998年ごろにはMRIがないためその評価ができていないことが問題。

日本であれば回転骨切り、腸骨の血管柄つき骨移植なんかを行っているのかもしれないので一概にこの結果の通りとはいえないだろう。

ビスフォスホネートがどこに働いているのか?

大腿骨頚部骨折後にも同様に使えるのかというのは調査してみてもよいのかも知れない。

2009年8月10日月曜日

JBJS 2009 August Clamp assisted reduction of subtrochanteric fractures of femur

大腿骨転子下骨折の治療には難渋する。近位骨折の転位が大きく難渋する。Clamp-assisted法にて手術を行った症例について報告する。2003年から2007年までの間の55例の転子下骨折症例。44症例について報告。27例の男性。17例の女性。平均年齢55歳。リーミングを用いた順行性の髄内釘を挿入した。外側に小切開をおき、Clamp-assisted法にて治療を行った。9例にはワイヤリングを追加。レントゲン評価をおこなった。44例中43例が骨癒合を得た。すべての例で5度以内に解剖的整復位まで得られた。38例は解剖学的に整復された。6例は内反。合併症なし。Clamp-assisted法は有効な方法である。
Synthes large Bone Clampを用いて外反、外転、屈曲した近位骨片をつかみ内転、牽引、内旋する。(図1、2)クランプを用いて正しい位置まで近位骨片を移動する。イメージ下にて確認し、正しい整復位が得られていればガイドピンを挿入。髄内釘を挿入。(図3,4,5)整復位が得られない場合には血腫が整復の阻害因子となっている可能性があるので血腫を吸引する。小転子が折れている場合には骨頭をつかんで整復する。
考察大腿骨転子下骨折は癒合率は高い。髄内釘を挿入するポイントが外側に行き過ぎることがある。整復することで正しいエントリーポイントを得られる。ワイヤリング自体は骨癒合に不都合であるとすることがあるが今回はそんなことはなかった。大腿骨転子下骨折に対するこの方法は有用である

別にびっくりするような新しい方法でもないが症例数がある程度あること、やはり形として残すことが重要なのかもしれない