2011年7月21日木曜日

20110721 整形外科と漢方



整形外科は”痛み”と向きあうことの多い科です。
痛みは他覚的に評価することが困難です。またその原因もはっきりしないことも多いです。

整形外科は数多くある運動器疾患の痛みのうち、治せる一部のものを取り扱っています。
それは同時に、多くの”手術では治ることのない痛み”の患者さんが大勢いることを意味します。

僕はこの田舎にいて、”治せない”患者さんと多く向き合ってきました。
MRIで脊柱管が狭くないのに両下肢がしびれてしまっている人。
多発圧迫骨折後で慢性の腰痛を抱えている人。
90歳を超えた末期の両変形性膝関節症の人。

現代医療から外れてしまい、治療法がない人たちに、違った見方から何かしらの医療を提供できないかと考えて、今回は漢方について勉強してみました。

漢方の最大の問題は”エビデンスがない”ことです。

漢方の処方を僕達整形外科医が行うときには、まず、一般的に成績の得られているエビデンスがある治療を提供すべきと僕は考えます。
それでもダメなときのオプションとして、隠し持っておく意味はあるかなと思って提示しました。

皆様のご意見いただければ幸いです。

2011年7月20日水曜日

20110720 Up to date Acute compartment syndrome 続き

ACSの解剖と臨床症状との関連



下腿は4つのコンパートメントに分かれる。前方、外側、後方、深部後方。
前方コンパートメントは最もACSが起こりやすい。4つの伸筋腱、前脛骨動脈、深腓骨神経を含む。
前方コンパートメントACSが起こると第1趾、第2趾のつま先の感覚低下、足関節の背屈が困難になり、時間経過と共に下垂足、鉤状足となる。
外側コンパートメントは足関節の外転、腓骨動脈、浅腓骨神経、深腓骨神経の近位を含む。深腓骨神経が傷害されると前方コンパートメントと同様の症状が起こる。浅腓骨神経の障害では下肢、足の感覚低下が起こる。
深部後方コンパートメントは足底の底屈、後脛骨動脈、ひ骨動脈、脛骨神経を含む。このコンパートメントの障害では足底の感覚低下、足指の屈曲力の低下、他動的に足指を曲げると疼痛が誘発されるといった症状がある。
後方コンパートメントでは神経血管束を含まない。この部分でおこるACSは頻度が低い。

(前腕、大腿についても記載がありますが、読者の皆さんが希望されれば提示します。笑)


ACSの臨床症状
起こりうる症状
・我慢できないほどの痛み
・長く続く深部の焼け付くような痛み
・感覚障害(ACSが発症してから30分から2時間程度で発現)

他覚所見
・コンパートメントに関連する筋を他動的に動かすと疼痛が誘発される
・触診で”木材を触るような”感覚がある
・動脈の拍動低下(ほとんどみられない)
・感覚の消失
・筋力低下
・麻痺

一般に古来から言われるACSの5P(pain, pallor, pulselessness, paresthesias, paralysis)は正しくない。
Systematic reviewで感度、特異度とも低いことが分かっている。コンパートメント圧の測定のみが確定診断に役立つ。
”我慢できないような疼痛”はACSの早期の発見に役立つ。しかしその特異度はあまり高くない。
患肢の屈曲による疼痛の誘発はACSの診断に有用であるとされているが、再現性に乏しい。圧痛はコンパートメントの上昇を示唆するが、深部コンパートメントの診断には役立たない。
神経学的所見としては、ACSとひ骨神経麻痺との鑑別が難しい。2点識別能の低下はACSの可能性が高いとされている。
筋力低下は外傷があると評価困難である。

