2013年5月14日火曜日

20130515 JBJS Common Peroneal Nerve Palsy Following Total Hip Arthroplasy: Progonostic Factors for Recovery

抄録
総腓骨神経麻痺はTHAの術後に稀ではあるが起こりうる深刻な合併症として知られている。総腓骨神経麻痺の危険因子についての報告は散見されるものの回復までの時間、また回復に影響する因子についてはほとんど知られていない。本研究の目的は総腓骨神経麻痺の回復までに要する時間とその影響する要因について調査することである。
方法
2000年から2007年12月までに1施設で行われた7969例のプライマリーTHA、1601例のrevisionTHAについて検討を行った。総腓骨神経麻痺は31例(0.32%)に発症していた。これらの患者のうち30例について神経内科医によって診断、回復までの時間を測定した。単変量解析、多変量解析を行い危険因子と回復に影響を与える因子とを検討した。
結果
総腓骨神経麻痺を生じた患者では生じなかった患者群よりも平均年齢が若かった。BMIが高いことは麻痺の改善については不利な因子であることがわかった。30人中25人は不全麻痺で、これらの患者は10.3ヶ月(1.0から50ヶ月)で完全に回復した。完全麻痺であった5例中3例の患者で完全回復までかかる時間は14.5ヶ月(8.0から21ヶ月)であった。
結論
THA術後で完全回復したのは全体の半分の患者に過ぎなかった。回復にまで要する時間は不全麻痺で1年、完全麻痺で1年半であった。肥満は神経の回復に悪影響を与えることがわかった

【はじめに】
神経麻痺はTHAの術後合併症で稀ではあるが深刻な合併症である。他の神経障害のように総腓骨神経麻痺はTHA術後に発症することが知られており、術後の機能障害となりうる。解剖学的要因により、坐骨神経の総腓骨神経領域は最もよく障害されることが知られておりその合併症の発生率は0.3%から2.1%程度と報告されている。
THAに伴う総腓骨神経麻痺の原因には諸説言われており、直接の損傷、虚血、圧迫、熱変性、これらの混合した病態などが考えられているものの実際の病態については未だ不明である。臼蓋形成不全股、再置換術、女性、行き過ぎた脚延長、外傷後の関節炎、セメントレスステムの使用などが危険因子として今まで報告されてきていた。
神経損傷についての報告はなされているものの現在までにその回復について述べられた報告はほとんどない。本研究ではTHA術後の総腓骨神経麻痺についてレトロスペクティブに解析し、総腓骨神経麻痺の改善の自然系か、また回復に影響する因子を検討することを目的とした。
【対象と方法】
2000年から2007年までに7969股のプライマリーTHA、1601のrevisionTHAが行われていた。後ろ向きに調査をおこなったところ31例の総腓骨神経麻痺を発症してることが明らかとなった。1例は脳卒中にともなう麻痺であったために除外し、その他の30例について詳細に検討を行った。
患者のうち18例(60%)が女性、12例(40%)が男性であった。手術時の平均年齢は56歳(16歳から83歳)であった。平均BMIは28.9kg/平方メートルであった。プライマリーTHAで発症した総腓骨神経麻痺は26例、再置換術で発症したのは4例であった。術前の診断は変形性股関節症が20例(66%)、IONが2例(7%)、若年性関節リウマチが1例(3%)であった。
すべての患者で術前の神経障害は認めなかった。28例で脊椎麻酔、2例で全身麻酔が行われていた。Hardingeのアプローチが全症例で行われていた。すべての患者でセメントレスの人工関節置換術が行われていた。平均手術時間は91分。(45分から200分)。平均出血量は340ml(100mlから900ml)であった。
神経内科医によって神経障害は完全麻痺と不全麻痺の2群に分けられた。完全麻痺はMMT0。不全麻痺はMMTが1以上のものと定義された。16例が左側に起こり、14例が右側に起こった。
経過観察
すべての患者を完全に回復するまでもしくは最低2年間のフォローを行った。平均経過観察は44.3ヶ月(3.7から114ヶ月)であった。評価は術者が行い回復の程度を測定した。術前術後の脚長の変化はレントゲン写真、身体計測にて行った。MRI、CT、筋電図は必要に応じておこなった。
検定方法
多変量解析を行った。独立変数として性、年齢、人種、BMI、そのた神経に回復に影響するとかんがえられる因子を検討した。また症例対照として症例に手術の時期、方法、インプラントをマッチさせた対象を設定し両者の比較を行った。
術後の回復に影響する因子を同定するために多変量解析を行い、性、年齢、BM、考えられる要因、運動神経、発症の時期、最初の受傷の程度などを検定した。

