2012年1月8日日曜日

20120108 JBJS(Am) Conflict of interest in the assessment of thromboprophylaxis after Total Joint Arthroplasty

Drug Money

抄録
人工関節置換術後に血栓予防薬を使用するかどうかと言うことはいまだ議論のあるところである。この問題を解決するためにエビデンスに基づいて以前の研究を調査を行った。エビデンスレベルがどのようにその結論に影響を与えうるか?利益供与(COI)がその研究に大きな影響をあたえ得ると言うことは良く知られている。本研究の目的は人工関節置換術後に血栓予防薬を使うかという研究と産業界にどれくらいスポンサードされているかをしらべ、その産業界からの関連を調べることである。
方法
pubmedにて2004-2010年までの人工関節と血栓予防薬についての論文を検索。検索された論文についてその金銭的な補助がどこから行なわれているのか、ということについて調べ、またその研究の結論が人工関節後の血栓予防薬の使用について”好ましい””中立的””好ましくない”の3つに分けた。
結果
71本の論文が渉猟された。うち52本が産業界からの資金援助を受けており、14本が受けていなかった。その他5本についてはCOIについて記載されていなかった。結論の質と、資金援助との間には相関があった。52本中わずか2本だけが人工関節後の血栓予防薬の使用について好ましくない、とするものであった。これに内して産業界からの資金援助を受けていない14本の論文ではうち3本(21.4%)人工関節後の血栓予防薬の使用について好ましくない、効果としてあきらかでないとする結論であった。
結論
人工関節術後の血栓予防についての論文の多くが産業界からの資金援助を受けていた。またその結論は多くがその薬剤の使用を推奨するものであった。

考察
人工関節術後に血栓予防薬を使うという研究の79%が産業界からの後援を受けていた。またその結論は全体にその使用が好ましいとするものが多かった。
これはまずひとつに出版バイアスがかかっている可能性がある。利益相反の有無に関らず、前向きな結果が出たものの方がそうでないものよりも採択されやすいということがある。第二に企業が直接的にその研究のプロトコールの作成や、アウトカム評価について関っていることもあるのかもしれない。
第3に研究者自身も無意識のうちに影響を受けてしまっているのかもしれない。
本研究にはいくつかの問題がある。まず、あきらかな利益相反だけを取り上げたことである。有形無形の様々な企業からの影響があり、それら全てを明らかにすることは非常に難しい。
また多種多様な血栓予防薬が使われている。
三番目にこれらの研究の主たるアウトカムに、症状をきたさない深部静脈血栓症の有無も含まれてしまっていることである。
4番目に企業からの後援を受けていない研究はいずれもその規模が小さく、誤差の可能性を否定しきれないものもある。
いくつかの雑誌ではCOIの有無がはっきりしないが、しっかりと記載するようにした方が良いと思われる。
いろいろ問題はあるかも知れないが、ガイドライン作成においては企業からの後援によってより先鋭的な結果が出ていることを踏まえるべきであろう。
企業からの後援があろうとなかろうと、これらの研究はしっかりと組み立てられており、今後の診療態度を決めるのには差支えがないものと考えられる。ただし常にCOIにも考慮することが必要であろう。


<<論評>>
利益相反(Conflict of interest:COI)は日本の学会での発表、論文でもこの数年でしっかりと記載するようになってきました。
この論文がおもしろいのは、今まで誰もCOIがどれくらい明らかになっているかなんていうことを調べるひとはいないところで調べたことですね。
確かに、血栓予防薬の使用について、僕自身も前向きな結論が良く出ているなあと感じていました。それを裏付ける結果でありました。
しかしながら、エビデンスが言われるこのご時勢。
一般にエビデンスレベルが高い研究(研究におけるバイアスができるだけ排除されている研究)としてもっとも有名なのが無作為割付二重盲検試験です。しかしながらこの試験のプロトコールを作成し、その被験者となる患者さんをノミネートし、全く研究と関係がない人にその評価をしてもらうと言うことを研究者個人、一医療機関で行なうことは現代医療では不可能です。それこそ症例数が足りない、というレビューを受けて日の目を見ない研究となってしまうでしょう。
このジレンマをどう解決するかというのは非常に難しい問題です。
ですので、本研究でも言われていたように、COIを明らかに記載することを義務付けることが必要です。
また、今回の研究結果は研究者だけでなく、研究結果を用いる臨床家がその研究結果に対してどのような態度をとって実際の診療行動に結びつけるのか?ということを同時に問われているのだと思います。
自分が普段エビデンス、と呼ばれるものに対してどういう態度で臨んでいて、そのエビデンスを患者さんに適応するときにどう扱っているかということを意識下において診療に臨むことが必要なのかな。と考えました。

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