2014年4月18日金曜日

20140418 CORR Do Activity level increase after total hip and knee arthroplasty

変形性関節症の患者さんって、測定してみると一日80%以上も座ったり寝た生活をしているのですね。
翻って自分の生活を見てみるといかがなものかと。同じくらい不活発のような。
健康成人男性を対象にした一日30分、週5回の運動というのはいかにもハードルが高いと思います。
THA、TKAをうけた患者さんには患者さんなりの運動強度があると思います。

アブスト
OAの患者は不活発なことが多い。THAまたはTKAを行うことで疼痛、身体機能、QOLが改善することが知られている。しかしながら身体活動性に対する研究は未だ少ない。
術前、術後に万歩計を用いて身体活動量を測定。American Physical Activity Guidelineにそって評価を行った。
63人の変形性股関節症および変形性膝関節症の患者を選定。術前6ヶ月の時点での活動量を加速度計付き万歩計で測定。日常活動量を記録した。44患者、70%の患者で質問票形式で疼痛、機能、QOLを聴取できた。加速度計付き万歩計の結果、術前では1日24時間の内82%にわたってじっとしていることがわかった。そしてこれは患者自身の評価としては”時々ウォーキングをして、家事も何とかやっているレベル”というものであった。
結果術後活動量の改善は認められなかった。術後もほとんどの患者が座っている時間が長かった。これはAPAGが推奨する身体活動量には及ばないものであった。疼痛、機能、QOL、身体活動量の自己評価は改善したのにもかかわらず測定された活動量には変化を認めなかった。
患者立脚型評価では疼痛、機能、身体活動量は術後改善したのにもかかわらず加速度計付き万歩計での測定結果は身体活動量が変わっていないことを示していた。術者はTHA,TKAの術後の患者の活動量がますように何かしらの対策を考える必要がある。将来的にはなぜ術後運動しないのかその要因について検討する必要がある。

OAは高齢者に撮って疼痛、機能障害の主要な原因の一つである。OAを有する患者では仕事、社会活動、レクリエーションスポーツへの参加を躊躇することも少なくない。それゆえにOAの患者では一般的に健康を保つために必要であると考えられているだけの運動量にみたないことも多い。またOAはTHA、TKAのの主要な要因の一つである。THA、TKAは末期関節症の患者で疼痛、機能改善する優れた方法の一つである。THA,TKAの目的の一つには身体活動量を上げることも含まれる。しかしながら術後身体活動量が本当に上がっているのかはほとんどわかっていない。
身体不活発性は世界的にみても重要な健康問題のうちのひとつである。APAGでは週5日間30分以上の運動を推奨している。THA,TKA術後の患者でのAPAGに準拠するだけの運動をしているかどうかは不明である。
加速度計付き万歩計は身体活動を測定するためにもっとも有用な測定ツールの一つである。術後24時間、48時間という短い時間でのTHA、TKA術後の患者での即て記録はあるものの週末を含めた活動量の記録はほとんどない。
本研究の目的は1,加速度計付き万歩計を用いてTHA,TKA術後術後の患者の術前から術後6ヶ月の時点での活動量を測定すること。2,術後6ヶ月の時点でのAPAGガイドラインの基準にどの程度の割合の患者が準拠しているか調べることを目的とした。
研究前の仮説として、術後活動性は向上しているものの、多くの患者はガイドラインで推奨される活動レベルには達していないのではないかというものである。

