2010年6月7日月曜日

2010.6.7 JBJS(Am) internal fixation of type-c distal femoral fracture in osteoporotic bone

要旨
骨粗しょう症を伴った大腿骨遠位部骨折はいまだにその治療に難渋する。この研究はさまざまな内固定材のその生体力学的な特徴を検証することである
方法
AOC2の骨折型を作った骨モデルを用いて、3つの髄内釘型の内固定材、1つのプレート型の内固定材で固定し、軸圧と回旋力に対するその抵抗力を測定した。
結果
プレート型の内固定材はほかの内固定材に比べてその回旋抵抗力が有意に高かった。4つのロッキングスクリューでとめるタイプがそれに続いた。軸圧に対してはプレートタイプがもっとも弱く、4つのロッキングスクリューでとめるタイプがもっとも大きな抵抗を示した。繰り返しの回転力をかけ続けるテストでは4つのロッキングスクリューでとめるタイプがもっともその破砕までの回転数が多く、プレート、ブレードでとめるタイプ、二つのロッキングスクリューでとめるタイプの順となった。
結論
生体力学的には4つのロッキングスクリューでとめる内固定方法が、軸圧にも強く、プレートについで回旋力にも強いのでこのような内固定材が薦められる。

図1 四つの内固定材 A:ストライカーT2大腿骨用髄内釘 B:ストライカーのsupracondyl nail C:Synthesのブレード付ネイル D:大腿骨遠位端用のLCP
図2 作成した骨折モデル
図3 力を実際に加える機械
図4 回旋力を加えた場合:Dが最強。Cが最弱
図5 ROMについての中立的な場所。Cがもっともスクリューを打つ範囲に自由度があり、Dがもっとも小さかった。
図6 実際の骨と骨モデルとの間での違い。有意な差が出るほど大きな差がある。
図7 繰り返しの力を加えてどこで破綻するか。Bがもっとも優秀であった。

ストライカーから研究委託を受けて行われた研究。Sy社のブレードなどよりもストライカーのsupracondyle nailがいいよ、という結論が出た。
優秀な機械であることは否定しないですけど。

2010年5月30日日曜日

2010.5.28-30 日本整形外科学会復命

5/28-5/30 東京国際フォーラムで行われた日本整形外科学会に参加してまいりました。

骨粗鬆症の治療とその効果。
WHOからFRAXが発表されている。骨密度を測定しなくても将来的な骨折の危険性について評価してくれるシステム。
日本人の場合には15%以上の危険性がある場合には治療介入した方がよい。
ただしいくつかの欠点として75歳以上では使えないこと、脊椎骨折の危険性を測定するものではないのでそこの評価が不能であることが欠点。
実際の治療
第一選択はBisphosphonate。欠点として顎骨壊死の危険性。頻度はまれ。日本歯科医師会からポジションペーパーあり。抜歯する際などは休薬するなど。”drug
holiday”
5年以上継続して内服している例は危険。一旦休薬もあり。
SERM、VitDの使用方法。
糖尿病合併例。骨密度はあっても骨強度が不足していると考えられる例にはSERMが適当。高齢者で低骨密度、低骨強度が危惧されるような例ではVitDとビスフォスフォネートの併用が効果的と。ViTDはバランスの改善にも期待。
薬物療法にあわせて運動療法の処方を。特に背筋の筋力トレーニングとストレッチ。両手を壁に当てて背中を伸ばす。うつ伏せで背筋を鍛えるなど。outcomeはサロゲイトされているがやってみる価値はあるかも

撓骨遠位端骨折
DRUJをふくめた新しい分類。DRUJが破綻しているかどうかというのは本邦ではあまり臨床成績には影響しないと考えるが。。
骨粗鬆症が疑われる場合にはピンニングではなくさいしょからプレート設置を。
ギプスを含めた保存療法の価値が下がりつつあることが今後の課題

