2011年10月26日水曜日

20111028 JBJS(Br) Does cementing the femoral component increase the risk of peri-operative mortality for femoral neck fracture patients

抄録
大腿骨頸部骨折の人工骨頭挿入術を行う際にセメントを使うと死亡率が上がるかもしれない、という警告がなされている。今回100以上の病院が参加している、National hip fracture databaseを用いて調査を行った。
骨セメントを用いて大腿骨頸部骨折の患者に対して人工骨頭置換術、またはTHAを行った患者。これらの対象に対して混合ロジスティック回帰分析を行った。129病院、16496人の患者。
結果わずかであるが統計学的に有意にセメント群の方が予後がよかった。(オッズ比0.86、95%信頼区間0.72−0.96)。死亡退院と関連する因子は年齢、アメリカ麻酔学会評価(ASA)、性別、屋外歩行が可能であったかどうか、人工関節であった。これらの因子とセメントしようかどうかということは関連しているものの、このモデルでは改善できなかった。
今回の研究ではセメント使用による死亡率の上昇は認められなかった。

考察
骨セメントはTHAの時には死亡率も低いことは知られている。大腿骨頸部骨折では患者の年齢が高くなるので、循環の問題や骨質の問題が生じてくる。
骨セメントを使用してもその死亡率が上がらないことは報告されているのも関わらずイギリスの健康保険省はセメント使用による注意勧告を出している。
NHFDはイギリスの大腿骨頸部骨折を2007年からまとめたデータベースである。イギリスの病院の90%が参加、登録している。
セメント使用による調整を加えない死亡率のオッズ比は0.66と大きな差が出た。しかし、セメント使用するかどうかは患者の背景に左右される場合があるので、調整を行った。セメントレス使用群はやや高齢でASAグレードが高い傾向にあった。しかしながらそのような因子についても調整して検討をおこなったがセメント使用群の方が死亡率が低いことがわかった。
この研究はいくつかの限界がある。一つはあまりにも大きなmassでの検討なので、細かい変化はわからないことである。
また死亡退院とエンドポイントを決めると、術中のトラブルだけでなく、その他の合併症での死亡も含まれてしまう。
この結果を単純に健康保険の場に持ち込むことには問題がある。あくまでもセメント群で少し死亡が少なかった、というだけでその医療機関、患者さん個々に対して同じように当てはめることができる訳ではないからだ。
大腿骨頸部骨折に対して骨セメントを使用することは死亡率を上げる訳ではない。

論評
どうやらイギリスの厚生省から、骨セメントの使用注意勧告が出たために、それに対する意見論文といったところでしょうか。
内容はさておき、最近統計に興味をもっているのでその部分で面白く読めました。

2011年10月24日月曜日

20101024 JBJS(Am) The effect of weekly Risedronate on periprosthetic bone resorption following THA: on RCT

Abstract
骨欠損とそれに伴う人工関節周囲骨折はセメントレス人工関節でおこることがある。この研究の目的はrisedronateを投与して人工関節周囲の骨吸収の状態を観察することである。

方法
40〜70代の変形性股関節症にたいしてTHAをうけた73人。端施設での二重盲検RCT。6ヶ月間35mgのrisedronateを週1回投与する群とプラセボ群とに分けた。プライマリーエンドポイントはGruenのzone1と7での骨密度の変化とした。骨密度は手術2日前、6ヶ月後、1年後、2年後で測定した。セカンダリーエンドポイントは大腿骨ステムの偏位と臨床症状とした。

結果
73例中70例の追跡が可能であった。Risedronate群33例、プラセボ群37例。zone1での骨密度はRisedronate群がプラセボ群よりも術後6ヶ月の段階で9.2%、1年の段階で7.2%、高かった。zone7での骨密度は術後6ヶ月で8.0%、1年で4.3%高かった。セカンダリーエンドポイントは両群で差が認められなかった。

結論
THAを受けた患者でのRisedronateの週1回投与は術後の臨床症状に悪影響を与えることなく、セメントレスステムの周囲の骨密度の減少をa緩やかにした。今後は実際にrevisionが減少したか、ステム周辺骨折が減ったか、ということについての経過観察が必要となる。

