THA術後に性生活を営む際に脱臼や関節の不安定性がどのようになっているかという研究は今まで報告されたことはない。特に体位と股関節可動域との報告は今までになかった。二人のボランティアに12種類の体位をとってもらってそれをモーションキャプチャーにて撮影。その上で股関節の可動域を計算。カップの設置位置の影響を考慮して9パターンのカップの設置位置を想定して計算を行った。12体位中4体位で女性側の股関節の屈曲が95度以上となり、9パターン中6パターンでのカップでのインピンジメントにつながった。前方の不安定性と関連した骨性の衝突が男性側の体位で1種類だけ出現した。本研究からTHA後の女性にとってある体位は脱臼、破損のリスクを高めることが明らかとなった。
変形性股関節症に伴う股関節痛が性行為を困難にすることが知られている。またTHA術後には性生活の満足度の向上、パフォーマンスの向上がみられることが知られている。ただし、THA術後に性行為を行った場合の危険性についての報告は未だない。
以前に行われた研究は患者、または術者が術前後の性行為の困難さ、性行為にいつから復帰するのか、安全な体位はなにかと言うことをアンケートによって回収したものであった。これらの報告では性行為中にTHAが脱臼した症例の報告や脱臼を心配して性行為に及ばない症例も有ることがあきらかとなった。DahmらはTHA後の安全な体位について推奨を出しているもののその推奨は筆者の個人的な考えであり、客観的なデータに基づいたものではない。
近年コンピュータシミュレーションによりTHAのコンポーネントの設置、インピンジメントなどを容易に予測できるようになった。しかしながらこれらのデータは単純な屈曲伸展のみで性行為中のデータまでを反映したものはない。どの体位がどの程度の股関節の可動域が必要かということは現在までに明らかとなっていない。
本研究の目的は実際にいくつかの体位をとることでその体位での股関節の可動域をモーションキャプチャーにて測定し、股関節のインピンジメント、不安定性が生じていないかをin-vivoで明らかにすることである。
対象と方法
二人の健康なボランティア。女性1名(31歳、180センチ69kg)、男性1名(26歳、180センチ80kg)。若年の男女を選定したのは、THA術後に若年の方が性行為に対して積極的であること、どの体位が危険かわからないためモーションキャプチャーを行う際に起こるトラブルを防止するために行った。
まずMRIにて股関節の形態について評価を行った。これは被曝を避けるためである。放射線科の専門医によって股関節の形態評価が行われた。
MRI撮像後にモーションキャプチャーの部屋に移動し、解剖学的指標にマーカーを装着。12種類のよく行われる体位をとってもらった。
この12種類の体位はLafosse、Dahmらが認定したものである。モーションキャプチャーは3回測定。図2はマーカーにそってMRIから抽出した3Dの骨を合わせたものである。
関節中心をコンピューターで調節した。
THAのシュミレーション
THAを受ける患者の股関節のCTでCADにしてシュミレーションでカップを挿入。外方開角40,45,60度にぞれぞれ前方開角0,15,30度と設定してモーションキャプチャーで得られた股関節の角度を入力。
Fig4のようにネックとカップがインピンジすると赤くなる。こうすることで関節の不安定性、脱臼の危険性を表すことができる。
結果は表がいっぱい有りますが図6を参照。
考察
今までTHA後の性生活についての報告は全くなかったが、本研究は客観的なデータを用いた初めての報告である。本研究はin-vivoで行われた研究で、12種類の一般的な体位の股関節の可動域を測定した初めての報告である。臼蓋側コンポーネントにネックがインピンジすることが脱臼のリスクとなるが、女性側で4種類の体位が危険であることがわかった。男性側では股関節の伸展、外旋、内旋をとることで大転子の骨性の衝突がおこり脱臼のリスクが高くなることがわかった。これは男性側が恥骨をぶつけようとして股関節をむやみに伸展させすぎたことが考えられる。
Dahmらの研究では男性では5つの体位が、女性では3つの体位が許容されるとしており、Lafosseらは女性側があまり動かなくても良いようにしたほうがよく、男性側はそれほど気にしなくてもよいということを述べている。
本研究はそれらの結果を支持するものであった。
本研究の限界は参加者数が少ないこと、3Dデータの正確性がMRIの竹にやや劣ること、軟部組織の評価を行っていないことである。
まとめるとあらゆる体位は女性の方が過度な屈曲、外転、外旋といった股関節の可動域を必要とし、男性は股関節の伸展、外旋といった動きだけであった。THAの脱臼のリスクは女性の方に多く、このデータを患者さんに提供することが必要ではないかと考える。
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