2016年8月20日土曜日

20160820 BJJ Surgical outcomes of primary hip and knee replacements in patients with Parkinson’s disease

パーキンソン病の患者さんに人工関節置換術をするとどうなるか?という論文です。

調べてみると結構少ないですね。こういった合併症を有する患者さんについてその人工関節の成績がどうなのか?というのはまだ戦う余地があるのかもしれません。

パーキンソン病の患者さんは脱臼しやすいですよ。長期の生命予後も不良ですよというのが論文の要点です。

以下本文。

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フィンランドの人工関節レジストリー。857例のParkinson病の患者を対象として、2571例のマッチさせたコントロール群を抽出。平均フォロー期間は6年。パーキンソン病の患者の平均入院期間は長く、術後脱臼の可能性が高かった。(ハザード比2.33)。感染率、再置換率、1年後の死亡率には差がなかった。パーキンソン病の患者の死亡率は高く、術後10年での平均生存率は34.7%であった。パーキンソン病の患者では心血管イベント、精神的な合併症が入院期間の延長と関連し、心血管イベントの存在が死亡率と関連していた。

Introduction
パーキンソン病はドーパミンの欠乏による神経難病である。60歳以上の1から2%に出現し、高齢化とともに増加する。運動障害はドーパミンの投与によって改善が得られるが、機能障害は徐々に進行していく。疾患によるものだけではなく、パーキンソン病の患者では筋骨格系の異常が生じることがある。変形性関節症はパーキンソン病の患者の慢性疼痛の主要な原因である。超高齢者においても人工関節置換術は有効であると報告されているもの、パーキンソン病に限っての報告はほとんどない。またこれらの報告は1970年台から1990年台に行なわれた手術の報告である。本研究ではパーキンソン病を有した患者でのTKA、THAの臨床成績を人工関節レジストリーを用いて調査することである。

Material and Methods
フィンランドの人工関節レジストリーを用いて行った研究。1998年から2009年まで。術前にパーキンソン病と診断されている患者を対象とした。リウマチなどの他の関節疾患を有している患者は除外した。2回以上の手術が行われている場合にはより最近の手術を対象とした。フィンランドでは慢性疾患に対して保険が適用されるので、その診断については確かなものである。1人のパーキンソン病の患者に対して3例のPrimary THA または TKAの患者をコントロールとして抽出した。抽出の方法としてはPropensity Scoreを用いた。入院期間、脱臼率、再置換術を調査した。
入院期間は正規分布でなかったためU検定を行った。90日、180日、1年での感染、脱臼、再置換術、死亡率に関してはカイ二乗検定を用いた。Kaplan-meier検定とCox hazardを行った。

Results
297例のTHA,560例のTKAがパーキンソン病の患者に対して行なわれていた。パーキンソン病と診断されてから手術までの年数が5.2年。6例が手術時にパーキンソン病に関わる認知症を発症し、97例が経過中に認知症を発症した。
パーキンソン病の患者では、入院期間が9日間と一般的な入院期間である7日間よりも長かった。術後90日たっても入院している割合はパーキンソン病の患者で多かった。感染率には差がなかった。
THAの関節生存率は、術後1年で98%、術後3年で96.8%。TKAの生存率は1年で98.6%、3年で96.3%であった。術後3年の時点で再置換術に至った症例はなかった。術後2年の時点での再置換率の危険率は対象群とコントロール群で差がなかった。術後2年を経過すると数例で再置換が必要となる例が多く、その原因は脱臼もしくは感染であった。
18例、6.1%でTHAの脱臼が生じた。この割合はコントロール群よりも大きかった。特に術後早期の脱臼が多かった。
術後1年までの死亡率には差がなかった。しかしながら長期に経過観察すると術後5年で75.1%、術後10年で34.7%しか生存していなかった。
パーキンソン病の患者では男性よりも女性で入院期間が延長し、また高齢者ほど入院期間が長い傾向にあった。心血管疾患、うつ、精神疾患などが経依存症として存在すると入院期間が延長した。これらの因子は再置換とは関連しなかった。認知症の発生は予後と関連を認めなかった。
高齢、男性、心血管疾患、糖尿病が存在すると生命予後が不良であった。
年齢、性別を調整すると、脱臼、生命予後にパーキンソン病が影響していることがわかった。