考察
週1回のrisedronateの投与はTHAの大腿骨近位の骨吸収抑制に術後1年の段階では有用であることがわかった。
同様の研究が以前大腿骨頸部骨折に対して行われたのだが、その研究よりも骨吸収抑制効果は高かった。より大規模にして実際にステム周辺骨折を防ぎうるかどうかを観察せねばならない。
bisphosphonateを用いることでのstress-shieldingが減少することはいくつかの研究で明らかとされている。また動物実験レベルではosteolysisも減らしている、という報告もある。
nation-wideに骨粗鬆症患者でTHAを受けた患者にbisphosphonateを投与してaseptic looseningが減少するかどうかを調べたところ、有意な差はなかったが、サブグループ解析ではrevisionの数を減らした、とする報告がある。
術前の骨密度と術後の骨密度との間に関連があることも今回の研究でわかった。術前から骨密度の低い群ではステム周囲の骨欠損がおこりやすい。術前から骨密度が低い群ではbisphosphonateの投与を行ったほうがよいのであろう。
現在bisphosphonateによる大腿骨骨折の報告が相次いでいるが、まだbisphosphonate製剤の投与のメリットが勝っていると考え、長期間投与を行った。
骨内架橋(spot welds)はプラセボ群の方に多く認めた。しかしながらステムの固定に関しては両群に差はなかった。この原因としては、プラセボ群の方が骨吸収が進んでいてspot weldsの観察が容易であったこと、bisphosphonate製剤によってリモデリングの過程が抑制された可能性を考える。
カップ側についても今後検討を加える必要がある。


<<論評>>
セメントレスステムはどうしてもストレスシールディングが起こり、それを防ぐ方法としてbisphosphonate製剤の投与を考慮された、ということでしょう。プライマリーエンドポイントとして骨密度となっているのは、超長期の経過観察ともっと大きなサンプルサイズがないとステム周辺骨折についての考察が困難であるから、と考えます。
大きな有害事象もないようですので、投与を検討する価値がある、と考えます。

2011年10月23日日曜日

20111023 JBJS(Am) AAOS clinical practice guideline : Treatment of osteoporotic spinal compression fractures

毎度おなじみAAOSのクリニカルガイドラインです。
今回は骨粗鬆性の脊椎圧迫骨折についてです。

余談ですが、診療ガイドラインは日本でも多く発売されるようになって来ました。診療ガイドラインに書いてあることは診療を行なっていくうえでの最大公約数、にすぎないと感じています。
ガイドラインに書いてあることは熟知していて、最低限医療者として提供すること。そしてその患者さんの個別性に合わせて必要な医療が提供できること。が僕の考えるEBMです。

閑話休題。

(エビデンスレベル:strong)
・神経学的な欠損がなく、画像上の圧迫骨折と一致する臨床症状がある患者にたいして椎体形成術を行なうことを推奨しない。

(エビデンスレベル:moderate)
・神経学的な欠損がなく、画像上の圧迫骨折と一致する臨床症状がある患者に対して4週間連続でカルシトニンを投与し治療することは勧められる。

(エビデンスレベル:weak)
・Ibandronateとストロンチウムの投与は画像上の圧迫骨折と一致する臨床症状のある患者に対して一つのオプションとして考慮されてもよい
・L3、4の圧迫骨折に対してL2の神経根ブロックを考慮してもよい
・kyphoplastyであれば考慮してもよい

(エビデンスレベル:inconclusive)
・ベッド上での安静が推奨できるかできないかをいうことはできない。
・装具による治療方法を推奨するかどうかはいうことをできない。
・急性期の運動療法が有効かどうかをいうことはできない。
・電気療法をおすすめできるかどうかをいうことはできない。
・後弯変形を矯正したほうがよいかどうかはいうことはできない。
・特別にこの治療法が効果がある、ということを腰椎圧迫骨折ではいうことができない。


最後の一文がすべてかも知れませんね。笑
エルシトニンの注射の話とかは全く出てきませんねええ。

2011年10月22日土曜日

20111022 JOS Thoracolumbar injury classification and severity score: a new paradigm for the treatment of thoracolumbar spine trauma