臨床的に信じられているいくつかの誤解を下記に記す
・開放骨折ではACSにならない
・酸素飽和度の値を測っていれば良い

血液検査の値でACSを診断することは出来ない。CKが上がっていれば横紋筋融解を起こし、そのためにACSを起こす可能性はあるといえる。

測定方法

ACSの危険性があると考えられるような症例では継続的に繰り返しコンパートメント圧を測定する必要がある。
直接法と間接法がある。
直接法はコンパートメントに直接針をさして行う方法
間接法は正常コンパートメントが0-8mmHgであることを利用して、
・末梢毛細血管が20mmHgで阻害される
・20-30mHgまで圧をかけたら疼痛が誘発される
・30mmHgまで圧をかけたら虚血になる
ことを観察する方法である。

治療はとにかく覆っているものをなくすことが肝要である。
どのコンパートメント圧で筋膜切開を行なうかということについては一定した見解はない。

2011年7月19日火曜日

20110719 週間医学界新聞より サンプルサイズの計算方法

http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02937_06


週間医学界新聞さんへのリンク 
  
週間医学界新聞に統計についての面白い連載が載っているのでご紹介します。

今回はサンプルサイズの計算方法です。

いまやこんな便利ソフトまで出ているのですねえ。ビックリです。

コレをつかって、後は論文を書くだけですねえ。。。。。笑

2011年7月18日月曜日

20110720 Up to Date. Acute Compartment Syndrome

コンパートメント症候群はいつ、どうやって切るか、ということを自信を持って他の人に伝えることが出来ませんでしたので、権威の力を借りてコンパートメント症候群にいかに対応するかについてまとめてみたいと思います。

Summary & recommendations

・急性コンパートメント症候群(以下ACS)は何らかの原因で筋膜内の圧を逃がすことが出来なくなり、コンパートメント内の圧が上昇して阻血障害や、組織の機能障害を起こしうる病態である。ACSは外科緊急疾患である。
・ACSは下肢の骨折、前腕の骨折などの重症外傷にともない早期に発症する。また、軽微な外傷、もしくは外傷が全くないような症例でも生じうる。(例としては、虚血性障害、凝固障害、動物咬傷、薬剤の点滴漏れ、長い間の下肢の圧迫など)
・ACSでは進行する耐え難い疼痛が早期の症状として現れる。これは筋の腫脹のためにおこる膜の伸張による疼痛であると考えられている。ACSは急速に進行していくが、多様な症状は数時間経ってから出現する。診断を確定させようと待つことは患者を危険な状態にしておく、ということになる。
・ACSが疑われるような症例ではコンパートメント内圧を測定すべきである。一度測定し、その値が正常であったとしてもそれはその瞬間には値が低くても、進行する直前であるかもしれない。つまり値が正常であったもがACSを除外診断できた、ということにはならない。重要なことは、ハイリスクの患者であれば継続して何箇所からでも測定を行なうことである。
・コンパートメントの正常圧は0-8mmHgである。大体20mmHgを越えたあたりからACSの症状や兆候が現れてくる。しかし、その兆候が現れてくるまでの圧は様々でもともと高血圧をもっているような患者では末梢神経障害が起こるまでにより高い圧を必要とするし、一方、四肢の虚血性疾患を合併しているような患者ではより低い圧でACSが起こりうる
・どれくらいの圧になれば筋膜切開をするべきかというコンセンサスは得られていない。ある専門家は収縮期血圧と測定したコンパートメント圧の差を、また別のある専門家は拡張期血圧とコンパートメント圧の差を使っている。その差も20mmHgとするか、30mmHgとするかも分かれている。
・ACSの治療は、すべてのコンパートメントから、コンパートメントに圧をかけているものを除去することである。ギプス、シーネなど覆っているものは除去されなければならない。下肢は決して挙上してはならない。鎮痛薬の投与と酸素投与も行う。低血圧になると灌流が低下するので生食の持続投与を行う。
・多くの症例で、筋膜切開を行うときには、関係すると考えられるすべてのコンパートメントの開放を行うことが最終的な治療となる。筋膜切開をためらうことは機能障害の残存につながる。

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・コンパートメント症候群(ACS)の疫学
ACSは一般的に骨折をともなうような大きな外傷で起こるが、小さな外傷もしくは外傷の内容な症例でも起こりうる。一般的に前腕、下腿で好発するが足、大腿、臀部などでも起こりうる。
・ACSは35歳以下で起こりやすい。若い男性は大きな事故に合いやすく、また筋量がおおいことがACSの起こりやすさに関連しているのかもしれない。