脳血管障害のリハビリテーション
疾患でそのリハビリの処方が変わるわけではない。
どんな状態であれ関節可動域訓練はできるだけ早期から始める。筋力強化訓練を行うと痙性がアップするという誤解があるがそういうことはないので筋力強化訓練は行って全く差し支え無い。座位、立位はできるだけ早くからとらせる。血圧180未満、JCS一桁、全身状態安定であれば早速体を起こしていきましょう。
PNFをふくめた様々なテクニックがあるがやって悪いことは何もないがやらなければならないというものでもない。

私の発表。目の付けどころがよいとお褒めいただいた。如何わしいという日本語の表現が悪いと突っ込まれた。内容については特に指摘されなかったので、早速論文にして提出したいと思います。
運動器検診の話もチェック。資料を贈っていただくよう交渉した。

人工膝関節
アライメント、軟部組織バランス、インプラントの形状が重要。
アライメントはどこを基準とするか自分の基準を作る。内旋、内反位で設置されるとその人工関節の寿命は短い。
インプラントの形状はどこも似たり寄ったり。mobile bearingについてはまだその有用性を証明出来ていない。
人工関節の性質上どうしても評価が10年後、20年後となってしまう。
これを回避するためにコンピュータによるシミュレーションを行っているが精度はまだまだ。
人工関節はやはり確立された方法をとっていくべきなのかもしれない。

義肢装具の処方。
自由度を制限するための装具処方という考え方が斬新でした。シューホーン装具は回旋不安定性が強いのでDAタイプの装具のほうが好ましい。
介助と補助の違い。介助では患者はあるけるようにはならない。如何に補助していくかがポイント。
最初は長下肢装具、平行棒からというようにして徐々に難易度を上げていかなければならない。
最初から高い難易度では成功しないし、簡単なままでも目標に達しない。
歩いている姿を常にチェックしてやっていかなければならない。
次号の総合リハに今回の話がでるとのこと。早速チェック。

慢性腰痛と肩こり
椎間板の変性に全ての原因を求めるのは無理。なで肩で肩こりになるというのもウソ。
心理社会的な問題を抱えていることが多い。
腰痛も肩こりも何かしらの同様の発症機序、病態を抱えている可能性あり。
プラセボ効果をばかにしてはいけない。手術も70%がプラセボ効果。
ナロキソンで拮抗するとプラセボ効果が消える。
医師患者関係が構築されていると治療効果は最大に。
運動療法をふくめ処方する医師も強い信念をもって運動療法を処方することが大事。
今後オピオイドの貼付薬が発売される。(レペタンのシップ)
どのように使うか、その副作用をふくめ検討していくことが求められる。

2010年5月13日木曜日

2010.5.13 JBJS(Am) Immobilization in an External or Internal Rotation Brace Did Not Differ in Preventing Recurrent Shoulder Dislocation

背景
肩関節前方脱臼に対して外旋位で固定を行うと内旋位固定よりも再脱臼の危険性を減少させるのかどうかを検証した。
方法
無作為割付試験。4年間のフォロー。イスラエルの救急外来を受診した患者。17歳から27歳までの51人の患者(全員男性、78%が軍人)。交通事故、大結節骨折を合併したものは除外。27名外旋位固定、24名を内旋位固定。4週間固定したのち通常のリハビリテーションプログラムに沿ってリハビリを開始。再脱臼の有無をprimary
endpointとした。
結果
2群の間に有意な差は認められなかった。再脱臼までの期間はおおよそ12ヶ月であった。
結論
肩関節前方脱臼後に内旋位固定をしても外旋位固定を行っても再脱臼についての有意な差はない。

<論評>
外旋位固定を行うことで肩甲下筋によって前方の関節包が圧迫されるので、外旋位固定の方が前方脱臼後の固定には有用であろうという報告が数年前にされておりましたが、無作為割付試験の結果としては変わらなかったようです。Bankert lesionはやはり外科的に整復されないと脱臼の高リスク群では再脱臼を防ぐことは難しいのかも知れません。

