2017年1月8日日曜日

20170108 JBJS(Am) Preoperative prevalence of and risk factors for venous thromboembolism in patients with a hip fracture

あけましておめでとうございます。
本年ものんびりと各種整形外科の話題に触れて行きたいと思います。

さて、新年一発目はJBJS(Am)より。

大腿骨頸部骨折を受傷した患者さんでどれくらいの割合で術前に肺塞栓を有しているかという研究
韓国からの報告。術前からVTEを有していいる割合が11.1%。女性、肺疾患の既往、肺塞栓の既往、転子下骨折が術前に肺塞栓を有する危険因子であるということでした。
術前に撮ったというところが目のつけどころということでしょうか。
DVTはあってもそれ致命的なVTEにつながるのか?というのが深部静脈血栓症と肺塞栓の論文でよく言われていたのですが、これは最初からVTEをアウトカムにすることでその疑問に真っ向から答えているのだと思います。
Indirect multiditector CT venographyは有用である。というように結論でも述べられています。この機械は本邦の医療機関でも容易に使えるものなのでしょうか?自施設の放射線科に聞いてみてもいいかもしれませんね。

抄録
背景
受傷後24時間以上経過した患者での肺塞栓の有病率、その危険性について調べること
方法
2010年から2014年。韓国の大学病院。208人の大腿骨近位部骨折。入院後にIndirect Multidetedtor CTを施行。
結果
VTEの有病率は11.1%であった。(23/208例)。12例は深部静脈血栓症のみ。7例は肺塞栓のみ。4例が両方を有していた。CT撮像までの平均日数は4.9日だった。VTEを認めた患者の受傷日から平均CTまでの撮像日数は7.9日とVTEを有さない群の4.2日よりも長かった。単変量解析では女性、転子か骨折、肺疾患、ガン、VTEの既往、静脈瘤が有意な差を認めた。多変量解析をおこなうと女性、転子下骨折、肺疾患、VTEの既往が危険因子として抽出された。
結論
大腿骨近位部骨折の患者においてVTEの有病率は高い。それゆえに受傷後24時間以上経過した患者ではVTEの検索をルーチンに多なったほうが良い。またindirect MDCTは血栓症の検索に有用であった。

背景
VTEは肺塞栓と下肢の静脈血栓症の両方を有する概念である。大腿骨近位部骨折の患者で、しばしば肺塞栓は発症する。急性外傷の患者で手術の遅れは肺塞栓の発症と関連する。しかし今までに術前のVTEの有病率についての検討はなされて来ていなかった。受傷後48時間以上経過した骨折患者でのDVTの有病率は54%から62%とも言われている。大腿骨頸部骨折での手術の遅れは死亡率と機能障害に関連することが知られているものの、実際には内科疾患の検索や転院の手続きなどで数日かかることもある。高齢者は早期に手術するりも時間が立つと元気がなくなっていくことが知られている。またこの数日間の待機の間にVTEが形成される。DVTの診断は今まではエコーやCTで行なわれてきた。近年indirect MDCTが開発された。この方法はDVTと肺塞栓の両者を同時に検索することができる方法である。現在までに大腿骨近位部骨折の患者においてこれらの方法をもちいた報告はない。本研究の目的は手術が24時間以上待機させられた患者においての術前のVTEの有病率とその危険因子について検討することである。
方法
2010年から2014年。韓国の大学病院。239例の大腿骨近位部骨折の患者。31例を除外。20例が24時間以内の緊急手術が行われた。11例が腎障害、造影剤に対する過敏症のためにエコーによる検索が行われた。大腿骨近位部骨折で24時間以上待機した患者においてMDCTによる検索が行われた。
手術は原則的に入院後48時間以内に行われた。内科疾患の治療が必要な場合には手術が延期された。このような患者に対してはエノキサパリンの投与とフットポンプの装着が行われた。
受傷後24時間以上経過した患者で、入院後すぐにMDCTによるVTEの検索が行われた。MDCTは肺塞栓のプロトコールに従って行われた。造影剤を使用。下肢は腎臓の造影が終了した後に撮影された。
放射線科医によってそのCTは読影された。
CTで肺塞栓が見つかった場合には症状の有無にかかわらずエノキサパリンが投与された。DVTが見つかった場合には必要に応じて下大静脈フィルターが設置された。
結果
患者の平均年齢は75.9歳±9.7歳。68.8%が75歳以上であった。62例が男性、146例が女性。94例が頚部骨折、101例が転子部骨折、13例が転子下骨折であった。転院の都合で手術が遅れたものが25例、12%。入院の遅れが18例、9%。造影剤での副作用は認めなかった。
VTEの有病率は11.1%。CTまでの撮像のタイミングは4.9日。手術までのタイミングは5.7日であった。VTEが存在した群ではCT撮像までの期間が7.6日とVTEが存在しない群の4.2日よりも長かった。VTEの累積危険率は手術までの時間が遅れることに比例して増加した。12例がDVTのみ。7例がPEのみ。4例でPEとDVTを合併していた。全ての患者で症状は無く、VTEに関連した生命に危険を及ぼすような事象は存在しなかった。DVTは骨折した患肢に生じていた。9例で大腿部近位。7例で遠位に存在していた。大腿骨転子下骨折の患者ではDVTの有病率が高かった。VTE群では心疾患、肺疾患、ガン、VTEの治療の既往が有意に高かった。
VTEの危険因子について。CT撮像までの時間は、調整を行わないモデルでは有意であったが、調整をおこなうと有意な因子ではなかった。調整をおこなうと、女性であること、転子下骨折、肺疾患、ガン、VTEの治療の既往が有意な因子として上げられた。心疾患は関連しなかった。
考察
大腿骨近位部骨折は他の疾患と同じように高齢者の入院治療において肺塞栓を起こしやすいことがわかった。殆どの研究が術後のVTEについて研究をしており、術前のVTEの検討は今までなかった。また殆どの研究がエコーでの診断のみで、MDCTをもちいた研究は今までになかった。MDCTはDVTとPEの評価を同時におこなうことができる。
VTEの発生率は11.1%であった。これは以前の報告ともほぼ同一の結果であった。手術まで待機すればVTEのリスクは上がるので、手術はできるだけ速やかに入院後48時間以内に行なわれるのが望ましいと考える。累積危険率は受傷の日数とともに上昇するので、時間が経てばVTEの危険は高くなる。また本研究ではMDCTで症状のないVTEを検出した。このため他の症状が生じた研究よりもVTEの検出率が高かったと考える。また、大腿骨近位部骨折がVTEの危険群であることも関連している。手術まで時間がかかる患者ではVTEの検索をしておくほうが望ましいと考えた。
本研究では前述の4つの危険因子を同定した。これらの結果は以前の報告とは異なるものであった。これは患者背景の違いで、疑わしい患者を検索したのか、それとも全ての患者で検索したのかの違いによるものと考えた。
超音波での検査は体位を変換する必要があるためエコーでは検出仕入れないことがある。また肺塞栓とDVTは別々に検査をする必要がある。MDCTでの検査は両方を同時に調べることができる。背側全に対する簡素は100%で特異度は98%とする報告もある。造影剤アレルギーの問題、また放射線被曝の問題もあるが、それらを鑑みても充分な成果があるものと考えられた。本研究ではこれらの副作用、副反応は認めていない。

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