2009年11月11日水曜日

2009.11.11 Up to date. Approarch to diagnosis and therapy of deep vein thrombosis

今回は以下について述べる
・DVTの鑑別診断と、DVTのリスクとなるものは何か。
・DVTを診断、除外する最もよい方法は何か
・DVTの初期治療はどうするべきか。いつ入院が必要でなくなるか。
・DVTの長期間の治療に関するおススメ
・凝固亢進性が家族内にあるか

患者情報は別項にて述べる。小児のDVTも別項にて述べる。上肢のDVTも別項とする。
今回は成人の下肢DVTについてのみ述べる

Longitudinal Investigation of Thromboembolism Etiology
(LITE)にて21,680人の参加者でVTEについて平均7.6年前向きに調査した。
・年齢調整を行うと発生率は1.92人年。男性のほうに起こりやすい。男女とも年齢の上昇と共に発症率が増加。
366例のうち191例の二次性に発症したVTEの大半に何かしらの基礎疾患が存在していた。癌が48%、入院が52%、手術が42%、多発外傷が6%である。48%の患者では先立つ外傷、癌、安静状態がなかった。
1102人でロジスティック回帰分析をした結果
・急性の感染症がある
・75歳以上
・癌
・DVTの既往
がDVTのリスクを有意に高くする。

初期対応
DVT診断のためのアルゴリズムを示し、同時に治療についても示す。正しい治療が行われないと致死性の肺塞栓に至るし、また不必要な治療を行うと致死的な出血性の病態を示すことがある。
危険因子
・入院、安静状態
・最近手術をしたことがある。
・肥満
・DVTの既往がある
・下肢の外傷
・担癌状態
・経口避妊薬、ホルモン置換
・妊娠、閉経後
・脳卒中

病歴
古典的には患肢の腫脹、疼痛、変色がDVTの症状として言われている。症状の出ている場所と血栓のある場所との間には関連はない。ふくらはぎの腫脹だけでより近位に血栓があることがある。下肢全体の腫脹なのにふくらはぎのところにしか血栓がない場合がある。
発症年齢、以前発生した血栓の場所、血液検査の結果、家族歴などを聴取する。家族歴の聴取が結構重要で1桁発生率が変わる。
後は最近発生しやすい病態になかったかどうかを確認する。手術、外傷、妊娠、心不全、安静状態。女性は肥満の状態だけでなくピルを内服していないか、ホルモン置換療法を受けていないかについて聴取する。習慣流産は何かしらの凝固以上が背景に隠れている事がある。
血管線維性の異常がないか、骨髄異形成症、動脈硬化性病変など。ヒドララジン、プロカインアミドの内服がないか調べてみる。
癌についてもスクリーニングを一通りかけておくことも必要となる。

特殊な病態
・若年者の繰り返すDVTには下大静脈の奇形がある
・左腸骨静脈の動脈との交差部でMay-Therner症候群として血栓形成がある。

身体所見
診断は静脈が弾力性を持っていること、下肢の疼痛、腫脹、下肢の周囲径の違い、熱感、圧痛、表層静脈の腫脹などから行う。
静脈系に重点を置いて系統的に全身の診察を行う。下肢の腫脹はないか、静脈の走行に沿って大腿部に疼痛を生じることがある。下腿では静脈をふれる事はあってもホーマンズ徴候は明らかでないことも多い。
しかし、これらの検査はいずれも特異度がひくく、DVTの診断のために行ったメタアナリシスで下腿の周囲径のみがDVTの除外診断に有効。下腿の腫脹がないこと、周囲径に差がないことがDVTを除外診断するのに唯一有効。後に示すWellスコアなどは有効でなかった。
したがって更なる検索が必要となる。

有痛性青股腫は珍しい病態で下肢静脈全体にわたって血栓が形成され、治療されないと下肢切断にいたったり致命的になることがある。

DVTでは癌の検索をする必要があるが女性では骨盤内臓器の検索。あとは直腸診。便潜血も考えられる。費用対効果は明らかになっていないのでルーチンで行うかどうかはよく考えて。

血液検査としては血算、血小板数、凝固能。腎機能。尿検査を行う。50歳以上の男性だったらついでにPSAを測定してもよいかもしれない。

DVTの鑑別疾患
肉離れ 40%
下肢の麻痺 9%
リンパ還流不全 7%
静脈不全 7%
ベーカー嚢腫 5%
蜂窩織炎 3%
膝の変形 2%
よくわからない 26%

