背景:いわゆる”Obesity paradox(肥満パラドクス)”とは、肥満でない患者に比べて、肥満の患者のほうが術後の死亡率、機能障害の率が低いことが今までの研究で示されていることを指す。肥満患者のほうが創治癒遅延、心血管系の問題が肥満と関連するリスク因子であると臨床医が感じていることがこのパラドクスの主因である。筆者らはこのパラドクスは選択バイアスの結果として生じているのではないかと考えた。つまり肥満でも健康な患者が手術を受けているのではないか。また肥満でない患者は健康でない患者も含まれているためにこのパラドクスが生じているのではないかと考えた。筆者らは、患者を慎重に選ぶことができる待機的な手術ではこのパラドクスが生じる一方、選ぶことのできない緊急手術ではパラドクスが生じないのではないかと考えた
臨床上の疑問:1)待機的手術、緊急手術で、肥満と術後死亡との関連はあるか。2)待機手術、緊急手術でそれぞれの術後合併症に肥満はどのように関連するのか。3)待機手術、緊急手術において術後死亡と合併症と低体重とはどのように関連するのか
方法:2011年から2014年にかけてAmerican College of Surgeons National Surgical Quality Improvement Project (ACS-NSQIP) に登録された63148例の待機的股関節手術と29047例の緊急手術とを検討した。ロジスティック回帰分析を用いて、年齢、性別、麻酔のしるう、合併症とBMI18.5以下の低体重群、18.5ー24.9の標準体重群、25−29.9の軽度肥満群、30−39.9の肥満群、40以上の病的肥満群との分けて、術後30日以内の死亡率、合併症の有無についての検討を行った。
結果:回帰分析の結果、待機手術においては、標準体重群に比べ、肥満群では30日以内での死亡率が低かった。(OR:0.12)。ここでは肥満パラドクスの存在が認められた。緊急手術を受けた患者群では標準体重群と肥満群とで30日以内の死亡率は同等であった。待機手術群、緊急手術群のいずれにおいても病的肥満群では創部の合併症が多かった。(OR:4.93、3.79)
低体重群では標準体重群と同等の死亡率であった。
結論:待機手術では肥満患者で死亡率の低下が見られたが、緊急手術ではそうではなかった。筆者らの結果からは、肥満パラドクスは術者による選択バイアスの結果健康な肥満患者ばかり選ばれて手術されていることがわかった。術者は肥満による合併症の影響を慎重に考慮して手術を行うべきである。
<論評>
たしかに肥満患者でかえって死亡率がさがるという論文は散見されていました。本研究は大規模データを用いて肥満についてのリスクの検討を行った。
研究手法がユニークで、最初のデザインで選択バイアスを明らかにしたところが白眉でありますな。
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