ACSの75%に骨折を合併している。粉砕型の骨折であること、脛骨の骨折であることがリスクを高くする。
脛骨骨折の1‐10%にACSを合併する。ついで前腕にACSは起こりやすい。特に小児では上腕骨顆上骨折に合併するACSが多い。

開放骨折、閉鎖性骨折のいずれに関わらずコンパートメント症候群は起こりうる。骨折の治療をできるだけ早期に行うことが必要である。
非観血的骨折整復術をおこなうと、コンパートメント圧が上がっていたコンパートメントの圧を低下する効果がある。ある観察研究では、撓骨遠位端骨折で整復をおこなった例では整復直後にギプスを巻くまでの間でコンパートメント圧は最大になる。第二のピークは4時間後に現れ、その後徐々に消退していくことが知られている。過度のギプス固定はコンパートメント圧を上げる。
観血的な骨折の整復固定はコンパートメント圧を上昇させうる。脛骨髄内釘挿入時にはコンパートメント圧は髄内釘挿入時に最大となり、以後36時間かけて減圧していく。撓骨遠位端骨折術後では24時間程度で減圧する。

骨折を伴わないACS
・直接外力
・熱傷
・過度にきつくまいた包帯
・穿通外傷
・四肢血管へのダメージ
・その他軽微な外傷

外傷のないACS
・再灌流障害
・凝固障害
・ネフローゼ
・点滴、注射薬の血管外漏出
・動物咬傷


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長いので次回に続きます。笑

2011年7月14日木曜日

20110714 Up to date. principles snake bite

ブログの管理人です。
必要に迫られましたので読んでみました。(笑)



Summary and recommendation
・初期治療の目的は、蛇毒の全身への拡散を遅らせながら、一刻も早く病院へ連れてゆくことである。
・圧迫固定法は全身症状の出現や、壊死などの局所所見があるときにのみ用いたほうがよい

様々な臨床症状が問題となるが、主要な問題としては神経毒、ショック、凝固異常、横紋筋融解と腎不全の出現である。

その地方ごとに蛇の種類について知っておくことが重要である。もし蛇咬傷の治療経験に乏しいようであれば専門家に早めに相談するほうがよい。蛇の種類に応じて臨床症状、血液検査などをおこなってゆくとよい。

抗血清の使用についてはその益と害についてよく検討された上でなされなければならない。局所の症状が著しい場合や全身症状の出現など、投与したために生じる有益性が害を上回る際以外には投与しない。

専門のWebサイトで調べたり、聞いたりすることが重要である。

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・野外で行えること
できるだけ速やかに適切な医療機関に搬送することがもっとも重要である。

基本原則
-蛇の縄張りから傷病者を脱出させること
-受傷部位を心臓より低く保ち、安静を保つこと
-持っている薬剤などの情報提供ができるようにしておくこと
-もし可能であれば、デジカメなどで蛇体の一部でも写真に撮れるとよい。死んでいても決して蛇には触らない。(死んだ直後だと咬む反射が残っているため)
-とにかく早く病院へ運ぶことが重要

圧迫固定は全身症状が出現している場合、壊死などの重篤な局所所見が生じている場合に考慮すべきである。

口や、機械的に毒を排出することは推奨されない。ターニケットによる阻血も神経障害を悪化させるだけであるので行わない

・病院で行うこと
蛇の種類、それぞれの蛇毒によって起こりうる症状に応じて対応する

まず牙痕の確認。局所症状に乏しい場合もある。重症な全身症状が、嘔気、腹痛、頭痛などの非特異的な症状から発症することがあるので十分な注意が必要である。
各毒による特異的な症状
・神経毒:複視、眼瞼下垂、進行性の球麻痺
・凝固異常:凝固亢進、線溶系の低下ともいずれとも起こしうる。血液検査を継時的に行うことで評価可能である。
・血圧低下、ショック
・横紋筋融解:CK上昇、高カリウム血症の存在。尿検査で潜血反応が見られた時には注意が必要
・腎機能低下:蛇毒、血圧低下、横紋筋融解など様々な原因で腎機能低下が起こりうる。12歳以下、抗血清の投与が遅かった場合、CKが2000以上になった場合には腎機能低下をきたしやすい。90ml/h以上の補液を行う必要がある。