蜂窩織炎 静脈還流不全の合併症として起こることがある。
表層の静脈血栓症ではよく静脈を触れる
リンパ還流不全は特発性浮腫の原因として重要である。
ベーカー嚢腫は変形性膝関節症にともなって出来る膝裏の関節液のたまりである。
膝の所見をとることも重要
薬剤誘発性の下腿腫脹;カルシウム拮抗薬などで両側に腫脹が来ることがある。

DVTの診断
DVTを疑ったらまず行うべき検査は超音波である。アルゴリズム1を参照
d-dimerの測定だけでは不十分。d-dimerが低かったらその存在を否定しやすくなる。
圧迫法による超音波検査ではその陽性的中率は94%。臨床的に疑わしいのに検出できないときには5-7日後に再度エコーを当てる。施術者の技量に大きく左右されるので注意が必要。
静脈造影は行ってはいけない。
d-dimerと超音波の組み合わせはよい。

DVTの診断のためにWellsのスコアがある。(図2)
陰性かどうかするには非常に有用であるが、あるかどうかとなると少し心もとないところがある。

凝固亢進状態の診断
コーカサス系の人たちは60%でリスクが高い。何かひとつDVTが起こりやすい状態があればそのリスクは5割り増し。
・プロテインS欠損症、第5因子欠損症
・整形外科手術
・癌のような全身性の病態。

どういうときにプロテインSを測るか
コンセンサスはない。しかし図4の状態にあるような人のときには測ったほうがよい。
・リスクのない50歳以下での特発性DVT
・DVTの家族歴
・繰り返すDVT
・門脈、肝静脈、腸間膜、脳など変わったところに起こるDVT
・ワーファリンで皮膚壊死がおこったというエピソード。

スクリーニングの価値
・前もって何かリスクとなるような疾患がないかと調べてもDVTの再発の最大のリスクファクターはDVTを起こしたことがあるかどうかである。
・一度DVTを起こせばワーファリンによる治療を凝固亢進するような病気があってもなくても続けるので調べても。。。
・家族に対してその情報を用いたとしても症状を有さない人に対する予防の有効性は確立していない。

DVTの治療
治療の基本
・血栓の伸展予防
・肺塞栓を起こさない
・再発リスクの減少
・有痛性青股腫のときにはその治療
・塞栓後症候群、静脈還流不全の予防。慢性肺動脈高血圧症の予防

抗凝固療法は症状のある近位型DVTに対して行う。これは治療しないと50%が肺塞栓になる。

治療は2008年のACCPガイドラインに沿って行ってください。
・急性期の治療は低分子ヘパリン、アリクストラ、クレキサンなどで行う
・必要量は製剤によって異なる。
・非分画ヘパリンはAPTTが1.5-2.5倍になるように設定。
・ヘパリン、アリクストラ、クレキサンは最低5日間は投与。経口の抗凝固薬も4から5日間は併用する。
ヘパリンにはワーファリンがよく併用される。まずはじめは5mg/日から。高齢者などでは少量投与法というのもある。2日間連続でINRがいいところまできたらヘパリンは5,6日目に中止。
未分画ヘパリン使用の際には血小板減少症に注意を要する。
血小板数が10万を切ったらヘパリンを中止する。
外科的手術は血行動態が不安定な肺塞栓の患者、腸骨静脈から大腿静脈にかけて大きな血栓がある場合に選択される。下大静脈フィルターは手術適応がないような場合、肺塞栓のリスクが極めて高い場合に行われる。適切に抗凝固療法が行われているにもかかわらずDVTが出来たり、肺高血圧状態の患者には必要である。
ワーファリンはINR2.5 を目標に(2-3の間)

治療期間
・初めての発症で手術、外傷など期間が限られている場合には最低3ヶ月。
・初めて発症した場合には最低3ヶ月。あとはリスクとベネフィットを評価して。
・近位型では長く続けたほうがよく、遠位型なら3ヶ月でよい。
・がん患者では癌切除後まで

一般的治療
抗凝固剤の開始と共に歩行を薦める。弾性ストッキングは2年間ははいていてもらう。(静脈不全予防のため


≪論評≫
整形外科手術をする人間ではDVTは避けて通れないところ。やはりD-dimerでDVTかどうかを判断するのはそれほど意味がないということが今回の結果からも分かった。
術前のリスク評価をしっかりと行うこと。

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