2010年5月5日水曜日

2010.5.1 JBJS(Am) The Risk of Revision After Primary Total Hip Arthroplasty Among Statin Users

要旨
スタチンは骨代謝とその炎症の抑制に効果があると言うことが知られているが、THAを行った患者に対してその効果がどのようなものであったかと言うことを調べた報告は今までない。
方法
1996年から2005年までにデンマーク股関節登録センターに登録されたプライマリーTHAが行われた2349例についての検討。propensity score matchingという手法を用いて、同様の背景をもつ2349例をコントロール群として多変量解析を用いてスタチンを使っていることが有意に再置換のリスクを減らすかどうかを検討した。
結果
57581例のTHA患者のうち、8.9%が10年積算で再置換を要した。術後にスタチンを用いた群での再置換に対する相対危険度は0.34であった。この他、感染、ゆるみ、脱臼、人工関節近傍骨折の危険性も低かった。
結論
スタチンはプライマリーでTHAが行われた症例に対してその再置換を減らす効果がある。しかしながらそのメカニズムが明らかになるまでは健康な成人に対して人工関節の延命を目的としてスタチンを投与することが適当であると言う事は言えない。

<論評>
propensity scores matchingという方法を用いた解析によってスタチンがTHAの長期生存に有効に働くのではないかと言う事を示唆した文献。
この解析方法が面白いと思いましたし、また同様に日本でもregitration systemを作って同じような発表ができればと願います。

2010年4月29日木曜日

2010.4.29 JBJS(Am) A Comparison of the Long Gamma Nail with the Sliding Hip Screw for the Treatment of AO/OTA 31-A2 Fractures of the

要旨
AOの31-A2タイプの大腿骨転子部骨折に対しての治療は、髄外型のインプラントを用いるべきか髄内型のインプラントを持ち言えるべきかという議論がある。CHSとγネイルを前向きに無作為割付してその結果について調査を行った。
方法
210人の大腿骨転子部骨折の患者を無作為にCHSとγネイルの2群に割付した。primary outcomeは再手術とし、secondary
outcomeは死亡率、入院期間、輸血の必要性の有無、活動性と住居の変化、Euroqolを用いたQOL評価を行った。
結果
2群の間に有意な差は認められなかった。(再手術:γネイル3例、CHS2例)。Tip-Apexの距離がカットアウトと関連しているようであった。死亡率、QOLを含めいずれのsecondary
outcomeでも有意な差は認められなかった。
結論
CHSはγネイルと比較して、そのインプラント費用が低価格であることからAO31-A2タイプの大腿骨転子部骨折に対してゴールドスタンダードに用いられる機種であるといえる。

図1:割付のアルゴリズム。最終フォローはそれぞれ65%、85%
表1:患者の活動性のスコアリングについて
表2:患者背景
表3:結果:γネイルで30日以内の死亡例が20%!輸血は全体の半分に行われている

考察
AO-31A2:大腿骨小転子まで含むような転子部骨折に対しての治療はいまだに議論の残るところである。
この数年大腿骨転子部骨折に対して髄内釘がよく用いられるようになってきているがこれは科学的な根拠のあるものではなく、メーカーの思惑だとか、術者の好みの変遷だとか、患者側の要因とは関連の無いところで決めているような風潮がある。髄内釘の使用は1999年に3%であったものが2006年には69%にまでなっている。
髄内釘がたのインプラント特有の術中合併症や、あとはインプラントの価格の問題がある。CHSは髄内釘よりも1500ドルは安いのである。
2008年のCochrane libraryではCHS型のほうが髄内釘型の機種よりもそのインプラントに伴う合併症は少ないというとことを明らかにしている。
ロングネイルを使うことで短いネイルを使っていたときのような術中骨折を防ぐことはより容易になったのではないかと考える。
いくつかの統計学上の問題は存在するものの、結論として機能評価上の問題が無ければより安いデバイスを用いるべきであろう。

