2010年3月8日月曜日

2010.3.5 JBJS(Am )Mortality in Elderly Patients After Cervical Spine Fractures

要旨
背景
高齢者の頚椎骨折のリスクは増えているにも関わらずその骨折について死亡率の調査がなされたり、適切な治療が何かと言うことが検討されたことは今まで殆どない。この研究は頚椎骨折を受傷した65歳以上の患者の受傷後3ヶ月、12ヶ月の時点での死亡率について検討しその潜在的な要因について調べた。
方法
1991年から2006年までに二つの施設で治療された65歳以上の頚椎骨折の患者。性別、人種、治療方法、神経学的所見、受傷形態、合併症、死亡について後ろ向きに調査した。死亡率について検討し、層別にも解析した。Cox-Hazardにてここの現象について検討した。
結果
640人の患者。平均80歳。294人が男性、116人が白人ではなかった。3ヶ月後の死亡率は19%、1年後の死亡率は28%であった。受傷後3ヶ月の時点では治療による死亡率の差が出たが受傷後1年では差がでなかった。65歳から74歳の群では手術をしたほうが死亡率が低かった。男性であること、麻痺があることが死亡率に関わっていた。
結論
65歳以上75歳未満の頚椎骨折の患者では受傷後3ヶ月の時点での生命予後を改善する。受傷後1年の時点では差がでない。

図1 患者の研究の群分け。
表1 患者背景 歯突起骨折を含めた上位頚椎損傷が30%近くある。手術は15%しかしていない。神経障害があったのは7%
表2 全体の死亡率は19%。高齢の患者ほど死亡率が高い。65歳から74歳の患者層は3ヶ月後の死亡率は19%であったが85歳以上では30%にのぼる。
図2 手術群と非手術群の3ヶ月ごと1年後の死亡率のグラフ。若い年齢層では手術をしたほうが死亡率は低いが85歳以上では手術をしたほうが死亡率が高い。
表3 CoxーHazardモデルによる多変量解析の結果。65歳以上74歳以下の群で手術を行った方がよいという以外の有意な差はない。合併症が多いこと、男性であることが死亡率を高くすることに関わっていた。

考察
高齢者の頚椎骨折の原因には転倒のような低エネルギー外傷と交通事故のような高エネルギー外傷の二つがある。低エネルギー外傷について発生率、罹患率、生命予後について今まで検討されてきたことはなかった。高齢者の低エネルギー外傷による脊椎損傷は若年者の高エネルギー外傷の予後とほぼ同様であるといういくつかの報告がある。気道閉塞、尿路感染、心血管イベント、などで高齢者の機能保持が困難であることによる。type2の歯突起骨折の様なものではっきりと示されている。
高齢者の頚椎骨折の治療方法の違いでの予後を述べた研究もあるが若年者と高齢者を同じように扱っていると言う問題がある。不適切な前提に基づいているにも関わらずこれらの研究では手術治療が適当でないと考えられる患者でも手術治療を行っている。ところが表3に示したように治療方法と死亡率との間に強い関連があるわけでは無い。図2-aの様に年齢で変わっていくところもあるので患者の状態で判断することが望ましいと考えられる。
高齢者では自然死の可能性もあり、予後を測定する際には年齢による調整も必要となる。しかしアメリカの国勢調査の結果と比較したところ39%という死亡率は高いことがわかった。これが骨折のせいなのか合併症のせいかははっきりとわからなかった。
一般的に高齢者の頚椎骨折は合併症予防のため早く手術しなさいといわれていたが、今回の研究でははっきりと示すことはできなかった。多変量解析で30%ほど死亡率を減らしたが、単純に手術をしなさいという推奨には至らなかった。
今回の研究ではっきりと伝えておきたいことは、頚椎骨折は死亡率が高く、また合併症を有する高齢者ではより死亡率が高くなると言うことである。合併症があると3ヶ月後、1年後で死亡率が上昇した。これは骨折以外のイベントで説明される。このことは今までの合併症の数と死亡率が関係ないとした以前の研究に反論するものである。
いくつかの研究の限界がある。骨折型と治療がどのような関係に成っているかが分からないと言うこと。これを調査することで骨折型と治療方法、死亡率との関係について述べることができたであろう。また手術の合併症についての調査が無い。また保存治療がうまくいかなくて手術を行ったという患者についても調査出来ていない。
また無作為に割り付けておらずその死亡の原因についてもはっきりはしていない。
結論として、高齢者における頚椎骨折は高い死亡率を示し、また年齢と合併症に依存する。手術治療が明らかに有用であるとするデータはなかった。

<論評>
思ったほど手術が有用ではなかったと言う結論に。年齢、合併症を鑑みて手術適応を決めましょう。

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