2009年11月30日月曜日

2009.11.30 JBJS(Am) Nov. 2009. Patellar Resurfacing Compared with Nonresurfacing in Total Knee Arthroplasty

要旨
TKAのときに膝蓋骨まで置換するかどうかということは議論の余地がある。本研究では以前の研究の長期フォローを行った。86例、118膝。primaryのTKA。これを膝蓋骨置換群と非置換群とに分けた。調査項目はKnee
society score,膝蓋大腿関節に特化した41個の質問票、患者満足度、全体、前方の膝関節疼痛スコア。レントゲン評価、合併症と再置換の頻度について調べた。
57症例、78膝については10年以上のフォローが可能であった。
結果二つの群でROM,knee society
score,患者満足度、膝の前方の痛み、膝全体の痛みの点で差を認めなかった。再置換に関しては膝蓋骨置換群で9%、非置換群で12%であった。膝蓋大腿関節の問題で再置換を行ったのは膝蓋骨置換群で2例(3%)であったのに対し、非置換群で7例(12%)であった。
結論としては膝蓋骨は置換しても置換しなくても大きな変わりはない。

図1 ランダム化のフローチャート
図2 使用したtibia component
図3 使用したfemoral component
図4 使用したpatella component

表1 すべての臨床的評価において有意差なし

考察
非置換群で膝蓋大腿関節の痛みのために再置換を行った7例はすべて初回術後5年以内に行われ、うち6例は2から4年以内に行われた。対して置換群では5-7年後に2例が再置換された。どうしても私たちはフォローしている最中に膝前面の痛みがあるとそれが膝蓋大腿関節が原因であると考えてしまいがちである。対照的に置換してあり、臨床所見に乏しくレントゲン写真上も正常であれば膝前面の痛みがそこから来ている可能性を患者に対して示唆することはほとんどない。そうすると必然的にそのような患者は長期間にわたって経過観察することとなる。そしてこれらの患者さんでは膝蓋骨の無腐性壊死やゆるみ、骨折、断片の先鋭化などが認められ、これらの合併症は非置換群では認められなかった。加えて少なくとも5度の大腿コンポーネントと脛骨コンポーネントの回旋異常があると膝前面の痛みと関連し、また膝蓋骨の傾きや亜脱臼のようなレントゲンに写らない異常をきたす。
有意な差を出すには母集団が小さいこと、フォローが完全でなかったことなどがこの研究の問題点である。
結局結果は似たり寄ったりなので、膝蓋骨は置換しても置換しなくてもどちらでもよいと思う。ただ自分達は変えていこうと思う。

≪論評≫
膝蓋骨の置換は施設によってやったりやらなかったりを経験してきたので、”差がない”という結論は一応納得がいくような気がする。100例以上でNが少ないといわれてしまったことにはびっくりであった。術者の好みで決めてよいということであろうが別の報告もみてみたいところである。
また、この論文は文中に”ハリケーンカトリーヌのせいでデータがなくなった”なんていう言い訳もしていて少し面白味がある。(笑)

2009年11月26日木曜日

2009.11.26.JBJS(Am) May 2009.Eye Protection in Orthopaedic Surgery. An in Vitro Study of Various Form of Eye protection and Their Effectiveness

整形外科手術中にdebrisが飛んで結膜にcontaminationすることは、執刀医をHIVやB型・C型肝炎などの感染症のリスクにさらす事になる。この研究の目的は様々な保護用のeyewearの結膜へのcontamination予防効果について比較するものである。

Methods:

 手術中の外科医の典型的な頭部の位置になるようにマネキンを用いてsimulation modelを作った。頭部は術野から適切な位置にし、死体の大腿部で大腿骨骨切りを行った。6つのグループで様々な目の保護用のwearを用いてその効果を検証した: (1)最近の既製品の眼鏡、(2)標準的な外科用ルーペ、(3)硬質プラスチックの弯曲をつけてある眼鏡、(4)disposableなプラスチックの眼鏡、(5)facemaskとeye shieldの組み合わせ、(6)保護なし(対照)。30例の大腿骨骨切りを行い、保護用deviceとsimulation用の結膜表面へのcontaminationを記録した。

Results:

テストしたすべてのdeviceにおいて完全な効果は得られなかった。(1)と(6)では結膜へのcontamination率は83%。他の保護deviceでは有意にcontaminationは減少し、(2)で50%、(5)で30%、(3)で17%、(4)で3%であった。

Conclusions:

 今回のモデルにおいて既製品の眼鏡は対照群と比べて有益性は認められなかった。そのため外科手術時に目の保護のために使用することは推奨できない。容易に入手できるdisposableのプラスチック眼鏡は最も結膜へのcontaminationが少なく(3%)、整形外科手術において結膜へのcontaminationからほごするには効果的な手段である。
Fig. 1

 手術中の写真を分析しモデルを作成した。(a)は30°、(b)は骨切り部中央から頭までの距離で垂直方向に40cm、(c)は斜めの面で53cm、(d)は水平面で28cm。3つのマネキンの頭部を一斉にテストし、骨切り部に対して1つは中央に、2つは30°斜めにしてある。

Fig. 2

6つのバリエーション(文中(1)-(6):A-F)

Fig. 3

テスト後のマネキン

Table Ⅰ

 それぞれのdeviceによる結果

Table Ⅱ

 対照と比べた効果の比較
Discussion

 術中の執刀医の眼へのdebrisの飛散率はよく報告されている。術式による違いはあるが、有病率は100%(23例中23例)と報告されている。イギリスの外科医の調査で、deviceを用いてない265名のうち59%(157名)でcontaminationがあったのと比較し、目の保護deviceを用いている535名ではcontaminationは27%(144名)であった。多くの研究でマスクと眼鏡で高いcontamination発生の危険があることが示されているが、我々の知る限りはどれくらいの割合でdebrisが保護deviceを通り抜け、結膜に接触するかは報告されていなかった。

