老人ホーム入所者における睡眠薬と転倒受傷の関係性について理解することは重要です。
我々は非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬(ゾルピデム:マイスリー、エスゾピクロン:ルネ
スタ、ザレプロン:ソナタ)と股関節骨折のリスクとの関連性を評価するために長期滞在
型老人ホームの全国的なサンプルにおいて全体、入居者の機能、入居施設の特徴にて階層
化し、ケースクロスオーバースタディーを行ないました。
方法ですが、メディケアのPartAとDに該当する、診療ごとの個別支払のあった15528人の
アメリカの長期滞在型老人ホーム入所中の50歳以上の股関節骨折を受傷した患者が本研究
に含まれました。股関節骨折のオッズ比は、股関節を骨折した日から0-29日前までの期間
(ハザードピリオド)に非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を所有していた、また股関節を骨
折した日からそれぞれ60-89日前、120-149日前(これらをコントロールピリオドとしま
す)この期間に睡眠薬を所有していたかについて条件付きロジスティック回帰モデルにて
評価されました。解析は個々と入居施設の特徴にて階層化されました。
結果ですが、対象の11%である1715人で骨折前に非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬が処方
されており、927人の暴露状況が不一致なペアが解析に含まれました。平均年齢は81歳で
78%が女性でした。股関節骨折のリスクは非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の使用者で上昇
(オッズ比は1.66、95%信頼区間が1.45、1.90)した。非ベンゾジアゼピン系睡眠薬と股
関節骨折の関連性は新規の使用者でいくらか高く(オッズ比1.86vs1.43、p=0.06)、機能
障害の程度は重度よりも軽度でいくらか高く(オッズ比は1.72vs1.16、p=0.11)、移乗に
関して全介助よりも制限が少ない患者でいくらか高く(オッズ比2.02vs1.43、p=0.02)、
Medicaid bed(低所得者向けの医療費補助制度を用いた病床)の少ない施設でいくらか高
いという結果になりました(オッズ比1.90vs1.46、p=0.05)。
結論ですが、老人ホームにおいて非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を用いることは股関節骨
折のリスクを上昇させます。新規使用者や認知機能障害がわずかか軽度、また移乗に介助
があまり必要としない入所者においてこれらの薬剤の被害をもっとも受けやすいことが予
想されます。老人ホーム入所者に睡眠薬を処方する際には警戒すべきであろう。
とのことでした。
Backgroundです。
2006年にメディケア(高齢者向け医療保険制度) のPart Dでは「必須の薬剤費保険負担」
からベンゾジアゼピン系薬剤を除外することを抑制政策の一環として制定しています。ベ
ンゾジアゼピン系薬剤のメディケアでの制限を受けて、非ベンゾジアゼピン系の睡眠剤で
あるゾルピデムはアメリカの老人ホームにおいて不眠症に頻繁に使用されるようになって
いきました。当初ベンゾジアゼピン系よりも転落のリスクへの関連において安全であると
信じられていたが、ケースコントロールスタディが実際に行われたところ非ベンゾジアゼ
ピン系の睡眠剤が股関節骨折のリスクの増加に2倍関連することが明らかとなり、また後
ろ向きコホート研究でも非ベンゾジアゼピン系の睡眠剤の使用が短時間作用型のベンゾジ
アゼピンよりも骨折のリスクを1.7-2.2倍上昇させることがわかりました。
これらの研究からの危害への警告にもかかわらず、睡眠剤を使用していない人と睡眠薬を
処方された(睡眠薬を必要とする)人とを比較した内因性の違いとして一部説明されてい
た可能性がある。睡眠剤そのものが骨折のリスクの上昇に関連するかどうかを理解するこ
とは重要である。老人ホーム入居者の大規模なコホート研究において不眠症を睡眠薬で治
療した群と比較して非治療の不眠症と転落との間に強い関連性が認められているとの報告
もあり睡眠薬を差し控えることでさらに有害な結果をもたらす可能性もあります。
これらの疑念を対処するために我々は非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬と股関節骨折のリス
クとの関連性についてセルフコントロール、ケースクロスオーバースタディデザインを
15528人のアメリカ国内の長期滞在型老の人ホーム入居者において調査した。さらに非ベ
ンゾジアゼピン系の睡眠薬を用いる際に股関節骨折のリスクを上昇させるサブグループを
明らかにするために、それぞれの特徴(すなわち認知能力や機能状態、移乗能力、尿失
禁、拘束具の使用)や施設の質や特徴(すなわち職員の割合の高い施設や医療保険制度対
