翻って自分の生活を見てみるといかがなものかと。同じくらい不活発のような。
健康成人男性を対象にした一日30分、週5回の運動というのはいかにもハードルが高いと思います。
THA、TKAをうけた患者さんには患者さんなりの運動強度があると思います。
アブスト
OAの患者は不活発なことが多い。THAまたはTKAを行うことで疼痛、身体機能、QOLが改善することが知られている。しかしながら身体活動性に対する研究は未だ少ない。
術前、術後に万歩計を用いて身体活動量を測定。American Physical Activity Guidelineにそって評価を行った。
63人の変形性股関節症および変形性膝関節症の患者を選定。術前6ヶ月の時点での活動量を加速度計付き万歩計で測定。日常活動量を記録した。44患者、70%の患者で質問票形式で疼痛、機能、QOLを聴取できた。加速度計付き万歩計の結果、術前では1日24時間の内82%にわたってじっとしていることがわかった。そしてこれは患者自身の評価としては”時々ウォーキングをして、家事も何とかやっているレベル”というものであった。
結果術後活動量の改善は認められなかった。術後もほとんどの患者が座っている時間が長かった。これはAPAGが推奨する身体活動量には及ばないものであった。疼痛、機能、QOL、身体活動量の自己評価は改善したのにもかかわらず測定された活動量には変化を認めなかった。
患者立脚型評価では疼痛、機能、身体活動量は術後改善したのにもかかわらず加速度計付き万歩計での測定結果は身体活動量が変わっていないことを示していた。術者はTHA,TKAの術後の患者の活動量がますように何かしらの対策を考える必要がある。将来的にはなぜ術後運動しないのかその要因について検討する必要がある。
OAは高齢者に撮って疼痛、機能障害の主要な原因の一つである。OAを有する患者では仕事、社会活動、レクリエーションスポーツへの参加を躊躇することも少なくない。それゆえにOAの患者では一般的に健康を保つために必要であると考えられているだけの運動量にみたないことも多い。またOAはTHA、TKAのの主要な要因の一つである。THA、TKAは末期関節症の患者で疼痛、機能改善する優れた方法の一つである。THA,TKAの目的の一つには身体活動量を上げることも含まれる。しかしながら術後身体活動量が本当に上がっているのかはほとんどわかっていない。
身体不活発性は世界的にみても重要な健康問題のうちのひとつである。APAGでは週5日間30分以上の運動を推奨している。THA,TKA術後の患者でのAPAGに準拠するだけの運動をしているかどうかは不明である。
加速度計付き万歩計は身体活動を測定するためにもっとも有用な測定ツールの一つである。術後24時間、48時間という短い時間でのTHA、TKA術後の患者での即て記録はあるものの週末を含めた活動量の記録はほとんどない。
本研究の目的は1,加速度計付き万歩計を用いてTHA,TKA術後術後の患者の術前から術後6ヶ月の時点での活動量を測定すること。2,術後6ヶ月の時点でのAPAGガイドラインの基準にどの程度の割合の患者が準拠しているか調べることを目的とした。
研究前の仮説として、術後活動性は向上しているものの、多くの患者はガイドラインで推奨される活動レベルには達していないのではないかというものである。
対象と方法
本研究はオーストラリアで前向き研究として行われた。50歳から80歳までの変形性関節症に対してTHAまたはTKAを受ける患者。介護が必要となっているような患者は除外。また術前から脳梗塞などの障害、英語ができない患者も除外した。141症例のうち72例の患者を選定。その後同意が得られなかった患者を除いて63例の患者について評価を行った。63例の内6例が手術をキャンセルした。7例がモニターを付け忘れて十分な結果が得られなかった。3例の患者が途中でフォローできなくなった。さらに3例の患者が別の理由で除外されている。結局44例の患者について術前、術後の身体活動性を調査出来た。TKAの患者が33例、THAの患者が24例である。事前に予測される必要サンプルサイズ数は41例であった。
入院までの待機期間は平均58日。使用インプラントは術者によった。術後はすべて同じリハビリプロトコールで、荷重制限もなかった。入院中はプロトコール通りのリハビリを実施。術後も通いのリハビリに通ったのは57例61%であった。田舎に行った場合にはどのようなリハビリを受けていたかは不明である。データはアシスタントによって集められた。術後6ヶ月のデータはPTが回収した。BMIなどは手術時のデータを用いた。6ヶ月の時点で術後合併症をおこした症例は除外した。モニターはActiGraph1 GT1M activity monitorをもちいた。加速度計は1分ごとに設定した。最低10時間は腰にモニターを巻くようにした。毎日電話をかけてつけるのを忘れないように注意喚起した。もし忘れた場合には一日追加した。水に浸かるような動作の時は外した。