 我々の研究では、モデルを用いることにより直接結膜表面にcontaminationがあるか測定し、様々なdeviceの効果について比較した。既製品の眼鏡では結膜へのcontaminationの割合は対照群と変わりなく、他のdeviceと比べて有意に高かった。BellとClemnetの結果とは対照的に、既製品の眼鏡は「保護eyewear」と考えるべきではなく、debrisが予想される場合唯一の目の保護deviceとして用いるべきでない。骨切り、高流量のパルス洗浄、drilling、reamingなどのリスクの高い手技で特に注意が必要である。

 特に注目されるのはeye shieldとfacemaskの組み合わせで結膜contaminationが30%であった点である。Eye shieldの上方縁は額近くには行っておらず、そのためにeye shieldを通り越して眼に達する。

 ルーペは結膜contaminationが50%に見られた。ルーペは既製品の眼鏡より表面が広いためよりよい保護が可能である。しかし、上方と下側方に脆弱性を認める。

 硬質プラスチックの弯曲のついた眼鏡とdisposableなプラスチックの眼鏡ではcontaminationは17%と3%であった。有意差をみるにはサンプルサイズが小さすぎた。これらのdeviceでは顔との間は数ミリ程度しか残っていない。このことがcontaminationを小さくする。しかし、リスクは完全には排除できない。Disposableの眼鏡の利点の一つは既製品の眼鏡の上に掛けられることと、湾曲をつけたものにすることができることである。

 問題点はいくつかあり、1つ目は、モデルは一定の位置だけであるが実際では、術者は顔の位置を動かしているということ。しかし、術者の顔の位置によらないdeviceの比較のためモデルは有用であったと考える。2つ目は、既製品の眼鏡と対照群は有意差がないことを見出したが、今回の研究では35%だけの違いで全て同定されているため、type-Ⅱ error(帰無仮説が偽であるときにそれを棄却しそこなう(採択してしまう)誤り)の可能性がある。3つ目は、deviceへのcontaminationが98%で見られたが、これは報告されている中でも多く、結膜へのcontaminationを過大評価している可能性がある。しかし、過大評価していてもdeviceの相対評価には影響しない。最後に、モデルの結膜表面は35×45mmと人の平均(10×35mm)より広い。

≪論評≫
普通のメガネだけではだめ!!ということで今まで結構油断していたなあと思います。大腿骨の手術のときには宇宙服の装着が必要かしら?
普段の骨折の手術のときはメガネ on メガネで行くかゴーグル型のメガネを新しくあつらえるかどちらかにすべきでしょう。

2009年11月19日木曜日

2009.11.19. Elbow fracture distal humerus.J Hand Surg. 2009

上腕骨遠位端骨折は治療に難渋する障害である。上腕骨遠位部の解剖は非常に複雑で、橈骨と尺骨と関節をつくり、多平面での運動を可能にしている。さらに、粉砕や骨減少症が骨幹端-骨幹部の結合を弱くし、適切な安定化を困難にする。様々な外科的固定法がデザインされており、bicolumnar platingが最もpopularである。固定法の議論や、あらかじめ骨形態にあわせたplateやlocking plateを含めた新しいimplantが紹介され、様々な固定概念の生体力学的なテストに新たな焦点が当てられている。適切な再建や固定の不成功は、骨移植や創外固定、症例によっては人工肘関節置換術などの付加的手段で対処できる。関節面は垂直せん断力によっても障害され、冠状面で上腕骨小頭や滑車の骨折を引き起こす。ここでは上腕骨遠位端骨折の診断、分類、治療、転帰についての最新の論文をレビューする。
上腕骨遠位部骨折は頻度が増している、治療にしばしば難渋する骨折である。成人におけるこの骨折の発生率は100,000例に5.7例だけと報告されているが、長期にわたるかなりの機能障害を引き起こす。上腕骨遠位部骨折の受傷患者は2峰性の分布を取り、若年者の高エネルギー外傷と、高齢の骨粗鬆症患者の、典型的には低エネルギーの転倒である。どちらも骨折型は単純な関節外骨折から、骨幹端-骨幹部の粉砕と骨欠損を伴う広範な関節面の破壊をきたす複雑な骨折型まで様々である。複雑な骨折の解剖も困難さを深める。遠位である事と関節面を含むことが、非観血的治療がうまくいかず、しばしば骨折の固定が困難になる原因となる。

 ここでは上腕骨遠位部骨折の診断、分類、治療、治療転帰について最新の論文をレビューする。
Diagnosis

上腕骨遠位部骨折の診断の主力はレントゲンであり、手関節・肩関節に合併損傷がないか除外するための撮影もそれに含まれる。標準的な撮影法であるAP像、側面像、斜位像により、上腕骨遠位部骨折の診断確定と分類の一助となる。しかし、高度の粉砕と短縮を伴う骨折では、骨片が重なり合い、問題となる部位がはっきりしなくなる。関節部の粉砕のない場合、術中に牽引して撮影すると、大きな骨片のラインを描くのに有用である。

 上腕骨遠位部関節面のせん断力による骨折では、橈骨頭-上腕骨小頭のviewが有用である。側面像を修正したこのviewは前方45°から放射線を照射し、腕橈関節・腕尺関節の重なりを防ぐ(Fig.1)。これにより関節軟骨の多くを構成する上腕骨小頭の小骨片をよく描出する。Double-arc signは上腕骨小頭と滑車の頂部の骨折を示唆する。「double arc」は小頭と滑車頂部の軟骨下骨のレントゲン濃度の増加を表す。

