2013年6月17日月曜日

20130617 JBJS(Am) Improving the accuracy of acetabular compnent orientation: Avoiding Malposition




視野が悪かったり、患者が肥満であったり、ガイドが不正確であったり、患者の体位が手術中にずれてしまったりすることで臼蓋コンポーネントの設置は不良となる。臼蓋コンポーネントの設置不良は脱臼率の増加につながる、下肢長差が出現する、摺動面のウエアが進む、そして再置換術の増加につながる。臼蓋コンポーネントの設置不良は股関節周囲筋のバイオメカニクスの変化にも影響をおよぼす。そして骨融解、臼蓋コンポーネントの破損などにも関係してくる。臼蓋コンポーネントの安全な設置位置というものは定められているものの、アメリカでメディケアを対象とした調査では初回THAで脱臼率は3.9%、再置換術後で14.4%と報告されている。最近の報告では22.5%で脱臼、不安定感が認められたとする報告もある。

初回THAからの大径骨頭の使用によって近年短期での脱臼はおよそ半分まで減少した。1998年に4.21%であったものが2007年には2.14%となっている。脱臼率は大腿骨のhead-neck ratioで決まる。コンポーネント同士のインピンジメントが減少し、関節可動域が増加した。またジャンピングディスタンスも増加している。
しかしながら大径骨頭の使用すること自身が臼蓋コンポーネントの不適切な設置を許容するものではない。コンポーネントの不適切な設置によって歩容の以上が認められる。また大転子滑液包炎。歩行時の違和感がます。
すべてのTHAのコンポーネントは正しく設置されて使うこと前提としているので、不適切な設置を行うことで人工関節の生存率にも影響を与える可能性がある。

Kurtzらは初回THA、再置換術を行う患者は増加するだろうと予測している。2030年までには初回THAが57万件。再置換術が9万7千件になることを予想している。最近の研究で、5万件の再置換術について調査を行ったところ脱臼が22%で最多であった。平均余分にかかるコストは5万4千ドルになる。臼蓋側コンポーネントの適切な設置によって予後を改善し、医療費の軽減にもつながることが期待される。

正しい臼蓋コンポーネントの設置は未だに議論のあるところである。Lewinnekのセーフゾーンは臼蓋コンポーネントの設置の一般的な指標として用いられる。この安全域からはみ出した場合には脱臼率が増すことが知られている。しかし、この脱臼率の検討は9例に対して行ったに過ぎない。そして6例は再置換術語である。1例だけが初回THAの術後であった。脱臼したうちの3例はセーフゾーンにあるにもかかわらず脱臼している。加えて291例中113例でしか正しい外方開角、前方開角でなかった。
すると診療上の疑問は変わらず残る。いままで多くの文献で述べられてきたようなセーフゾーンは本当に脱臼のリスクを減らすために最も正確な方法なのだろうかと。例えは患者の3次元的なもともとの臼蓋の形に挿入して、結果的にLewnnekの安全域から外れているような場合はどうなのだろうか。3Dで健常人を対象に行なった研究では健常人の平均の前方開角はLewinnekのセーフゾーンに入ってこない。また男よりも女性のほうが前方開角が大きい傾向にあった。Maruyamaらはこの違いが脱臼が女性に多い一つの原因では無いかと考察している。
いままでの論説に加えて、術者間、術者内での臼蓋設置の信頼性、再現性はどうだろうか。一般的に行われている方法では臼蓋コンポーネントの不正確な設置が62%ー78%におこるとする報告がある。術前のテンプレーティング、CTの撮像、手術中の工夫は一貫性にかけ、また余計な時間が必要である。術中の患者の体位の変化がまた予定と異なった結果を導く可能性もある。現在良く行われているのは術前のレントゲンの計測、術中透視の使用、術中の徒手的検査などである。かりに安全域が定義され、そこに臼蓋コンポーネントを設置しても脱臼をすべて防ぐことは出来ない。解剖学的指標、患者特異的な指標を用いることでより適切な位置に臼蓋コンポーネントを設置できる。