応の病床数の割合)について層別に解析しました。
Methods(ここからはある程度要約する必要があります)
対象についてはFigure1で説明します。
メディケアでのPartAとPartDの要求は老人ホーム入居者と関連付けがあり、900万以上の
件数が2007年7月から2008年の12月までの期間に(一番上の)メディケアのPartAで入院
に対する診療ごとの個別支払の要求がされており、そのうちの127917件が股関節骨折での
請求となっています。そのうちの127253(99%)が少なくとも6か月前からメディケアに
登録されており、23882人が股関節骨折の診断の6か月以上前から老人ホームに入居してい
ます。処方薬の完全な情報を登録してあるメディケアPartDの患者が15626人(65%)、そ
のうちの50歳未満の98例を除外した15528人が最終的なサンプルサイズとなっています。
ケースクロスオーバースタディーデザイン(事例交叉デザイン)
ケースクロスオーバースタディーデザインは急性事象の一時的な被ばく効果を評価するた
めのものです。今研究では被ばくすなわち非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬の所有の時期
が股関節を骨折した日から0-29日前までの期間(ハザードピリオド)と、また60-89日前
の期間、120-149日前の期間をコントロールピリオドとし、各々の参加者で比較していま
す。参加者における薬剤の使用や不使用についての時間の交錯、過度な交錯因子について
は除外した。不眠症悪化などの病態の変化が薬剤の調合や股関節骨折のリスクに寄与する
可能性は残存した。
非ベンゾジアゼピン系の薬剤の使用について
新規の使用による股関節骨折のリスクに関して検討しました。
定義としては受傷から60日前より以前には所有していなく、新規に内服されで受傷したも
のとしています。
老人ホームの特徴
Minimum data set(というメディケアのすべての入居者の臨床評価について国により義
務付けられているデータセット:略してMDS)が質や個々のニーズへの対応について評価
する道具として使用されています。
MDSアセスメント
認知面の評価はCongnitive Performance Scale
正常から軽度の機能障害(0-2)
中程度から重度の機能障害(3-4)
機能面の評価はADLロングスケール
軽度(0-7)、中程度(8-20)、重度の障害(21-28)
移乗能力についても
自立(0)、見守りや軽介助(1-2)、移乗にさらなる介助や全介助を要する(3-4、
8)
拘束具の使用は過去7日間のベッドやサイドレールの使用とみなして評価しています。
結果
15528人の股関節骨折を生じた老人ホーム入居者のうち1715人(11%)で非ベンゾジアゼ
ピン系睡眠薬が調剤されていました。ハザードピリオドとコントロールピリオドにおける
患者の所見についてTable1に示してあります。
平均年齢81歳、77.6%が女性、併存疾患は貧血6.8%、うつ病49.9%など。40%近い
39.6%の対象者が中程度から重度の認知障害を有しており、また65.4%がADLにて中等度
の機能障害を有していました。1日における入居者に対する看護師・准看護師や看護助手
の時間は平均3.4時間でした。
Table2になりますが非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の所有から30日以内の股関節骨折のリ
スクはオッズ比で1.66に上昇し、ハザードピリオドを15日に短くしても同様の傾向でした
(オッズ比1.47)。新規の非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬の使用はそれだけで骨折のリス
クは高くなり、初めの15日間が最も大きくなりました(オッズ比2.2)。
Table3では正常から軽度の認知障害の患者の非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の使用において
中等度から重度の認知障害の患者よりも股関節骨折のリスクの上昇が確認され(オッズ比
1.86と1.43)ADLの中程度の障害では重度のADL障害の患者の薬剤使用よりも骨折のリス
クが高い傾向がありました(1.71と1.16)。
移乗に対して介助が少ない患者で睡眠薬を使用する入居者は自立している入居者や全介助
を要する入居者よりも骨折のリスクが高かった(2.02と1.46と1.43)尿失禁や拘束具の使
用による階層化での股関節骨折のリスクについては違いはありませんでした。
Medicareのベッドが少ない施設での非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬使用している入居者
はmedicareのベッドが多い施設に比べて骨折のリスクが高いという結果が得られました
(1.90と1.46)しかしスタッフの割合による骨折のリスクについてはわずかな違いしか認