 CTは上腕骨遠位部骨折の特徴をとらえるのに強力なツールである。2-D CTは多面的な骨折の正確な評価を可能にし、しばしば手術のplanningに用いられる。しかし、上腕骨遠位部の解剖学的な複雑性のため、粉砕や転位により歪みの評価を混乱させ、正確な評価を困難にする。3-D再構築は解剖学的構築をみることができ、橈骨や尺骨をimageから差し引くことができる(Fig.2)。この方法は骨折型の正確な評価の向上に寄与すると考えられている。Dornbergらの研究によると、上腕骨遠位部骨折において単純レントゲンや2-D CTに3-D再構築を加えると、評価者自身の信頼性は向上するが、評価者間の一致性は向上しない。この所見はVannierらの所見、つまり3-D CTは複雑な関節面の骨折において従来の方法と差異がないということを支持するものである。
CLASSIFICATION

 上腕骨遠位部骨折は大きく顆上、通顆、顆間骨折に分けられ、それぞれ肘頭窩上、肘頭窩を通るもの、上腕骨顆部を通るものである。より包括的で一般的な分類はAO分類である(Fig.3)。Type Aは関節外骨折、type Bは関節面に及ぶもの、type Cは骨幹部から関節面が完全に分かれたものである。付随する1から3までの数字は粉砕の程度でさらに分類するもので、3が最も高度に粉砕している。顆間骨折はRiseboroughとRadinの分類で、顆上部を含んださらに詳細な分類となっている。Type Ⅰは小頭と滑車の間に転位のない骨折、type Ⅱは顆部の転位はあるが回旋のない骨折、type Ⅲは転位・回旋のある骨折、type Ⅳは片側または両側の関節面の高度な粉砕である。
NONSURGICAL TREATMENT

 上腕骨遠位部の転位のない骨折では、保存的治療が文献上支持されている。これは外固定を一定期間行ったのち、装具で治療するものである。しかし、関節に近づくと、functional braceで遠位部骨折をコントロールするのは困難または不可能である。さらに、long-arm castによる外固定では、拘縮予防の肘の早期可動域訓練はできない。我々の経験では、しっかりした外科的固定が好ましい。転位のない骨折ではより高度な骨折と比べ手術に関連した合併症は少なく、安定した骨折部は早期の運動と治癒の信頼性が高い(Fig.5)。

 転位のある上腕骨遠位部骨折に対する保存的治療は限定的である。

SURGICAL APPROACH

 転位型の上腕骨遠位部骨折では外科的手術が標準的と考えられている。アプローチにはいくつかの方法がある。単純な関節外骨折よりも、複雑な関節内粉砕骨折では展開も大きくなる。死体を用いてWilkinson、Stanleyはtriceps-splitting(三頭筋縦割)、triceps-reflecting(三頭筋反転)、olecranon osteotomy(肘頭骨切り)のどれが複雑な骨折型にもっとも有用か調査した。メチレンブルーで露出した関節面をpaintingすることにより、他の2法と比べ肘頭骨切りがもっとも展開がよかった。しかし三頭筋反転では統計学的有意差には至らなかった。我々の経験では三頭筋縦割と三頭筋反転は滑車の後方部分が見えるようになり、骨切りだけが滑車と小頭の前面に到達できる。

 縦割法は近位の筋の神経支配を利用することにより、腱と遠位の筋での神経障害なしでの縦割を可能にしている(Fig. 6A-C)。多くの外科医は肘頭の頂点までで切開を止めておく。この方法は関節面の展開には制限があり、関節内の粉砕を伴わない例で用いられる。Ziranらは縦割法を行った34骨折に対して、レビューを行った。より大きな展開も行い、三頭筋を肘頭から剥がしたり、両側側副靭帯を上腕骨遠位部から剥がしたりした。これにより上腕骨前面の骨折の確認と固定が可能になった。1例異所性骨化(HO)、1例尺骨神経麻痺、5例癒合不全、4例内反または外反不安定性があった。

 我々は通常三頭筋の剥離はせず、側副靭帯のreleaseもためらわれる。内側、外側に三頭筋腱を動かすことにより、2つの”window”が追加して見え、整復がかなり容易になり、implantの設置が正確になる(Fig. 6D, E)。さらに、約1cmの肘頭頂点の切離により滑車が見やすくなる。この展開法は近位に及ぶ骨折、関節外骨折、単純なT-typeの骨折で関節面滑車後面のみ見て整復されているようなものに用いてきた。

 BryanとMorreyは後方の”triceps-sparing”アプローチを考案した。これは肘の再建、特に肘関節全置換術のために最初はデザインされた(Fig. 6F, G)。これは近位尺側の骨膜との三頭筋腱の連続性を維持しつつ、内側、外側で肘頭から三頭筋腱を持ち上げるものである。操作が終わったら、ドリルホールに縫合糸を通して近位尺骨に腱を再建する。このアプローチを用いたAO type Cに対する1人の外科医の機能的転帰についてのレビューで、7名の患者で臨床的に良好、median arc of motionは90°、異所性骨化はなしであった。しかし、その筆者の考察では、外側の顆部骨折にこのアプローチで固定しようとすると難しいとしていた。他の研究では、triceps-sparing、tricepds-splitting、V-Y approach後の三頭筋腱の強度を評価している。全てのアプローチで強度は著しく落ちていたが、triceps-reflectingが腱を分ける方法よりも統計的に強度がよかった。このアプローチの適応としては、近位に及ばない関節外骨折と非観血的に整復される単純な関節内骨折と考える。筋をretractする際は、外側に注意を払う。Homan retractorを外側皮質骨にかけた2例で一過性の橈骨神経麻痺を認めた。

