背景 小児上腕骨顆上骨折(SCHF)の脱臼は、ピンニングにより整復後安定化される。一部のSCHFは外側からピンを刺すだけで生体力学的に安定するが、内側からピンを刺す(cross pinning)ことで、より優れた安定性を得ることができる。内側エントリーピンニングには、尺骨神経を異所性で損傷するリスクがあることが知られている。既存の最も優れたエビデンスによると、クロスピンニングによる異所性尺骨神経損傷の割合は約3.4%と推定されている。同様の研究において、外側ピンニングにおける異所性神経損傷(全神経)の割合は1.9%と推定されている。本研究では、大規模な単一施設、単一手技(ミニオープン)のレトロスペクティブケースシリーズを用いて、クロスピンニングにおける異所性尺骨神経損傷の発生率を明らかにすることを目的とした。
方法
2007年から2017年にSCHFに対してミニオープン法による経皮的クロスピニングを受けた患者をレトロスペクティブに検討した。損傷の特徴、手術変数、固定法、および異所性神経損傷などの合併症を記録した。他院で手術治療を受けた患者、術後経過観察がなかった患者、多発外傷により死亡した患者は除外した。
結果
本研究では、研究期間中にクロスピンニングを受けた698人の患者を確認した。術前神経血管損傷198例(28.4%),皮弁形成32例(4.6%),開放骨折19例(2.7%)など重度の骨折を有する患者を対象とした.異所性神経損傷は3例(0.43%)に認められ,いずれも尺骨神経に生じたものであった.3例中2例は尺骨神経を損傷し,平均15週間の経過観察で尺骨神経症状は消失した。
結論
内側ピン挿入のためのミニオープンアプローチは、これまでの予想よりも安全である。今回、SCHFに対するクロスピンニングの最大単施設試験において、異所性尺骨神経損傷率は0.43%であり、最近のメタアナリシスによる推定率よりも10倍近く低いものであった。すべての神経損傷の可能性を考慮すると、このクロスピンニングコホートの異所性損傷率は、外側ピンニングの異所性神経損傷率の推定値よりも低かった。
<論評>
単施設後ろ向き研究ですが、かなり衝撃的な結果と言えそうです。
一般に小児上腕骨顆上骨折はクロスピンニングで固定されますが、近年外側からのピンニングが良いのではないかという研究がいくつも出ていました。
ただ、外側のみのピンニングは骨片が小さく難しいこともあり、そのような場合にはクロスピンニングを選択せざるを得ないです。
ミニオープン法は有用であるとする報告も数編出ていましたが、これだけのN数で明らかにした報告はなく、またその結果も極めて良好でした。
今後の治療パラダイムの変化が起こるかもしれませんね。
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