Abstract
胸腰椎骨折のメカニズム、自然経過、治療方法などは徐々に明らかになってきているものの、胸腰椎骨折の分類は単純すぎるかもしくは複雑すぎて実用に供しにくい。
そこでSpineTraumaGroupが胸椎骨折の新たな分類を考案し、治療方針の決定に用いてみた。
Thoracolumbar injury classification and severity score(TLICS) を作成した。
受傷形態、神経学的損傷、後方要素の破綻の三つの要素に対してそれぞれポイントを与え、合計点数で治療方針の決定を行なえるようにした。
今後この評価方法の妥当性と再現性。術後の長期予後についての評価が行なわなければならない。

TLICS:5点以上で手術、3点以下で保存的治療。4点であれば施設、術者の判断による。

TLICS


骨折型


(ともにhttp://www.springerimages.com/より引用)

2011年10月19日水曜日

20111019 JBJS(Am) A prospective RCT Comparing OT w/ independent exercises after volar plate fixation of a fracture of distal parts of radius

橈骨遠位端骨折術後にOccupational therapy(OT)によるリハビリと自分でリハビリを行った場合を比較したRCT

Abstract
橈骨遠位端骨折術後のOTの関与によるリハビリの効果ははっきりとしていない。今回はOTにリハビリを依頼した群と自律でリハビリを行った2群に分けて比較を行った。

方法
不安定型橈骨遠位端骨折に対して掌側ロッキングプレートにて手術治療を行った94例。OTによるリハビリ群と自律リハビリ群の2群に分けて6か月後の手関節機能を評価。評価項目は掌背屈の覚悟、握力、Gartland and Werleyのスコア、Mayoの手関節機能評価、DASHスコアを用いた。

結果
掌背屈でOTによるリハビリ群で118度、自律リハビリ群で129度と有意な差を認めた。術後3か月の時点で平均ピンチ力、握力、Gatland and Werleyのスコアでも自律リハビリ群が有意に良好な成績であった。術後6か月の時点で背屈、尺屈、回外、握力が自律リハビリ群で良好であった。DASHスコアでは差を認めなかった。

結論
橈骨遠位端骨折に対して掌側ロッキングプレートを用いた症例に対してOTによるリハビリは効果が見込めない。

考察
橈骨遠位端骨折術後の患者にOTによるリハビリテーションをおこなってもあまり有効でない、という結論となった。これは橈骨遠位端骨折の保存的治療を行われた患者でも同様の結論が前に報告されている。
他の研究では物理療法を行った群よりも自律でリハビリテーションを行った群のほうが良好な成績を得たとする報告もある。他の研究ではあまり差を認めていない。
今回の研究で興味深いところは、自律のリハビリテーションでより良好な成績を得たことである。その原因として考えられることは(1)術後は患者自身でリハビリを行ったほうが有効なリハビリとなりえるのではないか(2)OTはトラブルにならないように丁寧にリハビリをしすぎているのではないだろうか。ということである。
今回の研究では19%の患者の追跡が行えなかった。治療方針に不満を持っていた可能性がある。EPBの断裂を起こし、抜釘をおこなった患者がいるため成績に大きな差が出た可能性。症例が少なくαエラーの可能性がある。術者がかなり”痛みなしでは得られるものはない”ときついことを言ったことも影響しているのかもしれない。
今回の結果からはリハビリテーションについて術者が正しく介入できればOTの関与は不要であるということである。よりよいコーチングの方法がより良好な臨床成績を得るために必要となるかもしれない。


<論評>
アメリカからの論文です。医療体制が大きく違うので一概には言えないかなあとも思いますが、面白い結果だと感じました。
手術をやりっぱなしでいいよ、リハビリにおまかせでいいよということではなく、より良い機能を回復するためにはどうしたらよいかということを術者自身が患者さんに丁寧に伝えることが必要ですよ。ということが伝えたい論文なのではないかと感じました。
一昔前にはやったビリーズブートキャンプのようにだいぶスパルタでリハビリを進めるのだなあというのはすこしほほえましくも感じました。笑