 肘頭骨切りは全ての上腕骨遠位部骨折に用いられるが、特に関節面の粉砕がある骨折に用いられる。以前の研究では高い癒合不全について記載されていた。癒合不全は肘頭のchevron-shaped osteotomy(山形の骨切り)と適切な骨切り部の固定により減らすことができる。骨切り後、三頭筋が全て上腕骨遠位部後面から持ち上げられ、上腕骨遠部が露出される。交差する橈骨神経を障害しないよう近位から上腕骨の遠位4分の1は切らないように気をつける。骨切り部はscrew、plate、wireを用いて再建する。

 Colesらは、橈骨遠位部粉砕骨折に対して肘頭骨切りを行った患者についてretrospectiveにレビューを行った。67名の患者で骨切り部の治癒までフォローできた。骨切り部は全て治癒したが、2例で整復位保持できず再度骨接合術を早期に要した。ほとんどの症例で、骨切り部は1本の髄内スクリューとワッシャー、尺骨背側の8の字で安定化できる。プレートは初期の固定が不適切であった場合に用いる。Implant irritation(インプラントの刺激)が再建の大きな要因のようである。8%の患者でhardwareの刺激のみでimplantの抜去を行った。

 近年ではこうした方法のさらなるvariationが報告されている。関節内骨折で骨幹部に及んだものに対する方法として、肘頭骨切りにtriceps-splittingを組み合わせて行う。肘頭骨切りでの肘の麻痺を注意することは、ひいてはtriceps-reflectingから経肘頭の方法に至るまで全ての方法でflapの適応ということになる。
ULNAR NERVE

 アプローチ法に関わらず、上腕骨遠位部の展開では尺骨神経の同定と保護が必要である。整復時とimplant設置時に危険にさらされる。術式の最初に尺骨神経を授動させ、vessel loopでタグしておき、多くの場合前方化しておく。Doornbergらは尺骨神経を移動させずに治療した上腕骨遠位部関節内骨折について12-30年経過観察した結果を報告した。尺骨神経の合併症を生じたのはたった1例であったと報告しており、その症例は有痛性のneuropathyを示し、尺骨神経の前方化を要した。尺骨神経の移動は安全な展開と十分な転帰を得るのには必要でないかもしれないが、再建術をするには安全で容易になる。
STABILIZATION OF BONE

上腕骨遠位部は内側と外側のcolumnからなっている(Fig. 7)。関節面は内外側の骨幹端部を通って骨幹部につながる。顆上部の中心部は鉤突起と肘頭窩の間にある薄い骨なので弱くなっている。骨量減少患者では特にこの部位は薄くなる。骨幹部と骨幹端部のcontactは安定性に重要で、治癒の可能性が高まる。

 沢山の固定法が上腕骨遠位部骨折に対して考案されている。Y-shaped plateやminifragment fixationなどである。しかし、多くのpopularな方法は内側columnに1つ目のplateをあてて、2つ目を外側columnにあてる方法である(Fig. 8)。筆者は内外側面に平行にplatingする方法と同様に、内側と後外側のcolumnへ直角にplatingする方法(90-90 technique、perpendicular(垂直) plating)をお勧めする。Parallel platingの提案者は、外側に設置したplateは外側から内側皮質へ長いスクリューでよいが、後外側に設置するplateのスクリューは短くしなければいけないと述べている。Arnanderらは、エポキシ樹脂の上腕骨で3.5mmのreconstruction plateを用いてperpendicular(垂直)とparallelの剛性を調べた。Parallelの方が統計的有意差を持って強固であった。

 外側面にplateを設置するのは技術的に難しく、外側上顆縁から軟部組織を除去する必要がある。近年の解剖の研究で、上腕骨遠位部の骨幹部への血液供給は1本の栄養血管で行われている。遠位部はこの点で沢山の貫通血管を通して灌流されている。外側columnは外側区域の顆部貫通血管により灌流されおり、骨膜が持ち上げられるとそれはなくない、癒合遅延や癒合不全のリスクを増加させる。さらに、両方の方法での固定の程度は早期運動と骨折治癒のために閾値を超えている必要がある。我々の経験では、単純なT型骨折はbicolumnar fixationのほぼどの方法でも(Y plate、dual reconstruction plate、3-5mm dynamic compression plate、precontoured plate(事前に曲げてあるプレート)などをparallelでも垂直方向でも)適切に治療可能である。T型顆部骨折に対して1/3 tubular plateを用いて癒合しなかった症例を沢山見た。もっとも手腕を問われる骨折はlow distalの粉砕を伴った上腕骨関節内骨折である。われわれはその骨折に対し、parallelで、precontouresd plateを用いた場合最も良い結果が得られた。

 高齢者の上腕骨遠位部の治療での最大関心事項は、骨粗鬆症の骨における適切な固定である。Schusterらは従来のreconstruction plate、外科医によりbendingした3.5mm locking compression plate、precontoured locking plateを様々な骨密度の死体標本を用いて剛性について比較した。剛性は3群間で統計的有意差はなかったが、繰り返し荷重下での骨折率は従来のreconstruction plateより上腕骨遠位部プレートの群でより低かった。Locking compression plateと従来のreconstruction plateで統計的有意差はなかった。しかし、この研究の筆者は骨密度が低い場合、上腕骨遠位部プレートとlocking compression plateは従来のものより優れていると結論付けた。骨粗鬆症の骨で生体力学的優位さを認めるにもかかわらず、臨床ではlocking plateはscrewの角度が決まっているので挑戦的になる。このことがscrewの挿入位置を次善の部位にしてしまうことにつながる。このように、必要ないチャレンジを行わないようにする一方で、外科医は角度が決まっていることのbenefitを最大限生かせるようにlocking plateを正しく使用するよう評価しなくていけない。

