2013年11月11日月曜日

20131110  Topical (Intra-Articular) Tranexamic Acid Reduces Blood Loss and Transfusion Rates Following Total Hip Replacement A Randomized Controlled Trial (TRANX-H)

THA術後の関節内へのトランサミンの投与は術後出血量と輸血率を減少させる

背景
THAの術後1/3程度の患者が1から3単位の血液を必要とする。トランサミンは抗線溶剤でTHAの術後に点滴内から投与すると出血量が減少することが知られている。関節内に直接投与する方法は容易で出血源のそばでもっともその濃度が高くなる。トランサミンの全身での吸収を抑えることができるのではないかと考えた
方法
二重盲検割り付け法、161人の患者。片側のTHA。トランサミンを投与。主要評価項目は輸血率。第二の評価項目はドレーンからの出血、ヘモグロビン値の低下、QOL、入院期間、コストの評価、合併症とした。
結果
トランサミンは輸血率を32.1%から12.5%へと19.5%減少させた。出血量の減少は129ml、ヘモグロビンの低下値は0.84gdl。入院期間は1日、コストは305ポンド削減できた。QOLには差がなかった。
結論
トランサミンの関節内投与は出血量を減少させ、点滴から投与した場合の合併症を減らす可能性がある。

背景
出血は整形外科手術で避けて通れない。術後の貧血は機能を低下させ、入院期間の延長につながる。輸血は比較的安全な方法であるが溶血、感染、免疫不全、輸血関連肺損傷などの可能性もある。輸血後に術創の感染が増えたとスル報告も有る。
点滴からのトランサミンの投与は術野からの出血を減らすことが知られている。整形外科領域ではまだ投与は珍しい。メタアナライシスでは血栓症のリスクは高くならないと言われていても全身投与に伴う血栓症のリスクが避けられないと心配になる。
心臓血管外科の領域では術野に直接トランサミンを投与する方法が取られている。本研究の仮説はトランサミンを術野に直接ふりかけることで全身合併症を減らすことができるのではないかとするものである。本研究はTRANXと名づけて行われることとなった。
イギリスでは年間79000人の患者がTHAを受けている。13の患者が1から3単位の輸血を必要としている。TKAでのTRANX研究ではTKA術後に出血量の減少した。合併症は認めなかった。THAでは骨切りがTKA術後より多いためより少ないサンプルサイズで行うこととした。
TRANX-Hは二重盲検無作為割付試験である。血栓予防にはタイツとポンプを用い、BMI30以上の患者では低分子量ヘパリンを用いた。
結果
310人をエントリー。52人の患者はスタッフの不手際で除外。48人が研究への参加に同意しなかった。12人が表面置換術を行われたため除外。161人の患者を対象とした。
81人がプラセボ群、80人がトランサミン群。3例の患者がプロトコールから外れた、1例がどちらに割りつけされたかわからない。2例が麻酔科によって天敵からトランサミンを投与。Intention-to-treatにより術前の解析に含めた。
術前の背景で術前のヘモグロビン量がトランサミン群の方が高かった。
輸血はプラセボ群で32.1%、トランサミン群で12.5%に行われた。術前のヘモグロビン値が違っていたためロジスティック回帰分析を追加して術前のヘモグロビン値が輸血をするかどうかに与える影響を調査して解析の際に考慮した。
36例の患者が25単位の輸血をされた。トランサミン群のほうが有意にプラセボ群よりも輸血が少なかった。
出血量はプラセボ群が389ml、トランサミン群が260mlであった。平均出血量はプラセボ群で1981ml、トランサミン群で1617mlであった。
術後Hb値はトランサミン群のほうで高かった。
平均入院期間はプラセボ群が6.2日、トランサミン群が5.2日であった。OHSの値は変わらなかった。3ヶ月後のQOLにも差はなかった。
費用は出血の費用が133ポンド、入院が230ポンドなのに対し、トランサミンは2.2ポンドであった。合併症は計算に入れていない。
3に合併症の数を示している。合併症の数が少なく統計的な有意差を出すには至らなかった。
考察
TRANX-KTKA術後の出血量を合併症が増えること無く減らすことが出来た。THAでも同様の結果を得ることが出来た。
術前のHB値が高いことは輸血の有無に影響を与えたかもしれないが、投与量には影響を及ぼしていないはずである。
ドレーンからの出血がトランサミン群で少なかった。総出血量はGrossFomulaを用いて計算した。
メタアナライシスではトランサミンの投与によって出血量が減ることが示されている。しかしながらいずれもサンプルサイズが小さく50例以上での報告は本報告が2例目である。5編しか論文中で輸血の適応について明らかにしておらず、またQOLまでついて述べた論文は本報告が初めてである。点滴からのトランサミンの投与は輸血率を20%下げるが、関節内投与をした本研究でも同様の結果が得られた。
本研究の無作為割付は専門家集団に依頼し、適切なサンプルサイズの設計、患者上方の管理を行った。プラセボもわからなくなるように色をつけたりといった工夫も行っている。
長期予後については不明な点が本研究の短所である。現在トランサミンの基礎的研究を行っている。結論としてトランサミンの関節内投与は静脈投与と同等の効果を示した。

<論評>
トランサミンの投与が出血量を抑えることはTHAのみならず脊椎の世界でも言われておりました。本研究は術野に直接投与してみたとの報告です。
以前中部整災で同様の発表があったと思いますが、本研究はしっかりとデザインされた二重盲検無作為割付法ですのでぐうの音もでないほどケチがつけにくくなっております。
術前の検査でヘモグロビン値が違っておりましたが、統計の専門家にさらっと処理してもらっていますね。これは整形外科医だけでは出来ない仕事だと思います。
筆者らも述べているようにポリエチレンに対するトランサミンの影響がわからないことが気になります。基礎的研究の結果を待ちたいところです。
両側同時手術の場合どうか、片側に投与もしくは以前の両側同時手術との比較でも面白いと思います。
頚部骨折、転子部骨折で術野に直接投与してみてもよいかもしれませんね。



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