2009年12月29日火曜日

今年のまとめと来年の抱負

自分の勉強として読んだ論文をブログという形にするという試みをしてみました。分野が分野だけにかなりマニアックなせいもあり、それほどたくさんの訪問者があるわけではないですが、ツイッター経由で読者になってくださった方もいて,ある程度の成果は得られたんじゃないかとあまーーーい自己評価をしています。
来年度からひとり整形外科医となるのでより一層の勉強をするひとつのきっかけとしてこのブログを使っていければと思います。

新しい試みとして
・整形外科の診察方法は特殊で,いつも動画で解説できればと思っていました。
①自分で穿刺などの手技を動画としてアップしていく
②Youtubeなどで掲載されている診察方法の動画をいくつか発見したのでそれを紹介させて頂く

と言う事を来年から始めて行きたいと思っています。

そのためにはもう少しラベルを整理しなければなりませんが。。。。。

また、こういう事をしたらいいんじゃないかというアイディアをだしてチャレンジしていきたいと思います。

皆様のご意見もお待ちしてオリマス。

2009年12月28日月曜日

2009.12.28 JBJS(Am) Surgical Treatment of Dens Fractures in elderly patients

要旨
背景
歯突起骨折は高齢者でもっともよくみられる頚椎の骨折である。この研究は65歳以上の歯突起骨折を受傷し、手術治療を受けた患者さんのレントゲン上、機能学的な予後を解析することを目的として行われた。
方法
56人の患者、平均年齢71.4歳。1988年から2002年までで39例で前方からのスクリュウ固定、19例で後方からの頚椎固定が行われた。
結果
45人の患者が術前の日常生活レベルに復帰し、満足いく結果が得られた。35人の患者が頚椎の全可動域を獲得した。47人の患者で痛みが取れた。技術的な問題による失敗は8例あった。前方からのスクリュウ固定は良好な成績であった。37例中33例で骨癒合を得た。5例の患者で技術的な問題が発生した。後方固定が行われた19例は全例骨癒合し、3例で技術的な問題が見られた。機能的予後は前方固定に劣った。今回評価から除外された患者も含めると62例中10例で何かしらの問題があり、その死亡率は62人中4例であった。
考察
高齢者に対する歯突起骨折の手術治療結果は満足いくものであった。前方固定のほうが可動域の確保で有用であるということがわかったが、偽関節になったり再手術が必要となることと高い関連性があることがわかった。

表1 受傷機転とレントゲン上での骨折部の転位の程度

表2 アンダーソン分類、ロイカミレ分類による分類
アンダーソンタイプ2が多い。

表3 術後の機能予後、満足度調査 前方固定のほうがよい成績である

図1 前方固定の単純X線写真

図2 後方固定(ワイヤリング)

表4 ADL評価 前方固定のほうが頚椎の可動範囲では優れる。

考察
高齢化するにしたがって頚椎歯突起骨折はより頻度が高くなってくる。最近は麻酔のリスクはあるものの手術療法が有用であるということが提唱されている。手術が増える傾向にあるが、その長期予後について信頼に足る研究は少ない。
筆者らの研究では高齢者に対する歯突起骨折はあまり合併症を起こさず、良好な成績を得た。前方スクリュウ固定では89%という高い骨癒合率を得た。他の報告では75-85%くらいの癒合率とされているので、それよりも良好であった。前方固定後に骨癒合が得られない症例が4例あり、いずれも転位型の歯突起骨折であった。臨床成績についていえば満足のいくものであったとする報告がいくつかあり、特に若い患者では頚椎の可動域が保たれることが重要であるとされている。この研究でも2/3に日常生活の制限を認めず、痛みの無い生活が可能であった。技術的な失敗は5例(14%)で認められた。文献的には前方固定による合併症はまれであり、議論の余地があるとされている。アンダーソンらは高齢者ではたびたび前方固定が上手くいかないことがあったが臨床成績はそれほど悪くなかったとしている。われわれの研究では14%で上手くいかなかったが、再手術にいたったのは3例であった。ということで十分満足いく成績であると考えられる。
c1-2の後方固定では骨癒合率が100%であったが、頚椎の可動域制限が必ず出た。環軸椎固定で癒合が得られるかどうかはほかの文献でも高い癒合率が報告されている。癒合率が高い原因としてアンダーソンタイプ3骨折が半分以上の症例を占めている。一般的にタイプ3骨折の癒合率はタイプ2の骨折よりも高いということが知られている。ただし、今回の研究ではタイプ2とタイプ3でその骨癒合率には違いが無かった。後方固定では頚椎の可動域制限と慢性の痛みを訴えることがあるといくつかの文献で報告されている。特に回旋運動は環椎ー軸椎間でその運動の50%が行われているので、ここの固定を行うことでより深刻に発生する。いくつかの研究では高齢者では回旋制限は許容されるとしているが、われわれの研究では約半分の患者で満足感が得られていなかった。C1-2の経椎間関節スクリュウ法が今後別の方法として検討されてもよいのかもしれない。
われわれの研究では前方固定でも後方固定でもその合併症の発生率は似たようなものであった。ただ、他の研究では後方固定のほうが合併症の発生率が低いとされており、われわれの研究でそのようになったのは後方固定の患者数が少なかったことがある。しかし前方固定群に比べ再手術にまで至った症例は無かった。
有病率と死亡率については16%という高い数字であったが満足いく成績が得られたものと考えられる。ただ、手術をしないとその死亡率は10-25%とされており、また別の報告では手術をした歯突起骨折の患者の死亡率が0-30%となっていることからそれほど悪いものではないと考える。術前の合併症やそういった問題が関与している可能性がある。