 固定技術に関わらず、粉砕、骨欠損、骨質の悪さは内固定の不適切さや癒合不全のリスクを引き起こす。いくつかの報告で、遠位部骨片の固定の欠損がまず起こるとしている。Hinge付き創外固定は肘の動きを可能にしつつ、固定の安定性を高めると報告されている。Deuelらは死体を用いた生体力学的研究で、創外固定はどんなレベルの内固定でもその安定性を高めるか調べた。それによると創外固定を固定力の弱まったreconstruction plateに追加すると、最善の内固定だけと同程度かまたはそれより有意に優れた安定性を持つ。

 上腕骨遠位部の関節面の再構築は、関節症を避けるのに重要である。通常関節部分は骨幹部への再接着に先立って再構築する。関節面の粉砕がある場合、関節面の圧迫を避け、幅と輪郭を変えないように注意しなくてはいけない。このために、関節部はフルスレッドのcortical screwで固定する。上腕骨遠位の高度に破壊された表面は、関節部は通常の内固定では整復できないかもしれない。腸骨のtricortical bone graftを粉砕部分に用いる。橈骨頭の部分を外側の滑車の欠損部に用いるという人もいる。まれな例では、

骨軟骨の同種移植も適応となるかもしれない。

ELBOW ARTHROPLASTY

 適切な患者に対する上腕骨遠位部骨折の管理の方法として、primaryでの人工肘関節置換術が行われてきた。一般的な適応は関節内粉砕骨折で適切な固定が不可能な場合で、特に65歳以下の低活動性の患者である。高齢者では症候性の関節症でも治療手段となる。禁忌は感染の存在、高活動性、訴えがない患者、二頭筋が機能してない患者、また開放骨折でも禁忌とする人もいる。我々はまず固定を試み、手術室にtotal elbowのimplantを準備している(Fig. 9)。

 Mullerらはprimaryに人工肘関節置換術を行った43骨折を平均7年フォローして報告した。平均可動域は24°-131°であった。49名中32名で追加手術なく、愁訴は見られなかった。5名で再建を要した。

 癒合不全をきたしサルベージとして人工肘関節置換術行った92肘のレビューで、Cilらはほとんどの患者で改善したと報告した。74%で痛みはないか軽度、85%で主観的に満足であった。屈曲-伸展は平均113°であった。しかしCilらは合併症発生率にも注目し、32例で再手術をした。合併症は12例で無菌的にimplantのlooseningが生じ、65歳以下の若年層および尺骨componentをprecoatingするセメントテクニックでそのリスクは高くなった。5例でimplantの折損が起こった。Implantの不具合のレビューで、十分な支持のない部位での固定における接合部での骨折が起こっていることから、折損は骨折による骨欠損に関連しているとわかった。さらに、implantの折損はすべてextrasmallまたはsmall titanium implantで起こっているため、できる限り大きなimplantを使用し、動かないように正確に接着させることが勧められた。他の合併症としては4例でimplant周囲の骨折、12例で軟部組織や創部の合併症、2例で一過性の神経麻痺、1例でC-ring fracture、1例でbushing fracture、1例で橈骨頭切除を要する近位橈尺関節の痛みがあった。implantの耐用期間は、2年で96%、5年で82%、10年・15年で65%であった。

 PrasadとDentはretrospectiveに上腕骨遠位部骨折に対してprimaryにtotal elbow arthroplastyを行った場合と遅発的に行った場合を平均観察期間56カ月で比較した。Mayo Elbow Performance Score(MEPS)で両者に統計学的有意差はなかった。Implantの耐用期間も同様であり、前者では88カ月で93%、後者では76%であった。注目すべきは、32名の患者で、10名に合併症が報告され、そのうち5例が無菌的なloosening、2例が感染、1例がHO(heterotopic ossification)、2例が尺骨神経麻痺であった。Implant不良のリスクで報告されているものは、65歳以下、2回以上の手術の既往、感染の既往である。いくつかの報告ではこの難しい問題について希望的観測を持っているが、骨折に対する関節置換においては注意が必要である。患者は合併症発生の可能性や制限を守ることの重要さについて適切に話をされなくてはいけない。

 上腕骨遠位部骨折の骨折型によってはいくつかの新しい治療法が提唱されている。Kalogrianitisらは上腕骨遠位端骨折に対しprimaryにunlinkedのtotal elbowを行っている。9名9肘を平均4年観察した。最終評価において9肘全てで安定性・除痛とも満足いく結果であった。AdolffsonとHammerは上腕骨のhemiarthroplastyを4例で行い、短期フォローではgoodまたはexcellentとなっている。これらの手技の有用性をきちんと判断するにはさらなる研究や長期的な観察が必要である。
OUTCOMES