<論評>
僕自身は安定型骨折にはCHS,小転子が含まれているような不安定な骨折と診断したときにはγネイルを用いています。
この研究はRCT、レベル1となっていますが、フォロー率が65%という異常な低さが気になります。また本文中でもありましたが術後早期死亡例が20%と高く、どんな手術をなさっていたのか気になります。(苦笑) なのでこの論文を読んだからといって僕自身の手術方針の決定が変わることはないと思います。
この筆者はコストを述べていらっしゃいますが、コストを述べるのであれば単一機種でなく、複数の機種をおくことでの病院の在庫調整にかかるコストなども計算に入れるべきでしょうね。
まあ、あなたの選んだインプラントは患者さんのことを考えて選んでいますか?という、ひとつの警鐘として受け止めるべき論文でしょう。

2010年4月28日水曜日

2010.4.28 Up to date Overview of the benefits and risks of exercise

はじめに
昔から健康に対する運動療法の有用性はいわれている。運動しないと不健康になるとはいわれていたものの、1996年の報告で運動と健康について述べられた。
この報告では運動することが健康や長寿に有用であることを示した。しかしながらリスクを抱えていたり、運動できなかったりする人も居るので、個々にたいして適切な運動療法を提供することが重要である。

定義
身体活動性と運動とは違う概念であることをはっきりとさせておく。
身体活動性とは基礎体力以上に身体を動かすことである。この身体活動性という言葉の中には仕事上身体を動かすこと、家事、余暇、移動などが含まれる。
運動とはしっかりと計画、構成されたものと定義される。また、運動とは身体のフィットネスを向上させるためのその内容そのものをさす場合もある。

身体活動性はMETS(metabolic equivalent)で測定される。1METsとは3.5 mL
O2/kg/minの酸素を消費するような運動量である。少しきついな、と感じる程度の運動で3-6METsに相当する。(アルゴリズム1参照)

フィットネスとは物事を継続して行えるからだの能力をさす。心血管系の持久力、筋肉の持久力、筋力、パワー、敏捷性などがフィットネスと直接かかわってくる。

公衆衛生上の問題としての運動
座ってばかりの生活のためにアメリカではこの生活習慣の関連した死亡が20万人に達すると考えられている。(糖尿病、心筋梗塞、大腸がん)
これに対して、日ごろから身体を動かしていたり、心血管のフィットネスが高い人では全体の死亡率が低かった。

アメリカの大多数の国民はほとんど運動しない生活を送っている。2004年の調査では全体の55%が座った生活をしていることがわかった。女性、老人、糖尿病持ち、収入が低い群が運動をしない傾向にあった。2008年になってその傾向は改善傾向にあり、64.5%の人がガイドラインがすすめる週に150分以上の中程度の運動または75分以上の運動を行っている。

運動量が低いことは脳血管障害のリスクと大きく関連している。

アメリカ健康計画2010では運動の習慣を持つ人を50%以上に、身体を動かすことのない人を20%まで減少させることを目標としている。
加えて週に2回以上筋力トレーニングをする割合を30%まで上昇させることも目標としている。

アメリカでは徐々に運動習慣を持つ人が増えていることが調査からも明らかになってきている。

長期間にわたって運動を続けることは身体のさまざまな器官に影響を与えることがわかっている。

筋骨格系への影響
中程度のトレーニングを積むことで筋線維が増え、筋への血流増加を認め有効にエネルギーを使うことが出来るようになる。抵抗運動を行うと筋線維が太く、強くなり一度に大きな力を発揮することが出来るようになる。

代謝系への影響
・ミトコンドリアの数とサイズが増え、筋肉量が増加する。
・耐久径のトレーニングを行うと筋肉内のグリコーゲン貯留量が増加する
・脂肪を効率よくエネルギーとして使うことが出来るようになる。
・脂肪滴から遊離脂肪酸を作り、脂肪を脂肪酸とすることが出来るようになる

