患者アンケートは1年たったところで集めないといけませんよという話。
- もしTHA、TKAの術後に術前の状態を思い出すことができるのであれば臨床、研究の両方の点において有用である。本研究はTHAまたはTKAを受けて1年たった患者を対象に1年前の状態を思い出して記載してもらった。実際に1年前に記載した内容と、1年後に思い出して記載した無いように有意差は認められなかったものの絶対値の違いは大きかった。また相関係数は小さく、OHS、OKSの回答で一致していたものはOHSで半分、OKSで2/3であった。術後に術前の状態を思い出させて記載させた患者立脚型評価の内容はあてにならない。
- THA、TKAとも良い手術で年々その数は増加傾向にある。臨床成績評価のためにPROMが用いられる。その中でOHS、OKSを今回は用いた。これらの評価は患者の状態を表しているものの、術前にPROMが取得されて居ないこともある。そのため経時的な評価が困難なことがある。術者は術後の状態に興味があり、術前の状態を重視しないということもある。術前のデータがないと横断研究または後ろ向き研究となってしまう。そこで、術前のデータを術後にとることが出来ないかということを考えた。もしそれが可能であれば術後に術前のデータを取得することもできるようになる。記憶をさかのぼって記録をとることにはいくつかのバイアスが存在し、それらはrecall biasと呼ばれる。患者は痛みを強く訴え、機能がより良かったと報告する傾向にある。年齢、精神状態などにも影響される。recall biasはアウトカムにも影響を与える。本研究の目的はOHS,OKSのような疾患特異性患者立脚型評価がTHA、TKAを受けたような患者で思い出して記載すると実際にどうなるかを示した研究である。
- 対象と方法
- 2011年から2013年までにTHAまたはTKAを受けた患者のうち、本研究への参加を希望した患者。術後1年の段階で術前の状態を思い出して書いてくださいとお願いした。
- 英語ができない患者、術後に影響するような疾患に罹患したような患者を除外。
- 146例の患者。79例THA、67例TKA。術後1年で外来受診した45例の患者、外来受診しなかった101例の患者においては郵送にて質問票を送付。8例の患者で郵便が届かず、21例の患者が研究への参加を拒否した。76.4%の患者で回答を得た。また回答を得た患者の中で質問への回答が不十分だった4例を除外し全体で113例の患者で検討を行った。THAの平均年齢は63歳、TKAの平均年齢は68.5歳であった。MDSはOHSで5点、OKSで4点であった。
- また患者がどの程度自身をもって思い出せたかを4段階に評価してこれも評価した。
- 統計的にはまず、相関係数を用いて検討を行った。またそれぞれの評価項目についての検討ではΚ係数を計算した。最期に多変量解析を行いどの程度思い出せるのかの検討を行った。
- 結果 図1 OHS、OKSの術前との点数の違い
- 表1で図1の説明。Recall difference は Actual スコア-Recall スコア。
- Absolute differenceは絶対値。
- Recall differenceでは有意差はないものの、絶対値にすると有意差が出た。これがまたMDSより大きな値であった。ピアソンの相関係数も0.7、0.61と低かった。
- 表2 各設問に対するκ係数を示す。0.4以下であると一致率が低い設問である。
- McNemars Index biasは0であればあるほどよい。図2に実際の回答の正答の割合をしめす。多変量解析を行った結果では自分の記憶に自信があると答えたかどうかと術前のOxfordスコアが有意な関連因子であった。
- 考察
- 本研究は1年後に思い出した患者立脚型評価の回答が正しいかどうかの検討である。思い出した値そのものに有意差はなかったものの、実際の会いたいと思いだした値との間には有意な差を認め、その値はMDSよりも大きく、相関係数も小さかった。またOHSの設問のうち半分で、OKSの設問の2/3でその一度は低かった。以上から術後に術前の状態を思い出してデータを回収するとその値は不正確になると考えられる。その値は大体10%ほど乖離することがわかった。
- 以前の状態を思い出してそのデータを使用する、という問題についてはいくつかの異なる見解がある。Howellら、MarshらはOHS、WOMAC、SF12を用いて術後3ヶ月、6週の段階ではそのICCは極めて高く、臨床の現場でも後ほど思い出して書いてもらっても良いのではないかと結論づけている。また反対にTKAの患者では術後3ヶ月ではModerateな一致率を、術後2.5年の段階ではFairな一致率しかなかったと報告しているものもある。
- THAについて最低1年後にフォローを行うというのは一般的で推奨される方法である。術前のデータが必要となる場合には当然術前にとるべきであるが、術後3ヶ月程度までは許されるのかもしれない。
- 本研究の強みは各設問ごとについての一致率を検討したことである。ここまで細かく検討した研究は初めてであり、こうすることで全体の一致率で有意差が出なかったものの、詳細な検討によって差が出ることがわかった。
- 患者の正確や社会的な背景が結果に影響を与えうる。75歳以上、もともと運動能力が低かった人は思い出して行った回答でより低い値が出た。性別などは影響しなかった。患者の状態は回答を思い出し回収するときには検討項目に入れた方が良いのかもしれない。
- 痛みが強く、動きのよい患者ではSystemicBiasがかかる。思い出した際になぜ痛みが出るのかはよくわからない。TKAの患者でこの問題がより多く出ているのはTKAのが術後1年でも痛みの程度に差があるからであろう。
- いくつかのLimitationがある。OHS,OKSのみで評価し、認知機能の評価は行っていない。術前の状態をAnchorとして記録していくことが必要である。多くのデータが誘導で行なわれたので思い出し具合には違いが出ているのかもしれない。
- 術前にしっかりとPROMは聴取することが必要である。