2011年8月13日土曜日

20100813 JBJS(Am) Total Joint arthroplasty in patients w/ Hepatitis C

Virus (www.bums.nu)

抄録

C型肝炎は全世界で見られる病気であるが、C型肝炎に罹患している患者が人工関節置換を行われた場合の予後についてはほとんど知られていない。今回HCV陽性でC型肝炎になっている患者でTHA、TKAが行われた場合の術後合併症について調査した。

方法
1995-2006年までに手術を受けた71人の患者。40人がTHA、21人がTKAを受けた。血液検査では肝機能異常は指摘されていない。HIV、HBVの混合感染は除外。血友病も除外。HCVグループに年齢、BMI,性別、手術を受けた年、糖尿病、RA、免疫抑制状態などを2:1でマッチさせて症例対照研究を行った。

結果
HCV感染群では、THAを受けた15%の患者で抗生剤の内服、創洗浄、デブリードマンを行われた。10%の患者でインプラントの緩み、インプラント周囲骨折、脱臼などの機械的な合併症が起こった。これに対して対照群では創感染は3.8%、機械的合併症が起こった患者は3.8%であった。
TKAに関してはHCV群の9.4%の患者に機械的な合併症がおこった。対照群は4.7%に創感染を発症し、1.6%で再置換を必要とするような深部感染を発症した。
HCV感染は入院期間の延長、周術期、晩期合併症の増加、再手術、再置換率の増加を有意に認めた。

考察
HCV感染は関節置換術に置いて危険因子の一つであると言える。しかしながらその理由については不明であるのでさらなる研究が必要である。

Disscution
HCV感染は全人口の1.8%に存在する比較的よく見るウイルス感染症である。
HCVは肝硬変のリスクとなりうるが、今回の手術群では肝機能はすべて正常範囲内であった。肝硬変や、肝炎の状態にない患者でも入院期間の延長、合併症の増加などのリスクが高くなることが今回の研究で明らかになった。
最近知られてきている事実として、HCV感染は多様な肝臓以外の症状を引き起こす。
例としては甲状腺炎、糖尿病、凝固異常、血管炎、腎糸球体炎、炎症性の筋炎、関節痛、MCTDなどなどである。
血小板機能が低下することも知られており、今回、合併症がHCV群で多かったのは出血コントロールが付きにくい事も影響しているのかもしれない。ターニケットを用いたTKA群では創治癒不全が生じなかったことから凝固系の機能低下が関連しているのかもしれない。
HCVには糖尿病が合併しやすい事が知られている。糖尿病は手術の危険因子となりうる。実際、HCV群の21%(アメリカ全体で糖尿病の罹患率は約10%)と高かった。しかしながら今回は前もって対照群も糖尿病を有する群をあてはめてあるのでこの議論については結論を出すことができない。
この研究の限界点は後ろ向き研究である事である。
今後HCV陽性であることでどうして術後合併症の発生率が高くなるのかという研究がなされる必要がある。

<論評>
やられたなあと言う感じです。笑
日本の病院はほとんど術前にHCVなどをスクリーニングとして採血をしていますが、このように術後の成績に影響を与えうる。というところまでには頭が及びませんでした。
HBV,HCV,HIVはいずれも関節症状をきたしうるウイルス群ですので、何かどこかで影響しているのかも知れません。
脊椎、手の外科などの神経を扱う手術ではHCV陽性ならどうなるのだろう、大腿骨頸部骨折では?多発外傷では?と言うのが新しい疑問として湧いてきますね。
後ろ向きの症例対照研究ですので、このpaperのプロトコールに沿って行えばすぐ出来ますしね。

2 件のコメント:

  1. まさに,やられたなー.という感じ.
    感染症チェックは,ほとんど全ての病院でされているにも関わらず,この手の論文がこれまでに無かったということに驚きました.さらに,そこに注目したauthorのセンスがいいですね!

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  2. 杉本先生
    全くもってその通りです。またいろいろネタになるような論文探して紹介しますね。

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