《論評》
高齢者であれば後方固定の方が良いのかというように感じました.(今まで後方からのアプローチしか見たこと無いので)

2009年12月24日木曜日

2009.12.24 JBJS(Am) Early Results of a New Method of Treatment for Idiopathic Congenital Vertical Talus

<修正版>

Background:

特発性先天性垂直距骨は伝統的にmanipulationとcastで行われ、広範な軟部組織解離術を追加していた。しかし、こういった治療は重篤な足部のstiffnessや他の合併症をきたすことがしばしばある。本研究の目的は、垂直距骨に対するPonseti法に基づいたmanupilationとcast固定および距舟関節のピンニングと経皮的アキレス腱切除術を組み合わせた方法の特発性先天性垂直距骨に対する効果を評価することである。

Methods:

11名19足の特発性先天性垂直距骨を治療後2年以上経ってretrospectiveにフォローした。行った治療法はmanipulationとcast固定および限定的な外科処置で、アキレス腱切除を19足全て、前脛骨筋腱のわずかな延長を2足、短腓骨筋腱の延長を1足、経皮的距舟関節ピンニング固定を11足に行った。Manipulationとcast包帯の方法はPonseti法に準じて行ったが、力は逆方向に加えた。初期、手術施行直後、フォローアップ最後で臨床所見とレントゲン所見を評価した。レントゲン測定値を比較した。加えて、患者と同年代の正常値とも最終評価時に比較した。

Results:

初期の矯正は臨床的にも画像的にも19足全てで得られた。平均5回のcast矯正が必要であった。広範な外科的解離術は1例も行っていない。最終評価時、足関節は背屈平均25°、底屈平均33°であった。舟状骨の背側亜脱臼が3症例で見られたが、いずれも距舟関節のピンニングを行っていなかった。最終フォローアップ時、治療前と比べて全てのレントゲン測定値は有意に改善し、全ての測定した角度で同年代の正常範囲であった。

Conclusions:

特発性先天性垂直距骨患者に対する連続的なmanipulationとcast固定および距舟関節のピンニングと経皮的アキレス腱切除術では、臨床的に足の外観、足の機能、最短2年でのレントゲン測定値の矯正について優れた結果が得られた。
Fig. 1

A:先天性内反足の6歳男児、底屈時側面像、前足部が背側に持続的に転位している

B:同じ患児の背屈時側面像、距骨と踵骨の持続的な底屈を認める

Fig. 2

距骨の垂直変形を戻すために加えるmanipulationの力の方向を図で示す。足部を底屈方向にstretchしつつ、距骨頭内側面に反対方向の圧を加える。

Fig. 3

距舟関節のピンニングとアキレス腱延長の前に最大限後足部内反、前足部内転した肢位を図に示す。足部は背側の腱、関節包、皮膚が適切にstretchされているように最大限底屈した状態にする。

