2010年11月22日月曜日

20101122 Osteoporosis international.  Oral bisphosphonates are associated with reduced mortality after hip fracture

静注のビスフォスフォネートが大腿骨頚部骨折後の死亡率を下げることはよく知られている.今回は209人の患者を対象に、経口のビスフォスフォネートを投与して死亡率が下がるかどうかを検討した.相対リスクで8%の死亡率の低下を認め、一年間においては60%の死亡率の減少を認めた.

はじめに
静注用のビスフォスフォネートが大腿骨頚部骨折後にその死亡率を下げることは知られている.今回は経口のビスフォスフォネートで死亡率の減少や新規骨折の予防が可能かどうかを検証した.
方法
220人の患者を無作為に2群に分けた.110人に対して骨量を測定し、ビスフォスフォネートの内服を始めた.3年間にわたって経過観察を行った.
そして死亡率、新規骨折の発症率についての調査を行った.
結果
最終的にフォロー可能であったのは209人であった。65%が女性。50%が75歳以上。43%が何らかの認知症を有し、18%がやせ型であった。
36%の患者で骨脆弱性骨折の既往があり、81%の患者が骨粗鬆症であった.
101名の患者(46%)が骨粗鬆症の治療を開始し、そのうちの64%が最終評価時まで内服を継続した.
最終的に11%の患者が死亡し、9%の患者が再骨折を来した.
無治療群と治療群を比べると、16%と7%で有意に死亡率が下がった.
結論
経口のビスフォスフォネートも死亡率を下げたり、再骨折の予防に働く。

考察
HORIZONstudyで静注のビスフォスフォネートが頚部骨折のあとに死亡率を下げたり、再骨折を減らすのに有用であることが示された.そこで今回は経口のビスフォスフォネートで検証したところ、月8%の相対危険率の減少と60%の全体の死亡率の相対危険率の減少を認めた.(HR=0.92)
特にこの死亡率の減少は高齢の男性、やせがたの群で顕著に認められた.一般にこのような研究では、ビスフォスフォネートを飲めるのは健康なひとだけであったり、不必要なヒトに飲ませたりといったことがあるが、今回はそういうことはなかった。
この研究は患者背景をほぼ同一にし、ビスフォスフォネートが内服できるような健康な患者さんをえらんだことに意義がある.今までは無作為抽出ではない研究が数本あるだけであった.
この研究の限界は幾つかあり、一つは健康な比較的若い老人ばかりを対象としたこと、もう一つがほんとうにビスフォスフォネートのおかげで死亡率が下がったとは言い切れないことである。3爪にはどれくらいビスフォスフォネートを飲めていたかのデータがないこと、また骨量に関するデータもないことが問題であろう.
ビスフォスフォネートが死亡率を下げる、というのはいくつかの機序が提唱されている.一つはスタチンのような機序で動脈硬化に影響する、貪食細胞などの免疫系に作用する、あとはホルモン剤に似た働きをするのではないかと推定されている.
いずれにしてもこの研究でハッキリと死亡率が下がるということを示したことに意義がある.

<論評>
考察で筆者が述べているとおりだと思います.
高脂血症の治療では、その患者のリスクを考えて薬を処方すべし、となっております。骨粗鬆症の治療もまた然りではないでしょうか.
骨折をして、再骨折のリスクが高いこのような群で差が出ているので、このような対象にある患者に骨粗鬆症の治療は与えられるべきではないでしょうか.

2010年11月13日土曜日

20101113 JBSJ(Am) Surgical Versus Functional Treatment for Acute Ruptures of the Lateral Ligament Complex of the Ankle in Young Men

