2010年3月15日月曜日

2010.3.10 JBJS(Am) Long-Term Results of Radial Head Resection Following Isolated Radial Head Fractures in Patients Younger Than Forty Years Old

要旨
背景
過去には骨接合ができないような撓骨頭骨折に対して撓骨頭切除術が行われることが多かったが,最近では人工撓骨頭が用いられるようになってきた。この研究は肘の靭帯損傷を伴わない撓骨頭切除についてその長期成績を明らかにすることである。
方法
40歳以下で撓骨頭骨折に対して撓骨頭切除を行われた患者。最低15年のフォローアップ(平均25年)。Mayo elbow
performance scoreとDASH scoreで評価を行った。
結果
81%の患者で肘の痛みを訴えなかった。3人が僅かな痛みを。二人が中程度の痛みを訴えた。平均可動域は9度から139度であった。ひとりの患者を除いて機能的には保たれていた。回内は84度、回外は85度。19肘で健側と比較して十分は強度がえられていた。Mayo
elbow performance
scoreは95点。92%の患者で十分な成績を獲得出来ていた。DASHスコアは6点であった。3人の患者が手関節の痛みを訴え、二人が僅かな痛みを、ひとりが中程度の痛みを訴えた.4人の患者で身体所見上で肘の不安定性を認めた.carrying
angleは健側に比べ増大していた.OA変化は17関節にわずかにみとめられ9関節に中程度認められた.レントゲン写真上の変化が機能上の問題にはつながっていなようであった.
結論
若年者での撓骨頭切除術は90%以上の患者で良好な成績であった.OA変化は認められるものの、その変化が機能障害につながっていると言うことはなかった.

図1a 術後21年後のレントゲン写真。腕尺関節にわずかに関節裂隙の狭小化をみとめるのみ。
図1b レントゲン写真側面像。手関節部において9mmのulna varianceを認める。この患者では中程度の手関節痛を認めた。
図2a,b 術後29年後のレントゲン写真。異所性骨化と変形性関節症を認めるが肘関節の機能障害はない。
図2c,d 手関節部にもトウ骨の短縮によるOA変化を認めるが手関節の疼痛、機能障害はない

考察
トウ骨頭骨折は肘の脱臼に伴ってしばしば起こり、内側,外側の側副靭帯損傷を伴うこともあり、また前腕の不安定性が生じることもある。過去にはトウ骨頭はほおっておくことが出来るものだと考えられていたが、現在では肘、前腕の安定性に大きく寄与していることがわかっている。前骨間膜靭帯に及ぶような肘の脱臼、トウ骨頭の骨折の時には腕トウ関節を完全に整復するためにトウ骨頭のない固定も必要となってくる。幾人かの研究者は関節の適合性をますということで健常な若い患者ではトウ骨頭切除よりも内固定,人工トウ骨頭挿入術のほうが好ましいと考えている。この研究者達がトウ骨頭切除術が好ましくない理由としては肘の不安定感の出現。近位でのトウ骨の移動。短縮、肘の外反変形を挙げている。また、肘のバイオメカの研究ではトウ骨頭の切除によって、肘の靭帯が正常であっても肘の生体力学に変化が出るため、長期間の経過観察が必要であると結論付けている。
トウ骨頭切除後の治療成績についてはさまざまな報告がなされており、ほとんど機能障害を残さなかったとする報告から、そのように治療した大多数で不良な成績であったとする報告まである。しかしこれらの報告はあらゆる年齢から肘、前腕の不安定性を伴ったものまですべて含まれており、その解析は非常に困難である。今回の結果はトウ骨頭単独骨折で、40歳以下に症例を絞っていることがわかりやすい点で、将来的にトウ骨頭置換術を行った患者との比較が行われるとよいであろう。
われわれの研究では25年間にわたって92%の患者が痛みも機能障害も無くすごすことが出来た。肘関節の可動域は特に伸展でわずかに減少したがとくに機能障害につながることは無かった。他家の報告でもほぼ同様に良好な成績が言われている。
2人の患者で後外側への不安定性が認められた。これは受傷時にはっきりとしなかった靭帯損傷が関与しているとする報告がある。この2人の患者の両者とも伸展、回外時に肘の不快感を訴えた。ほかにもふたり肘の外反の進行を認めたが機能障害は起こさない患者がいる。これはいつの間にか側副靭帯損傷があったのかも知れない。しかしカルテをチェックしても全く愁訴がないので自然に靭帯が伸びてきたりしているのかもしれない。
以前から言われているようにトウ骨頭切除後では関節症性変化が高い割合で起こる。健側では見られないような関節症性変化が腕トウ関節の適合が失われているために起こっていた。しかしながらこれも以前から言われているように肘の関節症性変化と機能障害の程度とは相関しなかった。
この研究では平均3.1mmのトウ骨の短縮を手関節部で認めた。5mm以上の短縮を認めた3例では変形性手関節症となっており、また手関節の疼痛があった。わずかなトウ骨の短縮は臨床的に影響を与えないが、日常生活動作によって前骨間膜の伸張をきたす。5mm以上の短縮をきたした群ではEssex-Lopresti
injuryのように何かしらの損傷が前腕にあった可能性がある。トウ骨を伸展させてみたり、透視下で確認したりといった何かしらの確認が必要であろう。
この研究は長期間追跡したと行くことで価値があるがひょっとしたら途中で脱落した成績不良例がある可能性は否定できない。またすべて一般整形外科医が治療しており、肘の専門家が観たわけでないので肘の軟骨損傷や、靭帯損傷を見逃しているのかもしれない。

<論評>
実は僕の治療した患者さんで同様の患者さんがいます。確かに肘の愁訴も少なく通院を自己中断されました。
手術で内固定がうまくいかなかった時の最悪のオプションとして撓骨頭切除もあるよと言うことは知ってお居てよいのでは無いかと思いました。

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