症状が乏しくてもとにかく慎重に経過観察が必要である。周囲の医療環境を勘案してそれぞれの医療施設ごとでの帰宅許可基準の作成が必要である。

酸素投与は神経毒による呼吸不全の症状をマスクしてしまう可能性があるので、ルーチンには行わない。
抗生剤のルーチンな投与は疑問がのこる。RCTでは感染、膿瘍の形成を低下させたというデータはない。

抗蛇毒血清についてはその投与については慎重でなければならない。(高い確率で何かしらのアレルギー反応をきたしうる)
・ショック、凝固異常のような明らかな全身症状が出現しているとき
・壊死などの重篤な局所障害が出現しているとき
にのみその使用を考慮

血清を使用したさいにおこる有害反応は下記の3つのパターンがある
・急性のアレルギー反応
・発熱反応
・血清病

これらの反応を予防するために1、ボスミンの事前皮下注。2、抗ヒスタミン剤の事前投与などにはその有効性はない。
ただ、何が起こってもよいようにボスミンを手元に準備しておいてから血清は投与すること。

それぞれの病変への対応
・局所
筋膜切開は明らかなコンパートメント症候群の兆候が表れるまでは行う必要はない。
・神経症状
呼吸筋麻痺に伴う症状が問題となる。呼吸数の低下などに注意が必要。挿管などの準備をしておく
・凝固異常
血清の使用なしには凝固異常の改善は望めない。発症したら血清をまず使用。そのうえで血漿交換などを考慮。ヘパリンの投与は有用ではない。
・血圧低下
必要に応じてIVHを確保
・横紋筋融解
しっかりと生食で補液を行う。マンニトールの使用は特に有用ではない。
・腎機能低下
循環血症量の保持。必要に応じて透析を考慮。

<追記>
ジャパンスネークセンター(㈶日本蛇族学術研究所)のHPの中にある”ヘビ百科”がよくまとまっているのでそちらも参考にしてください。電話しても詳細に教えてくださるそうですので日中であれば考慮すべき価値があるかと思います。

2011年7月13日水曜日

20110711 JBJS(Am) Reducing Perioperative Blood Loss and Allogeneic Blood Transfusion in Patients Undergoing Major Spine Surgery その5

・MIS
MISを行うことで術中の出血量は減少する。(MEDでもインプランテーションでも。)
しかしながらMISが万能なわけではなく、昔ながらの方法に比べて明らかに難易度が高くなっている。ラーニングカーブもあるので、慎重に適応を検討すべき。

・術後赤血球回収
脊椎手術の分野ではほとんど報告がないため、評価が困難である。
ある報告では同種輸血の量を30%減らしたとする報告がある。
細胞のカス、骨髄脂肪、フィブリン、など有害な物質が紛れ込むことがあるかもしれないが40マイクロのフィルターでこの問題を解決している。
この方法がどの程度費用に見合うのかも不明である。

・輸血基準の厳密な設定を行うこと
近年は輸血の基準が厳格化しており、輸血をどのタイミングで行うかと言うのは議論に成っている。
カナダの集中治療ガイドラインでの輸血に関しての研究では、Hbが7g/dlまで輸血しない群と、いつでも輸血して良い群の2群で死亡率に差がなかったと報告している。
イギリスでは7g/dl以下で、アメリカでは6g/dl以下で強く輸血を推奨。ともに10g/dl以上では輸血は不要と結論づけている。6‐10g/dlでは心筋梗塞などのリスクファクターがある場合には輸血を行うこととしている。
脊椎手術での基準は定められていないが、同様の基準で行えば良いのではないだろうか