対象と方法
本研究はオーストラリアで前向き研究として行われた。50歳から80歳までの変形性関節症に対してTHAまたはTKAを受ける患者。介護が必要となっているような患者は除外。また術前から脳梗塞などの障害、英語ができない患者も除外した。141症例のうち72例の患者を選定。その後同意が得られなかった患者を除いて63例の患者について評価を行った。63例の内6例が手術をキャンセルした。7例がモニターを付け忘れて十分な結果が得られなかった。3例の患者が途中でフォローできなくなった。さらに3例の患者が別の理由で除外されている。結局44例の患者について術前、術後の身体活動性を調査出来た。TKAの患者が33例、THAの患者が24例である。事前に予測される必要サンプルサイズ数は41例であった。
入院までの待機期間は平均58日。使用インプラントは術者によった。術後はすべて同じリハビリプロトコールで、荷重制限もなかった。入院中はプロトコール通りのリハビリを実施。術後も通いのリハビリに通ったのは57例61%であった。田舎に行った場合にはどのようなリハビリを受けていたかは不明である。データはアシスタントによって集められた。術後6ヶ月のデータはPTが回収した。BMIなどは手術時のデータを用いた。6ヶ月の時点で術後合併症をおこした症例は除外した。モニターはActiGraph1 GT1M activity monitorをもちいた。加速度計は1分ごとに設定した。最低10時間は腰にモニターを巻くようにした。毎日電話をかけてつけるのを忘れないように注意喚起した。もし忘れた場合には一日追加した。水に浸かるような動作の時は外した。
2種類の方法を用いて身体動作を計算した。一つの方法はつけている時の平均のカウント数を用いた。もう一つの方法は夜間などの装着していない時間も非活動時間としてカウントするようにした。
活動量を4つのカテゴリーに分けた。100以下が座位。100から1953が軽い活動。1954から5724が中程度の活動量、5725以上が激しい運動である。1954から5724が3から5.99METsに相当する。
その他の測定項目としてはOxfordScore,SF12、UCLAスコアを用いた。
結果
表3に示すように術前と術後の実際の活動時間には差がなかった。THA,TKAのサブグループ解析でも差を認めなかった。術前では一日の内82%を座って過ごしており、術後は一日の83%を座って過ごしていた。
術前、術後ともAPAGの推奨する活動レベルに達した例は殆どなかった(3例6%)。術後は1例2%のみでAPAGの推奨する活動量に達した。
術前、術後で他覚的に測定できる活動性の増加は認められなかったが患者立脚型評価では疼痛のみならず活動性の向上が認められた。SF12、UCLAスコア、全てで有意に改善した。(表4)。72%の患者でGRCで評価される活動性の自己評価が向上した。
考察
下肢の人工関節は患者の疼痛、機能改善、QOLを改善させる。身体活動性についての他覚的評価を行った報告はほとんどない。本研究の目的は術前、術後6ヶ月の時点で加速度計付き万歩計を用いて活動性を測定し、その活動性が一般的に言われる健康的な身体活動性のガイドラインに合致するかどうかを調査することであった。本研究の結果では他覚的な身体活動性は術前術後で変化しなかった。患者立脚型評価では疼痛、運動機能、QOLのいずれも改善した。
本研究ではいくつかの限界がある。症例が少なく取り扱いやすいサンプルサイズであることである。術前の痛みが強い人では測定ができていないことである。表1に示すようにほぼ確実なデータ回収ができている。筆者らは術前術後にわたって活動量が変わらないことを見つけた。しかしながらひょっとしたら統計学的パワーとしては足りないことが原因かもしれない。しかし統計学的には12cpmで差がでると推定されるが、臨床的には100cpm以上の差がないと活動性に差があるとは言えない。また一日のうち82%の安静時間が83%となったことからも差がないと思われる。あとはサイクリングなどの運動では加速度計付き万歩計が機能しなかった可能性がる。しかしながらUCLAスコアで調査したところ本研究では自転車にのっているひとは居なかった。またカットポイントの設定が健康成人を対象としていることも問題なのかもしれない。。今後は人工関節を受けたひと特有の活動性について設定する必要があるだろう。
THAとTKAをまぜて検討したことも問題である。それぞれの群について十分なサンプル数を確保することが重要である。
APAGが設定する健康のための指針がOA,人工関節置換術後の患者には厳しすぎるのかもしれない。今後は術前、術後のガイドライン作成が必要となるのでは無いだろうか。
人工関節術後の身体活動性の報告はいままでに4編ある。オランダからの報告はTHA、TKAとも術後6ヶ月で身体活動性の向上が見られたと本報告とは反対の結果を報告しているものがある。しかし、その結果は一日あたり10分間延長しているのみであり、統計学的には有意であるが臨床的には意味がないものであると考えられた。他の2編の論文は歩行能力について解析している。歩行能力は身体活動の一部分に過ぎないことから一日の身体活動量を測定した本研究は意味があるものである。
APAGガイドラインに達した患者がほとんどいないこともわかった。この身体活動量に達していないと心血管イベントがおこる可能性が20-30%上昇することが知られている。すなわちこのままではTHA,TKA後の患者ではそういった心血管イベントが起こりやすいのではないかと推察される。THA,TKA術後の患者の日常の身体活動性を向上させ、健康の不利益を回避するための方法を考える必要がある。
患者は術後よく動けるようになったと感じているが実際はそうでは無いことがわかった。日常生活の行動変容は複雑な要因が絡み合っている。普段の生活行動様式にも目をくばる必要があるのかもしれない。日常生活レベルに影響を与える因子についての検討が今後必要となるであろう。