患者特異的な形態学的な評価を行った上での患者自身のターゲットゾーンの設定
人工股関節置換術において患者に特異的な形態学的な指標を用いることとは患者個々の股関節の形態や構造を参照することである。セーフゾーンの考え方とは異なり、平均的にどうこうということは無い。高度の臼蓋形成不全、外傷後などではその指標を見つけることが困難であるかもしれないがいくつかの構造を指標としてオリエンテーション、アライメント、安定性を獲得するようにする。Patelらは原臼蓋の辺縁に平行になっている軟部組織を参照としてソケットを挿入したところインピンジメントと不安定性が減少した。関節可動域も正常な部分まで獲得できたとしている。
現在、解剖学的指標として3つのオプションが挙げられている。骨性の指標、軟部組織の指標、それらを組み合わせたものである。患者に特異的な形態学的指標としては今までに4つのものが挙げられている。横靭帯を指標とする方法、寛骨臼の円の骨折の指標を用いることの、坐骨切痕を用いるもの、臼蓋切痕角を用いるものである。いずれの方法も患者特異的な設置角を明らかにし、インピンジメント、ポリエチレンのウエアを少なくするようにしている。

横靭帯
Archboldらは横靭帯を患者固有の前方開角の指標として用いる方法を提唱している。横靭帯に平行に設置するように前方開角を決定する。同時に臼蓋コンポーネントの深さ、設置高位の確認も可能である。横靭帯を指標として用いるためには臼蓋を完全に展開し、横靭帯がはっきりと見えるようにする必要がある。最終のサイズのリーミングを終えるまでにはおうじんたいと並行にして横靭帯のちょうど内側までリーミングするようにする。臼蓋コンポーネントの設置位置は患者のそもそもの前方開角、外方開角に合わせるようにする。理想的なカップの設置によってヒップセンターを最も理想的な位置に置くことができる。リーマーや臼蓋コンポーネントの位置を見ることでカップが高位設置になっていないか、深く挿入されていないかを知ることができる。もし、おうじんたいとカップの下方との間に隙間があればカップが高位設置となっている。カップが深く設置されている場合にはカップの下縁と横靭帯との内側に隙間ができている。このような場合にはすこし外方設置を心がけることで対応する。臼蓋唇の位置で臼蓋コンポーネントの外方開角の程度を確認することができる。この方法であれば外部のアライメントガイドを必要とする事無く設置することが可能である。この報告者は1000件の初回THAで脱臼率は0.6%であったと報告している。

骨盤を基準とする方法
Sotereanosらは3つの骨性の要素を前方開角の指標とする方法を提唱している。下方にある2つの指標からカップの前方開角を決定し、前方上方の点から外方開角を決定する。術前のテンプレーティングにてカップのサイズ、回転中心を測定。角度計を用いて外方開角40度を測定。この時に外方にどれだけはみ出るかを測定する。この値を術中にも反映させる。外側に骨棘がある場合には術中の評価に難渋してしばしば平行に入れがちである。これらの失敗を避けるためには下方の臼蓋切痕からの評価も必要である。平行に入れすぎると骨が見えて、立てすぎると切痕が見えなくなる。臼蓋を360度見えるようにしたあとに図6のように下方の2点を設定する。この2点を結んだ線が患者本来の前方開角である。A点は臼蓋後縁と坐骨結節の間の溝である。Cobbの剥離子で後下方を剥離すると到達する。B点は腸恥隆起の下方、恥骨の外上方になる。この点はたいてい臼蓋の前下方5ミリの場所である。つづいて適切な深さまで臼蓋を掘削する。この2点を結んだ線に必ずリーマーが入るようにしないといけない。そうしないと高位設置になっている可能性がある。ソケットは必ず臼蓋切痕とこの2点を通過したところに設置する。

立位側面像の撮影
McCollumらは立位と臥位ではインピンジしないための角度が30度異なることを明らかにした。そこで立位での側面像を撮影した。上前腸骨棘から坐骨切痕にいたる直線を引く。これと上前腸骨棘と後上腸骨棘をひいた直線との角度を測定し、それを術中の指標として用いた。図9のように術中に坐骨切痕を触れておいて上前腸骨棘とを結んだ直線を皮膚ペンで書く。術前に評価しておいたカップの前方開角に合わせてそのラインを参照してカップを挿入する。

臼蓋切痕の角度
Maruyamaらは臼蓋切痕の角度を患者特異的な前方開角の指標とするように提唱している。坐骨切痕と臼蓋後縁をロックするように器具をかける。Line1として臼蓋後縁と坐骨切痕の上縁を通る直線とする。Line2はLine1と平行に臼蓋の中心を通る線としてLine3は臼蓋の前縁と後縁をとおる直線とする。このLine 1と3がなす角が坐骨切痕角であると定義した。坐骨切痕角はほとんどバリエーションがなく、すべての患者でより正確に測定することが可能である。患者の体位が側臥位の時患者の腹側に術者がいると人差し指で坐骨切痕をふれて臼蓋後縁とのなす角を測定できる。そしてロッドを装着しLine2にそって掘削すると臼蓋の中央を掘削することになる。坐骨切痕に向けて掘削すると患者固有の前方開角よりも10度ほど前方開角が大きくなる。