2011年7月11日月曜日

20110711 JBJS(Am) Reducing Perioperative Blood Loss and Allogeneic Blood Transfusion in Patients Undergoing Major Spine Surgery その4

術中の対応
・患者の体位
硬膜外静脈叢が下大静脈と弁のない経路で交通していることはよく知られている。伏臥位では腹圧の上昇が下大静脈の厚上昇につながり、そのために硬膜外静脈叢の循環血漿量を増加させ、出血量の増加につながる。古くはHallフレームが腹圧の低下につながり、出血量を有意に減少させたとする報告がある。最近ではWilsonフレームで広いパッドか狭いパッドのいずれが有効かという研究が行われ広いパッドの方がより出血量が少なかったとする報告がある。術中の出血量と腹圧との間には密接な関係がある。

・手術方法
皮切部からのウージングを抑えるために50万倍のボスミンの局注を行うことがある。傍脊柱筋への栄養血管は脊椎のすぐ近傍を通っているため骨膜下で剥離するようにするとこの血管を損傷せずに出血量を減らすことができる。適切な手術手技を習得することで出血量は減らすことができる。
固定術ではしばしばデコルチケーションを行わなければならない。この時には骨の表面から出血してしまう。そこでこの手技を一番最後にすると出血量は抑えられる。そして創部をwatersealする程度まできつく縫合し、タンポナーデ効果が得られるようにすることが必要である。熱凝固で出血を止めたり、骨蝋も骨からの出血を止めるために少量使うことも差し支えない。硬膜外出血はバイポーラで止める。もし、下大静脈圧が十分に低ければ、創部に生食を満たせばその圧だけでも硬膜外出血のコントロールは可能である。

・局所止血剤の使用
様々な注意を払っても止血困難な出血はある。そのような場合には止血剤の使用が考慮されることとなる。
これらの止血剤は大きく二つのタイプに分けられる。passiveなタイプと、activeなタイプの二つがある。
passiveなタイプは血小板凝集を促進するタイプの製剤である。activeなタイプとは凝固系を促進してフィブリン塊を形成するようなもののことをいう。
passiveなタイプにはコラーゲン性、ゼラチン性、セルロース性のものがある。
いずれの商品も多くの症例で10分以内で止血を得ることができる。
局所止血剤は有用であるがいくつか有害な点を潜在的に有していることには注意が必要である。passiveな止血剤では神経の圧迫のリスクがある。また異物反応、慢性の炎症、感染のリスクもある。
局所止血剤は必要最低限の使用にするほうが良い。

20110709 JBJS(Am) Reducing Perioperative Blood Loss and Allogeneic Blood Transfusion in Patients Undergoing Major Spine Surgery その3

・モルヒネの髄内投与
全身麻酔に硬膜外麻酔や脊髄麻酔などを追加すると術中の出血が減少するということがメタアナライシスで示されている。このことは局所麻酔の追加で低血圧麻酔のような状態になるために出血量が減少するためと考えられている。また、局所麻酔の追加とは別に髄腔内にオピオイドを投与することで低血圧を惹起することなく出血量の減少が得られることが知られている。3つの無作為試験でそのことが示されているにもかかわらず、機序については全く不明である。

・低血圧麻酔
低血圧麻酔は整形外科手術で昔から使われてきた方法である。動脈圧を下げることで全体の出血を減少させる効果があるとされている。しかしながら、硬膜外静脈叢、骨髄内の血圧は動脈圧と全く関連していないため、脊椎手術の手技に関わるデコルチケーションなどでは低血圧麻酔にすることがどれほど意味があるかは不明である。
低血圧麻酔が危惧される一つの理由としては、術後の失明の可能性があることである。その発症率は0.09%程度であるが脊椎手術では腹臥位であること、貧血の進行が脊椎の大手術では予想されること、血液が希釈されることなどからそのリスクは高くなる。
また低血圧麻酔による脊髄神経そのものに対する影響も考えられる。神経が低酸素状態となることから何かしらの影響があるのかもしれない。今のところの研究では、普通に低血圧麻酔を行う限りでは神経に影響はないとされているが、さらなる研究が必要である。