活動性の高い若者の3度の足関節外側靭帯複合体の損傷に対しては手術治療を勧める意見もある。今回の研究の目的は足関節外側靭帯複合体の手術治療の長期予後について調査することである。
対象と方法
足関節外側靭帯複合体の3度の損傷をきたした活動性の高い平均年齢20.4歳の男性で調査を行った。無作為に手術治療群25例と保存治療群26例とに分けた。ストレス撮影にて診断を確定した。手術は受傷後1週間以内に靭帯再建を行った。6週間のB/Kギプスで荷重制限なしとした。保存治療は3週間の装具装着とした。最終評価では足関節スコア、X線写真上の変化、MRI所見について比較を行った。
結果
フォローアップ率は手術群が60%、保存治療群が69%であった。両群とも受傷前の活動レベルに復帰し、走ったり歩いたりが可能となっていた。再受傷の割合は手術群が1/15、保存治療群が7/18であった。足関節スコアは両群に有意な差はなかった。ストレス撮影でも両者に差はなかった。二次性の関節症変化は手術群で4/15、保存治療群で認められなかった。
結論
受傷前の競技レベルに復帰する、ということでは手術治療でも保存治療でも変わりはなかった。しかし、手術治療を行った方が再発率は低く、それに伴うかは不明であるが、二次性の関節症変化をきたす事が分かった。


考察
14年にわたる長期フォローの結果としてこの論文は意味がある。
手術をしても、装具で治療をしてもどちらでも受傷前の運動レベルに復帰という目標は達成されていたが、再発率は明らかに手術治療群が低かった。しかし、長期的に関節症変化をきたす例が多かった。
この研究は患者背景がよく似ており、14年もフォローしたことが研究自体の強みである。また、軍人をフォローしたので、もっとも高レベルのアスリートというわけではないが一般男性よりも激しい運動をする群での研究であり、また、無作為割り付け試験を盲検で行う事が出来た。
サンプルサイズが小さい事と、脱落者が多い事がこの研究の問題である。また受傷後の処置に差がある事、足関節スコアが15点満点で差が出にくい事が考えられる。

今までの研究では足関節の外側靭帯複合体に対する治療は、一般的には手術治療と保存治療に差がないものの、高レベルでのアスリートにおいては手術治療の方が好ましいとする報告があった。この報告ではある程度レベルが高い群でもどちらを選んでも差が無い事が分かった。

再発率は手術治療群の方が低かったが、保存治療群で再発率が高いにも関わらずその復帰レベルが手術群と変わらない事は注目に値する。ひょっとしたら足関節ねんざの再発はアスリートにとっては大した問題ではないのかもしれない。主観的評価と客観的評価の違いも興味深い結果となっていた。保存治療群では客観的には大した事が無いにも関わらず、主観的評価としてgiving-wayをなんども繰り返したとする患者が多かった。これは”reinforcement bias”としてとらえられる。これは保存治療群が最高の治療が受けられなかったと後悔しているとのべていることからもわかる

関節症変化が手術群に多くみられたが、これについてはさらなる研究が必要である。

<論評>
面白い論文だったと思います。結局手術治療と保存治療には大きな差がない。というのが結論です。
しかし、高いパフォーマンスを要求されるようなアスリートにおいては不安感だとかそういったメンタルの問題がプレーの質に影響しうるので手術すべき、というのが僕の意見です。

EBMとは目の前の患者さんにいかにこの論文を適応するかである。という事をはっきりとさせてくれたという意味でもよいと思います。

2010年11月10日水曜日

20111110 Up to date Management of diabetes mellitus in hospitalized patients

まとめ

糖尿病患者の入院はよくあることである。また入院した糖尿病患者の血糖コントロールは病状、環境の変化などにより不安定になりがちである。

目標血糖値
・入院中の患者では高血糖の是正と予防が必要となる。しかし、その目標値についてはまだ議論の余地がある。non-criticalであるようなたいていの場合において入院中の糖尿病患者の血糖値は食前140㎎/dl以下、随時血糖180mg/dl以下になるよう推奨している。(Grade 2C)
non-criticalな病態で入院しているような糖尿病をもった入院患者での満足できるようなエビデンスはない。血糖を低く保ったほうが臨床的にpoor outcomeを減らすかもしれない。しかし、どうじに低血糖となる可能性が高くなる。低血糖を起こさないようにするためには空腹時血糖を90-100mg/dlに保ったほうがよい。

入院前から適切にコントロールが行えていた群ではより厳しく血糖コントロールを行うべきであろうし、高齢者や、重症の併存症をもった患者では目標値は高めに設定し、低血糖となるリスクを回避すべきである。