患者固有の形態に合わせた臼蓋コンポーネントの設置
患者固有の形態に合わせて正確な臼蓋コンポーネントの設置を行うことで脱臼やポリエチレンのウエアのリスクを軽減することができる。今まで伝統的に行われてきたセーフゾーンの考え方は脱臼、インピンジメントのリスクを最小に剃る方法とは言えない。患者固有の形態に合わせて臼蓋コンポーネントを設置したほうが脱臼率は低下する。患者固有のターゲットゾーンを設定して臼蓋コンポーネントを設置するほうがよい。Lwwinnekのセーフゾーンの考え方は多くの整形外科医に受け入れられている考え方である。しかしながらセーフゾーンにあっても脱臼する例がある。患者固有の形態に合わせた方法をとるターゲットゾーンという方法をよることでより好ましい臼蓋の設置が可能となる可能性がある。

2013年6月15日土曜日

20130615 名古屋股関節セミナー Vol2

第27回名古屋股関節セミナー Vol2

豊橋市民病院 山内先生
大腿骨骨頭壊死に対する骨頭回転術
臼蓋辺縁まで壊死が至っているようなTypeC1,C2に対する治療が重要である。
TypeC1で側面像で後方1/3以上の健常域があれば前方回転。
前方に1/3以上の健常域がある場合には後方回転。悩んだら後方回転を選択する。
短外旋筋群、関節包の処理がポイント。
大腿方形筋は脂肪層まで。血管を切らないように注意。
ARO,PROで40%程度の健常域が得られれば良好な成績が得られる。
綿密な術前評価、術式の遵守、適切な後療法が必要である。

岐阜市民病院 加藤先生
FAIの診断 
Pincer ,Cam lesion
Pincerは臼蓋側、Camは大腿骨側の病変でcombined type , Mixed typeもある。
最近はYouTubeでもこんな動画が出ているのですね。
https://www.youtube.com/watch?v=Ggx7H58DI6k
3Dで病態を理解するのには大変役にたちます。

もともと1913年ごろから骨切り術後のインピンジメントが言われていた。新しい概念では無いが変形性股関節症の原因となりうると発表されたことが新しい概念である。

日本の場合には臼蓋形成不全に伴う二次性の変形性股関節症が圧倒的に多いため、このような病態はほとんど見られない。

診察方法
anterior impingement sign , log roll sign , FARBER test

レントゲン評価
http://www.ajronline.org/doi/full/10.2214/AJR.06.0921

放射線科医はこれだけは知っておけみたいな論文。
しかしながらそこで紹介されているレントゲン写真上の評価(例えばcrossover sign)のようなものはあまり当てにならないのではないかという報告が多数出てきている。
cross over signの一致率は68%にしかならない。
coxa profundaは正常でもよく見られる。

Cam lesion
Pistol grip deformity
レントゲン写真を正しく取らないと全く評価が出来ない。

CTでの評価も重要
Bone sposition , 臼蓋の骨硬化、 junctional lesionなどが見られることがある。

MRI所見
関節唇の損傷をみる。造影剤を関節内投与しての評価が基本であるが日本では保険収載されていない。

FAIの診断は症状、画像、理学所見の総合的評価。どこまでが病気か、疾患か。
他疾患の除外は慎重に行う。

公立陶生病院 渡辺先生
関節唇損傷と股関節鏡

関節唇損傷に至る原因。
FAIのようなover covarage。
DDHのようなunder covarage  同じ治療で良いのか?という仮説からのお話
DDH CE角20度なら関節鏡による治療の適応があるのでは無いかという報告。

股関節内造影MRarthography。キシロカインとステロイドを同時に投与し診断的治療を兼ねる。
超音波ガイド下にて注射

関節唇損傷と診断してもすぐに手術せずに股関節周辺のストレッチ、筋力強化訓練を指導する。

円靭帯はACLとほぼ同強度。切れていると疼痛の原因となることがある。
関節包を切って処置をすると処置がしやすい。ただ縫合しておかないと疼痛の原因となりうる。
関節鏡では牽引が必須。2時間を超えないようにする。