2種類の方法を用いて身体動作を計算した。一つの方法はつけている時の平均のカウント数を用いた。もう一つの方法は夜間などの装着していない時間も非活動時間としてカウントするようにした。
活動量を4つのカテゴリーに分けた。100以下が座位。100から1953が軽い活動。1954から5724が中程度の活動量、5725以上が激しい運動である。1954から5724が3から5.99METsに相当する。
その他の測定項目としてはOxfordScore,SF12、UCLAスコアを用いた。
結果
表3に示すように術前と術後の実際の活動時間には差がなかった。THA,TKAのサブグループ解析でも差を認めなかった。術前では一日の内82%を座って過ごしており、術後は一日の83%を座って過ごしていた。
術前、術後ともAPAGの推奨する活動レベルに達した例は殆どなかった(3例6%)。術後は1例2%のみでAPAGの推奨する活動量に達した。
術前、術後で他覚的に測定できる活動性の増加は認められなかったが患者立脚型評価では疼痛のみならず活動性の向上が認められた。SF12、UCLAスコア、全てで有意に改善した。(表4)。72%の患者でGRCで評価される活動性の自己評価が向上した。
考察
下肢の人工関節は患者の疼痛、機能改善、QOLを改善させる。身体活動性についての他覚的評価を行った報告はほとんどない。本研究の目的は術前、術後6ヶ月の時点で加速度計付き万歩計を用いて活動性を測定し、その活動性が一般的に言われる健康的な身体活動性のガイドラインに合致するかどうかを調査することであった。本研究の結果では他覚的な身体活動性は術前術後で変化しなかった。患者立脚型評価では疼痛、運動機能、QOLのいずれも改善した。
本研究ではいくつかの限界がある。症例が少なく取り扱いやすいサンプルサイズであることである。術前の痛みが強い人では測定ができていないことである。表1に示すようにほぼ確実なデータ回収ができている。筆者らは術前術後にわたって活動量が変わらないことを見つけた。しかしながらひょっとしたら統計学的パワーとしては足りないことが原因かもしれない。しかし統計学的には12cpmで差がでると推定されるが、臨床的には100cpm以上の差がないと活動性に差があるとは言えない。また一日のうち82%の安静時間が83%となったことからも差がないと思われる。あとはサイクリングなどの運動では加速度計付き万歩計が機能しなかった可能性がる。しかしながらUCLAスコアで調査したところ本研究では自転車にのっているひとは居なかった。またカットポイントの設定が健康成人を対象としていることも問題なのかもしれない。。今後は人工関節を受けたひと特有の活動性について設定する必要があるだろう。
THAとTKAをまぜて検討したことも問題である。それぞれの群について十分なサンプル数を確保することが重要である。
APAGが設定する健康のための指針がOA,人工関節置換術後の患者には厳しすぎるのかもしれない。今後は術前、術後のガイドライン作成が必要となるのでは無いだろうか。
人工関節術後の身体活動性の報告はいままでに4編ある。オランダからの報告はTHA、TKAとも術後6ヶ月で身体活動性の向上が見られたと本報告とは反対の結果を報告しているものがある。しかし、その結果は一日あたり10分間延長しているのみであり、統計学的には有意であるが臨床的には意味がないものであると考えられた。他の2編の論文は歩行能力について解析している。歩行能力は身体活動の一部分に過ぎないことから一日の身体活動量を測定した本研究は意味があるものである。
APAGガイドラインに達した患者がほとんどいないこともわかった。この身体活動量に達していないと心血管イベントがおこる可能性が20-30%上昇することが知られている。すなわちこのままではTHA,TKA後の患者ではそういった心血管イベントが起こりやすいのではないかと推察される。THA,TKA術後の患者の日常の身体活動性を向上させ、健康の不利益を回避するための方法を考える必要がある。
患者は術後よく動けるようになったと感じているが実際はそうでは無いことがわかった。日常生活の行動変容は複雑な要因が絡み合っている。普段の生活行動様式にも目をくばる必要があるのかもしれない。日常生活レベルに影響を与える因子についての検討が今後必要となるであろう。