2010年12月19日日曜日

20101219 JBJS Clinical impression vs. standard questionnaire : the spinal surgeon's ability to assess psychological distress

抄録
精神疾患は脊椎手術の術後成績に影響を及ぼす。一般的な脊椎外科医は精神疾患の一般的な評価方法を使用せずに自分の感覚にたよるところがある。今まで脊椎外科医が精神疾患をもった患者を適切に評価できるかどうかと言うことについて調べた報告はない。今回脊椎外科医は正しく精神疾患を評価できないのではないか、という仮説を検証してみた。
方法
8人の脊椎外科医、うち4人は手術を普段行なっている医師で、4人は脊椎を専門としているが手術をしない医師に対して400人の患者の診察を行ってもらって評価をしてみた。すべての患者にDRAM(Distress and risk management)を行い、これを対照とした。8人の脊椎外科医にはこの結果を知らせずにいつもと同じように診察を行ってもらい、患者の精神疾患のレベルについて評価してもらった。その上でDRAMとその脊椎外科医の評価を比較してみた。
結果
400人の患者のうち、64%が精神疾患を抱えていることがわかった。全体の24%ではその精神疾患はより重度なものであった。重度な精神疾患に対する脊椎外科医の診断の感度は28.7%で、陽性的中率は47.2%であった。手術をしない脊椎外科医の診断の感度は41.7%で、普段手術をしている脊椎外科医の診断感度が19.6%であることの間には有意な差が認められた。
経験の長い医師と短い医師との間には優位な差は認められなかった。
結論
脊椎疾患を訴えて専門医を受診する患者の64%が精神疾患を抱えていることがわかった。質問紙法と比べてみると脊椎外科医の感じている精神疾患の頻度は低いことがわかった。精神疾患を適切に判断するためには質問紙法を用いたほうが良い。

考察
ヒトのこころと体はつながっていて、体調や精神状態は病気の状態や社会的な背景に左右されると言うことはよく知られている。患者の精神状態は同様に治療の結果に影響を及ぼし、治療の結果も病態生理にかかわらず患者の生活に影響を及ぼす。これらは治療成績に精神的な要素が影響すると言う事を指し示す。精神疾患があると脊椎の術後成績に影響を及ぼすと言うことも今までいくつか報告されている。その影響についてはDRAM法によって調査することができるが、多くの脊椎外科医はその潜在的なリスクに対しての認識が少ない。
今回の研究では脊椎外科医の”感覚”がどれくらい患者の抱えている精神疾患を判定することが可能か、ということを明らかにするものである。その結果は、DRAMで評価されたものよりも脊椎外科医の感覚は正確ではない、と言う事である。とくに高度の精神疾患を抱えている患者に対しての正確性が低くなった。精神疾患を抱えていない群での正確性は高かった。結局脊椎外科医の感覚では高度の精神疾患を抱えているヒトを少なく見積もり、精神疾患を抱えてないとするヒトを多く見積もる傾向があることがわかった。
今回高度な精神疾患を抱えているヒトの割合が22%という事であったが、他の報告でも23%ー29%であり、決して高い数字ではなかった。
手術を普段しているか、していないかで評価した場合、手術を普段していない医師の方がより正確に精神疾患を診断できた。これは手術をしない医師のほうが精神疾患の有り様について深く考察するからではないだろうか。手術をする脊椎外科医はうつ領域と、身体領域の二つに分類しがちであることもわかった。ただ、陽性的中率は手術をする、していないでは差が出なかった。
医師の経験の差では差は出てこなかった。どちらかというと個々の医師に依存している傾向があった。
DRAM法はあくまでも精神疾患のスクリーニング法で病気のすべてを理解する方法ではない。また脊椎の状態と精神疾患をつなぐものでもない。ただ精神疾患と脊椎疾患のいずれにもアプローチすることは必要である。治療方針の決定には何らかの方法でのスクリーニングを行ったほうがよい。

<論評>
脊椎疾患に精神疾患が合併しやすいのは事実である。と言うことが一つ。精神疾患の状態を正しく見極めて
適切な治療が提供できるようにする。時には手術よりも投薬の方が良いかもしれない場合を念頭におくと言うことでしょう
ただ良心的な医者ほど自分の手術でなんとか出来れば、と考えてしまうために重症の精神疾患があっても低く見積もるのではないかとも思います。
一人当たりにかける時間が日本の数倍のアメリカの外来でもやれるかどうかわからない、と書いてあるので、多分忙しすぎる日本の外来で実施することは非常に困難ではないかとも思います。

2 件のコメント:

  1. 64%!非常に高いですね。迷うのは、脊椎疾患が間違いなく本物で、精神疾患も間違いなく本物、という場合です。治療をして効果があるだろうという思いがあるものの、そのアウトカムがはたして患者自身の満足度につながるかどうかの自信が持てない、という時ですね。でも、実際には精神疾患をわれわれがunderestimateしているのであれば、本当は知らず知らずに精神疾患を合併しているにもかかわらず治療を行い、それで何のトラブルも生じていない、というときもあるのでしょうね・・・・

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  2. >守礼さま
    コメントありがとうございます。
    治療の効果と満足度との乖離はしばしば経験することでもあります。
    そのギャップを少しでも埋めるために、一つはこういった多方面からのアプローチが必要だと考えますし、もうひとつは治療成績の評価をJLEQのような患者立脚型のものに置き換えることを行って行かないといけないのかな。と個人的には考えています。

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