 報告されているoutcomeは、広範な損傷形態や治療がありそれを解釈するのは難しいものがある。さらに、発表されている論文は比較的規模の小さいものが多い。しかし、最近の報告では、適切で強固な固定による骨癒合率は優れており、91-100%と報告されている。いくつかの研究では客観的に測定したoutcomeと同様に患者報告型のoutcome scaleに基づいてoutcomeを評価している。複雑な上腕骨遠位部骨折に対してparallel platingを行い平均2年観察した報告では、34名中27名(79%)でMEPSに基づく評価においてgoodまたはexcellentの結果であった。これは84-100%がgoodまたはexcellentであったとする他の研究と同様である。客観的評価としては内固定後の平均flexion arcは90-106°、平均回内-回外arcは150-165°であった。関節内骨折に対する手術後12-30年のoutcomeの報告では、Doornbergらは腕、肩、手のdisability score、American Shoulder and Elbow Surgeons score、VASで30名中26名(87%)が短期的にgoodまたはexcellentであったとしている。しかし、適切な手術治療にも関わらず80%の患者で外傷後の関節症をレントゲン上示した。
COMPLICATIONS

 上腕骨遠位部骨折の治療中は様々な合併症に遭遇し、その割合は高く48%と報告されている。明らかになっているリスクには、高エネルギー外傷、開放骨折、保存的治療がある。大多数の患者は治癒するが、12週の時点で9%に癒合遅延があり、そのうち半分は24週までに追加手術なしで治癒すると報告されている。もう一つ常に報告される合併症としてHOがある。Goftonらは13%でHOが見られ、術後24時間でindomethacin 100mg×2/日、6週まで25mg×3/日の予防的投与を行うことで発生率が低下する傾向があることを示した。他の報告ではHOは可動域制限をきたすもっとも重要な合併症としている。他に頻度の低い合併症としては感染、尺骨神経麻痺がある。

≪論評≫
上腕骨遠位端骨折のレビュー。よくまとまっていると思いますのでご一読を。

2009年11月16日月曜日

2009.11.16. JBJS(Am) Nov. 2009. Assessment of Hip Abductor Muscle Strength. AValidity and Reliability Study

要旨
股関節の外転筋は股関節の中で最も重要な筋肉のうちのひとつである。それゆえに根拠のあるしっかりとした評価が必要とされる。股関節外転筋の筋力を測定するために最も適切な体位というものは知られていないため3つの異なった体位で外転筋の筋力を測定した。われわれは対側の股関節が固定されるので側臥位での測定が最も有用であるとする仮定を立てて研究に臨んだ。
16人の被験者に対しそれぞれ2回の独立したテストを行った。立位、腹臥位、側臥位の3つの姿勢で工業用の動力計を用いて片側の外転筋力を測定した。筋電図を測定側とその反対側の中殿筋に筋電図を測定することでその実験の妥当性を構築した。その体位はもっとも力が出るような体勢とした。最も力が出ないところは対側の筋力の筋電図が最小となるとこを最も妥当なところとした。それぞれの相互関係についてはthe
Bland and Altman limits of agreementによる統計処理を行った。級内相関係数はtest-retestで計算した。
側臥位での外転筋力が臥位、立位よりも有意に大きく評価された。側臥位での対側の筋電図での割合は最小で、これは立位、臥位とくらべ有意に差があった。テストの再現率は側臥位で最も高かった。
側臥位が股関節の外転筋力を測定するのに最も適切である。


図1 それぞれの測定方法の写真。
図2 A:自発最大筋力
B:筋電図での測定側反対側の比。

考察
今回の結果では側臥位での測定がもっとも外転筋力が高く表され、また反対側との比がもっとも小さくなった。ということで検査の妥当性は側臥位での試験が最もあるということが分かる。またテストの再現性も側臥位で最も得られた。
理論的には最大筋力を発揮するとき対側の同側の筋肉よりも作動筋がより大きな活動性を示す。これは良側の筋力の低下は実際には片側の最大外転筋力が発揮される力の減少として表現されるからである。とくにこの研究では中殿筋の筋電図での活動性は対側の共同筋の電位を比較することとなった。立位と臥位はその比が100%を超えるため片脚での能力よりも両側での能力を表すこととなってしまう。これでは必然的に外転筋力が表す範囲が減少してしまう。側臥位ではその比が90%以下であることから片側の筋力をはっきりと表しているということになる。
臥位での外転筋力の測定は重力の影響が排除されるということで外転筋力を測定するときに主に採用されている。しかしこの姿勢では測定の再現性が得られることはなかった。臥位では発揮される外転筋力が最も低く、またその妥当性が最も低いことが分かった。中殿筋の筋電図ではもっとも低い値を示した。これはこの姿勢で外転するときには中殿筋はメインの筋肉としては働いていないということを示している。ベルトでの保持自体が体そのものの保持や壁で保持することよりも劣っているのかもしれない。なので今後の研究では別の方法で体を支える方法を考えなければならない。
立位はもっとも機能的なことを評価するのに適した体位とされている。特に体重がかかった状態を評価するのにもっとも確からしいとされている。しかしながら妥当性は得られず、信頼性も今一つであった。立っているために検査側に十分に倒れこむことができないことが問題である。
重力はこの外転筋力評価で大きな役割をになっている。側臥位だとその重力も加わるのでより妥当性と信頼性が増す。
なのでお勧めとしては側臥位として外転筋力の評価は行うべきである。股関節の痛みのため横になれない人では立位の方がより妥当な評価ができる。
研究の限界としては骨盤の動きを除外していないこと。電気的評価しかしていないことなどがある。

≪論評≫
すいません。何が言いたいのかよくわからないまま訳してしまいました。つまり側臥位で股関節の外転筋力を測定することが最も妥当性が高いということなのでしょう。
臨床的にこれをどう生かしてゆけばよいのか。。。。
また、上の先生に聞いておきます。