運動することで酸素の摂取量が多くなる。

心血管系への影響
耐久系のトレーニングを行うことで心血管系には大きな変化が現れる。
・心拍出量の増加と心拍数の減少
・血漿成分の増加と拡張期のでも十分な血液量の確保
・心筋の肥大
・組織周囲の血流増加と酸素摂取、栄養摂取能力の向上
・血圧の低下
・運動によって冠動脈の平滑筋と血管抵抗のいずれでも改善が認められる。
・運動によってサイトカインを活性化
・心疾患を持った患者の心機能の改善

呼吸系への影響
・肺活量が増加し、肺血流量も増加する

その他の効果
免疫系を不活化させ、感染症やある種の癌にかかりにくくする効果があるとされている。

運動することのメリット
・死亡率:健康な群で心血管イベントを減らすということがわかっている。
図1:強度の高い運動をしている人たちはしていない人よりも23%死亡率が低い
図2:運動することによって死亡率が減少する

・心血管イベント
運動と心血管イベントとの間には関連が認められている。
図3:定期的に運動している群がもっとも死亡率が低い

・その他のメリット
血糖値のコントロールについても運動は有用である。
運動することによって乳がん、すい癌の発生率が下がる
肥満防止
禁煙
胆石の発生予防
機能、認知症予防効果
心理的にも有効で不安やうつが軽減する
医療経済上も有用(330ドルの違いがある。)

運動によるデメリット
・筋骨格系の負傷
1週間に64km走るランナーでは負傷する可能性のオッズ比は2.9!。
過ぎたるは及ばざるが如し
・不整脈
習慣的に運動している人の40%に何かしらの不整脈を認めたとの報告がある。運動することによって心筋の酸素摂取能力が上がることから不整脈は起こりにくくなるはずである。今後の議論が必要である。
・心臓突然死
ジョギングで40万時間分の1、フィットネスクラブで89万時間分の1で起こる。男女差なし
運動によって心臓突然死の可能性はわずかにあるものの運動によるメリットには変えられない。
・心筋梗塞
強度の高い運動をすることによって一時的に心筋梗塞のリスクが高まることが知られている。週に4回以上している軍よりも運動回数が少ない群で発症率が高かった。
・左心肥大
・横紋筋融解症
横紋筋融解が起こりやすい条件
・普段運動していない
・ひどく蒸し暑い日
・防具などを付けていて上手に熱の放散が出来ない
低カリウム血漿

喘息
運動鶴ことで7-8割の患者が喘息発作を起こす。なので吸入薬と、あまり強度の高い練習はしないようにしなければならない


その他
脱水など

運動前の医学的評価
臨床的に問題が無くても運動によって2.6倍の患者で心血管イベントが起こる。個々の医学的評価が必要である。と結論されている
・年齢
・全身状態
・運動歴
・整形外科疾患歴
・薬剤の治療歴
・肺病変
・運動への参加率
・身体障害の程度

程度の軽い運動を週6回か強度の高い運動を週3回か行うようにAHAは推奨している。
息切れ、発汗、疲労を元に運動を終了するかどうかをきめるとよい。心拍数は当てにならない。


準備運動には怪我を防止するといった明確なエビデンスはない

クールダウンを行うことによって筋肉内の乳酸量が減少する。

カウンセリングの効果
多くの研究でカウンセリングを行っても行動変容には至らないとする結果となっている。より積極的にかかわったり、個別のメニューを作成するなどすると効果が出てくる。
結果は出にくいもののプライマリケアの現場では常に運動療法の重要性について述べ続けなければならない