Fig. 4

小手術の方法である。

a:ピン固定による距舟関節の整復。踵骨は尖足位のままである。

b:経皮的アキレス腱切除術後、踵骨の尖足位は矯正されている。

Fig. 5

C:矯正後3年、右の後足部が中間位となっている。

D:背屈は他動的に25°

E:5歳時のレントゲン側面像、距骨と第一中足骨、距骨と踵骨、脛骨と踵骨の関係は正常

Table Ⅰ

レントゲン計測値を最終フォローアップ時と正常値で比較
Discussion

特発性先天性垂直距骨の治療ゴールは距骨、舟状骨、踵骨の解剖学的位置関係の正常化であり、これが治療されなければ痛みや機能障害は必発と考えられている。連続的なcast治療は軟部組織や足と足関節の背側部の神経血管構造のstretchに寄与するが、最終的な矯正には至らない。従来の広範囲の手術治療では合併症や創部のnecrosis、距骨necrosis、矯正不足、足関節や距骨下関節のstiffness、偽関節などにつながり、最終的に距骨下関節固定や三関節固定が必要となる。Seimonらは限定的な手術、つまり背側距舟関節包の開放と第三腓骨筋、長母趾伸筋、前脛骨筋腱の延長、距舟関節のピンニングを行って良好な結果を得たと報告していた。

 連続的なcast治療は適切な矯正を得るには効果不十分と考えられてきた。しかし、今回の研究ではmanipulationとcast治療および限定的な外科的処置で初期成績は良好であった。

 Manipulationとcast法はPonseti法に準じたが、力をかける方向は逆にした。解剖と変形についての完全な理解が矯正に至るには必要である。距骨頭に前足部を乗せるのに平均5回のcastが必要であった。

 一旦前足部が距骨頭上に整復されたら、最大底屈位で距舟関節のピンニングを行う。前足部が整復位で保たれれば、後足部の尖足位は経皮的アキレス腱延長術を行うことで、前足部の整復位を失うことなく矯正できる。ピンニングを行った症例で再発はなかった。

 今回の方法では良好な成績を得ることができた。診断がつき次第manipulationとcastを行うことが勧められる。矯正位が維持されるか長期フォローが必要である。先天性垂直距骨の50%は特発性なので、この方法で以前のような外科処置をしなくて済み、やわらかい足を増やし維持することができる。

《論評》
コメント参照ください。
勉強不足が露呈いたしました。苦笑

皆様からの厳しい意見をお待ちしております。

今後とも宜しくお願い申し上げます。

2009年12月17日木曜日

2009.12.17 JBJS(Am) Nov.2009. Extracorporeal Shock-Wave Therapy Compared with Surgery for Hypertrophic Long-Bone Nonunions

Background:

いくつかの研究でESWT(Extracorporeal Shock-Wave Therapy)は長管骨の癒合不全に対する外科的治療に代わるものとして勧められてきた。本研究では長管骨の癒合不全に対する2つの異なるdeviceを用いたESWTの結果と外科的治療の結果との比較を行った。

Methods:

126名の長管骨の癒合不全患者をランダムにESWT群(Group1, Group2)と外科治療群(Group3)に割りつけた。ESWT群はエネルギー束密度0.40mJ/mm2または0.70 mJ/mm2で4000 impulseの治療を4回受けた。3群間のbackgroundに差はなく、癒合不全の期間も変わらず、フォローアップ期間も変わらなかった。レントゲン結果(primary outcome)と臨床結果(secondary outcome)を治療前、治療後3か月、6か月、12か月、24か月に決定した。

Results:

3群間でレントゲン所見は違いがなかった。6か月の時点で、Group1は癒合不全の70%、Group2は71%、Group3は73%が治癒した。治療3か月後、6か月後では、臨床結果は2つのESWT群で有意に外科的治療群よりよかった。しかし、治療12カ月後、24カ月後では3群間で違いはなかった。しかし12か月の時点で1と3、2と3の間でDASH scoreは有意差を認めた。

Conclusions:

ESWTは長管骨のhypertrophic nonunionに対して外科的手術と同程度に癒合を促進し、短期的な臨床結果は改善する
Fig. 1

研究の流れ

156名が研究対象となり、30名が除外され(8名が基準を満たさず、18名が除外基準に当てはまり、4名が参加を拒否)、126名がランダムに3群に割付けされた。

Table Ⅰ

患者のBaseline

各群で偏りはなかった。

Fig. 2

実際のESWTのポジショニング

Table Ⅱ

4つのピリオドでの各群の治癒数、()内は%

Fig. 3

25歳女性の左上腕骨の症例

3-Aが治療前、3-BはESWT後3カ月で、骨折部は癒合し、患者は痛みなく機能障害はなし

Fig. 4

38歳女性の右脛骨の症例

4-Aが治療前、4-BはESWT後3か月、4-Cは治療後6か月で、骨折部は癒合し、患者は痛みなく機能障害はなし

Table Ⅲ

治療前後の各群の痛み、DASH score、LEFS scoreと、それぞれの比較

Discussion

多くのtrialによると程度の差はあるが、全て癒合不全に対するESWTの効果はあるとされている。計631名、10のhigh-qualityな臨床試験のsystematic reviewでは治療成功例は41-91%であった。