2009年11月11日水曜日

2009.11.11 Up to date. Approarch to diagnosis and therapy of deep vein thrombosis

今回は以下について述べる
・DVTの鑑別診断と、DVTのリスクとなるものは何か。
・DVTを診断、除外する最もよい方法は何か
・DVTの初期治療はどうするべきか。いつ入院が必要でなくなるか。
・DVTの長期間の治療に関するおススメ
・凝固亢進性が家族内にあるか

患者情報は別項にて述べる。小児のDVTも別項にて述べる。上肢のDVTも別項とする。
今回は成人の下肢DVTについてのみ述べる

Longitudinal Investigation of Thromboembolism Etiology
(LITE)にて21,680人の参加者でVTEについて平均7.6年前向きに調査した。
・年齢調整を行うと発生率は1.92人年。男性のほうに起こりやすい。男女とも年齢の上昇と共に発症率が増加。
366例のうち191例の二次性に発症したVTEの大半に何かしらの基礎疾患が存在していた。癌が48%、入院が52%、手術が42%、多発外傷が6%である。48%の患者では先立つ外傷、癌、安静状態がなかった。
1102人でロジスティック回帰分析をした結果
・急性の感染症がある
・75歳以上
・癌
・DVTの既往
がDVTのリスクを有意に高くする。

初期対応
DVT診断のためのアルゴリズムを示し、同時に治療についても示す。正しい治療が行われないと致死性の肺塞栓に至るし、また不必要な治療を行うと致死的な出血性の病態を示すことがある。
危険因子
・入院、安静状態
・最近手術をしたことがある。
・肥満
・DVTの既往がある
・下肢の外傷
・担癌状態
・経口避妊薬、ホルモン置換
・妊娠、閉経後
・脳卒中

病歴
古典的には患肢の腫脹、疼痛、変色がDVTの症状として言われている。症状の出ている場所と血栓のある場所との間には関連はない。ふくらはぎの腫脹だけでより近位に血栓があることがある。下肢全体の腫脹なのにふくらはぎのところにしか血栓がない場合がある。
発症年齢、以前発生した血栓の場所、血液検査の結果、家族歴などを聴取する。家族歴の聴取が結構重要で1桁発生率が変わる。
後は最近発生しやすい病態になかったかどうかを確認する。手術、外傷、妊娠、心不全、安静状態。女性は肥満の状態だけでなくピルを内服していないか、ホルモン置換療法を受けていないかについて聴取する。習慣流産は何かしらの凝固以上が背景に隠れている事がある。
血管線維性の異常がないか、骨髄異形成症、動脈硬化性病変など。ヒドララジン、プロカインアミドの内服がないか調べてみる。
癌についてもスクリーニングを一通りかけておくことも必要となる。

特殊な病態
・若年者の繰り返すDVTには下大静脈の奇形がある
・左腸骨静脈の動脈との交差部でMay-Therner症候群として血栓形成がある。

身体所見
診断は静脈が弾力性を持っていること、下肢の疼痛、腫脹、下肢の周囲径の違い、熱感、圧痛、表層静脈の腫脹などから行う。
静脈系に重点を置いて系統的に全身の診察を行う。下肢の腫脹はないか、静脈の走行に沿って大腿部に疼痛を生じることがある。下腿では静脈をふれる事はあってもホーマンズ徴候は明らかでないことも多い。
しかし、これらの検査はいずれも特異度がひくく、DVTの診断のために行ったメタアナリシスで下腿の周囲径のみがDVTの除外診断に有効。下腿の腫脹がないこと、周囲径に差がないことがDVTを除外診断するのに唯一有効。後に示すWellスコアなどは有効でなかった。
したがって更なる検索が必要となる。

有痛性青股腫は珍しい病態で下肢静脈全体にわたって血栓が形成され、治療されないと下肢切断にいたったり致命的になることがある。

DVTでは癌の検索をする必要があるが女性では骨盤内臓器の検索。あとは直腸診。便潜血も考えられる。費用対効果は明らかになっていないのでルーチンで行うかどうかはよく考えて。

血液検査としては血算、血小板数、凝固能。腎機能。尿検査を行う。50歳以上の男性だったらついでにPSAを測定してもよいかもしれない。

DVTの鑑別疾患
肉離れ 40%
下肢の麻痺 9%
リンパ還流不全 7%
静脈不全 7%
ベーカー嚢腫 5%
蜂窩織炎 3%
膝の変形 2%
よくわからない 26%

蜂窩織炎 静脈還流不全の合併症として起こることがある。
表層の静脈血栓症ではよく静脈を触れる
リンパ還流不全は特発性浮腫の原因として重要である。
ベーカー嚢腫は変形性膝関節症にともなって出来る膝裏の関節液のたまりである。
膝の所見をとることも重要
薬剤誘発性の下腿腫脹;カルシウム拮抗薬などで両側に腫脹が来ることがある。

DVTの診断
DVTを疑ったらまず行うべき検査は超音波である。アルゴリズム1を参照
d-dimerの測定だけでは不十分。d-dimerが低かったらその存在を否定しやすくなる。
圧迫法による超音波検査ではその陽性的中率は94%。臨床的に疑わしいのに検出できないときには5-7日後に再度エコーを当てる。施術者の技量に大きく左右されるので注意が必要。
静脈造影は行ってはいけない。
d-dimerと超音波の組み合わせはよい。

DVTの診断のためにWellsのスコアがある。(図2)
陰性かどうかするには非常に有用であるが、あるかどうかとなると少し心もとないところがある。

凝固亢進状態の診断
コーカサス系の人たちは60%でリスクが高い。何かひとつDVTが起こりやすい状態があればそのリスクは5割り増し。
・プロテインS欠損症、第5因子欠損症
・整形外科手術
・癌のような全身性の病態。