・体温保持
低体温は凝固系の異常をきたしうることが知られている。この凝固系の以上は血小板機能が失われることが主体であり、凝固因子の影響はわずかである。
軽度の低体温は輸血の必要性を増加させることが知られている。THAでも同様の結論が得られている。
あらゆる手術で、体温が1度下がるごとに出血量が16%増加し、輸血の可能性が22%増加することが分かっている。
脊椎手術で体温を保持することがどれほどの意味があるかはまた研究がなされていないが、検討に価するものである。

2011年7月9日土曜日

20110709 JBJS(Am) Reducing Perioperative Blood Loss and Allogeneic Blood Transfusion in Patients Undergoing Major Spine Surgery その2

術中の管理
・術中希釈式自己血輸血
希釈式自己血輸血は腰椎固定術、側弯症手術において有用であると言われている。この方法を行うと凝固能が30%上昇するという報告もあり、このために術中出血量の減少が得られるのかも知れない。この方法は患者の状態に左右され、またその性質から貯血型自己血輸血とは併用が困難である。

・術中赤血球回収(セルセーバー®か?)
術中の赤血球回収が同種輸血の回避につながるかどうかというのは議論の残るところである。有用である、とする報告はなされており、また、コクランを含めた様々なレビューが行われているが、研究の質が一定していないためはっきりとしたことは言えない。
Gauseらが行った後ろ向き研究では、術中赤血球回収を行うと輸血量が減らないばかりか術中出血量の増加すら認めている。この原因についてははっきりしないが、術者側の気持ちの問題や回収血では凝固能が低下するといった問題がひょっとしたらあるのかもしれない。
またコストの問題もあり、希釈式自己血輸血法の方が安価である。2単位以上の回収が見込まれる時にのみ、回収法のほうが安価となる。
また腫瘍、感染の手術、局所止血剤を使用した際には禁忌である。

・止血剤の使用
抗凝固線維融解素
コクランレビューでもAprotinin(トラジロール®)とtranexamic acid(トランサミン®)が側弯症手術の際の出血を減少させる、ということが報告されている。他のメタアナライシスでも脊椎手術においてトランサミンとepsilon-aminocaproic acidは血栓症などの有害事象を増やすことなく出血量を減少させたという報告がある。

・トラジオール
2000ml以上の出血をきたしたような脊椎の大手術でトラジオールを使用したところ出血量が少なかったという報告がある一方、輸血量に関しては変わらなかったとする報告もある。
また、心臓手術で使用された際に心筋梗塞、アナフィラキシー、腎障害をおこしたという報告や、脊椎の矯正手術で用いた際には急性腎不全の発症、血栓症の発症が報告されている。現在FDAでは使用中止を勧告している。
・トランサミン
抗線溶として働く。以前から人工関節置換術ではその効果について言われていたが、脊椎の分野では最近報告がなされるようになってきた。
明らかな合併症も無く安価で安全に使える薬剤であるとされてきつつある。
(高用量で使用している。)
・epsilon-aminocaproic acid
日本ではアミノカプロン酸として目薬のなかに入っているようですけども。。。すいません、商品名が分からないです。

・Recombinat factor Ⅶa(ノボセブン®)
重大な有害事象がおこったために中止された研究がある。後ろ向き研究ではその効果は証明されているが、血栓症のリスクがあること、また非常に高価な薬剤であるため適応外での使用を推奨しない。

・Desmopressin(バゾプレッシン)
von Willebrand病で使われることから脊髄手術にも応用してみた研究がある。出血量の減少を認めたがその効用を確立するには至っていない。

20110709 JBJS(Am) Redusing perioperative blood loss and allogeneic blood transfusion in patients undergoing major spine surgery その1

JBJSのCurrent Concept Review
"脊椎の大手術を受けた患者で同種輸血を回避する方法"