 Wangらはhypertrophic nonunionでは3か月の治療成功例は40%、6か月では61%、12か月では80%であったが、atrophic nonunionでは27%であったと報告している。他のデータとも合わせるとatrophic nonunionよりhypertrophic nonunionでshock-waveの治療成功例は多かった。ESWTのdeviceや出力が異なるため、直接様々な研究を他の研究と比較はできない。

 本研究では、atrophic nonunionでdrop-out率がhypertrophic nonunionより多かったので、atrophic nonunionが少なすぎて治療法に対する結論を引き出せなかった。Atrophic nonunionのみに焦点を絞った研究がなされることを提案する。

 3か月、6か月での早期の臨床結果の違いはshock waveが直接的、間接的に痛みのメカニズムに作用し、痛みを軽減したことにより四肢の機能が改善した可能性がある。機序はよくわかってないが、shock waveは患者の痛みの閾値を上昇させ、微小な骨折を起こすことにより骨の治癒を促進し、血流を増加させる。

Shock waveはeNOS(内皮一酸化窒素合成酵素)、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)、PCNA(増殖性細胞核抗原)などの血管由来のgrowth markerの発現を増加させ、血管新生を刺激する。

最近のin vitroの研究で、ESWTは骨芽細胞の代謝活動を増強することが示された。我々の研究では高いエネルギーレベルを用いたが、副作用なく長管骨の癒合不全に対して高い治癒率を示した。この結果はそれらのin vitroでの研究結果に合致する。

問題点がいくつかこの研究には存在する。治療していない対照群がないことが主たる問題点で、倫理委員会での承認が得られなかったため含めることができなかった。加えて、盲検が完全でなかった。放射線科医は外科治療群の患者を固定したdeviceであったり、術後のgapの変化から認識してしまうことができた。またNSAIDが外科治療群では治癒過程を阻害した可能性がある。

我々の知見の一般化可能性は限定的である。患者選択を都合よく行ったこと、ESWTのパラメータを経験的に選択したこと、癒合不全の有効な評価指標を用いなかったことなどがその原因である。

このランダム化比較試験は、ESWTが単純で、安全な長管骨のhypertrophicな癒合不全に対する外科的治療に代わる方法であることを強く提案する。この結果は確認と異なるプロトコールを調査することが必要である。

《論評》
腎結石などの破砕に使われるESWTを偽関節治療にも使ってみたというpaper.よく読むと局所麻酔をかけたりいろいろ大変な思いをして使っているよう。これだったら別にLIPUSでいいじゃんと思う。

2009年12月14日月曜日

2009.12.14 JBJS(Am) Dec. 2009 Reduction of Acute Anterior Dislocations: A Prospective Randomized Study Comparing a New Technique with the Hippocratic

要旨
背景
肩関節脱臼の整復方法にはいろいろな方法が報告されているが、それぞれの方法についてその難しさ、再現性、安全性を評価した報告はない。結局のところどの方法を選択するかということについて客観的な指標には欠ける。われわれは”FARES”となづけた新しい肩関節の脱臼整復方法についてHippocratic法とKocher法とその効果、安全性、施術中に患者が感じる痛みについて調査を行った。
方法
2006年から2008年までに173例の肩関節前方脱臼をきたした患者に対してこの研究は行われた。(骨折例も含む。)154例がすべての参加基準を満たした。来た患者をHippocratic法、Kocher法、FARES法の3つの方法のうち一つをランダムに割りつけた。1年目、もしくは2年目の整形外科研修医が整復を行い、術中の痛みをVASスケールで聴取した。
結果
年齢、男女比、受傷機転、整復までの時間が同等となった。整復の成功率はFARES法で88.7%、Hippocratic法で72.5%、Kocher法で68%であった。有意にFARES法が成功率が高かった。整復されるまでの時間はFARES法が有意に短かった。(FARES2.36分、Hippocratic法5.55分、Kocher法4.32分)。痛みについてのVASも有意にFARES法で低かった。(1.57:4.88:5.44)。合併症はいずれの群でも認めなかった。
考察
FARES法は従来の方法よりも素早く行うことができ、痛みもなく効果的な方法であると言える。一人でも容易に行うことができる。骨折を伴った例にも用いることができ、有用である。

