2017年8月7日月曜日

20170806 OARSI OARSI Prevalence of radiographic hip osteoarthritis and its association with hip pain in Japanese men and women: the ROAD study

いわゆるROADスタディですね。我が国での変形性関節症についての嚆矢となりうる研究を数々発表されています。
それの股関節版ですね。
今後この論文を基準として本邦の変形性股関節症の有病率などがかたられてゆくことになります。次回の変形性股関節症のガイドラインにも真っ先に採用されるでしょうね。
お一人でこのレントゲン写真を読影されたとのこと。素晴らしいお仕事だと思います。
KL分類で分類していることが気になりました。日本人の変形性股関節症は寛骨臼形成不全を基盤としているため、KLで分類すると内側関節裂隙の狭小化といった一次性HOAとはことなる関節の変形をきたす(具体的には外上方への大腿骨頭のShift)と思うんですよね。論文化するためには世界で広く使われているKL分類をもちいられたのだと思いますが、その分、臨床家からみるとすこしスッキリしない印象を受けました。
多分データもたくさんお持ちで、今後膝のように詳細な検討が多数でてくることと思います。その結果を見ながら小生も精進したいと思います。

  • 抄録
    • ROADスタディによるHipOAの検証
    • 2975人の住民を対象1043人の男性、1932の女性。23歳から94歳。平均70.2歳。KL2以上をOAと定義。KL3以上をSevereOAと定義。
    • 男性で18.2%、女性で14.3%にHipOAは存在した。ただし、Severeなものになると1.34%、2.54%に減少した。症状を伴うKL2以上のOAは男性で0.29%、女性で0.99%であった。男性であることはOAのリスクファクターであった。一方、SevereOA、痛みのあるOAは女性であることがOAの原因であった。KL0または1の群と比較すると、KL2では痛みに差はなかったものの、KL3になると疼痛が生じた。
    • 本研究によって日本人のOA罹患率が明らかとなった。KL3以上は痛みと関連していた。
    • はじめに
      • 変形性股関節症(HOA)の罹患率について幾つかの疫学的研究がある。
      • ただし、これらの研究はいずれもサンプルサイズが限られており、人種間で大きく異る。
      • 日本では1998年に住民検診をベースとした研究があるのみである。本邦では、当時よりも高齢化が急激に進行している。これがHOAの罹患率に影響を与えている可能性がある。
      • 股関節痛はHOAの特徴的な症状である。しかしながらこれまでの住民検診レベルでの検討では股関節痛とHOAの発生率に乖離が見られる。HOAがどの程度股関節痛に影響するかは不明である。
      • 本研究の目的はROADスタディに参加した住民での、HOAと股関節痛との関連について検討することである。
    • 対象
      • ROADスタディにさんかした3040人の住民。
      • 400項目のアンケート。喫煙歴、家族歴、既往歴、股関節の外傷歴。身長、体重、BMI。過去1ヶ月間の大部分で股関節痛を右または左の股関節に感じていたものを股関節痛あり。とした。
      • 1人の整形外科医がレントゲンを読影して重症度を分類した。KL2以上をOAありとした。KL3以上をSevereOAとした。
      • THAの患者は除外した。
    • 結果
      • 表1に患者背景
      • 表2にOAの罹患率を示す。全体でみると、レントゲン写真上のHOAは15.7%、SevereOAは2.2%であった。そして股関節痛を感じている住民は1.86%であった。KL>2またはKL>3で症状がある患者は0.75%、0.64%であった。レントゲン写真上のHOAは男性に多かったが、股関節痛、SevereOA、症状のあるHOAは女性に多かった。HOAの罹患率は年齢、性別に関連しなかった。居住地とOAの関連について、都会の患者ではKL>2が男性で9.4%、女性で6.0%。KL>3が0.89%、2.13%であったのに対して、山間地区ではKL>2が男性で16.4%、女性で16.1%。KL>3が0.63%、2.59%であった。また沿岸ちくではKL>2が34.7%、25.4%KL>3が2.89%、3.11%であった。
      • OAの有無で比較すると平均年齢に差はなかった。しかし、SevereOAの有無ではあるほうが高齢であった。股関節痛については2群間で年齢の差を認めなkった。
      • 表3に多変量解析の結果を示す。年齢、性別、BMI、居住地がHOAの有無と関連した。SevereOAと股関節痛は女性、BMI高値、居住地が関連した。女性であること、居住地が沿岸部であることがSevereOAと関連した。女性であることが股関節痛と関連した。
      • 図3にKL分類と疼痛の関連を示す。KL<2>3では30%程度の住民が疼痛を感じるようになる。表4に多変量解析で年齢、性別、BMI、居住地で調整したKLと疼痛について示す。KL>3のOdd比は80にもなる。
    • 考察
      • 本研究は日本で行われた初めてのHOAについて住民検診レベルでの大規模研究である。
      • 15.7%の患者にHOAは存在し、2.12%がSevereOAであり、0.75%が疼痛を伴ったOAであった。性別がHOAの罹患と股関節痛と関連していることを明らかとした。
      • 本邦ではHOAの罹患率についての研究は本研究を含めて3編しかない。Inoueらは成人でのKL>3のHOA罹患率は男性が1.4%、女性が3.5%と報告している。しかしこの研究は腎盂造影の患者を対象としており、実際の人口分布を反映していない。YoshimuraらがCroftらの分類をもちいておこなった研究では、男性0%、女性2%であった。この研究は20年前の研究である。いままでKL>2での報告はない。KL>2でOAとするとその罹患率は18.2%、14.3%となった。
      • KL分類での評価はあまり検者間の信頼性が高くない。FraminghamStudyではKL>2が男性24.7%、女性13.6%。JohnstonCountry StudyではKL>2が27.6%、SevereOAが2.5%と報告している。AfricanAmericanではHOAの罹患率が高いと報告している。RotterdamStudyではKL>2が15%、KL>3が4.3%と鳳凰している。アジア圏ではBejingでの研究でHOAは男性1.1%、女性0.9%と報告されている。これらを考えるとHOAには人種間の影響が考えられる。
      • 沿岸部在住であるとHOAの罹患率が高かった。田舎に住むことはOAの危険因子であるという報告がイングランド、インドからなされている。
      • コペンハーゲンのStudyでは年齢、性別がOAと関連した。一方Beijingの研究では男性で、高齢になるとHOAが増加した。またROADスタディでは腰椎の変性と膝のOAが年齢と関係することを示している。股関節は膝、腰椎とはちがって年齢の影響が少ない。
      • 性別がHOAと関連するかは議論のあるところである。本研究ではSevereOAが女性と関連していた。これは関節裂隙の狭小化よりも骨棘の形成が多く見られたことに起因する。
      • 疼痛はKL>3以上のOAと関連した。
      • 以上からOsteophyteよりも関節裂隙の狭小化が疼痛と関連している可能性がある。
      • バイアスは選択バイアスの可能性と寛骨臼形成不全を考えていないことである。