貧乏人と非白人の大腿骨頚部骨折の予後は悪い。という身も蓋もないようなアメリカからのお話。
以下本文
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- 抄録
- はじめに
- 大腿骨頚部骨折の死亡率や発生率は減少傾向にあるが、病院へのかかりやすさ、その予後には人種、社会的経済格差が存在する。
- 本研究の目的は人種、経済的な格差が大腿骨頚部骨折後の予後に影響するかどうかを調べることである。
- 方法
- ニューヨーク州。保険政策決定機関からの報告。1998年から2010年まで。大腿骨頚部骨折患者197,290人を調べた。多変量解析。患者背景、所得、病院・術者の規模、入院中合併症、再入院、1年後の再入院について調べた
- 結果
- 黒人は手術までのタイミングが遅かった(Odd比1.49)。また再手術率(Odds比1.21)、再入院率(Odd比1.17)、1年後の死亡率(Odds比 1.13)と白人よりも高かった。
- 経済格差にもかかわらず、黒人とアジア系は白人と比べて手術が遅くなる傾向にあった。
- Medicareの患者よりもMedicaidの患者は手術が遅くなる(Odds比1.17 )一方プライベートの保険を持っている患者では手術の遅延が減少し、(Odds比0.77)、再入院率が減少し、(odds比0.77 )術後合併症が少なかった。
- 結論
- 大腿骨頚部骨折の患者では人種と保険による治療成績の違いが認められた。なぜこのような格差が生じ、どのようにハイリスク群に対して対応していくかが今後求められる。
- 本文
- 背景
- 大腿骨頚部骨折患者に対する医療コストは2025年には250億ドルに達すると予測されている。
- 保険者側からは大腿骨頚部骨折の診療の質を向上させるための方策を検討する必要がある。
- 国家単位で見れば大腿骨頚部骨折による死亡率は減少傾向にあるが、人種、経済格差による治療成績の治療は頑然として存在する。
- アメリカ以外では患者の所属するコミュニティ治療成績に影響することが知られている。
- そこでアメリカで人種、保険に関する大腿骨頚部骨折の治療成績(手術のタイミング、1年以内の再手術、90日間の再入院、90日以内の合併症の発生、1年以内の死亡率)について検討した。
- 結果
- 197290例の症例について検討。平均年令は79.1±14.5 歳。73.2%が女性。84.5%が白人、83.0%の患者がMedicareの保険に入っていた。
- 79.8%が入院後2日以内に手術されていた。27.2%の患者が90日以内に再入院した。9.8%が尿路感染、7.5%が心不全、7.1%が肺炎。26.6%が術後何かしらの合併症を生じていた。
- 術後1年の再手術率5.3%であった。
- 術後1年の死亡率は7.3%であった。
- Coxハザード解析を行った。合併症が多いと手術までの期間が長くなり、再入院、再手術、合併症、1年での死亡率が上昇した。また高齢者でも同様の傾向を認めたが、再手術率の増加はなかった。
- 患者背景を調整したあとの検討では、黒人であることは手術が遅延したり、再手術の率、再入院率、術後1年の死亡率の上昇を認めた。またアジア人であることも同様のリスクを認めたが再手術率、再入院率は減少していた。
- Medicaidの患者では手術が遅延していた。しかしそれ以外の項目についてはMedicareの患者よりも低下していた。
- サブグループ解析で黒人と同様の経済環境にある白人を対象に調べた。低所得、中間層、高所得のいずれの群でも黒人の合併症が高かった。
- 考察
- 大腿骨頚部骨折の治療成績は向上している。本研究では人種、経済格差が治療成績に影響していることを示した。
- 経済レベルが同様な場合でも人種による格差は認められた。
- 入院後48時間以上経過してからの手術がネガティブな影響を与えると言われている。また黒人は再手術率が上昇するという報告がある。
- アジア系アメリカ人についての報告はないため今後別の研究が必要となる。
- 本研究はまた経済格差が手術までの時間に影響を与えるということを明らかとした。メディケイドであることは経済的ステータスの指標に過ぎなかった。Medicaidは低所得者であることをしっかりと反映していた。低所得者であることは大腿骨頚部骨折のリスクを上昇させる。しかし収入と大腿骨頚部骨折の関連は不明である。イギリスからの報告では低所得だと術後1年の死亡率が上昇する。本研究はアメリカからの初めての報告である。アメリカではn数が小さい研究があるが、本研究のn数が大きく、より多くの場合に対応している。
- 近年のアメリカでのMedicaidの患者の対象となる患者数の増大は今後大腿骨頚部骨折の治療に影響をおよぼす可能性がある。
- 患者間だけでなく、病院間、保険支払者間でも差があることがわかった。リスクに応じて順位付けをしていく必要があるだろう。良い治療ができている病院には報酬を手厚くし、再入院が多い病院には何かしらの金銭的なペナルティが必要である。
- これらの違いについては、患者がどのように医療機関を利用しているのかなどについての詳細な検討が必要となる。非白人が質の低い病院で治療を受けた場合に治療成績は不良である。イタリアでは病院ごとのパフォーマンスに応じた医療費の支払いをすることでその質が改善していることが示されている。アメリカでも今後どの様に治療費の支払いを考えていくかということは議論になっていくであろう。
- 全てのデータが正しく入力されているかはわからないということが本研究のリミテーションである。
- 大腿骨頚部骨折に対する治療が改善されている一方で、未だ人種、経済格差はある。これらの格差は病院、保険支払の両者にとって質による支払いを考慮する時代が来つつあることを示している。今後さらなる詳細な検討を行う。
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本論文の目的は、保険の支払側から、より効率的にお金を払うためにはどうしたらよいか?というためのPilot Study的な要素が強いように感じました。
病院への支払い方法を変えたのはイタリアでの話で、本研究では支払いについてMedicaidの患者の予後が悪かったことのみで、「今後は病院ごとの治療成績で支払い方法を検討したほうがより良い」という結論を導くのはなにか大きな力が加わっているとしか思えません。
まあ、国民皆保険が崩壊しつつある日本でも何かしらの工夫は必要になってくるわけで。
病院ごとに治療成績を提出させられる日も遠くないでしょうね。
経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策
まだ読めていませんが、経済と医療は密接に関係しています。
医者が医療のことだけを見ていてはいけないと思います。
ショウドクカイの参考にさせていただきました。ありがとうございます。
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