どういうときにプロテインSを測るか
コンセンサスはない。しかし図4の状態にあるような人のときには測ったほうがよい。
・リスクのない50歳以下での特発性DVT
・DVTの家族歴
・繰り返すDVT
・門脈、肝静脈、腸間膜、脳など変わったところに起こるDVT
・ワーファリンで皮膚壊死がおこったというエピソード。

スクリーニングの価値
・前もって何かリスクとなるような疾患がないかと調べてもDVTの再発の最大のリスクファクターはDVTを起こしたことがあるかどうかである。
・一度DVTを起こせばワーファリンによる治療を凝固亢進するような病気があってもなくても続けるので調べても。。。
・家族に対してその情報を用いたとしても症状を有さない人に対する予防の有効性は確立していない。

DVTの治療
治療の基本
・血栓の伸展予防
・肺塞栓を起こさない
・再発リスクの減少
・有痛性青股腫のときにはその治療
・塞栓後症候群、静脈還流不全の予防。慢性肺動脈高血圧症の予防

抗凝固療法は症状のある近位型DVTに対して行う。これは治療しないと50%が肺塞栓になる。

治療は2008年のACCPガイドラインに沿って行ってください。
・急性期の治療は低分子ヘパリン、アリクストラ、クレキサンなどで行う
・必要量は製剤によって異なる。
・非分画ヘパリンはAPTTが1.5-2.5倍になるように設定。
・ヘパリン、アリクストラ、クレキサンは最低5日間は投与。経口の抗凝固薬も4から5日間は併用する。
ヘパリンにはワーファリンがよく併用される。まずはじめは5mg/日から。高齢者などでは少量投与法というのもある。2日間連続でINRがいいところまできたらヘパリンは5,6日目に中止。
未分画ヘパリン使用の際には血小板減少症に注意を要する。
血小板数が10万を切ったらヘパリンを中止する。
外科的手術は血行動態が不安定な肺塞栓の患者、腸骨静脈から大腿静脈にかけて大きな血栓がある場合に選択される。下大静脈フィルターは手術適応がないような場合、肺塞栓のリスクが極めて高い場合に行われる。適切に抗凝固療法が行われているにもかかわらずDVTが出来たり、肺高血圧状態の患者には必要である。
ワーファリンはINR2.5 を目標に(2-3の間)

治療期間
・初めての発症で手術、外傷など期間が限られている場合には最低3ヶ月。
・初めて発症した場合には最低3ヶ月。あとはリスクとベネフィットを評価して。
・近位型では長く続けたほうがよく、遠位型なら3ヶ月でよい。
・がん患者では癌切除後まで

一般的治療
抗凝固剤の開始と共に歩行を薦める。弾性ストッキングは2年間ははいていてもらう。(静脈不全予防のため


≪論評≫
整形外科手術をする人間ではDVTは避けて通れないところ。やはりD-dimerでDVTかどうかを判断するのはそれほど意味がないということが今回の結果からも分かった。
術前のリスク評価をしっかりと行うこと。

2009年11月9日月曜日

JBJS(Br) November 2009.Two extension block K-wire technique for mallet finger

Abstract
32指の転位した槌指に対しextension
blockを2本挿入する方法で49ヶ月間のフォローを行った。関節面を38.4%含んでおり、また18人の患者(54%)で亜脱臼位にあった。
6.2週で骨癒合が得られ、全例で解剖学的整復位を得ることが出来た。DIPの平均屈曲は83.1度であった。伸展損失は0.7度であった。
背側骨性の突き出しや再発性の槌指様変形は認めなかった。
臨床的にも画像的にも2本extension blockを挿入する方法は有用であると考える

実際の方法
指神経ブロックにて行う。DIP関節とPIP関節を最大屈曲位にして0.9mmのK-wireを用いて骨片のすぐ背側から中節骨と30度の角度をなすようにして近位方向へ挿入する。2本目を2,3mm間を開けて、これと平行にして挿入する。
その上で非観血的に整復を行う。3本目のk-wireは伸展位で整復位を確保したまま挿入する。0.9mmk-wireを用い、掌側からDIP関節を貫くようにして挿入する。
ワイヤーがあたらないようにアルミのスプリントを当ててもよいし、なくてもよい。6週間たったところでレントゲン上骨癒合が得られているかもしくは圧痛がなくなっているのを確認してピンを抜去する。(図1,2)

考察
石黒法は直視下に整復する方法よりも簡便で、また粉砕した骨片に対しても間接的に押さえ込むことが出来るので有用な方法であることは間違いない。
しかし骨片が大きすぎたり、回旋転位を伴っている場合には一本のK-wireだけでは整復が困難であるという問題があった。
2,3mmの間を空けて2本のk-wireを挿入する筆者らの方法では石黒法の原法よりも細いK-wireを用い、また中節骨への挿入角度をより低い角度(30度)で挿入していることが特徴である。2本のピンが壁のような働きをするのでより整復が容易になる。背側からの圧迫力も増すので整復位の獲得と維持が容易である。細いピンを用いることで侵襲が小さくなる。全例で解剖学的整復位を獲得し、また関節可動域を維持できたことがこのことを証明している。合併症の多くが整復位の確保が出来ないこととそれを維持することが出来ないことに起因している。DIPの亜脱臼位にあった患者では整復操作で爪に異常をきたすことがある。術後にピン刺入部が醜くなることがある。なので慎重なピンの挿入が重要である。

≪論評≫
非常に実践的な内容。scienceとして大したことを言っているわけではないが普段自分が困っていることから解決策を見出し、それを形にできることは素晴らしい。でもこんなにうまくいくのかしら?一回試してみましょう。。