表1 患者背景。ほとんど3群に差はない。

図1 今回の研究のフローチャート。

図2、図3、図4、図5 FARES法の実際
施術者は患者のわきに立ち、患者の手を両手で握る。肘は伸展位で前腕は中間位を保つ。次にゆっくりと長軸方向に牽引を加えながら愛護的に外転位にもってゆく。この時休みなく2から3秒くらいのサイクルで5センチ以下の動きで前後方向にかるーくゆするようにするとよい。
90度まで外転出来たら前腕を回旋させる。(愛護的に)この時も前後方向の揺れを続けることが重要である。
120度までこの状態で外転できるとたいていそこで整復される。
整復されたところで腕を内旋位にして愛護的に胸の上まで持ってゆく。

表2 各群の成績。FARES法が最も有用である。

考察
肩関節前方脱臼はさまざまな整復の方法が報告されている。今回われわれが報告したFARES法は前後方向への振動を加えながら長軸方向の牽引を加える手技のことである。Milch法とよく似ている点もあるが、対向牽引をかけない点と外旋させながら外転させるのか、われわれが報告したように90度までまわしてから外旋させるのかといった違いがある。前後方向にゆらしを加えるのもリラックスさせるために重要な技法である。
さまざまな方法が整復に有用であると報告されており、Kocher法は90%の成功率があるとする報告もある。しかしながら私たちの研究では68%に過ぎなかった。ほかにも肩甲骨移動法や過外旋法などがあり、いずれも鎮静下では有用であるとされている。しかしいずれの方法も対象数が少なく、またランダム化比較試験ではない。ランダム化された試験としてはKocher法とMilch法を比較し、Kocher法がわずかに優れているとする報告のみである。そのなかでもFARES法は出色の成績である。
この方法はまた鎮静する必要がないので経験のない術者でも可能である。
しっかりランダム化されているが盲検下での試験ではないことがこの研究の限界である。また関節の弛緩性についての評価も行っていない。それでも十分価値のある研究である。
FARES法は肩関節前方脱臼の整復方法として有用な手技のひとつである。

≪論評≫
自分自身は”zeroーposition”法で特に苦も無くはめていますので、まあ、術者の好みでいいのではないかと思いますが。一度試してみてもよいかもしれません。
ヒポクラテス法、kocher法はyoutbeにUPされていますがまだこの方法はUPされていません。
どなたか肩脱臼した患者さんにお願いしてやって動画をUPしてください。

2009年12月9日水曜日

2009.12.10 Up to date. Treatment of calcium pyrophosphate crystal deposition disease

ピロリン酸カルシウム塩の結合織への沈着(CPPD)は何かしらの臨床的な症状をきたしうる。
これらの疾患はピロリン酸カルシウムによる疾患という風に分類される。臨床症状やレントゲン写真から代わりの名前をつけられているが、その適用には限界がある。
そのようなものとして偽痛風、軟骨石灰化症、ピロリン酸関節症といった名称がある。
・偽痛風はCPPDの滑膜炎による急性の発作のみを指す。それは尿酸塩の発作と共通点がある。ただ、CPPDの発作の場合には患者は今までにそのような病歴がないといったことがある。
・軟骨石灰化症とはレントゲン写真上での硝子軟骨、線維軟骨へのカルシウムの沈着を指す。これらはたいていCPPD沈着による病気の患者で認められるが絶対の特異性があるわけでなく全部が患者に対して影響を与えているわけではない。
・ピロリン酸関節症とはCPPDの結晶の沈着によって起こされたとする関節の障害、もしくはレントゲン写真上の異常を指す。しかしながらこの名称は病態という点で正しく表現されていないが、CPPDの沈着での病因における常軌を逸した無機物リン酸カルシウムの代謝が証明させることでこの単語を使うことを正当化できるようになるのかもしれない。

要はCPPDによる疾患の名前はさまざまあるが、CPPD沈着による疾患として今後記載し、この項ではその治療についてのみ述べる。

もし、CPPDによる疾患が惹起されるような基礎疾患が背景にある場合にはその疾患の治療が優先される。

またこれらの治療については経験に基づいて述べており、コントロールされた研究が行われたわけではないことも付け加えておく。

急性の偽痛風の治療。
アルゴリズムにしたがって行う。(図1)。
・慎重な関節穿刺を行い、吸引を行う。
・NSAIDS,コルチヒンの投与を行う
・関節内ステロイド注射
・安静

