2010年1月4日月曜日

2010.1.4 JBJS(Br) Cemented versus uncemented hemiarthroplasty for intracapsular hip fractures

要旨
400人の転位した大腿骨頚部骨折の患者に対して,Austin-Mooreのセメントレスタイプの人工骨頭とThompsonのセメントタイプの人工骨頭との比較をするための無作為割付試験を行った.盲検化した状態で2年後、5年後の臨床評価を看護師によって行った。患者の平均年齢は84歳(61歳から104歳).308人(77%)が女性.
術後3ヶ月での疼痛の残存はセメントタイプの人工骨頭のほうが有意に少なかった.術後6ヵ月後での歩行能力の獲得の程度はセメントタイプのほうが有意に優れていた.術後の合併症については両群に差を認めず,また死亡率にも差を認めなかった.
セメントを用いた人工骨頭置換術は合併症を増やすことなく,Austin-Moore式の人工骨頭よりも術後の痛みが少なく、また有意に移動能力の低下を起こさないようにすることが出来る.

表1 患者の選定基準と除外基準
表2 移動能力の判定基準 3点満点 自力歩行が出来れば3点
図1 今回の研究のフローチャート
表3 患者背景
表4 手術と入院期間の詳細について セメントタイプのほうが麻酔時間、手術時間とも有意に長い。術中骨折がセメントレスタイプで14例ある。
表5 周術期合併症 セメントレスタイプのほうが肺炎が多い以外には差が無い
表6 晩期合併症 両群に差は無い
図2 生命予後は両群で差は無い
表7 術後の疼痛の残存の程度.術後3ヶ月目の時点においてのみセメントタイプ人工骨頭のほうが優れる
図3 疼痛の変化のグラフ 優位な差は出ないものの術後早期からセメントタイプ人工骨頭のほうが痛みが少ない
表8 術後の移動能力の減少の程度 6ヶ月,1年の時点でセメントタイプ人工骨頭のほうが優れる

考察
この研究は盲検化された無作為割付研究としてはもっとも大規模な報告である。今まで小規模な研究で言われてきた術後の痛みが少ないとか、術後の復帰率がよいということをはっきりと示すことが出来た。また、セメントを用いることで手術時間が延びるということが患者の不利益につながらないということもわかった。この研究の強みはより多くの患者が参加できるようにinclusion
criteriaを広げてあること,フォローアップ中の脱落が少ないこと、一般的な治療を行っていること、盲検化した状態で評価を行っていることである。最重要の評価事項として死亡率、術後の疼痛、移動能力を測定した。最初の外来でChanleyのVASスケールを用いた。これは高齢の患者に対しては簡便であるということと電話でのフォローアップを可能とするからである。今までほかの研究ではChanleyの痛みのVASスケールを用いた研究は無いが、簡便で信頼性の置ける方法であると考える。
今回の研究では50項目にも及ぶさまざまな項目について調査を行った。結果としてαエラーがP<0.05とすると出現してしまうのでBonferroniの校正を用いた。これで補正を行っても術後の疼痛については有意な差が得られた。だからこの研究の最大の目的のひとつであるセメントを用いると術後の痛みが減少するということが統計学的な誤差であることはほとんどないものと考えられる。
再置換術についてはセメントレス群で多い傾向にあったものの統計学的に有意な差は得られなかった。再置換にいたらなかったのは被験者が高齢であることで、疼痛があってもそのまま見ていることが考えられる。オーストラリア国立人工関節登録センターのデータによればAustin-MooreタイプよりもThompsonタイプのほうが再置換率が低いと報告されている。(6%対4%)。われわれの研究では6%対3%であった。
以前1982年の報告ではセメントタイプでもセメントレスタイプでも死亡率に差は無く、歩行能力と疼痛の2点でセメントタイプが優れるという報告がある。以後の多数の研究でも同様な結果がえられることが多い。
この研究は英国で普段使われるAustin-MooreとThompsonタイプを比較したが、今後セメントレスタイプとして用いられているHydroxyapatite-coatedのセメントレスタイプとの比較は行ってもよいのかも知れない。
今後人工骨頭置換術はセメントで行うべきであると考える。

《論評》
ハイ、イギリスの先生ならこの論文のようにおっしゃると思います。(笑)。この結果は自分の経験と照らし合わせても妥当な結果であると思います。
セメントタイプの人工関節置換は正しい手技、洗練されたチームで行われれば安定した結果を得ることの出来る優れた方法であると考えます。
しかしながら筆者らが書いてあるように手術時間の延長の問題はあると思います。また慣れていないチームでセメント人工関節を行うことはストレスで危険を伴いますし。
日整会にきていたマサチューセッツの先生なんかセメントは遠からず駆逐されるだろうと言い切ってましたし。
セメント、セメントレスは術者の哲学で、何を手術に求めるかじゃ無いでしょうか。

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