術前の準備

・術前の休薬など
アスピリンや、clopidogrel(プラビックス®)は心血管疾患を合併している患者でよく処方されている。
これらの薬剤を中止するかどうかは術前のリスク評価を行って決めなければならない。抗血小板剤の投与によって10.2%の血管系のイベントが予防できていると考えられている。しかしながら、これらの薬を継続しながら行う手術では出血にともなう有害事象はあまり増加しない、と言われている。
Chassotらは、7日前からのアスピリンの中止を基本としているが、6週間以内に心筋梗塞の既往がある場合、または12か月以内に薬剤溶出型冠動脈ステントを留置した場合にはアスピリンを中止せずに手術を行うこととしている。
アスピリンと脊椎手術における出血量の関連を調べた研究はない。
ちなみに脊椎外科医にアンケートをとって見たところ、アスピリンを飲んでいると聞くと2/3の脊椎外科医が術中出血量が多くなると感じ、また半分以上の術者が出血のトラブルに遭遇したと回答した。
clopidogrelの場合には術中出血量、輸血の割合が増加したものの、死亡率、合併症率には変化が見られなかった。
整形外科医がよく処方するNSAIDsもアスピリンとほぼ同等の抗血小板作用がある。ただし休薬して24時間以降であればその効果は消失している。血小板機能評価装置などを使って術前に評価をしておくほうが妥当であろう。

・自己血貯血
自己血貯血は確立された安全な方法である。腰椎固定術や側弯症手術で同種輸血を回避するのに効果的であるとされている。
しかしながらBrookfieldらの676例の後ろ向き研究によれば自己血貯血を行った群と行っていない群では輸血の行った率に差は見られなかったとする報告もある。
鉄剤の投与、エリスロポエチンの使用は必須である。

2011年7月1日金曜日

20110701 JBJS(Br) Is a fracture of transverse process of L5 a predictor of pelvic fracture instability



不安定型の骨盤骨折を早期に認識し、治療につなげることは死亡率や機能障害を減少させるために必要なことである。今までL5横突起の骨折があると、それは不安定型の骨盤骨折を指し示していると信じられてきた。しかし、このことを担保する根拠は殆ど見当たらない。そこで今回は本当にL5横突起の骨折が不安定型骨盤骨折の予測因子となりうるかと言うことについて検討した。
2006‐2010年の80人の患者。カルテレコードによる後向き研究。32例が男性、48例が女性。平均年齢は40歳。殆どの患者が交通事故、高所からの転落により受傷。41例、51%の患者が骨盤骨折以外のその他のケガを受傷。骨盤骨折の分類にはBurgess&Youngの分類を用いた。45例の安定型骨折と35例の不安定型骨折。L5の横突起骨折は17例に認められた。不安定型の骨盤骨折の患者のうち40%でL5横突起骨折は認められた。L5の横突起骨折があって、不安定型の骨盤骨折であることはオッズ比として9.3、相対危険度として2.5であった。
よってL5横突起骨折が不安定型の骨盤骨折の時に存在すると言うことができ、スタッフ間の危機意識の共有において有用であるということがわかった。

考察
不安定型の骨盤骨折であることを早期に診断し治療につなげることが重要である。
L5横突起骨折と骨盤骨折に関するバイオメカてきな考え方として、骨盤後方の構成要素は前方よりも複雑で安定性に貢献している。後方の構成成分はちょうど吊り橋の様に成っている。後上腸骨棘を柱として腸骨仙骨靭帯を横ざさえのようにしている。そしてL5の横突起をふくむ腸骨腰靭帯がつり上げているような働きをしている。L5横突起の骨折はこの後方成分の破綻を意味する。

<論評>
L5横突起の骨折が不安定型骨盤骨折を示唆するというのが当たり前だと思っていたのですが、証明されていなかったのですね。笑
こう言った臨床であたりまえだと思っていても、研究として形づくられていない事柄というのはたくさんあるのかも知れません。

写真をアップロードしたのは杉本先生のマネッコです。笑