【結果】
30例中4例に脛骨神経領域の麻痺(足趾の底屈)も認めた。12例は手術日に神経麻痺がわかり、9例で術翌日に神経麻痺が判明。術2日目は6例、3例が術後3日目。1例が術後7日目であった。24例が運動障害と感覚障害を併発し、運動障害のみが4例、2例が感覚障害のみであった。25例の患者で不全麻痺で有り、5例が完全麻痺出会った。25例中一4例で10.3ヶ月で完全に回復した。完全麻痺の5例中3例で術後14.5ヶ月で改善した。神経麻痺の原因は神経内科医によってCT、MRIなどで検査が行われた。14例で画像診断が行われ8例で筋電図が行われた。9例の患者が神経圧迫、6例の患者が血腫による神経の圧迫、1例がスクリューによる神経損傷、1例が術前から存在していた脂肪腫による圧迫、1例が術中の腓骨頭での神経圧迫が原因と考えられた。牽引が損傷の原因と考えられた7例は近郊による損傷が4例、脚延長が2例、脱臼に伴うものが1例であった。原因がまったく不明なものが14例であった。麻痺群の平均脚延長は3.2ミリであった。再手術は3例に行われ血腫除去とスクリューの抜去が行われた。スクリューを抜去した患者では神経の回復が認められた。
麻痺群では背景をマッチさせた患者よりも手術時間が長い傾向にあった。出血量は340mlで有意な差を認めなかった。脚長の変化についても有意差を認めなかった。唯一有意差を認めたのは麻痺群が有意に若いことであった。(表1)
完全麻痺の5例中3例、不全mな日の25例中一4例で神経の完全回復が認められた。運動神経損傷を伴わない2例中1例、運動神経損傷を伴った28例中一6例で完全回復が認められた。多変量解析を行ったところBMIが有意な独立因子として挙げられた。(表2)
図1にBMIごとの麻痺の発生率を示す。
神経麻痺の治療としてガバぺりんが5例に処方されていた。1例で効果があったものの他には効果を示さなかった。慢性疼痛の治療を要した例は1例もなかった。23例が歩行可能であったが5例が装具を必要とし、2例は介助が必要となった。
【考察】
総腓骨神経麻痺はTHAの合併症として知られている。本研究での発生率は0.32%で初夏の報告の0.3%から2.1%という報告とほぼ合致するものであった。THA術後に筋電図を用いた研究があり、その研究ではTHA術後の70%で臨床的に問題とならないような神経麻痺が隠れているとする報告がなされているものからひょっとしたら診断されない神経麻痺が含まれている可能性はある。
屍体での研究で30%の坐骨神経が骨盤内で2本に分枝するということが報告されている。脛骨に行く枝は梨状筋の遠位で臀部に入り、腓骨に行く枝は梨状筋の近位で臀筋内に入る。総腓骨神経は最も外側で最も表層にあり坐骨切痕で容易に固定されうる。総腓骨神経の腓骨側が損傷されるのは様々な原因による。腓骨神経はほとんど周囲の組織がなく容易に牽引される。総腓骨神経麻痺の原因として脚延長、血腫、筋こうの位置、大腿骨の位置、大腿骨のリーミング、縫合、ワイヤーによる損傷が考えられてきた。半分の患者ではいままで報告されてきたような原因が明らかに分かったが残りの半分ではわからなかった。
本研究の限界は1,単施設での研究であること。仰臥位で前外側侵入で行いセメントレスのインプラントを用い、脊椎麻酔で主に行った。いくつかの原因が単施設のため明らかで無い可能性がある。後ろ向き研究であること最後に総腓骨神経麻痺の発生が少なくβエラーの可能性があることである。
本研究の強みは神経麻痺について神経内科医の診断、治療を仰いでいることである。これによって神経麻痺の原因の一部が明らかとなった。2年間と比較的長期に渡るフォローを行なっているため、回復の経過をはっきり知ることが出来た。損傷の原因として多数のものが考えられたものの多変量解析を行うことで脚長などが真の原因ではなさそうであるということもわかった。手術時間が長いことは麻痺に何かしらの影響を与えているかもしれないが手術時間の延長は多数の因子によって規定されるために本来の原因を調べることは困難である。
以前の報告では神経麻痺の回復は損傷の程度に左右されるとされていたが、本研究ではBMIと関連することがわかった。神経損傷の程度は関税回復するかどうかは統計的に関連を認めなかった。エドワーズらは直接損傷のほうが牽引による損傷よりもそのダメージが少ないと報告しているものの、実験モデルではとくにそのことは証明されていない。本研究でも受傷起点には影響されていな愛。血管損傷が原因とする説もあるものの本研究でそれを明らかにすることは出来なかった。後方アプローチでは坐骨神経の圧迫によって麻痺が生じるとされているものの本研究は前方からのアプローチであるのでそれは考えにくいものと思われた。神経麻痺の回復には不全麻痺で10,3ヶ月、安全麻痺で14.5ヶ月かかった。総腓骨神経麻痺の回復の程度を予測するのは困難であるが全体の57%でしか完全回復に至らなかったということは特記すべきことである。

<論評>
THA後の坐骨神経麻痺の患者さんをたまたま診察する機械があったので調べて見ました。
脚延長がすべての原因やで!とおもっておりましたので、それ以外の原因が多いということが言われていたことは意外でした。
自分の症例についてはもうちょっと画像評価をしてみてもよかったかなあと反省しております。

0 件のコメント:

コメントを投稿