A Prospective Randomized Trial Comparing Nonoperative Treatment with Volar Locking Plate Fixation for Displaced and Unstable Distal Radial Fractures in Patients Sixty-five Years of Age and Older
抄録
拝啓
高齢者の橈骨遠位端骨折に対して掌側ロッキングプレートの有用性は言われているものの、手術治療が保存治療に勝る、とした適切なRCTに基づいた研究は勿った。今回は転位のある不安定型の橈骨遠位端骨折を受傷した65歳以上の患者に対して、掌側ロッキングプレートに対する治療とギプスによる保存療法との間でその臨床成績を比較することを目的とした。
方法
73人の65歳以上の橈骨遠位端骨折の患者。うち36人に掌側ロッキングプレートによる治療を。37人にギプスによる治療を行なった。治療判定にはpatient-related wrist evaluation(PRWE)、DASHスコア、疼痛のレベル、手関節可動域、合併症発生率、レントゲン写真上での評価を行なった。
結果
観察期間中に両者の間の疼痛レベルには優位な左派認められなかった。術後早期で手術群の方がPRWE、DASHスコアにて低い値を示したが、6ヶ月以降は両者間に差を認めなかった。握力の回復は手術群の方が良好であった。レントゲン写真上の評価は橈骨の短縮、背側へのtilt、radial inclinationの全てで手術群の方が優れていた。手術群の方が有意に合併症の発生率が高かった。
結論
12ヶ月間の経過肝s夏において、関節可動域、疼痛レベル、PRWE、DASHスコアの何れでも手術群と保存療法軍の間には有意な差を認めなかった。手術群の方が握力の回復では優れていた。この研究では解剖学的に整復、固定することが必ずしも患者のADL、関節可動域の改善につながらないと言うことがわかった。
考察
ロッキングプレートの導入以来、撓骨遠位端骨折は手術されることが多くなってきている。若年の患者においては手術治療によって機能予後の改善が認められ、また変形治癒にともなう変形性手関節症は機能予後を悪化させ、痛みのある手関節としてしまう。若い患者においては撓骨の長さを保つこと、関節適合性の改善が必要となる。
しかしながら高齢者について、解剖学的整復が必要かどうかと言う研究は殆ど無い。
Jupiterらは背側転位型の撓骨遠位端骨折に対してORIFを行い、治療成績を報告している。術後の矯正損失、撓骨神経障害、長母指屈筋の断裂、背側の疼痛による抜釘を経験している。Jupiterらは保存的治療を行い、その結果が好ましくないものに対して手術治療を行うべきであると結論づけている。
Beharrieは平均71歳の18人の患者に対して手術治療を行っい、その良好な成績を報告し、高齢者でも手術を行ったほうがよい、と結論づけている。
Youngらは60歳以上で高度の手関節機能を必要としない患者での撓骨遠位端骨折に対して保存療法を行った。そこでわかったことはレントゲン写真上での解剖学的整復の程度と臨床成績との間に相関がないことである。10人中6人が手関節OAとなったがウチ二人だけがOAの症状を訴えた。神経学的症状が残ったのは12%。明らかな臨床的な変形は56%に見られたが、手関節の見た目について不満を述べる患者は居なかった。Gartlandのスコアリングシステムでは88%で優、もしくは良の成績が得られた。
Rouemenらは55歳以上の撓骨遠位端骨折の患者に対して前向き研究を行った。すべての患者にたいして非観血的整復を行い、ギプス固定とした。2週間後に再度整復。43%の骨折で再転位が認められた。50%の患者が創外固定で治療され、50%の患者がギプス固定を続行した。創外固定群のほうが解剖学的整復位を得られていたが、臨床成績はギプスて治療した群と変わるものではなかった。
Egolらは後ろ向き研究で65歳以上に対してギプス固定群、手術治療群に分けて調査を行った。24週の時点で、手関節背屈について手術群が優っていたが、一年後の両群の成績に差はなかった。手術群の方が握力に関して優っていたが、疼痛、機能評価で両群に差を認めなかった。
我々の研究でも2群に臨床成績の差が出なかった。当然、OA変化をみるのに6.7年は短いという議論もある。しかしながらOAが存在したからといってソレがすぐ手関節機能の低下につながるわけではない。今回も53%の患者でOA変化を生じているが、一人も症状を訴えていない。
掌側ロッキングプレートは優れた手術方法である。しかしながらその臨床成績はギプスで治療した群と大きく変わるものではない。
<<論評>>
とにかく手術のほうがすぐれているのだ!とする最近の骨折治療に対する一つのアンチテーゼであると思いました。
現在田舎の小病院に勤務しているブログ主の実感にも一致する所があります。
数年前、富山で行われた骨折治療学会で同様のテーマでお話がありましたが、その時は”手術をしなければばOAで、手の専門医が困る!”という意見がありました。
日本の場合は65歳どころか80歳以上でも積極的に手術しているのではないでしょうか。
高齢化が進み、医療費も右肩上がりで増加している現在、何でもベストの治療を無制限に考えなしに提供するのはいかがなものかと考えています。
特に人生の先がある程度決まってきている、手関節機能を多く求めないような患者さんに対しては今回の論文の結果を参照としていただいて治療方針を決定しても良いのではないでしょうか。
もし、優れているとするのであればそれなりの研究デザインを組んで優れている、と主張することが科学者でもある医師の勤めではないかと考えます。
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