推奨
可能であればいつでも診断と治療を目的として関節穿刺を行っている。ついでにステロイドの関節内注射も行っている。このとき1から2mlのキシロカインと40mgのケナコルトを混ぜて注射している。注射は肩関節を含めた大関節に行うこととしている。
上肢、下肢の小関節では量を減らして対応する。荷重を禁止し、2,3日安静にするように指示。シーネによる安静も考慮。
2関節以上が罹患している場合には関節注射はあまりよい方法でないので、痛風発作に準じた薬の投与を考慮する。その詳細については以下のとおり。
・NSAIDsまたはコルヒチンが好ましい。
・患者の年齢、状態が内服できないような状態であればステロイド、ACTHの全身投与が適応となる。しかしこの方法はより根拠がない。
・コルチヒンの静脈投与は偽痛風による炎症を減らしてくれる。ただしアメリカではコルチヒンの静脈投与という方法自体がなくなりつつある。

偽痛風の予防
偽痛風の再発予防にはコルチヒンの内服(0.6mgを一日2回)を推奨している報告がある。ということで、筆者らは2回以上の偽痛風発作がある場合にはコルチヒンを予防的に内服することをおススメしている。
0.6mgを一日2回内服すると高齢者では胃部不快感や下痢を起こす。そのような場合には1日1回に減量したりするとよい。ただし1日1回に減量したときのエビデンスはない。

慢性、進行性のCPPDの治療
急性期の偽痛風の治療が成功してもCPPDの慢性化、進行を止められるわけではないし、現在沈着しているカルシウムを除去してくれるわけでもない。現在細胞膜輸送でのアニオンギャップを阻害するプロベネシドを用いて細胞外でのピロリン酸の同化を遅らせようという興味深い研究があるが、現在進行中である。

ヘモクロマトーシス、上皮小体機能亢進症、甲状腺機能低下症などのような代謝性疾患に伴って起こるカルシウムの沈着は原疾患の治療を行うことでは石灰化をとめられない。または新しい石灰化すら生じてくる。しかし、いくつかの例では石灰化が自発的に再溶解したとする事実を報告しているレポートもある。

・低マグネシウム血症に対してマグネシウムの投与を行ったところ半月板の石灰化が消失した。
・マグネシウム製剤を内服させたら全身症状は改善したがレントゲン写真上の変化は認められなかった。

関節の変性があってCPPDである場合には変形性関節症に準じて治療する。

2009年12月7日月曜日

2009.12.7 JBJS(Am) Dec.2009 Assesment of technical skills of orthopaedic surgery residents perfoming open carpal tunnel releas surgery

要旨
背景
手が上手に動くかどうかということは妥当性のある手術技量に対する能力評価の重要な一部分を占める。手術技量を評価し、点数づけることが重要だと認識されていてもその評価方法はいまだ定義づけられておらず、またその妥当性も明らかにはなっていない。今回の研究の目的は整形外科レジデントに向けて行った4つの試験の妥当性と再現性について手根管開放術を行うことで判定をした。
方法
6つのレベルにある28人の整形外科研修医に対して死体標本を用いて手根管開放術を行ってもらった。資格を判定するのに4つの測定方法が用いられた。その1、web上で解剖、手術適応、手術の手順、手術レポートの口述、手術の合併症と入院適応についてテストを行った。その2、OSATSに参加したレジデントに対して権威ある手の外科医が2人で詳細なチェックリストスコア、global
rating scale、可か不可かを判定した。個々の評価はレジデントのレベルと同様にほかのものと関連を認めた。
結果
有意な違いを認めたのは経験年数とテストの点数、経験年数とチェックリストスコア、経験年数とglobal rating
scale、経験年数とと合格率であった。経験年数手術時間との間には有意な差を認めなかった。
考察
この結果から言えることは知識量のテストと死体標本を用いたテストでは優秀で教養のあるレジデントが抽出できるということだ。しかしながたら、知識量のテストの結果が悪かったことは実際の手術でも失敗につながったが、知識があっても上手に手術ができるわけでないということが分かった。知識のテストと実技のテストは別で行われる必要がある。