FAIの治療、股関節鏡下手術手術はまだ発展の見込める分野である。アメリカではこの5年間で4倍に増えている。
FAIと診断し、実際に治療を行い改善した例がFAIである。

FAIの診断、治療はこれからの股関節疾患の病態理解の一つのbreak throughになるのかもしれない。

名古屋大学 関先生
弯曲内反骨切り術
変形性股関節症、大腿骨頭壊死に対しての治療として考案された。
脚短縮が少ないことがメリット。
大腿骨頭壊死症の場合には荷重部に健常域が完全に入ることが重要。
骨頭の球形度を改善するための方法としてのBIG.
多変量解析を行いCVOが破綻する原因について検討したところBMIと健常域34%以下の症例で多かった。(OR8.6倍)


こんなに有用なセミナー他にないと思うのですのよね。

20130615 名古屋股関節セミナー Vol1

第27回 名古屋股関節セミナーを開催しました。

東海三県のclosedな会ですけども、これで10年目です。
これだけ股関節に特化した体系的な勉強会は他に無いのではと感じております。
骨モデルを用いた実習までついておりますので、股関節に興味のある先生は一度は受講されたら良いのではと思っています。

骨頭温存手術 総論 岐阜大学 伊藤先生

Cambellの教科書では変形性股関節症については”Outmoded(時代遅れ)”と記載されているものの臼蓋形成不全症に伴う二次性の変形性股関節症の多い日本ではまだ骨切り術の適応はあるものと考えられる。
False profile 像で臼蓋の前方被覆が理解しやすい
骨盤側の骨切り術と大腿骨側の骨切り術の両方がある。
・大腿骨側の手術
大腿骨内反骨切り術 外転20度以上が適応。(内反するとより外転できなくなる)。この手術を行うと必ず脚長差を生じる。
外反骨切り術 杉岡式
・骨盤骨切り術
寛骨臼回転骨切り術 ERAOなどの様々な術式があり、日本でもっともよく行われている。
Ganzの骨切り術
Chiari骨切り 小骨盤腔が狭くなる。
棚形成術

寛骨臼回転骨切り術 名古屋大学 長谷川先生
RAOの原法 骨盤内板を繰り抜かずに、骨移植を必ず必要とする。そのため術後のリハビリが遅れていた。
その問題を解決するために考えられたのがERAOである。
ERAOの長期成績は20年でも90%が生存しており、非常に優れた術式である。CPOより恥骨の骨癒合、産道狭小化がないことで優れている。
外転位での適合性改善が重要。
関節裂隙が2ミリ以上あること、適合性があっていること、亜脱臼性の股関節でないこと、大腿骨骨切り術を併用していないと成績が良好である。
妊娠可能年齢の女性が受ける手術であるので出産などに対する配慮(産道の狭小化)が必要かもしれない。
Joint  laxityに対する配慮が必要。 成績不良の一因となる。

臼蓋形成術と筋解離術 愛知医科大学 大塚先生
Chiari骨切り術と棚形成術は軟骨面を拡大する手術ではなく、関節包を介して骨性の被覆を増す手術である。関節包は軟骨化生を起こし、繊維軟骨をつくると言われている。
また変形性関節症では関節の拘縮は必発であり、相対的な関節非適合を発症している。
JOS2011 の広瀬先生の論文 棚形成の長期成績
20年で53%がレントゲン写真上で進行。THAに切り替えた患者さんは7%。
当時は4週間完全ベッド上。。。その辛さのために手術を受けたがらないという大塚先生のお話は患者さんのお話をよく聞いていらっしゃるのだなと感じた。
進行期、末期股関節症に対しては棚形成術+大腿骨側の骨切りを併用。
ただし、骨切り術を行う際には将来的に必ず人工関節置換術になることを前提に、その置換を妨げないような骨切りを計画する必要がある。
筋解離術の実際
股関節周辺の筋肉を摂理していく。この時に中殿筋だけは絶対に切除しないような配慮が必要である。
筋解離術の成績は6年で60%の生存率。5年くらいの手術とお話されているとのこと。







