2010年2月15日月曜日

2010.2.15 JBJS(Am) Spinal Anesthesia Mediates Improved Early Function and Pain Relief Following Surgical Repair of Ankle Fractures

要旨
背景
足関節手術の患者で,手術の麻酔を全身麻酔にしたほうがよいか脊椎麻酔にしたほうがよいかということについて調べた報告は今までない.今回の研究は麻酔の種類で術後の機能に差が出るかどうかを調査することである.
方法
2000年から2006年までに足関節の骨折に対して手術を受けた501人を前向きに調査.全身麻酔群と脊椎麻酔群との2群に分けて調査した.術後3ヶ月,6ヶ月,12ヶ月で信頼性,再現性が高くまた下肢疾患に特異的な検査方法を用いて評価。標準的また多変量解析を行った.
結果
466人(93%)の患者が術後の基準を満たしていた.患者背景を比較すると脊椎麻酔群のほうが患者の年齢が高く,ASAも悪く,また糖尿病罹患率も高かった.男女比に差は無かった.術後3ヶ月の時点で脊椎麻酔群のほうが痛みが少なく,またAAOSの足部疾患スコア(AOFAS)も有意に高かった.6ヶ月の時点では痛みは脊椎麻酔群のほうが少なかったがAOFASの点数は差が無かった.術後1年の時点では両群に差は無かった.術後合併症の頻度も差が無かった.
結論
足関節骨折は脊椎麻酔で手術をしたほうが疼痛も少なく,術後早期の機能回復の程度は早い.特に差支えが無ければ足関節骨折の手術には脊椎麻酔を用いたほうがよい。

表1 患者背景 平均年齢,ASA3,4の高リスク患者,糖尿病患者は脊椎麻酔群に多い.
表2 手術についての比較 全身麻酔群では開放骨折が多く,またターニケットの使用時間が長い傾向にある.骨折型には両群に差はない。
表3 術後経過 術後3ヶ月では疼痛、機能とも脊椎麻酔群のほうが良好な成績。術後6ヶ月では脊椎麻酔群でより疼痛が少ない。術後1年の時点では機能,疼痛とも両群に差がない。
表4 年齢,ASA, 糖尿病罹患率を補正して両群を比較した.また開放骨折とターニケットの使用についてもロジスティック回帰分析を行ったが有意な差は得られなかった。

考察
われわれの研究から言えることは術後早期については脊椎麻酔のほうが少ない疼痛でより機能の回復が得られるということである。それは数字の面からも明らかである。これらは重要な発見ではあるがどれくらい臨床に寄与するかははっきりしない。AOFASが100点満点のスコアリングシステムである.3点の違いがスコアリングシステムの中のどこかのグループであればその違いは機能の向上に何かしらの役に立ち、患者さんの役に立っているのかもしれない。
また脊椎麻酔群のほうが痛みも少なかった。痛みの徴候、解釈は大変主観的で患者によって大きく違う。そのため今回の痛みの数値が統計的に有意であるとすることが出来るかどうかは難しいところである.しかしながら痛みのコントロールというのは患者に対して重要であるということはよく言われている。
脊椎麻酔群のほうが高齢でASAが高い患者が多かった。そのため脊椎麻酔群のほうが低い機能でも日常生活で求められる動作レベルが少ないためにより満足しているのではないかと考えられるかもしれない。しかし,われわれは今回AOFASだけでなく同時にSF-36,SMFAも実施している。この両者で両群に差が無かったので患者のもともとの日常生活レベルは同等であると推測される.
脊椎麻酔のほうが全身麻酔よりも有用である.とする報告は股関節骨折や,人工関節置換術の分野での報告がある。Urwinは大腿骨頚部骨折で調査したところによると術後1ヶ月の死亡率と深部静脈血栓症の発症について脊椎麻酔のほうが有利であることがわかった。それどころかMIの発症,せん妄の発症,術後の低酸素血症についても全身麻酔のほうが起こりやすいことがわかった。足関節骨折はなかなか死亡するような症例がでず、これがそのまま当てはまるわけではないので死亡率については比較を行っていない。
脊椎麻酔が術後の疼痛管理に有用であるとする報告がある。Chuらの報告で60例のTKA患者について調査したところ脊椎麻酔の患者のほうが術後の疼痛は少なく,また歩行能力,退院までの日数が短縮したとある。われわれの報告はこれの報告に瓜二つであった。足関節骨折術後なので免荷歩行となっているためその歩行能力を調べることは出来ない。しかし痛みが少ないために早期の機能回復訓練が可能となり早期復帰が可能となっている可能性はある。
いくつかの研究で術後1年での足関節の機能回復の程度が示されている。232人の患者を調べた研究では88%が全く術前の状態に戻ったとする報告がある.この報告では若い男性,糖尿病が無く,ASAが低いということがより良好な結果となるための予測因子であるとしている.このような研究があるにもかかわらず私達の研究ではよりよい成績であったのは高齢でASAが高くそれに加えて糖尿病に罹患している人が多い群であった。別の研究では足関節の術後早期関節可動域訓練とギプス固定群とを比較し、術1年後では両者に差が無かったとする報告をしている人が居る。われわれの研究では術後早期の痛みが取れることで早期からリハビリなどに参加できるようになるということを強調したい。
いくつかの研究上の制限がある。一つ目はこの研究の開始が患者が受傷した後から参加を要請していることである。受傷後に受傷前の状態を尋ねるとrecall
biasがかかることがある。しかしどの患者が足関節骨折を起こすかなんていうことを受傷前に知っておくことは出来ない。脊椎麻酔と全身麻酔を無作為に割り付けていないことも問題となる。そのため全身麻酔の患者が脊椎麻酔の2倍にもなった。この中で糖尿病の患者が脊椎麻酔群に多く居たため、糖尿病性神経障害で疼痛を感じないため疼痛のスコアがよくなった可能性はある。しかしASA、年齢、糖尿病罹患率で補正し、検定したが今回の研究の結果に変わりは出なかったためその影響は無視してよいものと考えられる。ターニケットによる影響もあるがターニケットを多く用いた脊椎麻酔群のほうが術後成績は良好であった。重症患者が全身麻酔に多い可能性もあるが骨折型は両群で差が無く、ロジスティック解析でも有意な差は無かった。以上のような経緯で術後3ヶ月の時点でその疼痛と術後成績に影響を及ぼす因子は無いものと考えられる。
ではどうして脊椎麻酔の患者は全身麻酔の患者よりも疼痛が少ない時期が長く続くのであろうか。われわれの仮定によれば外傷によってCRPSの急性期のような病態がおこるのであるが、脊椎麻酔でその疼痛のサイクルをブロックしてあげることで痛みの程度が減るのではないだろうか。
結論として足関節骨折の手術の麻酔は脊椎麻酔で行ったほうがよい。今後はこれに追加で選択的神経ブロックを追加してその疼痛の程度、機能回復の程度について評価できると興味深いものとなろう。

<論評>
足関節骨折の昨日に影響する原因は様々と言われていて、麻酔がそのひとつではないかと調べた研究。麻酔についての考察は殆どなく学会発表で突っ込まれたところや査読で突っ込まれたところを補強してと行った感じで建て増したビルのような印象を受ける論文。
不要な全身麻酔を行わないように、位のことしか言えないでしょう。

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