2型糖尿病
・食事療法中の患者では、特に介入の必要はない。頻回の血糖測定を行ってもそれが高血糖を防ぐことになるかどうかは不明である。
・経口の糖尿病治療薬を内服中の患者については、食事がとれていて、内服が可能であり、血糖コントロールがついているのであればその内服を継続させる。しかし、血糖コントロールが不良な例や経口が不可能な場合についてはインスリン治療に切り替える。(アルゴリズム1を参照)
・インスリン治療は落ち着くまで継続する

1型糖尿病
・1型糖尿病の患者では食事の摂取の有無にかかわらずインスリンの投与が必要となる。皮下注、または静脈内注射でおこなう。皮下注の場合にはスライディングスケールを用いてはならない。超長時間作用型を基礎代謝として速効型インスリンの投与などで調整を行う。
・静脈内投与を行う場合には必ず入院で行い、1から2時間ごとの頻回の血糖測定を必要とする。

http://www.nishiizu.gr.jp/intro/conference/h19/conference-19_03.pdf

糖尿病の管理について自分で行わなければいけないので、Up to dateを読んでみました。
じつはこの元ネタは西伊豆病院の仲田先生が元ネタをよんでいらっしゃいました。
なので添付させていただきます。

2010年11月1日月曜日

お世話になっておりますので、ご紹介。

岡山大学 脊椎外科の 杉本先生の ブログです、

整形外科医のための英語ペラペラ道場
整形外科医が海外で活躍したり、論文を書いたりすることを支援するブログです。

http://seikei-eigo.blogspot.com/

これだけ高いモチベーションを持って働いている先生がいる!といつも刺激を受けています.
現在ミラノに留学中とのこと。
食べ物トークに花が咲いておりますが、太らずに帰ってこられることを祈念しております.笑

20101101 JBJS(Am) What' new orthopaedic trauma open fracture wound management and infection

デブリードマンを開始する時間が遅くなればなるほど開放骨折の感染率が上がる、というのはいまだに議論されている。LEAPの調査結果によると受傷から手術開始までの時間は感染成立の予測因子とはなりえないことが分かっている。しかしながら受傷から外傷センターに搬送されるまでの時間は感染成立の重要な因子となっている。しかしこのことは開放骨折のときに緊急にデブリードマンをしなくてもよいということを言いたいわけではない。本研究の中で対象となった患者達はその全身状態に応じて可能な限り与えられるべきだけの治療がなされた上で評価がなされている。なのでコントロール群として人手や施設を理由とした”遅れた”デブリードマンが行われた症例はない。同じ理由で早くデブリードマンをすると感染率が下がるということを本研究で言うこともできない。

VAC療法(Vacuum assisted closure)は、特に有用であるという報告がなされないまま、開放骨折に対して一般的に用いられるようになってきた。Stannardらは、重度の開放骨折に対して最終的な創部閉鎖を行うまでの期間をランダムに、陰圧療法と生食ガーゼ群に分け比較してみた。その感染率は陰圧療法群が5.4%で、生食ガーゼ群が28%であった。またSF36でもこの2群には有意な差が認められた。VAC療法は今後有用な治療となりうる可能性がある。

糖尿病は骨折手術のリスクファクターとして認識されている。Karunakar and Staples は110人の外傷患者でストレスによって惹起された高血糖の影響について検討している。この研究では肺炎を含め、25%の患者で感染の成立が認められた。 hyperglycemic index が3以上の患者の64%で感染が成立した。( hyperglycemic index が3以下の患者では21%であった。)。ストレスによって惹起される高血糖は感染のリスクファクターとなる可能性が示唆された。今後はこの高血糖を是正することで感染率が低下するかどうかを検討する必要がある。

偽関節を見た場合には感染の可能性を考えなければならない。偽関節の患者で血液検査、コロイドスキャン、術中の凍結検体のフォローを行った研究がある。偽関節の患者の31.6%が感染によるものであった。コロイドスキャンの感度は19%に過ぎなかった。白血球数、血沈、CRPの上昇はそれぞれ感染成立の陽性尤度比の上昇に帰しており、3つの項目すべてで上昇がみられた時の陽性尤度比は100%であった。これらから考えると、感染の危険が高い患者に対しては血液検査と術中凍結標本の提出が必要であることがわかる。