2010年4月21日水曜日

2010.4.20 JBJS(Am) Ninety-Day Mortality After Intertrochanteric Hip Fracture: Does Provider Volume Matter?

要旨
背景
患者を選ぶ人工関節置換術において整形外科資源(整形外科医の人数、手術件数など)がその臨床成績と関連するということはいわれている。しかし患者を選ぶことの出来ない大腿骨頚部/転子部骨折の患者において整形外科資源とその臨床成績について述べられた報告はない。患者を選ばないので整形外科資源の豊富な病院のほうが臨床成績がよい可能性がある。そこでMedicareをもちいた大腿骨転子部骨折の患者について90日後の生命予後について調査を行った。
方法
2000年から2002年までにMedicareに登録された65歳以上の大腿骨転子部骨折の患者。整形外科的資源としてはその病院の常勤の整形外科医の数と医療を提供する人間と定義した。統計学的に調整を加えて条件を平等にしたうえで、(年齢、性別、Charlsonの合併症スコア、転子下骨折の数、入院前住居、使用するインプラントなどを調整。)90日後の死亡率について調べた。
後は調整せずに30日後、60日後、90日後の死亡率について検討を行った。
結果
192,365人について調査を行った。調整前の死亡率について検討すると入院時で2.91%
30日後で7.92%。60日後で12.34%。90日後15.19%であった。統計学的に調整した後で調べてみると、医療資源の少ない病院では医療資源が豊富な病院に比べ10-20%ほど死亡率が高く出た。60日後の死亡率はもっとも小さな規模の病院で最も高かった。1年に2,3度しか手術をしない医者に手術をされると死亡率が高くなることがわかった。
考察
整形外科的資源が豊富な病院で手術をされた患者が90日後の死亡率が低くなることがわかった。しかしこの結果は大規模外傷センターで大腿骨転子部骨折の患者がルーチンに手術を受ければよいということを指し示すわけではなく、また、小規模病院で死亡率が高くなっている原因について更なる調査を要するものである。


表1 患者背景
表2 調整前の死亡率
表3 調整後の相対危険率 小さな病院でリスクが高くなり、また手術数が少ない病院では危険率が高くなる

考察
この研究の前に行われた人工関節置換術についての調査では整形外科的資源が豊富な病院のほうが臨床成績が少しだけよいということがわかっていた。今回は高齢で合併症の多い大腿骨転子部骨折の患者について調査を行ってみた。
‐病院が及ぼす効果
入院中の死亡は大規模施設のほうが多かった。術後30日を越えるともっとも小規模な施設での死亡率が高くなってきた。さまざまな健康上の問題は数が多くなれば緩衝されるので、個々の患者の問題は小さくなる。人工関節置換術では病院の規模による差は小さなものに過ぎなかった。
なせ小規模病院で死亡率が高くなるかということについてはわからなかった。整形外科医が常に見ているわけではないとか、手術室のスタッフの問題とか、さまざまな問題が考えられる。手術そのものよりもその周辺の問題のほうが大きいのかもしれない。
‐術者が及ぼす影響
整形外科医の数と死亡率については逆U字型の傾向となることがわかった。ちょっとしか手術をしないのならその医師は丁寧に見ているかもしれないし、中規模施設の医師はより難しい症例にあたっているのかもしれない。したがって医師数を多くすると死亡率が減少するといった直線的な逆相関は得られなかった。病院の規模の違いほどの違いを医師数では見出せなかった。
‐患者側の要因
男性、術前に施設に入っていること、高齢、合併症が多いということは死亡率が高くなる要素である。
今回の研究の問題点
痛み、機能評価が行えていないこと、メディケアで保険されている患者の調査であり、高リスク群が追えていない可能性があることなどがある。
今回の研究で言えることは、大規模病院で治療されたほうが死亡率は低くなる。また、小規模病院で死亡率が高くなる原因については更なる調査が必要となる。ということである。

<論評>
あくまでもアメリカでの研究結果であり、日本でもこれがそのまま適用できるか?といわれればできないというように考えます。しかし日本でも診療報酬上でのさまざまな加点により大規模病院で手術をしたほうが病院の収益が高くなるように現在設定されています。(手術点数は同じですが、麻酔科医師の数による加点、地域医療支援病院加算などで大規模施設と小規模病院では差が出ます)。日本でもDPCでさまざまなデータを提供しておりますがついぞこんなデータをお上から公表していただいた記憶がありません。日本発のこのような研究結果を期待します。