図1 試験のプロトコール 知識のテストとOSATSを別に行った。OSATSは3段階で行っている。

表1 参加者の成績。経験年数が増えるほど成績が良くなる

表2 このテストを受けるまでの参加者の手根管開放術の経験数

表3 OSATSテストの再現性 チェックリストとglobal rating scaleはテストとして妥当である。

図2 座学のテストが悪かったものは実技でもよい成績を得られなかったが座学のテストがよくても手術実技で合格点に達するわけでない。

考察
この研究は手術手技を評価する方法が妥当性があるかどうかを検討するために行われた。知識量のテスト、global rating
scale、詳細なチェックリストに基づいたテスト、合否判定のいずれの方法も経験年数に基づいた成績が得られた。このことからこれらのテストはいずれも妥当であると考えられる。知識のテストの成績が悪いことはOSATSの成績が不良であることを示唆するものの、知識のテストで合格してもOSATSで必ずしも良好な成績が得られるとは限らない。
今回の研究では一般的な手術全体で以前妥当性があるとされた方法を手根管開放術に用いて行ってみた。global rating
scale、詳細なチェックリスト、合格、不合格判定のいずれもレジデントのレベルと強い関連性を示した。知識量は卒後1年目から2年目に。合格、不合格のレベルに達するのは2年目と3年目の間に。すべての研修医は卒後3年目までに手根管開放術は成し遂げられるようになっていた。卒後2年目までの10人中9人がそのレベルには達していなかった。研究が行われた病院では手の外科を卒後3年目にローテーションするようになっている。なので卒後3年目になると手根管開放術ができるレベルに達する人数が増えるのであろう。

死体標本を用いたテストはそれぞれと関連を認めたものの、4人のレジデントでは知識量を問う試験では合格したものの、実技試験では不合格であった。知識量を問うテストでは実技がどれくらいできるかは分からない。しかしながら知識量を問うテストは手術技量を評価する前提条件として認知するための領域として重要な役割を担っている。知識量を問うテストは手術技量を評価する準備ができているか判定するためのスクリーニングツールとして有用である。しかしこのテストだけでは実技が上手にできるかどうかを判定するには実技テストの代わりになるものではない。

あらゆる方法は技術を評価する上で妥当性と再現性があることが分かった。以前の研究で言われていた一般的な手術の評価で行われるOSATS法のうちの二つが特に有用であるということがこの研究で分かった。OSATSが手根管開放術に修正されて用いられるときにそれらはよく似た結果であった。MatinらはOSATSのテストのうち3つの方法(global
rating scale、詳細なチェックリスト、可、不可判定)を用いたと記述している。global rating
scaleはたくさんの研究者によって用いられている。この方法は手術の技術評価の質的評価としてつかわれる。global rating
scaleはもっとも多くの手術の質を評価する際に使われている。この方法では安全性の測定やいかなる悪い評価をするようなところは起こらなかった。そこで筆者らは起きうる悪化する事態を記載したチェックリストをつくり、それを検者にもたせ合否の判定基準とした。
最後に手術の時間を測定したものの、この手術時間は経験年数とは関連がなかった。これは若い医者では素早く行えることができたが、専門性に欠けていたことと関連しているのかもしれない。

この研究の強みは評価項目の妥当性を評価しただけでなく、価値の高いテストのフォーマットとしてつかわれる厳格さがあると示したことです。すべての研修医は同じ2人の医師によって評価されており、言葉による助言は与えられず、同じ手術環境がつかわれたことである。

この研究の問題は二人の検者ということでバイアスがかかることである。また、検者はレジデントの経験年数を知っていた。将来的にはそのようなことをブライドとして行いたい。ほかの問題としては卒後1年目の研修医が2人しかいなかったことだ。そのうえ、行った手術が手根管開放術という容易な手術であった。もっと難しい手術の方が差が大きく出てよかったのではないだろうか。最後に、OSATSは一般的な手術に用いられる方法であるが、これを手根管開放術に用いたものは今までの研究ではなかったことだ。

OSATSの発展は整形外科教育、手術の教育の進歩の上で重要でまた必要である。腹腔鏡のようなほかの手術ではレジデントの教育で手術手技のテストが必要であるというようになっている。腹腔鏡手術では知識、周術期管理、テストにかかる時間で手先の器用さを判定している。今回の研究では手根管開放術でその評価を行った。今後整形外科手術全般で同様の評価が行われるときのフレームワークとなるでしょう。

≪論評≫
OSCIIの手術バージョンであるOSATSについての話でした。手根管開放術でOSATSで評価してみた。という方法です。教育、感染などさまざまな分野で一般外科の先生方はいろいろ考えて実行されているんだなと実感。
今後手術手技の評価は日本でも必要とされてくると思いますがOSATSという言葉を覚えておいても損はないかと。

