しかし、感染はいまだ100%制圧できるとはいえません。
アメリカのMayoクリニックから。感染性人工関節に対して、いきなり抜去しなくても洗浄とデブリでも結構いいのかも。という論文です。
感染人工股関節90例中65例、83%が洗浄、デブリのみで、人工関節を抜去すること無く対応できましたよ、あと、全身状態がいい人の方が悪い人よりもうまくいくよ。というお話。それは近年の抗生剤の進歩のおかげですよね。という論旨でした。
突っ込みどころは満載です。
1)後ろ向き研究です。最初に筆者らは感染の定義について詳細にのべていますが、ひょっとしたら感染であってもこの定義に当てはまらない症例が除かれてしまっている可能性があります。
2)なぜ、大腿骨頚部骨折の患者と待機的にTHAを受ける患者を同じように取り扱っているのか。明らかにベースが違いますよね。しかも疾患別での検討は忘れてしていないのか、わざとしていないのか。
3)経過中に31例(34.4%)もの患者が死亡して脱落しています。
4)そもそも論として、実際感染性人工関節の治療では、いきなり抜去すること無く洗浄、デブリで経過をみることが多いですから、その経過をみてるだけなんじゃ。。。とも思います。
JBJSですので、いいところもあります。
1)Methodsが詳細。今後後ろ向き研究を英語論文にする人はこれくらい丁寧に書けば良いのだと思います。
2)Staphylococcusが感染の起因菌である場合に、有意差は出ませんでしたがRifanpicin投与によって再手術率が低下しました。骨関節感染症に対してRifanpicinの有用性は言われていましたが、ブドウ球菌属の感染では選択肢のひとつとしてよい薬剤なのかもしれません。
以下サマリ
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- Abstract
- 急性の人工関節感染の患者においてコンポーネントを留置したまま(抜去)洗浄とデブリードマンだけでよいのかどうかというのは議論がある。本研究の目的はTHAの休戦感染症に対して患者の状態、起因菌の状況、抗生剤の種類、インプラントなどの要因がコンポーネントを抜去せずに洗浄とデブリードマンのみを行った場合の成功率とどう関わっているかを明らかにすることである。
- 感染性人工股関節90関節(57関節のTHA、33関節のBHP)。2000年から2012年にかけて感染に対して洗浄とデブリードマンのみでコンポーネントの抜去を行なわなかったものを対象とした。平均フォロー期間は6年。McphersonCriteriaにそって患者を分類した。
- 70%の症例でヘッドとライナーを交換。30%の症例で全く好感をしなかった。77%の患者で慢性感染の状態で推移した。
- 瘻孔の形成、浸出液の持続、疼痛の存在、同じ起因菌からの感染の再燃、コンポーネントの抜去、予期しない再手術、感染に伴う死亡を感染の制圧の失敗と定義した。
- 90関節中15関節、17%で感染の再燃を認めた。感染の再燃のため90関節中9関節でコンポーネントの抜去が行われた。術後早期の感染後の66関節のうち10関節、15%で急性血腫感染の24関節中う5例、21%で感染が再燃した。McPhersonの分類で、宿主のGradeがAの場合に失敗率が8%であるのに対し、GradeBでは16%、GradeCでは44%にのぼった。15例中12例が術後6週以内に再感染が成立した。6週以降では抗生剤の長期投与群が3%、抗生剤の長期投与が行われていない文では11%であった。
- 今までの報告よりも本研究の成功率は高かった。宿主の全身状態が良い症例では治療の成功率が高かった。
- Introduction
- 感染は高い死亡率や追加治療の費用が必要となる。感染の60から70%が急性期の感染であり、これらが早期の人工関節破綻の原因となる。
- 二期的再置換が慢性化した深部感染の治療法として確立しているものの、急性感染におけるコンポーネント留置したままでのデブリードマンと洗浄のみの方法についてはいまだ議論がある。
- 歴史的に、コンポーネントを留置したままでの洗浄とデブリードマンのみの成功率は、失敗率が40%以上と低かった。しかし、抗生剤の発達によって、感染の再置換のタイミングは早くなってきている。
- 本研究の目的はMcPhersonの宿主の状態の分類、感染の菌種、抗生剤、インプラントの状態がコンポーネントを留置したままの洗浄とデブリードマンのみの治療の成功率にどれだけかかわっているかを調べることである。
- Material and methods
- 2000年から2012年までに、単施設で手術された14026例の人工関節患者のうち、感染した116例の患者を抽出。
- 術後1ヶ月以内の感染を急性感染と定義。症状発症から21日以内の感染を血行性感染と定義した。
- 25例の慢性感染患者を除外した。慢性感染の急性増悪と血腫感染とはカルテ上の記載を参考に区別した。
