2012年4月5日木曜日

20120405 JBJS(Am) Hemiarthroplasty of hip w/ or w/o cement : RCT

Catacombs and Mature Sycamore Tree at St Bartholomew's Cemetery in Exeter
 抄録

背景
高齢者の大腿骨頸部骨折に対してセメントの人工骨頭を使うか、セメントレスの人工骨頭を使うかということについては未だ議論のあるところである。
方法
70歳以上の高齢者に対して、重大な心血管障害がない転位のある大腿骨頚部骨折の患者を対称とした。平均85歳の患者、160人をノミネートした。この160人をExter stem(セメント)とZweymullerアロクラシックモデルの2群に無作為に割りつけた。臨床と、レントゲン写真評価は盲検化された評価者によって行われた。疼痛、死亡率、運動機能、合併症、再手術率、QOL評価を行った。
結果
VASスケールにおいては2群に差が出なかった。全体の合併症はセメントレス群で多かった。(63例対28例)。ステムの沈み込みはセメントレス群で顕著であった。術中の骨折、術後の骨折はセメントレス群で多かった。死亡率にかんしては両群に差を認めなかった。Oxford股関節評価では術後6週の段階でセメントレス群の方が明らかに劣っており、その他の期間でもその違いは有意なものはないもののセメントレス群の方が低い傾向にあった。セメント群の方が歩行能力は低かった。術後のQOLは2群で差を認めなかった。
結論
重症な心血管疾患のない高齢者の大腿骨頚部骨折に対する治療でセメントを使うのか、セメントレスを使うのかという治療は疼痛に関しては両群に差がないことがわかった。しかしながら手術に伴う合併症はセメント群の方で少ない傾向にあった。これらは術後の全期間を通じて言える傾向であった。

考察
以前にはオースチンムーアとトンプソンのセメントステムでの比較があったものの、現在このステムの使用はそれほど多いものではなくなっている。
最近の流れとして、セメントステムでは術中の塞栓症による死亡との関連が言われてから、セメント使用は避けられる傾向にある。ただ、現在の研究ではこの原因ははっきりしておらず、セメントの毒性もしくは骨髄の塞栓症によるものではないかと考えられている。本研究では明らかな塞栓症を認めなかった。それどころかセメント群では心血管イベントを認めなかった。ただ、心血管系の併存症がある患者は最初から麻酔科医によって外されているのでこの部分はこの研究の欠点として存在する。ただ、この研究の目的はセメントの明らかにするものではなく、またコクラン・ライブラリーでもセメントによる害は少ない。とされていることは記しておく。術中のトラブル等は合ったかもしれないが、この点については今後の研究課題となりうるだろう。
認知症については両群でそれぞれ47.5%ずつ存在していた。認知症は高齢であればよくある病態であるので、除外項目とはしなかった。しかしながら、認知症のある患者さんはフォローが困難ではあった。
途中の脱落例がセメント群で21例、セメントレス群で27例あった。どうしても高齢の患者さんを対象としたために脱落が多くなった。こういう時にはバイアスがかかりやすくなるが、今回はある一定の期間でチェックを入れていたので、そのバイアスは少なくできたものと思う。
機能予後は2群で変わりがなかった。
ただ、インプラント挿入に伴う骨折はセメントレス群の方が明らかに多かった。。
レントゲン評価はほとんどこの種の研究では行われない。今回測定したところセメントレス群の方が術後のステムの沈下は多かった。
まとめ。
高齢者の大腿骨頚部骨折に対してセメントステムとしてexeterを使うとツバイミューラー型のセメントレスシステムよりも術後のトラブルは少なかった。また機能評価もセメントの方がよかった。ただ疼痛などは有意な差は認められなかった。

【論評】
ス◯ライカー社のExeter(poloshed tapered) stemが良い!ということで、開発したエクセターに敬意を表し、エクセターの扉絵を載せてみました。
これでセメントがよいのかセメントレスが良いのかというところに結論がでたかと言うとそういう訳でもないなあ。と言うのがブログ主の感想です。
そもそも日本であれば、遠位固定型のツバイミューラータイプのセメントレスステムよりもいわゆるフルフィル型(近位固定)の方が使用されている件数は圧倒的に多いでしょうしね。
なので今回のこの結果が一概にセメントバンザイという結論にはならないと思います。

この研究は無作為割付研究ですが、実は術者の問題が大きいのではないかと思います。
原文が読めるのであればtable2をみていただくと、セメントで79分かかるのはまだ分かりますが、セメントレスでope時間に有意差なしとなっております。(74分)
どんなに)以下自粛な手術かと。。セメントレスで60分以上かかるのは、ちょっと。。。

以前このブログでも書きましたが、セメントステムは上手なオペレーターが使うとホントにうまくいきますけど、慣れていない術者だと目もあてられない様なトラブルに見舞われることも決して少なくありません。
エクセターのステムは良いステムだと個人的には思っています。しかしながら使いこなせるようにするためにはしっかりとしたトレーニングがあってこそだと思います。はい。



3 件のコメント:

  1. セメントは関西医大の飯田先生のされているような正確な第3世代セメントテクニックが出来れば非常に長期成績がよいし、髄空の形状にかかわらず安定した術後成績が得られると思います。近位フィット型のステム症例によっては大失敗すると思います。初心者はその見極めができないでしょうから。

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  2. 初めまして。駆け出し整形外科医のStingrayと申します。
    こちらのブログ、以前から興味深く拝見しています。非常によく勉強されているので、いつも刺激を受けております。
    原文を読んだうえで、この論評欄を読んでいて思ったのですが…

    「原文が読めるのであればtable2をみていただくと、セメントで79分かかるのはまだ分かりますが、セメントレスでope時間に有意差なしとなっております。(74分)
    どんなに)以下自粛な手術かと。。セメントレスで60分以上かかるのは、ちょっと。。。」

    この調査では前外側進入のmodified Hardinge approachを用いて手術をしています。僕は、人工骨頭もTHAも、modified Hardinge approachと一般的な後方アプローチ(Moore)とを使い分けていますが、どうしてもmodified Hardinge approachでは手術時間が15分ほど長くなってしまいます(閉創にかかる時間が全然違うので…)。Mooreなら50分そこそこで手術できますが、modified Hardingeでは全例で60分を切ることはちょっと難しいかなと思います。
    がみたけ先生はどのような進入法を使っていますか?参考までに教えていただけると幸いです。

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    1. 管理人のがみたけでございます。
      Stingrayさま。ご質問ありがとうございます。
      私自身は普段は後方アプローチ。あとはOCMの経験がわずかにある程度にすぎません。

      わたくし後方アプローチのつもりで話を進めておりました。

      先生のご指摘通りDirect lateral approachでは時間が後方アプローチよりかかるものと思われます。

      的確なご指摘ありがとうございます。

      また今回のように気になる点がございましたらご教示くださいませ。

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