2009年12月3日木曜日

2009.12.3 JBJS(Am) Nov.2009 Surgical Site Signing and “Time Out”:Issues of Compliance or Complacence

Background:

 自発的な皮膚へのマーキングprotocolによる効果は限定的で、手術部位の取り違えは未だcommonな問題として残っている。本研究ではJCAHO(病院認定合同委員会)の“time out”protocolの制定前後で、ある医療圏における救急および非救急患者に対する、site-signingと“time out”のコンプライアンスに関して整形外科医を調査した。

Methods:

 1つ目の研究は2006年に行われ、3か月以上の期間において48回の手術で執刀医または執刀するレジデントのイニシャルがドレーピングされた手術部位にあるかどうか記録した。2つ目の研究は翌年に行われ、231のランダムに選択された手術について同様に評価されるとともに、新たに採用された“time out”作業の履行についても行った。

Results:

 1つ目の研究では、術野をドレーピングした後、イニシャルは救急症例では67%で見られ、待機的手術では90%で見られた。2つ目の研究では、イニシャルは救急症例では61%で見られ、待機的手術では83%で見られた。“Time out”は70%の症例で皮膚切開前に行われ、皮膚切開後は19%、全く行われなかったのは11%であった。

Conclusions:

 全ての手術で術前に皮膚にサインすることと“time out”protocolの意義を整形外科医は認識すべきである。我々はこの二つの方法のコンプライアンスが100%になるように執刀医が努力することを勧める。
Discussion

 Bernsteinは手術部位の取り違えは「ほぼ間違いなく執刀医が最も恐れる失敗」とした。このため、このhuman errorを減少させるか完全になくすシステムを用いれば、患者の安全性は著明に改善する。様々な整形外科機関がskin-signing protocolを勧めており、たとえば1994年Canadian Orthopaedic Associationの“あなたのイニシャルを通して手術”の取り組み、1997年American Academy of Orthopaedic Surgeonsの“あなたの部位にサインを”の取り組みが手術部位取り違えの危険を最小限にするtoolとして勧められたが、広く普及はしなかった。Fureyらは2001年カナダの整形外科医をランダムに抽出し、聞き取り調査を行った。回答者の60%は術前の皮膚切開部のマーキングは病院のやり方でないと述べている。52%の執刀医は皮膚切開部のマーキングをいつも行い、25%は全くしたことがない。

我々はマーキングがうまくいかなかった要因、患者プライバシーの欠如など、を同定しようと試みた。我々の研究では、39例でドレーピングした後見えなくなってしまっていた。そのうち26%は股関節であった。しかし、21%は膝で、23%は下肢の他の部位で容易に受け入れることが出来る場所であった。

 2つの研究での重要な特徴は、執刀医は待機手術も緊急手術も同じ手技で行っており、サインも同様に行うことが期待されていた。しかし、四肢へサインした割合は待機手術で84-90%であったのに対して、緊急手術では61-67%であった。この違いは(1)splintがあると手術部位を同定したと仮定してしまう(その場所が正しかろうが間違っていようが)、また正しいサインへの物理的バリアともなっている、(2)救急処置の準備において術前にマークするのは執刀医やレジデントであるとは限らず、“チーム”の誰かが行うかもしれない。

研究1と2で皮膚へのサインをした割合は、待機手術、緊急手術ともほとんど違いはなかった。研究間のインターバルで執刀医のサインする手技に変化がなかった事を示している。

まとめると、1つの医療圏の4つの病院でのデータを用いて“sign your site”、“time out”の方策の受け入れが完全でないことがわかった。全てのケースで皮膚へのサインが行われていたのは70%。“Time out”では、執刀医チームにより手術部位を正しく照合することなしに手術を行ったのが23%であった。ミスを避ける確認するためのメカニズムを採用することで患者の安全性は向上する。四肢へのサインと“time out”は手術部位取り間違えのない理想に近づくことのできる方法であり、両方の方法を用いることをお勧めする。

≪論評≫
日本でもタイムアウトや手術部位サインを行うところは増えてきていると思う。しかし、タイムアウトのタイミングが適当だったり、消毒している間にサインが消えてしまったりといったminor troubleはよく起こっていると思う。そういったトラブルへの対処方法を考えて、新しく提唱できるようになるとより安全な手術が提供できるのかも。