Abstract
骨欠損とそれに伴う人工関節周囲骨折はセメントレス人工関節でおこることがある。この研究の目的はrisedronateを投与して人工関節周囲の骨吸収の状態を観察することである。
方法
40〜70代の変形性股関節症にたいしてTHAをうけた73人。端施設での二重盲検RCT。6ヶ月間35mgのrisedronateを週1回投与する群とプラセボ群とに分けた。プライマリーエンドポイントはGruenのzone1と7での骨密度の変化とした。骨密度は手術2日前、6ヶ月後、1年後、2年後で測定した。セカンダリーエンドポイントは大腿骨ステムの偏位と臨床症状とした。
結果
73例中70例の追跡が可能であった。Risedronate群33例、プラセボ群37例。zone1での骨密度はRisedronate群がプラセボ群よりも術後6ヶ月の段階で9.2%、1年の段階で7.2%、高かった。zone7での骨密度は術後6ヶ月で8.0%、1年で4.3%高かった。セカンダリーエンドポイントは両群で差が認められなかった。
結論
THAを受けた患者でのRisedronateの週1回投与は術後の臨床症状に悪影響を与えることなく、セメントレスステムの周囲の骨密度の減少をa緩やかにした。今後は実際にrevisionが減少したか、ステム周辺骨折が減ったか、ということについての経過観察が必要となる。
考察
週1回のrisedronateの投与はTHAの大腿骨近位の骨吸収抑制に術後1年の段階では有用であることがわかった。
同様の研究が以前大腿骨頸部骨折に対して行われたのだが、その研究よりも骨吸収抑制効果は高かった。より大規模にして実際にステム周辺骨折を防ぎうるかどうかを観察せねばならない。
bisphosphonateを用いることでのstress-shieldingが減少することはいくつかの研究で明らかとされている。また動物実験レベルではosteolysisも減らしている、という報告もある。
nation-wideに骨粗鬆症患者でTHAを受けた患者にbisphosphonateを投与してaseptic looseningが減少するかどうかを調べたところ、有意な差はなかったが、サブグループ解析ではrevisionの数を減らした、とする報告がある。
術前の骨密度と術後の骨密度との間に関連があることも今回の研究でわかった。術前から骨密度の低い群ではステム周囲の骨欠損がおこりやすい。術前から骨密度が低い群ではbisphosphonateの投与を行ったほうがよいのであろう。
現在bisphosphonateによる大腿骨骨折の報告が相次いでいるが、まだbisphosphonate製剤の投与のメリットが勝っていると考え、長期間投与を行った。
骨内架橋(spot welds)はプラセボ群の方に多く認めた。しかしながらステムの固定に関しては両群に差はなかった。この原因としては、プラセボ群の方が骨吸収が進んでいてspot weldsの観察が容易であったこと、bisphosphonate製剤によってリモデリングの過程が抑制された可能性を考える。
カップ側についても今後検討を加える必要がある。
<<論評>>
セメントレスステムはどうしてもストレスシールディングが起こり、それを防ぐ方法としてbisphosphonate製剤の投与を考慮された、ということでしょう。プライマリーエンドポイントとして骨密度となっているのは、超長期の経過観察ともっと大きなサンプルサイズがないとステム周辺骨折についての考察が困難であるから、と考えます。
大きな有害事象もないようですので、投与を検討する価値がある、と考えます。
Bisphosphonateの大腿骨骨折が着目されている今、ステム周囲の骨密度の効果とステム周辺骨折の間に相関があるかどうかは非常に興味があるところですねー。あまり長期に投与するとステム下の骨折が増えたりするのでしょうか?
返信削除sugishure77さま
返信削除人工関節と、普通の骨では荷重伝達経路がかわるということが知られています。普通の骨では骨梁を通じて皮質骨から骨髄中心へと力が加わるのですが、人工関節の場合には人工関節を通じて皮質骨側に拡散する方向へ力が伝達します。なので、遠位固定型ステムでは長期間投与によって異常な骨硬化が生じ、異常な骨折が起こりえるのではないかと勝手に妄想しております。笑