2013年6月12日水曜日

20130612 CORR Does Ipsilateral Knee pain improve after Hip arthroplasty?


抄録
股関節疾患は同側の膝の痛みの原因となることが知られている。しかしながらこれらは観察研究に基づいたものばかりであり、高いエビデンスレベルの研究に基づいたものではない。片方の股関節疾患を治療すると同側のひざ痛が改善するかを調査するために本研究を行った。
術前に股関節痛とひざ痛が関連しているかどうかを調査した。THAの術後に同側の膝の痛みが改善したかどうかを調査した。
2006年から2008年までの間にTHAを受けた255人の患者を後ろ向きに調査。WOMACの疼痛スコアを主たるアウトカムとして設定した。術前、術後3ヶ月、1年で評価した。255例中245例で1年の経過観察が可能であった。
反対側の膝の痛みよりも同側の膝の痛みのほうが術前には多く見られた。術前の膝の痛みは反対側の膝の痛みよりもひどかった。同側の膝の痛みは術後3ヶ月、1年でそれぞれ改善した。左右で違いは見られなかった。
本研究から股関節疾患は同側の膝の痛みと関連していることが示唆された。そしてTHA術後にその痛みは改善した。このことは術前のひざ痛、股関節痛の評価で注意が必要であることを示唆する。

考察
股関節疾患は同側のひざ痛の潜在的な原因であることは知られていたものの現在までにそれを明らかとするようなエビデンスレベルの高い報告は今までなされて来なかった。今回本研究では股関節疾患の術前に、同側のひざ痛が股関節痛と関連しているかどうか、また人工関節置換術後に同側のひざ痛が改善するかどうかを調査した。
この研究での限界はスタディデザインの問題、100例近い患者が除外されていること、62例の患者で多関節の手術が行われていて同側の膝の痛みの原因が不明であること、疼痛評価スコアでWOMACしか用いていないこと、短期間の経過観察しかおこなっていないことである。他の関節のOAのの進行による痛みの可能性もあるかもしれない。このように多数の研究の限界があることは最初に述べておく。
股関節疾患に伴った同側の膝の痛みは患者全体の55%で認めた。反対側の膝の痛みが17.6%であるのよりも高かった。Khanらによって同様の研究が行われており、股関節疾患術前の患者で68.6%が膝の前面の痛みを、50.9%が膝の後面の痛みを訴えているとする報告がある。同側の膝の痛みの原因は不明であるものの股関節疾患の患者ではよく見られる症状であることがわかる。
一つの可能性として同側の膝のOAの存在がある。股関節疾患の30%の患者に変形性ひざ関節症を合併する。しかしながら股関節疾患を治療すると膝の治療は何も行わなくても改善が見られる。他の可能性としては股関節疾患を治療することにより歩容が改善しそのために同側の膝関節痛が改善することが考えられる。しかしながら一般的にOAの患者では患肢に荷重をかけずに歩行しようとするもののTHA術後では同側の膝の使用頻度が増える。それ故に同側膝にかかる負担も大きくなることが予想されるが症状は改善が見られる。股関節疾患術後でひざ痛が改善したという報告は多数見られる。変形性股関節症の患者で股関節内麻酔をかけたら腰痛、ひざ痛が改善したとする報告もあるものの、症例数が少ないためすべての患者に当てはめることが可能であるとは考えにくい。また定量化した報告もなかったが本研究では定量化も行い、術前疼痛スコアが80点であったが術後3ヶ月、1年では96点にそれぞれ改善した。疼痛改善の原因を明らかにすると患者さんのよりいっそうの予後の改善につながるものと考えられる。
股関節疾患の関連痛として同側の膝の痛みとして生じている可能性はあるかもしれない。関連痛は古い概念であるがその原因、詳しい病態は不明である。脊髄視床路での信号のうけ間違いが提唱されているものの明らかではない。求心性回路としてL2,3,4が混在しているために疼痛が関連痛となるのかもしれないがこれも明らかでない。股関節痛、同側のひざ痛の原因を明らかにすることは非常に困難である。変形性股関節症の患者で30-40%に同側の膝OAがあることが知られているものの逆に40%の患者では典型的な変形性ひざ関節症の変化があっても疼痛に乏しいことがある。そこで股関節の疾患の診察の時には膝、股関節、骨盤後方、腰椎についても身体評価を行い、合わせて患者立脚型の調査を行うべきである。その上で画像評価を行ったほうがよい。同側のひざ痛を伴った股関節疾患ではまずは股関節の治療を行なって、その後に膝の再評価を行ったほうがよいものと考えられた。(90%の患者で改善が認められるため。)

論評
示唆にとむ論文であると思います。
変形性関節症の診療の難しさを端的に表したよい論文だと思います。
さて、今後はここに書かれているKahnさんというひとの論文をよんでみてカラですかね。
腰椎との関連が強いんじゃないかと個人的には思っているのでそこの評価は行いたいものです。