2010年2月8日月曜日

2010.2.8 JBJS(Am) Iron Supplementation for Anemia After Hip Fracture Surgery: A Randomized Trial of 300 Patients

要旨
背景
術後の貧血は鉄剤を用いて治療されることが多い。しかしそのエビデンスにはっきりとしたものはない。鉄剤投与が有用かどうか判定するために前向きの無作為割付試験を行ってみた。
方法
300人の大腿骨頚部骨折術後の患者でHbが11g/dl以下の患者に対して無作為に鉄剤を投与するかしないかを決めて行ってみた。6週間後にHb値をチェックし,在院期間,死亡率について検討してみた。
結果
鉄剤投与群は2.1g/dl、非投与群は1.8g/dlそれぞれHb値が上昇した。入院期間と死亡率については有意差を認めなかった。鉄剤投与群の17%で何かしらの有害事象が報告された。
結論
鉄剤投与は頚部骨折術後の貧血に対して有用な方法とはいえない。

表1 適用基準と除外基準。最初から11g/dlの人は除いてある。
表2 患者背景
図1 フローチャート
表3 結果 鉄剤投与のほうがHbは上昇する傾向にある。合併症は鉄剤投与群にのみ起きた。

考察
この研究の前に行われた研究ではHbが5g/dl違わなければ臨床的な意味がないとされていた。今回の研究では鉄剤投与群と非投与群との差はあっても3g/dlであり、また副作用が17%に生じたことから鉄剤の投与に臨床的な意味は無いものと考えた。
鉄剤の投与についてガイドラインでも教科書でもその必要性には言及していない。輸血については最新の知見では8g/dlでの投与によって貧血を補正するようにとなっている。これについてのほかの研究は1篇のみで、その研究でも有意な差はないとされている。THA,
TKAで同様に鉄剤投与したとする報告でもいずれも差がないというようにされている。母集団が大きいことが本研究の強みである。
この研究ではプラセボを使わなかったと指摘される。しかしプラセボを使っても便が黒くなっていることで自分がどちらかになっているかはわかることであるので盲検化することは不可能である。パラメーターもHb値、入院期間、死亡率といった数字なのでとくに盲検化しなくても左右されることはない。
このほかには鉄剤を使っていることで病院への受診を頻繁に希望する人が現れた。
鉄剤で何かしらの副作用が現れる割合は普通20%といわれているが、今回17%であったのは鉄剤の前向きな効能を述べていたせいであろう。
鉄剤治療に要したのは14ユーロであった。これから考えても鉄剤による治療を行う必要がない。
結論として鉄剤による治療はあまり有効とはいえなかった。

《論評》
わかりやすくてイイです。むかし一緒に働いていた先生でひたすらフェロミアで治療していた先生がいたことを思い出しました。こういうちょっとしたところのエビデンスを作っていくと実際の臨床で助かるのに、と思いました。

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