めませんでした。
感度解析
Figure3では横軸を股関節骨折までの期間、縦軸を各々の日での睡眠薬の調剤の割合でグラ
フ化されており有病率が太線で描かれています。
全体における非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬の使用による経時的な傾向を認めませんでし
た(PanelB)。発症30日前において睡眠薬を使用すると股関節骨折の有病率が上昇してい
ます(Panel A)。
このことから経時的な傾向が観察期間内でのオッズ比では説明できなかった。
Discussion
今回のアメリカでの長期滞在型老人ホーム入居者において非ベンゾジアゼピン系の薬剤の
使用30日以内に股関節骨折のリスクが66%上昇することが分かりました。新規使用者の初
めの15日間で最も骨折のリスクが高くなることが分かりました。移乗に関して介助が少な
い入居者の方が特に睡眠薬の被害を受けやすく、また有意差はありませんが正常や軽度の
認知力の入居者や中等度の機能障害の入居者もこれらの薬剤の被害を受けることが明らか
になっています。
ケースコントロールスタディではゾルピデムの使用が股関節骨折のリスクを2倍上昇させ
ると報告がありコホート研究では非椎体骨折や脱臼などのリスクが薬剤投与から16-30日
においてもっとも高くなると報告しています。(これらの研究は睡眠薬に関連した骨折の
リスクを個人間の交錯により過剰評価される可能性がある)。我々の研究ではセルフコン
トロールな、ケースクロスオーバーデザインであり交錯を最小化しており、非ベンゾジア
ゼピン系の睡眠薬の使用による股関節骨折のリスクは同様であった(OR:1.66)。
我々の研究では股関節骨折を有する老人ホーム入居者の11%が非ベンゾジアゼピン系の睡
眠薬を使用しており、すべての老人ホーム入居者の15%が研究期間内に非ベンゾジアゼピ
ン系の睡眠薬を使用していると推定されました。この結果は2004年にナショナルナーシン
グホームサーヴェイによるベンゾジアゼピン系の薬剤使用の割合(13%)よりも若干高い
結果となっています。ベンゾジアゼピン系の薬剤の使用制限が結果として非ベンゾジアゼ
ピン系の薬剤の使用増加につながったものと考えられます。
この研究では影響を受けやすいサブグループの存在を検討した。その理由としては非ベン
ゾジアゼピン系の睡眠薬は記憶や注意力、バランス感覚に影響を与えるからです。認知力
や機能障害は薬剤使用により股関節骨折のリスクを高めると仮説を立てていますが、認知
障害が軽度な入居者の方がよりリスクが高いことが明らかになりました。徘徊や移乗が自
立した入居者ほど虚弱な地域在住者において骨折のリスクが高かったとの報告もある。
老人ホームでの転落は夜に多くトイレの際に生じています。尿失禁や夜間頻尿は股関節骨
折のリスク因子とされています。拘束具の使用もより高い骨折のリスクとされていました
が我々の結果では睡眠薬を使用することによるこれらの因子での骨折リスクへの影響は認
められませんでした。
老人ホームのスタッフの割合が転落率に関連するとのいくつかの報告があり、今回
Medicare bedの割合が少ない老人ホームでの睡眠薬の使用が骨折のリスクが増加してい
ましたが偶然(たまたま)見つかった可能性があります(原因はわかりません)。
この研究はセルフコントロールの、ケースクロスオーバースタディーデザインを使用した
最初の論文であり、薬剤のデータや患者の機能的な特徴が含まれたアメリカの老人ホーム
入居者の大量のデータをもとにしているところが強みである。
この研究のミテーションとしては1つ目は薬剤の投与量については検討していないこと
であり、高容量の入居者はリスクが高いかもしれない。2つ目に古典的なベンゾジアゼ
ピン系の薬剤を含んでいるためベンゾジアゼピン系の薬剤との相互作用により骨折のリ
スクが上昇したかどうかがわからない。3つ目に我々は入居者の23882人から15626人と
MedicareのPartD に含まれていない35%を非適任として除外している。PartDに登録され
ていない入居者は本研究の参加者より男性が多く(30%vs22%)、正常から軽度の認知症
であり(62vs47%)移乗に全介助を要する(43vs37%)。これらの違いが我々の結果に影
響を与えるだけの違いになるかわからない。
最後に我々は睡眠薬の影響と骨折のリスクと関連しうる医学的状態(すなわち不眠症)や
病状の悪化などとを完全に分離することはできない。(うつ症状や抗うつ薬の使用などは
我々の結果を説明することはできなかった)。基本的な内科的疾患や睡眠薬のいずれかが
骨折のリスクを上昇させているかどうか引き出したとしても関連事項が残っている。非ベ
ンゾジアゼピン系の睡眠薬を使用する老人ホーム入居者はもっと密に転落に対し監視し、
骨粗鬆症のスクリーニングをし、骨折のリスクを避けるべきであろう。
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