- 急性感染で大腿骨コンポーネントを抜去した患者1例は除外した。
- McPhersonの分類に従い分類を行った。4週以内の感染を急性感染、4週以降の感染を血行性感染。患者の全身状態(Grade A、B、C)と局所の状態(Grade 1,2,3)について分けた。GradeA、25関節、B56関節、C9関節。局所の状態はGrade 1が40関節、Grade2が47関節、Grade3は3関節であった。急性の血行感染のうち3例が術後1年以内に発生した。
- 血腫感染の定義は、デブリードマンした部位から2検体以上から同じ菌が検出されること、炎症反応の上昇、滑液中の白血球数が3000以上。好中球の割合が80%以上、膿瘍の存在。菌体の培養、病理組織で位置視野に5つ以上の好中球の存在をもって急性血行性感染とした。
- 急性感染の定義は、ESR44以上、CRP93以上、関節液内の白血球数が12800以上、好中球の割合が89%以上とした。
- 平均年齢は70±14歳。OAが47例、大腿骨頚部骨折が32例。RAが6関節、ONFHが4関節、転移性骨腫瘍が1関節であった。
- BMIがは33±12。66例が急性感染で24例が急性の血行性感染であった。手術までの期間は急性感染群で22日、急性血行性感染で発症から6日であった。急性血行性感染は術後平均2.4年で起こっていた。
- 28%の症例でMSSAが起因菌であった。10%の症例で培養が陰性であった。17関節でコンポーネントを留置したままでの再洗浄とデブリードマンが行われた。再洗浄までの期間は11日であった。2例でセメントビーズを留置。9例で培養が陰性であったが、創表面の洗浄。6例で深部までの洗浄を行った。
- 経静脈的な抗生剤投与を5.5週間。平均フォロー期間は6年。術後2年以内に人工骨頭を行った13例、THAを行った2例が死亡した。31例の患者が研究期間内に感染と関係のない理由で死亡した。7例が心不全、6例が心筋梗塞、4例が肺疾患。
- 84%の患者が抗生剤の長期投与例であった。
- 洗浄はイソジンなどを混ぜずに、6から9リットルの生殖で洗った。パルス洗浄以上の侵襲は加えなかった。骨頭は脱臼させ、コンポーネントの固定性を確認した。急性血行性感染の患者では目視で確認した。
- 70%の症例で骨頭とライナーを交換した。30%の症例では洗浄のみを行った。
- 術後は感染専門医によって抗生剤の投与が行われた。6週間の治療が完遂できた例では抗生剤の投与が追加された。(69例)
- 結局78例の患者が抗生剤治療を完遂し、うち9例が抗生剤の長期投与を諦めた。
- 術後フォロー中に2例の患者で再置換が行われた。1例は恒常性脱臼で、1例は骨折であった。
- 予期せぬ再手術、同菌による感染、瘻孔の形成などを認めた場合には治療の失敗とみなした。
- 結果
- 90関節中9例で感染の再発を認めた。3日から3.2年。加えて6例の患者で再洗浄が行われた。再洗浄した例では感染の再燃に至った例はなかった。
- 起因菌はMSSAが7、MRSAが2,MRSEが2,GBSが1、腸球菌が2,エンテロバクターが1であった。
- 10関節15%の急性期感染、5関節21%の血行性感染で再置換が必要であった。この2群間に有意差はなかった。
- リスクファクターとして、McPherlenの宿主の状態別に分けた。GradeAが8%、GradeBが16%、GradeCが44%再発した。局所の状態ではGrade1が18%、Grade2が15%、Grade 3が33%感染したものの群間での有意差はなかった。THAの感染は21%で、BHPの感染は9%だった。
- 抗生剤の長期投与について、6週間経静脈的に投与した。69例が長期投与が行なわれ、うち2例で再発した。長期投与が行なわれなかった9例中1例で再発した。
- 60例の患者でブドウ球菌が存在していた。リファンピシンを投与するとP=0.09であるが、29例中3例の再発にとどまった。(投与しないと31例中6例)
- 考察
- 感染性人工関節の治療は未だに難渋する。その成功率は14から90%と様々である。本研究では人工関節の抜去を行なわず洗浄とデブリードマンだけで成功率は83%であった。McPhersonの分類でGradeAの患者は92%であった。
- この治療成績は今までに存在するコンポーネントを留置したままデブリだけ行ったものよりも優れている。この理由のひとつは急性感染症の定義が厳密であることなのかもしれない。
- また宿主の全身状態が治療成績と関連していた。
- ブドウ球菌群に対して、リファンピシンを使うレジメではやや再発率が低い傾向にあった。
- なぜ、長期投与しなかった患者とした患者の間で有意差が出なかったのかはわからない。
- サンプルサイズが小さいこと、THAと人工骨頭をわけていないこと、モジュラーステムがどうだったかはわからないこと、セメントビーズを留置したままの症例があることなどが本研究の限界である。
- 症例を選べばコンポーネントを留置したままの洗浄デブリは有用である可能性がある。