2014年4月6日日曜日

20140405 BJJ Surgical outcomes of primary hip and knee replacements in patients with Parkinson’s disease

たまたまパーキンソン病を有している患者さんの人工関節の手術をしたので、その予後はどうなのかな。と
術後せん妄に注意か。。。はよ教えてくれなアカンやん。苦笑。

Surgical outcomes of primary hip and knee replacements in patients w/ Parkinson’s disease

フィンランドのレジストリーを用いてTHAまたはTKAを受けたパーキンソン病の患者857例と2571例の患者との比較を行った。
平均フォロー期間は6年(1年から13年)。パーキンソン病の患者は入院期間が長く(21日VS13日)。術後1年での脱臼率はコントロール群と比較して2.33。感染、再置換率、術後1年での再置換率には差がなかった。長期のフォローではパーキンソン病の患者の死亡率が高かった。(ハザード比1.94)。10年後の生存率は34.7%(274例)。パーキンソン病の患者では心血管系合併症、神経疾患によって入院期間が延長し、また心血管合併症によって死亡率が高くなる。

パーキンソン病は寡動、振戦、固縮などが見られるドーパミンが欠損する病期である。60歳以上の1から2%が離間するとされている。ドーパミンの投与によって運動障害は改善するものの病状の進行によって運動障害が明らかとなる。運動障害以外にも認知機能障害、うつ病、自律神経の失調などがおこりQOLを低下させる。しかもこれらの障害によって運動障害そのものも悪化する。
病期そのものの問題だけでなく、パーキンソン病は筋骨格系の疾患を惹起し、慢性疼痛の原因と鳴ることが知られている。フランスの研究ではパーキンソン病の慢性疼痛の主要な原因は変形性関節症であるとする報告をしている。THA、TKAは高齢者の変形性関節症患者に対してQOL、生活機能の改善が可能となる効果的な方法であるが、今までにパーキンソン病と合併した患者での報告はない。またいずれの報告も1970年代から1990年までに行われた研究で現在とは臨床背景が異なる。本研究の目的はパーキンソン病の患者でのTKA、THAについてその合併症について評価することフィンランドのナショナルレジストリーを用いて研究することである。

対象と方法
フィンランドのナショナルレジストリーを用いた。それとフィンランドの人工関節レジストリーwp合わせて検討。合併症の検討にはフィンランドのDPC様のデータを用いた。
1998年から2009年までにパーキンソン病と診断をされTHAまたはTKAを受けた患者の検討。別の関節炎、外傷が原因で人工関節置換術が行われたと考えられた症例は除外した。二箇所以上の手術が行われている場合には最新の手術を対象とした。フィンランドでは慢性疾患に対して42-100%の補助がある。パーキンソン病であれば専門医によって補助の申請が出されているため疾患の確実性については保証されている。そのためこのレジストリーは十分にその質が担保されていると言える。
パーキンソン病の患者一人に対して3人のコントロール群を設定した。交絡因子を排除するためにPropensity スコアを用いた。年齢、性別、住居、合併症などをPropensityスコア設定の際の説明因子とした。
入院期間。合併症として感染、脱臼、再置換、死亡率を調査した。入院期間については術後改善せず長期の入院を必要とした症例は除外した。また術後90日たっても退院できない症例についても調査を行った。感染、脱臼、再置換、死亡率については術後90日、180日、一年で確認。脱臼、再置換、死亡率については全フォロー期間を対象に行った。2010年までのフォローで最長13年の経過期間であった。