考察
パーキンソン病はTKA,THAの周術期の死亡率を増加させないものの、一般的な人工関節置換術と比べて、脱臼率、入院期間の延長が認められた。パーキンソン病の患者ではその長期の生命予後は不良である。精神疾患の悪化、心血管イベントの発生が入院期間の延長と関連していた。
本研究の強みはN数が多いことである。またパーキンソン病の診断が確立していることである。
本研究のLimitationは疼痛の改善、機能予後などについての評価が行えていないことである。
他の研究でパーキンソン病でも臨床成績は悪く無いとする報告があるので、本研究でもそれほど悪く無いであろう。また術中骨折などの術中合併症についての評価は出来ない。また患者の栄養状態、パーキンソン病の状態についての情報も欠如している。
パーキンソン病の患者で感染が増えるとする報告があるが、本研究では優位さを認めなかった。
脱臼率はコントロール群の2倍の6%だった。
術後早期の死亡率もコントロール群と差がなかった。ただし、長期の生命予後は不良だった。これは心血管疾患が関与している可能性がある。

2016年8月7日日曜日

20160807 JBJS(Am) The effect of Risser stage on bracing outcome in Adolescent idiopathic scoliosis

本邦でも「運動器検診」なるものが導入され、側わん症が検診の先生方によって発見される機会が増えています。
二次検診目的にご紹介いただくことが多いのですが、市井の一整形外科医がどのタイミングでどのような患者さんを脊椎専門医にご紹介するかはなかなか悩ましいところでした。
本研究によって
1)Cobb角25度以上
2)RisserStageがもっとも重要である。
3)加えてY軟骨の閉鎖の有無も確認すること。
というのが1つの指標として得られましたので、それを指標として脊椎専門医にご紹介したいと考えました。

Risser stage (SRSのホームページより)

