2010年4月21日水曜日

2010.4.20 JBJS(Am) Ninety-Day Mortality After Intertrochanteric Hip Fracture: Does Provider Volume Matter?

要旨
背景
患者を選ぶ人工関節置換術において整形外科資源(整形外科医の人数、手術件数など)がその臨床成績と関連するということはいわれている。しかし患者を選ぶことの出来ない大腿骨頚部/転子部骨折の患者において整形外科資源とその臨床成績について述べられた報告はない。患者を選ばないので整形外科資源の豊富な病院のほうが臨床成績がよい可能性がある。そこでMedicareをもちいた大腿骨転子部骨折の患者について90日後の生命予後について調査を行った。
方法
2000年から2002年までにMedicareに登録された65歳以上の大腿骨転子部骨折の患者。整形外科的資源としてはその病院の常勤の整形外科医の数と医療を提供する人間と定義した。統計学的に調整を加えて条件を平等にしたうえで、(年齢、性別、Charlsonの合併症スコア、転子下骨折の数、入院前住居、使用するインプラントなどを調整。)90日後の死亡率について調べた。
後は調整せずに30日後、60日後、90日後の死亡率について検討を行った。
結果
192,365人について調査を行った。調整前の死亡率について検討すると入院時で2.91%
30日後で7.92%。60日後で12.34%。90日後15.19%であった。統計学的に調整した後で調べてみると、医療資源の少ない病院では医療資源が豊富な病院に比べ10-20%ほど死亡率が高く出た。60日後の死亡率はもっとも小さな規模の病院で最も高かった。1年に2,3度しか手術をしない医者に手術をされると死亡率が高くなることがわかった。
考察
整形外科的資源が豊富な病院で手術をされた患者が90日後の死亡率が低くなることがわかった。しかしこの結果は大規模外傷センターで大腿骨転子部骨折の患者がルーチンに手術を受ければよいということを指し示すわけではなく、また、小規模病院で死亡率が高くなっている原因について更なる調査を要するものである。


表1 患者背景
表2 調整前の死亡率
表3 調整後の相対危険率 小さな病院でリスクが高くなり、また手術数が少ない病院では危険率が高くなる

考察
この研究の前に行われた人工関節置換術についての調査では整形外科的資源が豊富な病院のほうが臨床成績が少しだけよいということがわかっていた。今回は高齢で合併症の多い大腿骨転子部骨折の患者について調査を行ってみた。
‐病院が及ぼす効果
入院中の死亡は大規模施設のほうが多かった。術後30日を越えるともっとも小規模な施設での死亡率が高くなってきた。さまざまな健康上の問題は数が多くなれば緩衝されるので、個々の患者の問題は小さくなる。人工関節置換術では病院の規模による差は小さなものに過ぎなかった。
なせ小規模病院で死亡率が高くなるかということについてはわからなかった。整形外科医が常に見ているわけではないとか、手術室のスタッフの問題とか、さまざまな問題が考えられる。手術そのものよりもその周辺の問題のほうが大きいのかもしれない。
‐術者が及ぼす影響
整形外科医の数と死亡率については逆U字型の傾向となることがわかった。ちょっとしか手術をしないのならその医師は丁寧に見ているかもしれないし、中規模施設の医師はより難しい症例にあたっているのかもしれない。したがって医師数を多くすると死亡率が減少するといった直線的な逆相関は得られなかった。病院の規模の違いほどの違いを医師数では見出せなかった。
‐患者側の要因
男性、術前に施設に入っていること、高齢、合併症が多いということは死亡率が高くなる要素である。
今回の研究の問題点
痛み、機能評価が行えていないこと、メディケアで保険されている患者の調査であり、高リスク群が追えていない可能性があることなどがある。
今回の研究で言えることは、大規模病院で治療されたほうが死亡率は低くなる。また、小規模病院で死亡率が高くなる原因については更なる調査が必要となる。ということである。

<論評>
あくまでもアメリカでの研究結果であり、日本でもこれがそのまま適用できるか?といわれればできないというように考えます。しかし日本でも診療報酬上でのさまざまな加点により大規模病院で手術をしたほうが病院の収益が高くなるように現在設定されています。(手術点数は同じですが、麻酔科医師の数による加点、地域医療支援病院加算などで大規模施設と小規模病院では差が出ます)。日本でもDPCでさまざまなデータを提供しておりますがついぞこんなデータをお上から公表していただいた記憶がありません。日本発のこのような研究結果を期待します。

1 件のコメント:

  1. いつも興味深く拝見しています。本当はJBJSの原文を読むべきなのですが、ブログから知識をいただいとります(汗)。
    限りある医療資源を、どのように分配するかは、大切な問題ですね。お金だけで全て決めてしまうのは当然問題がありますが、診療報酬は一つの大きな指標になりますね。

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