結果
パーキンソン病の既往を有するTHA297例。TKA560例。パーキンソン病の平均罹病期間は5.2年。6例の患者が術前から認知症を有し、97例の患者で認知症の悪化を認めた。
患者拝見を表1に示す。THA,TKAともにセメント人工関節が主に行われていた。
再置換術についてパーキンソン病とコントロール群の間に差はない。
脱臼について、術後1年以内で脱臼が起こりやすい(ハザード比2.33)。
死亡率は術後2年までは有意差が無いものの、長期間のフォローで5年生存率が75.1%、10年生存率は34.7%でコントロール群との間で有意差を認めた。
入院期間はパーキンソン病群で有意に延長した。術後うつ、せん妄などの精神疾患の発症率はパーキンソン病群の方で多かった。
感染率には差を認めなかった。
認知症の有無は予後に影響を与えなかった。
死亡率増加の原因について検討を行った。高齢、男性、心血管疾患の既往、糖尿病の既往が死亡率増加と関連があった。特に心血管疾患の既往が早期死亡率と関連していた。
年齢、性別で調整を行ってもパーキンソン病の患者では脱臼、死亡率ともに高かった。(ハザード比2.37、1.77)

考察
パーキンソン病があっても周術期早期の死亡率の増加には関連しないことがわかった。しかしながら入院期間の延長、合併症の増加は認められた。またパーキンソン病患者の生存率は低かった。入院期間の延長は精神疾患の悪化と関連を認め、心血管疾患の既往が生存率との関連を認めた。
本研究のつよみは交絡因子をPropensityスコアを用いて排除していること、国家レベルでの質が担保されたレジストリーをつかった研究であることである。本研究の限界はデータの解析を行っただけであるので疼痛の改善、QOLの改善がどの程度であったか知るすべがないことである。またレジストリーからは術中の合併症についての情報はなく、それで再置換が行われたりした症例があった場合には抜けている可能性がある。
入院期間が延長したことに関して、これは大腿骨頚部骨折、消化器外科、泌尿器科で言われていることと同じ傾向を占めいた。これはもともとパーキンソン病の患者のADLが低いこと、加えてとくに認知機能に問題が有るような症例では急性期のストレスによってより悪化するということが言えるのかもしれない。そこで術前から神経内科医、老年内科医などとの連携が必要となってくる。TKAの術後ではそれらの科と連携することでよりよい結果を得たとする報告がある。またパーキンソン病を有する患者の5-7%では退院後3ヶ月後の認知機能の低下が認められたとする報告がある。
パーキンソン病の患者は術後易感染性にあると考えられるが周術期感染ではパーキンソン病群、コントロール群の間に差を認めなかった。以前の報告はNが少なく、またその感染率もフィンランドのレジストリーよりも低い。これはコントロール群がより重症例がピックアップされてことと関係しているのかもしれない。
パーキンソン病の患者では人工関節の脱臼リスクは約2倍であった。この結果はスコットランドのレジストリーから報告されたパーキンソン病は脱臼のリスクではないとする報告と、またWeberらの報告に有るパーキンソン病の患者の5.6%が脱臼するとする結果よりも悪い。これは脱臼に関して13年間の結果を追ったものであり、その累積での脱臼率であるので高い結果になるのが当然で、この結果がより真実に近いものと考える。
死亡率に関しては単施設からの報告と同様であった。ただ、長期の結果はより悪く10年後には全体の3割しか生存していなかった。心血管新刊、DMが不良な予後に関わった可能性がある。
パーキンソン病が合併していても人工関節全体の再置換率には影響を与えなかった。しかしながら脱臼率は上昇し、心血管疾患の既往、精神疾患の合併が入院期間の延長に関わっている可能性が示唆された。心疾患を合併していると生命予後をより悪化させる可能性が有ることがわかった。