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  • 特発性側弯症(AIS)の患者において手術療法が必要となった患者において装具療法のコンプライアンス。Risser Stage,骨成熟度合いとの関連を調査した。
  • 168例の患者。ブレースが不要となるまでもしくは手術となるまでフォローした。適合基準はCobb角が25度から45度。Risser Stageが0,1,2のいずれかである。体温計を用いてコンプライアンスを測定した。
  • 50度で手術適応とした時に、Risser Stageが0の患者では44.2%が、Stage1の患者では6.9%、Stage 2の患者は0%が手術適応となった。
  • 装具のコンプライアンスはRisser0,1,2の患者でそれぞれ11.3時間、13.4時間、14.2時間であった。最初の側弯の程度は3群で変わらなかったものの、Risser0の患者で手術に至る割合が多かった。Risser0の62例中41.9%で12.9時間以上ブレースをつけていても手術となった。Risser0でもY軟骨が閉鎖し、18時間以上装具を装着していた10例では手術になった例はなかった。対照的に同じだけ装具を装着していても、Y軟骨が閉鎖していないRisser0では10例中7例が手術治療に至った。Risser0でY軟骨が閉鎖していない9例で、最初の観察時のCobb角が30度以下で、12.9時間以上の装具の装着を行っていた群では7例が手術治療に至らなかった。
  • Risser0は装具を装着していたとしても側わん症進行のリスクである。一般に推奨される12.9時間以上の装具装着でも側弯の進行を抑えることが出来なかった。
  • またY軟骨が閉鎖していない群は最高リスク群である。特に最初の測定時にCobb角が30度以上でY軟骨が閉鎖していない群では18時間以上の装具装着を勧告すべきである。Y軟骨が開いていて、Cobb角が30度以下、Risser0では装具を積極的に用いるべきである。
  • はじめに
  • BRAIST(Bracing in adolescent idiopathic scoliosis trial)の報告によれば、特発性側弯症(以下AIS)の患者において、装具治療を行なわないと52%が手術治療が必要となるものの、装具を用いるとその率を28%まで低下させることができる、となっている。その報告では12.9時間以上の装着で90−93%の手術を防ぐことができると報告している。
  • しかしながらAISの患者の装具療法においてはそのコンプライアンスが問題となる。体温計を装具につけて測定したところ、ほとんどの患者が指示されたとおりに装具を装着することは無く、16%の患者が言われた時間の半分程度なんとか装着していたと報告している。しかしながら、一日の半分程度装着していれば装具療法としては有効であるとする報告もある。
  • 本施設では装具の着用を推進してきた。しかしながらRisser Stage、Y軟骨閉鎖を含めた骨成熟と装具療法との関連はわかっていないので、本研究では前向き研究で骨成熟と装具療法との関連を調査した。
  • 結果
  • 222例のAISの患者170人が研究に参加し、168人が研究を完遂した。
  • 平均年齢は12.3歳。Cobb各は33.8度
  • Risser Stageは0が120例、1が29例、2が19例であった。Risser Stageが0の内、46例でY軟骨が閉鎖前であり、74例でY軟骨が閉鎖していた。
  • Risser0の120例中53例、44.2%で進行が認められた。Risser1では6.9%、Risser2では0%であった。開始時の側弯の程度に有意差はなかった。
  • Risser0では装具をしているにもかかわらず手術になることが多かった。
  • Risser0の内、Y軟骨が閉鎖している74例では手術に至ったのは32.4%であったのに対し、Y軟骨が閉鎖していない46例では63%で手術が必要となった。
  • 装具の装着時間について全群で差はなかった。
  • 装具装着時間12.9時間を閾値としてRisser0を2軍に分け、手術に至ったかどうかを調べたところ装着群で62例中26例で手術が必要となり、装着できなかった群では58例中27例で手術が必要となり。有意差を認めなかった。Risser0で12.9時間以上の装具をつけたかどうかは手術に至るかどうかで影響しなかった。多変量解析を行ったが装具装着時間はRisser0については独立した説明因子とは成り得なかった。
  • Risser1について、6時間以上装具を装着している群では手術に至った例はなかった。Risser2では手術が必要となった例はなかった。未治療群がないので、Risser2で装具の有無がどう影響するかを評価することは出来ない。
  • Risser0または1で、初診時のCobb角が25−29度の患者で手術に至るのは12.8%であった。Risser0でY軟骨が閉鎖していない群ではCobb角が25−29度の症例12例中4例33.3%で手術が必要となった。
  • 30−39度の患者では30%の患者で手術が必要であった。Risser0に限れば46.3%で手術が必要でまたY軟骨閉鎖前では70%で手術が必要となった
  • 40−49度の患者ではRisser0では69.2%の患者で手術が必要となった。Y軟骨が閉鎖していなかった4例では全例が手術が必要となった。
  • 最後に装具装着時間と手術について検討を行った。15時間以上の装着をしているにもかかわらず、Y軟骨閉鎖前では54.5%の患者で手術が必要となった。18時間装着していた10例では7例で手術が必要となったが、カルテを見てみると全例が33度以上の側弯を有していた。反対にY何kの栂閉鎖した10例のRisser0で18時間以上の装具を装着していた例では手術に至った例は1例もなかった。
  • 考察
  • 側弯に対する装具療法のサンプルサイズの大きなコホート研究である。
  • 本研究のノイエスはY軟骨閉鎖の有無によって治療効果が異なることを示したことである。
  • BRAISTでは装具療法の有効性を明らかとした。本研究ではそれを詳細に検討している。
  • 研究のLimitationとしては装具の種類がTLSOしか無いこと、1人の賢者によってしかレントゲン評価がなされていないことである。